第七話 交流前夜
ーーー俺たちはまだ状況を理解できていないようだ。
「…化け物じゃん…」
七香がそう言うが、俺も同じことを思っている。
どれだけ攻撃をしても即座に回復し、即死とも言える魔法を耐え凌ぐ。セレス自身も中々にやばいが、一番の問題は、
「あの、特注品とか言ってるやつだな。」
それが更なる強さを証明している。
「…ぐぁ…く、くそっ……」
リブネの首元を貫いて、奪烈剣がその力を奪い去っていく。
セレスから離れようと、リブネが藻掻くがいつの間にか《ギールチェーン》によりその四肢が縛られており、上手く離れることができない。その間も、奪烈剣による力の吸収は続いている。
「…くぁ…ぐっ…」
徐々にリブネの体が淡く光り出した。
「あらあら、もうお終いかしら?」
セレスが余裕の笑みを浮かべリブネを見る。
「こんな…はずじゃ…私は…精霊…だぞ…」
すでにリブネは意識がないに等しくなっている。
「…これじゃあ…折角…命を…授けてくれた…あのお方に…」
「…何かあるようね?」
セレスがその言葉を聞き反応を見せるが、リブネの続きの言葉よりも早く、奪烈剣による吸収が終わってしまった。
「………ぁ…」
そして、リブネの体は、光ったまま分散して、消滅してしまったのだ。
圧倒的な戦いが、最後は呆気なく突然と訪れた。
「…セレスが勝ったのか?」
俺は目の前に立っているセレスだけを見て、勝敗を実感した。
「…あらあら皆して、どうしてそんなに固まっているのかしら?」
セレスがこちらに向かって歩いてきた。
ーーーマントをつけた状態で。
「…あ、あれ…マントが…なんで…?」
皆がセレスの姿を見て驚いている。
「ふふっ…特別に教えてあげようかしら?この「与導剣インフィール」の効果よ。」
と、黒の短剣を手に持ち、見せてくる。
「その短剣の…効果?」
「簡単に言ってしまえば、同じものを生成するのよ。」
と、手の内を見せてきた。
「…同じものの生成って…コピーってことかしら?」
竜那が考えた結果、その結論へとたどり着く。
「…そう思ってもらって結構よ。…全てを言ってしまったら、敵になったとき不利になってしまうから。」
どこまでも慎重に物事を進めている。
「…精霊ちゃんを糧にできたし、こちらも約束は守るわ。」
と、俺の方を見て、セレスがそう言い出す。
「目的が達成できたし、今は見逃してあげるわ。…また会えるのを楽しみにしてるわね?」
それだけを言い残し、ダイトラントの大樹から去っていった。
「…セレスはどうする?」
結乃が聞いてくる。
「今は見逃すと言ったから、少なくともここにいる間に会うことは無いだろう。」
何族かも不明だ。見た目で言えば人族に似ている気がするが分からない。セレスのことは、一度考えなくていいだろう。
「あの…助けて頂いてありがとうございます。」
シーラが改めてお礼を言う。
「構わないぞ?私も倒さなくてはいけなかったのだから!」
特に役に立ってはいないシェードが一番偉そうな態度を取っている。
「…それじゃあ俺たちは戻るとするか。」
「そうね。」
「あの…また、よければお話をしたいです。」
シーラが俺たちにそう言ってくる。
「もちろんだ。…しばらくここにいるから、遊びにでも来てくれ。俺たちもまた遊びに来るよ。」
それを聞き、嬉しそうにシーラが最後まで見送りをしてくれた。
そして俺たちは、来た道を戻ってきて館にやってきた。
「…これからどうする?」
七香がこれからのことについて聞いてくる。
夕食にしてはまだ少し早い。かと言って今からエルたちを探しに行くのには遅すぎる時間だ。
「…うーん。どうするか…」
悩んでいると結乃が、
「それならば、皆で絡斗君の部屋に集まらないかい?」
と言ってきた。
「…え?」
「絡斗君は一人部屋だろう?それに、部屋は広いと言っていたし。集まっても狭くならないだろう。」
「いやいや、何故俺の部屋に集まるだなんて…」
「これからのことを考える…作戦会議みたいなものだと捉えればいいんじゃない?」
確かにそれならば何も問題は無いだろう。
「私は良いよ。」
「私も別に構わないわ。」
「私も大丈夫。」
皆賛同し、一度部屋に戻り準備をしてから俺の部屋に来ることとなった。
「これからどうするんだ〜?」
シェードは俺の部屋にいる。
「…明日は、午前中が交流だからな。…午後、エルたちを探すかな。」
午前中には、ここ『アルフセカイ』の住人の一部との交流会を行うことになっている。
「よっ。」
と、数分経った頃に七香たちがやってきた。
「それで、明日の交流会って大丈夫なんだろうね?」
第一声にそんなことを言ってくる。
「…ここにはフレイヤさんとその兄を襲った人物…おそらく魔族がいるかもしれないってことだろ?」
それの対処も考えないといけないな。
「…流石に妖精族と魔族を見間違うことはないだろうけど…」
七香も同じ心配をしている。
「…明日は何も起きなけりゃ良いけどな。一応、交流会の中で、俺たちの特訓も行うみたいだから心配し過ぎなくて良いだろ。」
「でも、問題ないのは先生たちと私たちくらい。他の生徒はそこまで強いと思えない。」
竜佳は思ったよりも言うことに躊躇がないな。
「まあ、強いて言うならもう1人の「永代の能力者」くらいじゃない?」
竜那も同じ意見だと言ってくる。
「…皆を強くするためにも、なんとか明日の特訓は無事に済んでほしいな。」
「そう言えば、明日の午後こそは探しに行くの?」
「ああ。そのつもりだ。」
「…てか、あんたカナデとRine交換してるよね?それで聞いてみたら?」
「残念。カナデは俺の家に置いてきている。」
家を出る前に、カナデのスマホが机の上にあるのを見てきている。
「全く、カナデは…何してるのよ。」
「俺たち人みたいに、そこまで必要なものではないんじゃないのか?」
「そうかもね…」
その後は、明日のことについて色々と話し合い、話が終わると高校生らしい日常会話で、夕食までの時間を過ごした。
朝と夜は、館で食事を出してもらえるらしく、時間内に食堂に向かえば館で食べることができる。
俺たちは、時間になると食堂に向かい皆で食事をする事にした。
「…これ美味しいわね。」
人族の『セカイ』で出される食事とは全く違く、未知の食べ物に皆興味津々だ。
「ほんとだ。…美味いな。」
「そうだろう?美味いだろ!」
「…というか、シェードって精霊でしょ?精霊って食事するの?」
竜那が、俺たちと同じく食事をしているシェードに質問する。
「これは食事じゃないぞ?噂を探しているのだ!…あと、精霊は食事をしないぞ?」
『噂を流す精霊』と言うより、噂を探す精霊のほうが合っているんじゃないのか?
と、俺たちが食事をしていると近づいてくる一人の人物がいた。
幸崎先生だ。
「日向君。夜9時に、私の部屋に来てちょうだい。」
おそらく、朝言っていた神の事だろうな。
「分かりました。」
それだけ伝えると、すぐに幸崎先生はこの場を離れて、自分の食事に戻っていく。
「…絡斗は先生とそういう関係?」
竜佳がなんの悪気もなく、首をかしげながら聞いてくる。
「竜佳…それはないから変なことを考えないでくれ。」
そして、俺たちは食事を終えてそれぞれ自分の部屋へと戻っていく。
…先生が言う9時までは、まだ一時間ほど残っている。
「はぁ…急に《神呼》が使えなくなったけど…気のせいか?」
俺はそんなことを考えながら横になっている。
「…それにしても初日だと言うのに…交流とは関係ないところで疲れたな。」
一日だけで、かなりの疲労が溜まっている。
俺はそんなことを呟きながら、段々と目を閉じていく。
目の前が…薄らと黒くなっていくーーー…
「…おーい!寝てるのか?」
「うっ…なんか、痛いんだが…」
俺は目を開ける。
「もう1発やっとくか!」
「…って、待てや。」
俺は、何故か叩いてくるシェードの手を抑えてシェードを見る。
「なんで叩く?」
「もう9時になるぞ?寝てたから起こしたのだ!」
そう言われ時計を見ると、針は8時55分を指している。
「そ、そうか。」
俺としたことが、うっかり疲れで寝てしまうところだった。
「ありがとな、シェード。」
俺は礼を言い、先生の部屋へ行く準備をする。
流石に先生との約束を破るわけにはいかないからな。
「私も行っていいか〜?」
と、シェードから言われる。
精霊と一緒にいるところを見られているからな。
一緒に説明した方が楽だろう。
「いいぞ。」
「おお〜!やったー!」
嬉しそうにしながら、シェードが後をついてきた。
「…たとえ先生だとしても女性の部屋に行くのは気恥しいな。」
俺はそんなことを思いながら、シェードと2人で先生の部屋へと向かっていく。




