六 ~ 望むこと…… そんなのは。 ~ (11)
やっぱり、ちゃんと報告しておくべきなのか?
11
三原らに会った次の日である。聡の店へと訪れた。
不本意ではあるが、報告はしておかなければいけないと考えて。
話を終えると椅子に座り、カウンターに突っ伏していた体を起こした。
「まるで迷子だな」
「……迷子、か」
三原らとの出来事を知り、カウンター越しに椅子に深く座る聡。腕を組んで呟いた指摘に、妙に納得してしまった。
吸血鬼と「繋」という存在に迷っている、と。
「……けど、爪が伸びてる吸血鬼…… そいつは初耳だな」
あの男の特徴を言うと、聡は難しい顔をして考え込んでしまった。彼にも知らない状況はあるらしい。
「んで、お前はどう思ったんだよ。その二人の話を聞いてさ」
う~ん。と唸りながら、カウンターに頬杖をついた。
「最初ちょっと怖かったさ。でも、何度も口論してる間にさ、あいつの顔見ていたら、急に嫌になったんだよね。んで、気がついたら半分キレてた」
素直な気持ちを伝えた。
「んじゃ、姫ちゃんのために帰ったんだ?」
茶化すように声を弾ませる聡に呆れてしまい、反論も諦めた。
「でも、それって姫ちゃんのことを、それだけ考えてるってことだろ?」
「さぁ。知らねぇ」
指を突き立て、おちょくる聡に、手を振って否定する。
「ーーでも、この先、あの二人はどうなるだろ」
このままだと、もっとツッコミが続きそうなので、無理に話を逸らした。
「お前が説教したんだって?」
「説教って、そんな偉そうなこと言ってねぇよ。ちょっとキレただけ」
「ホント、お前らしくないよな」
「なんだろ。ずっと話を聞いているとさ、あの二人が子供みたいに見えたんだよね。三原って人は、お菓子を買って貰えなくて駄々をこねて、吸血鬼の男は嫌いな野菜を拒んでいるみたいでさ」
苛立ちはあった。けど、今になると気になってしまう。
「……だったら、信じておけばいいんじゃないの」
意外な言葉に顔を上げると、「ん?」という雰囲気で首を傾げた。
「だってさ、それしかないじゃん。変に背負う必要ないと思うよ。僕は。
その女の人は発作に苦しみながらも、お前に相談したんだろうし、男の奴も、血を吸うのを我慢して生きていたんだろ。それこそ、命を絶とうとしないことは、気持ちは前に向いてると思うからさ」
またドンッと椅子に凭れ、腕を組み直して目を細める。
なんだろう。偉そうなことを言うな、と叱咤するつもりでいたのに、僕は拍子抜けしまう。
それどころか、聡は道筋を照らしてくれる光に思えてしまう気持ちがあり、安堵した。
呆然とする僕を、満足げに笑っている顔がなければ、文句はなかったのだが、ここは感謝しておこう。
「だから、そう信じておくべきだと思うよ」
「そうなのかな……」
「あ、それと、梨花さんが心配してたぞ、お前のこと」
刹那、僕の顔が歪む。
「おい、おい、なんでそんな顔するんだよ」
「いや、昨日のことを知られたら、また無茶苦茶責められそうで、嫌な気しかしない」
「まぁ、梨花さんは妹想いだからねぇ」
「あれは“想い”じゃないだろ、“狂気”だよ……」
嬉しそうに言う聡に強くツッコミを入れた。
「でも、姫ちゃんの「繋」になったってことは、梨花さんとも関わることになるじゃん」
「わかってはいるんだけよ。けど……」
どうもあの人は苦手なんだよな。
「それこそ、心得とか、教えてもらえるじゃん。羨ましい、羨ましぃ。変わりてぇ~っ」
途中から声を弾ませる聡。両手を握り、神に祈りを捧げる恰好をしていた。
こいつも変だ、やっぱり。
「けど、もう「繋」に対して否定したり、嫌がったりしないんだな」
唇を噛む僕に、聡の容赦ない皮肉が降り注いだ。
「うるさいっ、ボケッ」
「繋」が羨ましい?
嘘だろ。
ふざけるなって。




