告白
廊下を一人寂しげに歩いていた私は、声をかけられた。
振り向くと、私が丸野くんのぬいぐるみを買った時の、売り子さんの二人だった。
「ぬいぐるみ、最近作ってるでしょ」
「あ、はい……」
「じゃあ、一つ、言葉を贈るね。ぬいぐるみ部の人はみんな知ってる。もちろん丸野くんもだよ」
そして、穏やかに一人の先輩が続けた。
「ぬいぐるみには綿だけではなくて、作った人の想い、そして、持ち主の思い出が詰まっている」
聞いた直後私はふーんと思った。
ありがちで特にひねりもない。三回くらい聴いたら飽きるのかもしれないな、と思ってしまった。
もし三回も聞かされた人がいたら、私が代わりに謝りたいくらい。ごめんなさい。
だけど、一つだけ。
この言葉に私が動かされるところがあるとすれば。
私がもし、自分に正直になれるのならの話だけど。
私がやることは、たった一つなのかなって思う。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
やばい毎日が忙しい。
僕は朝、すごく急いで登校していた。
コンピューター研究会の人に予約システムを作ってもらい、人数制限ありの完全予約体制を整えた。
そしてその結果毎日僕にぬいぐるみ作りを教えて欲しいという人が現れる。
お礼にご飯奢るから遊びに行こうと言われる。
そんな日々が続いた。
僕は嬉しかった。
自分の好きなぬいぐるみ作りに、たくさんの人が興味を持ってくれている。
だけど、気になるのは。
最近全然紅谷が話しかけてくれないのだ。
……すごく、話しかけにくくなってしまった。
でもそんなことを気にしてる暇もないくらい、忙しい。
なんだか少し、落ちつかない。
そんな僕は今日も下駄箱に慌ただしく到着した。
手紙が入っていた。
あの時と同じ手紙の用紙だった。
「丸野くんへ。放課後、ビーチバレーコートの横に、きてくれますか?」
放課後。
僕は全ての予定をキャンセルして、ビーチバレーコートの横に行った。
今日も人はいない。
いや、いた。
紅谷がいた。
「話すの、久しぶりかもな。……ごめん」
「ううん。私、ぬいぐるみ作りうまくなったよ」
紅谷が笑った。
紅谷と二人でぬいぐるみ作りをしていたのが結構前に感じる。
けど、やっぱりすごく、覚えていた。
「これ、作ったの」
「え、す、すごい……」
紅谷が出したぬいぐるみは、ものすごく、可愛いペンギンのぬいぐるみだった。
ずっと寄り添ってくれる、寂しい時も、はしゃぎたい時も一緒にいてくれる、そんなぬいぐるみだってことが、伝わってきた。
だからぬいぐるみ部の本能が表れそうだった。
そう。抱きしめたいという気持ちが。いや、いきなり抱きしめるのはやばい。触るだけ、触るだけにしよう。
「あ、あの、触ってみてもいい?」
「うん。だって、これ、丸野くんのために作ったから」
「そ、そうなの……? じゃあ抱きしめてもいい……?」
「うん」
紅谷が、ぬいぐるみを渡してくれた。
それを抱きしめて見る。
途端、頭がぽわあっとしてきた。
そんな僕に、紅谷は続けた。
「あのね、あのっ。抱きしめて欲しいの」
「え?」
「だ、だから……ぬいぐるみだけじゃなくてね、私も抱きしめて欲しいの。わ、私、丸野くんのこと、好きだから!」
「……」
なぜか驚きがなかった。
それはきっとぬいぐるみを通して、想いが伝わっていたからかもしれない。
僕は決めた。
今日は徹夜だ。
紅谷のために、最高に想いのこもったぬいぐるみを作って見せる。
だから、今は。
ぬいぐるみ部としては失格かもしれないけど。
恋に落ちてしまったのだから仕方がない。
僕はぬいぐるみを脇に置いて、紅谷をできるだけ優しく抱きしめた。
直接想いを伝えた。
あ、やばすぎる。緊張する。
絶対手がきごちない。
ぬいぐるみよりもずっと硬いはず。
それなのに紅谷は僕を見上げて、嬉しそうに、やわらかく笑った。
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