五 ~ そんなこと、聞いていないぞっ。 ~ (5)
公園でのことは話せるわけがないんだけどな……。
5
「ねぇ、古川くんってさ、私に何か隠してない?」
姫香を迎えに行った帰りのことである。歩道を歩いていると、唐突に聞いてきたのである。
不意を突かれた問いに、僕は面喰らう。
勘は鋭いらしい……。
隠しているのは事実であったから。
姫香には、前日に公園に行ったことを黙っていた。
姫香には公園には行くな、と偉そうに忠告した手前、話すことを躊躇していたのである。
言えるわけがないよな……。
しかも、公園で言われた言葉が気がかりになっているとは言えない。
「バカ。そんなもん何もないよ」
ごまかして顔を背けると、ふと姫香は立ち止まり、訝しげに僕を睨んでくる。
「ホントに?」
疑いを深める様子に、僕は頭を抱える。
まったく。こんな言い争いなんてするとは思わなかった。
「まだ頭痛が続いていて、体がダルいんだよ」
姫香の相手をするのは面倒で、ぞんざいに答えた。昨日に比べてみれば、少しは落ち着いているが、まだ頭を締めつけられる痛みは残っている。
「それって、副作用のやつ?」
「多分。聡はしばらく我慢したら治まると言っていたけど……」
小首を傾げ、また足を止めた。
「吸わせねぇからな」
これまでの展開からして、すぐさま姫香は血をせがんでくる。それを見越して先手を打ってみた。
どうせ、悔しがっているのだと、満足げに姫香の顔を伺うと、姫香は嘆くようにかぶりを振る。
「もぉ。私だって鬼じゃないんだから。そう毎回、毎回、血をくれなんてせがまないわよ。甘く見ないでよね」
腕を組み、悠然と粋がる姿に、「誰がだよ」とツッコミを入れたくなった。
それでも、ここで踏み留まる姫香は意外でもあった。
「だったら、イヌくんに薬貰ったらいいのに。あるんでしょ、「繋」用の薬も」
「いらねぇよ。何が成分なのかわからない薬なんて」
「んとね、前に聞いたことあるよ。確かサソリの○○(自主規制)にヘビの(自主規制)あとはね…… トカゲの××(自主規制)」
「お前、わざと言ってるだろ」
顎に手を当て、宙を見上げながら呟く姫香を制すると、「わかる?」と目を細められた。
まったく、どうもコケにされているようで苛立つし、疲れる。また頭痛に襲われそうだ。
その場に倒れそうなほど呆れる僕に満足したのか、姫香は両手をパンッと叩いた。
「ちょっと待ってて」
と、急に辺りを見渡す。
道の先に、一台の自販機を見つけると、小走りにそちらに向かった。
薄暗い住宅街のなか、その辺りだけがポツリと光を灯していた。
どうやら何かを買っているらしく、僕もそちらに進んだ。
買い終えたらしく、戻ってくる姫香。
「はい。これあげる」
と、優しく微笑み手渡してきたのは、いつも僕が好んで飲んでいた野菜ジュースであった。
「あ、ありがと」
反射的に受け取った。ボトルの冷たさが気持ちいい。
「ほら、私が初めて古川くんを襲おうとしたとき、このジュースで気持ちが落ち着いたでしょ。もしかしたら、古川くんの疲れも、それで取れるんじゃない?」
僕が姫香に振り回されるきっかけとも呼べる出来事。嫌な記憶であるのに、どこか懐かしくもあった。
「バーカ。そんな単純なわけないだろ」
「まぁ、まぁ。そんなこと言わないで。ほら、病は気から、って言うんだし。それにほら、最近あんまり飲んでなかったでしょ?」
確かにそうであった。
最近はあまり飲んでいない。確かに忘れていた。あまり飲む気分にならなかった。なんでだろう?
ね? と薦める姫香。その笑顔には、素直な優しさが滲んでいるようで、素直に嬉しかった。
「うん。ありがと」
野菜ジュースって、なんか懐かしくも思えるな。




