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吸血彼女のお願い  作者: ひろゆき


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53/57

 六 ~  望むこと…… そんなのは。  ~ (8)

 二人の話を聞いたって、こっちも引き下がれないから。

            8



 僕の気持ちが揺れてしまっていた。

 吸血鬼と繋。互いの気持ちが交錯して、ぶつかっていた。

 でも、どうしてだろう。どちらもどこか悲しくて、痛々しい。二人ともこの存在に縛られている。

 じゃぁ、二人の話を聞いて、姫香は何を考えているんだ。

 ふと姫香の横顔を眺めた。姫香は一歩も引かず、唇を噛みながら男を威嚇する。

 でもつらそうだ。

 姫香も吸血鬼の存在に縛られ、泣き出しそうに見えてしまう。

 なんでだよ。なんでお前が泣きそうになってるんだよ。

 いつもふざけて、血を求めてせがんだり、追いかけたり、冗談言って茶化したり、困らせてたじゃないか。

 なんだよ、そのつらそうなの。

 お前、あのふざけた笑顔を見せろよ。

 困らせろよ。

 あの笑顔。ムカつくし、嫌いだけど。

 嫌いじゃないんだ。

「ーー笑えよ」

 思っていた以上に響いた。

 弱々しく呟いたつもりでいたのに、深く轟いた。

 三人の視線が僕に一気に注がれた。

「……吸血鬼とか、「繋」とか。そりゃ、大変かもしんないよ。けど、お前、いつもそんなんじゃないだろ」

「……古川…… くん?」

「こんなの嫌なんだよ。お前にこんなつらそうな顔なんかしてほしくないんだよ」

 戸惑う姫香に、僕は弱々しく訴えると、唐突に姫香の腕を掴んだ。

「ーー帰るぞっ」

 姫香の細い腕を引き、怒鳴った。もう、ここにいたくない。

「ーー待ってっ」

 困惑する姫香を無理に引っ張ろうとすると、慌てて三原が立って引き止めた。

「なんなんですか? あなたたち。僕らに関係ないでしょ。話を聞いていたら。そりゃ、同情はしますよ。けど、だからって僕らに押しつけないでくださいよ。何がしたいんですか?」

 姫香から笑顔を奪った苛立ちだったのか、それとも二人の話を聞いていて、ずっと心の隅に根づいていた不満だったのかわからない。

 けど、僕はぞんざいに吐き捨てていた。

「俺は吸血鬼なんて必要ないと思っている。吸血鬼がいるから、こいつみたいに苦しむ「繋」も生まれる。だから、吸血鬼を殺ーー」

「ーー関係ないっ」

 男が静かに口を開き、殺気を姫香に向けるなか、僕は断言して遮った。

「そりゃ、もしかしたら、僕らもいずれ周りにバレるかもしれない。副作用に苦しむかもしれない。けと、今は大丈夫なんだ。今は」

「あとで後悔するぞ。そのために俺らは警告しているんだ」

「だからって、こいつを殺させたくなんかないっ。絶対に許さない。勝手なんだよ」

 姫香の手をギュッと握り直し、強く放った。

「……じゃぁ、私たちを助けてよ」

 踵を返すと、今度は三原が訴えてきた。声を枯らし、今にも泣き出しそうな声で。

「……そうよ。勝手かもしれないわ。けど、あなたたちと違って、私たちにはもう相手がいないのよ。どうしたらいいのよっ。助けてほしい。だから、あなたをここに連れて来たのよ……」

「……そんなのわかんないですよ」

 三原の引き裂かれそうな声に、僕は呟いた。

「僕だって余裕なんてありませんから。ただ…… ただ、こいつを助けてたくて、苦しめたくないだけですよ」

「……それこそ身勝手よ」

 助ける……。

 そんなの難しいよ……。

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