第五話 ダイトラントの大樹
ーーー森の中を俺たちは足取りを止めることなく、どんどんと奥へ進んでいった。
「…セレス。質問がある。」
「なあに?」
「…お前の目的は、アランを復活させることか?」
「!!」
この質問はかなり攻めた質問だ。下手をすれば、即座に敵とみなされるかもしれない。
「…あら。星ノ使徒の使命を知ってるのね?」
だが、セレスは敵意を表すこともなく、平然と答えた。
「…ああ。」
「別に警戒しなくても良いわよ?私の目的はアランの復活は関係ないから。」
と、セレスが言う。
「…本当なのか?」
「ええ。アランのことなんて興味がないからね。私は私の目的のために動いているのよ。」
今の状態では、俺たちの敵ではないことが判明する。
…向こうにとって俺たちは敵なのかどうかは不明だが。
「そうか。」
「…あら。精霊ちゃんの気配が消えたわね。」
セレスが足を止め、そう言う。
「…そうなのか?」
「消えたぞ〜?」
シェードもセレスと同じことを言う。
「精霊ちゃん?どこに消えたか分かる?」
セレスがシェードに向かってそう言うと、シェードは少し身構えながらも答える。
「え、えっと、分かんないぞ〜?私は噂しか認知できないんだぞ!」
「それは困ったわね。」
セレスがそう悩み事をする。
すると、
「…あれ?ここになんか違和感を感じる。」
と、俺に背負われた状態で七香がある場所を指しながら言う。
その先にあるのは、周りより少し大きな一本の木だった。
「…これが?」
俺は七香に確認する。
「うん。…なんでか分からないけど、ここに何かがある気がするの。」
「その直感を信じてみるわ。」
セレスは懐から奪烈剣スティルを取り出し、一歩、木に近づく。
「…《裂傷》!」
『武技』の一つで、爪の形に衝撃波を飛ばす基礎の一つだ。
だが、基礎と言えど使う者によって威力は変わる。
セレスが木に向かって、武技を放つ。
剣先から飛んだ刃の衝撃波が木にぶつかり、それを斬り裂く…ことはなかった。
「なっ…」
武技がぶつかった表面が白く光りだし、そこにはどこからともなく扉が出現していた。
「…あら。こんな仕掛けがあったなんて。あなたの直感が当たったみたいね。」
短剣をしまいながらセレスは言う。
「入りましょ?」
そして、その扉に向かって歩き出した。
「さっき、武技を使われていたらやばかったね。」
竜那がそう言ってくる。
「確かにな。」
俺たちを殺すつもりがなかったから、武技を使わなかったのだろうか?
「…とりあえず俺たちも入るか。」
俺たちもセレスの入っていった扉の中へと向かっていく。
「…ここは…」
そこは、木の中…のはずが、外から見た大きさをはるかに超える広さだった。
「これは魔法の一環ね。」
七香が周りを見渡して言う。
「この中から、さっきの悪精霊の気配がするぞ!」
シェードが大きな声で俺に言ってくる。
「確かに、私も気配を感じるわ。」
セレスも肯定する。
「だけどこの広さを探すのは大変ね。」
腕を組みながら、そう呟く。
「ここって、さっきの悪精霊の住処かなんかか?」
「生まれた場所と住処が違うところって変じゃない?」
「確かに…」
というと、ここは悪精霊以外の者が所有している場所なのだろうか?
「…急がないとまずいぞ!」
ふと気がついたかのように、シェードが慌てる。
「どうした?」
「ここは、『知識を与える精霊』ダイトラントの大樹だ!」
「…ダイトラント?」
シェードが言うには、ここは知識を与える精霊と言われている精霊の中らしい。
「たぶん、さっきの悪精霊は、ダイトラントの噂を食べて、消滅させる気だ!」
「なんでダイトラントを?」
「ダイトラントは私たち、精霊を育成するという噂があるんだ。その噂を食べられたら、私たち精霊…特に下位精霊は知能を失ってしまう!」
ダイトラント自身が育成するということを忘れてしまうらしい。そうなれば、ほとんどの精霊が悪精霊のような存在になってしまうらしい。
「…まじか。…セレス、まさかダイトラントは…」
「狙わないわ。今狙っているのは、さっきの精霊ちゃんよ。それを倒したら一度ここを立ち去るつもりよ。」
それが聞けて、少し安心する。
「…とりあえず、急いで探さないとな。」
俺たちは、悪精霊を早く見つけるため、足早にダイトラントの大樹の中を進んでいった。
かなり、奥深くまで進んできた。
「はぁ…」
「絡斗、大丈夫?もう、降りようか?」
七香が背中越しに声をかけてくる。
「なに…大したことはない。お前に何かあったら困るからな。これくらい大丈夫だ。」
俺は少し見栄を張って答える。
「そう…なら良いんだけど…」
「この先にはダイトラントが存在している場所だ!」
シェードが先を見て言う。
「ということは…」
「この先に精霊ちゃんはいるのね。」
そして、俺たちはその先へ向かう。そこにはーーー…
「…早く噂を吐き出しなさい!」
「くっ!」
2人の精霊が戦っている場面だった。
「あの紫がかっているのは…!?」
「あれが悪精霊だ!」
俺たちの声を聞き、戦っていた二人の精霊がこちらを振り向く。
「…誰よあなたたち?精霊じゃないようね…と、探す手間が省けたわ…『噂を流す精霊』。」
と、紫がかっていた一人がそう言ってくる。
「…『噂を食べる精霊』…お前が悪精霊だな!」
シェードがそう言い放つ。
「悪精霊だなんて人聞きが悪い。…私は、リブネよ?」
と、俺たちの目的である悪精霊…リブネが答える。
「あの精霊も中々の強さだな…」
俺はリブネを見て、そう感想を抱く。
「私一人で充分だわ。あなたたちはあの精霊ちゃんとここの大樹が邪魔をしないように見といてくれるかしら?」
と、セレスがリブネに近づいていく。
「おい!?」
流石に一人は危ないような…
「絡斗君。おそらく大丈夫だよ。私たちは、後ろの精霊を守りましょう?」
結乃に言われて、俺は考え直す。
セレスは…アランを復活させる気はないと言っていた。
それはつまり、俺たちの敵ではない。
仲間に出来るかもしれない。
「…分かった。あいつが危険になりそうなら手助けをする。…それがお互いの交換条件だからな。」
俺たちは、セレスとリブネに近づかないよう、遠回りをして後ろにいた精霊の元へやってくる。
「…あなたたちは…」
「俺たちは人族だ。今、交流をしにここへ来ている。…って、精霊に言っても意味無いか?」
「いや?精霊は妖精族と仲良し!だから意味あるぞ!」
「俺は絡斗。君は?」
俺は多くの傷を負っている精霊に聞く。
「…私は、『教育する精霊』シーラと言います。」
「…教育する精霊?」
「はい。…私は『知識を与える精霊』のダイトラントから生まれた精霊なのです。…ダイトラントは私の父になります。」
と、シーラは自分のことについて説明をした。
「…父?」
ダイトラントから生まれたなら父ではなく母では?
「…それはな、厳密には「大精霊」が私の身に生命を授けてくれたのだ。」
と、壁となっていた幹の間から、一つの幹が出てきた。そして、そこには顔のような形がうかびあがっていた。
「…あなたが、ダイトラント?」
「如何にも。あなたたちは、何用で?」
「あなたたちを助けに来ました。あの、悪精霊を倒すのが目的です。」
俺はそう言った。シーラは結乃に「治癒魔法」で癒してもらっている。
「それは助かりますな。」
「…でも、あの精霊強いですよ?一人で大丈夫ですか?」
シーラがセレスの方を見て言う。
「おそらく大丈夫だわ。」
「心配しないで良いと思う。」
俺も、改めてセレスの方に意識を向ける。
「…何よ?あんたは。」
リブネはセレスに向かって敵意を向けている。
「私はセレスよ。精霊ちゃんには悪いけど、私の糧になってもらうわ。」
そう言い、再び奪烈剣スティルを取り出す。
「邪魔しないでもらえるかしら?早く、噂を食べて強くなり、この地を征服するのよ。」
と、リブネは自身を纏っている紫のオーラから、槍を生成する。
「悪いけど、あなたは私に征服されるわよ?」
「ーー!!」
リブネが一瞬にして距離を縮める。
そして、槍を持っている手とは反対の手を突き出し、
「《デグリア》!!」
闇魔法を放出する。
が、それを難なく躱し、セレスは奪烈剣をリブネの肩に向かって一直線に振り下ろす。
「甘い!」
それを躱すべく、リブネは距離を置く。そこへ、距離を詰めようとセレスが一歩踏み出すとーーー…
「…あら。」
「武器を忘れていたようね?」
セレスが足を踏み出したことにより、リブネの持つ槍がその横腹に深く突き刺さった。
「…!!あれは危ないんじゃ…」
竜那がそう声を漏らす。が、俺も同じ感想だ。
自分のオーラから作り出された武器。何か仕掛けがあるかもしれない。
「…精霊ちゃんなのに良い動きね。」
だが、セレスはその刺された槍を何とも思っていない。
「あまり精霊をなめないでもらえるかしら?」
リブネはその槍を抜き、セレスに向かって何十も刺突を繰り返す。
「…いつまで耐えれる!?」
その突き出しは徐々に速くなっている。だが、横腹に深い傷があるとは思えない反応速度で、セレスはその全てを躱しきっている。
「そんな回避だけじゃ、私を征服できないんじゃないの?」
「そうね。…《ギールチェーン》!」
と、セレスが奪烈剣を持っていない手で何かを掴む動作をする。…すると、その手にはいつのまにか鎖が握られていた。そして、
「…なっ!?」
リブネの四肢を鎖が束縛していた。そして、その鎖の先はセレスが持つ鎖と繋がっている。
「攻めを急いで、自分の周りが疎かよ?」
セレスはリブネを見つめながら薄く微笑んだ。




