六 ~ 望むこと…… そんなのは。 ~ (8)
二人の話を聞いたって、こっちも引き下がれないから。
8
僕の気持ちが揺れてしまっていた。
吸血鬼と繋。互いの気持ちが交錯して、ぶつかっていた。
でも、どうしてだろう。どちらもどこか悲しくて、痛々しい。二人ともこの存在に縛られている。
じゃぁ、二人の話を聞いて、姫香は何を考えているんだ。
ふと姫香の横顔を眺めた。姫香は一歩も引かず、唇を噛みながら男を威嚇する。
でもつらそうだ。
姫香も吸血鬼の存在に縛られ、泣き出しそうに見えてしまう。
なんでだよ。なんでお前が泣きそうになってるんだよ。
いつもふざけて、血を求めてせがんだり、追いかけたり、冗談言って茶化したり、困らせてたじゃないか。
なんだよ、そのつらそうなの。
お前、あのふざけた笑顔を見せろよ。
困らせろよ。
あの笑顔。ムカつくし、嫌いだけど。
嫌いじゃないんだ。
「ーー笑えよ」
思っていた以上に響いた。
弱々しく呟いたつもりでいたのに、深く轟いた。
三人の視線が僕に一気に注がれた。
「……吸血鬼とか、「繋」とか。そりゃ、大変かもしんないよ。けど、お前、いつもそんなんじゃないだろ」
「……古川…… くん?」
「こんなの嫌なんだよ。お前にこんなつらそうな顔なんかしてほしくないんだよ」
戸惑う姫香に、僕は弱々しく訴えると、唐突に姫香の腕を掴んだ。
「ーー帰るぞっ」
姫香の細い腕を引き、怒鳴った。もう、ここにいたくない。
「ーー待ってっ」
困惑する姫香を無理に引っ張ろうとすると、慌てて三原が立って引き止めた。
「なんなんですか? あなたたち。僕らに関係ないでしょ。話を聞いていたら。そりゃ、同情はしますよ。けど、だからって僕らに押しつけないでくださいよ。何がしたいんですか?」
姫香から笑顔を奪った苛立ちだったのか、それとも二人の話を聞いていて、ずっと心の隅に根づいていた不満だったのかわからない。
けど、僕はぞんざいに吐き捨てていた。
「俺は吸血鬼なんて必要ないと思っている。吸血鬼がいるから、こいつみたいに苦しむ「繋」も生まれる。だから、吸血鬼を殺ーー」
「ーー関係ないっ」
男が静かに口を開き、殺気を姫香に向けるなか、僕は断言して遮った。
「そりゃ、もしかしたら、僕らもいずれ周りにバレるかもしれない。副作用に苦しむかもしれない。けと、今は大丈夫なんだ。今は」
「あとで後悔するぞ。そのために俺らは警告しているんだ」
「だからって、こいつを殺させたくなんかないっ。絶対に許さない。勝手なんだよ」
姫香の手をギュッと握り直し、強く放った。
「……じゃぁ、私たちを助けてよ」
踵を返すと、今度は三原が訴えてきた。声を枯らし、今にも泣き出しそうな声で。
「……そうよ。勝手かもしれないわ。けど、あなたたちと違って、私たちにはもう相手がいないのよ。どうしたらいいのよっ。助けてほしい。だから、あなたをここに連れて来たのよ……」
「……そんなのわかんないですよ」
三原の引き裂かれそうな声に、僕は呟いた。
「僕だって余裕なんてありませんから。ただ…… ただ、こいつを助けてたくて、苦しめたくないだけですよ」
「……それこそ身勝手よ」
助ける……。
そんなの難しいよ……。




