六 ~ 望むこと…… そんなのは。 ~ (12)
吸血鬼と関わることで始まった時間。
どこか振り回されていた物語も、今回が最終話になります。
12
もう騒がしい日々は落ち着き、平穏な生活を送れるんだと思っている。
でも、それは儚い願いでしかないのかもしれない。
三原らの話を聞いて、二日が経った日の昼休み。
これはもはや日常と言うべきなのか、屋上にいた。
容赦ない日差しが僕らを照らすなか、膝の上には姫香お手製の弁当がある。
「……これはなんの肉だ?」
アスパラ、細く切られた人参を巻いた肉。普通に考えれば豚肉? 僕は箸で掴んで引き上げた。
「んとね、それはワニの(自主規制)だったかな? それとも」
「……もう、いい。聞くのも疲れる」
もう、いい。なんの肉でも覚悟して口に放り込んだ。もう姫香の冗談につき合うのも慣れてしまった。
「……しかし、昨日に今日。なんか、肉、多くないか?」
おかずに対して聞いてみると、姫香は口角をゆっくり上げる。
「だってさ、亮平の血を貰うにしたって、栄養一杯でないと、美味しくないじゃない?」
「ーーはい?」
どうも、聞き捨てならない台詞に、あからさまに眉をひそめる。
「だって、そうでしょ? あのとき、私のことを心配して助けてくれたんだしさ」
「別に助けたんじゃない。あの場にいたくなかっただけ」
ぞんざいに吐き捨て、卵焼きに箸を移した。この卵焼きは好きであった。
「もぅ、そんなに恥ずかしがらなくていいって。ね、私たちもうつき合ってるんだから」
「ーーはぁっ? 何言ってんだよっ」
「まぁ、まぁ、そんなに照れないでって」
声を張り上げる僕を、姫香はニタニタしながら宥める。
「ね、それよりも、血をちょ~だい」
「また、お前は」
呆れて箸をくわえたまま止まってしまう。最近は静かになったと思っていただけに、頭を抱えたくなる。
「だって、私を助けてくれたのって、亮平が「繋」だって認めたってことなんでしょ」
「……それは……」
正直、認めたくはない。前途多難であるのは明白なために。れでも、百歩、いや千歩譲って受け入れることにはした。
やはり、こうして冗談を言ってふざけ、笑っている姫香を見ていたかったのは事実なのであるから。
しかし……。
「条件がある」
クネクネとしていた手を止め、姫香は唇を尖らす。
「一週間に一回だけだ。一回だけなら、吸わせてやる」
右手に掴んでいた箸を突き立て、“一”を強調させた。
これだけは譲れなかったが、姫香は釈然とせず、
「え~っ。一日一回じゃダメなの?」
「そんなわけあるかっ」
反抗する姫香を突き放す。
「当然だろ。お前に毎日吸われていたら、貧血で倒れるんだよ、バカッ」
「え~っ。そんなこと言って、私が発作起こしたり、痩せたらどうするのよ、もうっ」
自分の体を抱きしめ、クネクネと揺らしてぼやいた。
「知るかっ。お前の体調なんて興味ない」
ここは強気で断言してやった。
姫香はふてくされ、プイッと顔を背けた。
そう、これでいいんだ。
これでゆっくりと弁当を食べようとすると、そこでまた姫香は手をパンッと叩いた。
「じゃぁ、今ちょ~だいっ」
と合掌した手から顔をのぞかせ、無邪気な笑顔を見せた。
「なんで、そうなるんだよ。今週は一昨日、吸わしただろっ」
「でも、条件をつけるのは、今日からでしょ? じゃぁ、一昨日は先週になるもん。だ・か・ら・ちょ~だいっ」
「なんだ、その屁理屈はっ」
「いいじゃんっ。今日ぐらいっ。そうだ、初回サービスってことでさ、ねぇ」
「甘えても無駄だ」
僕の腕を掴んでせがむ姫香。体を執拗に揺らして訴えてくるが、僕は地蔵みたいにうごかなかった。
「もう~。お願いっ」
さて、ちょっと聞いてもいいでしょうか。
クラスのなかで、上位に入るほどの可愛さで、人当たりもよく、明るく容姿端麗な女子生徒。
そんな子に言い寄られ、自分の腕を掴まれ、甘えられたとき、気持ちは有頂天になるでしょう。
その女子生徒がもし、自分が好意を抱いていたのなら、なおさら心が躍って平常心を保てなくなってしまうかもしれません。
その子に自分の下の名前で気さくに呼ばれたのならば、なおさら嬉しくてたまらなくなるんじゃないでしょうか。
その子が自分の恋人なんだと周知になったとき、どこか自慢すらしたくほど、誇らしくなるのが普通なのかもしれません。
普通の、可愛い女の子だったのなら。
「ねぇ~。血ぃ、ちょうだい~」
でも、こいつは例外である。
確かに可愛い。それはクラス、いや、学年でも上位に余裕で食い込んでいくだろう。
気さくで冗談も言って、明るい容姿端麗な女子生徒である。
だが、
しかし、
それでも、
今田姫香は違うのである。
吸血鬼であるこいつは、
「ねぇ、亮平ってばぁ」
「ーー断るっ」
了
今回、漠然と話を考えていたなかで、主人公は男と決めていたのですが、そのなかで男の子が女の子に振り回され、頭を抱える。というのが浮かび、その流れから、このような内容になりました。
“吸血鬼”を使おうとしてからは、血を吸われるのを拒みつつも、嫌々従ってしまうように考えました。
そこで「断る」と嫌がるようなイメージで。
書き終えると、もっと血を吸わせてもよかったかな、と考えてしまいます。
もっとドタバタを増やしてもよかったかな、と反省点は多いです。こればっかりは毎回思ってしまうのですが……。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。




