五 ~ そんなこと、聞いていないぞっ。 ~ (4)
副作用なんて深く考える必要ないのに。
解決方法なんて簡単なんだから。
4
いいのか?
いやいやいや。そんなことないよな。
納得なんかできない。副作用を抑えるために、血を吸われなければいけないなんて。
しかも、僕がつらいと言っているのを、楽しむ素振りを見せる聡に、より苛立ってしまう。
もちろん、僕の副作用のことは、姫香にも伝わっている。だからか、次の日からこれまで以上に血を求めるのが強まっており、僕を困らせていた。
当然、僕は断っている。
血を吸われるなんてごめんだ。前は特別なのである。
ただ、気持ちの上での変化は多少はあった。
あの公園がやはり、気になって仕方がないのである。これこそ、血を吸われたあとの後遺症ではないか、と疑いたくなる。
聡からは、公園を避けるようにと忠告を受けている。もちろん、僕もそう考え、姫香との帰りも別の道を選んで歩いていたのだが、この日だけは衝動を抑えられなかった。
聡に相談しに行った日の三日後である。
副作用とされる頭痛は幾分、治まってはいる。
胸が絞められる苦しさも残っていたが、気にしなかった。
放課後の午後六時すぎ。
夕暮れに紅く染まる芝生。あの広場に出たとき、僕は足を止めた。
今日も人通りはまだ多い方である。今日は子供の姿もあり、遠くから声が飛んでいた。
この広場にも、一人の女性がいた。
だが、この女性はどこか周りとは違う雰囲気を漂わせており、僕の足は止まってしまう。
広場の中心にたたずみ、夕焼けを眺めるように立っていた女性は、僕の足音に気づいて振り向いた。
どこか幼い表情に、大きな目が特徴的な女性だった。澄んだ眼差しは、僕を吸い込むようで、何かを訴えていると感じた。
大学生らしき小柄な女性の姿に、心がざわついてしまう。いや、心が警告していた。
なぜ、怯えているのか。怯えているのなら、と一筋の考えが巡った。
「……あなた」
記憶の淵に、目の前の女性が存在していた。記憶のなかでは、怯えた様子でこの芝生の上で倒れ込んでいる姿。
脆そうな姿であった。
この女性は、姫香に襲われていた女性であった。
「……なんで?」
ちょうど、この場所で彼女は襲われていた。それならば、ここは恐れる場所じゃないのか?
本当なら、二度と足を踏み入れたくないはず。
それなのになんで? しかも一人で?
どうしているんだ? と問いたいはずなのに、言葉が喉を通るのを拒絶した。
さらに真剣な様子で睨まれてしまい、僕は臆してしまう。
「あなたも一緒なんでしょ?」
「ーーはっ?」
「あなたも私も一緒なのよ。この地から離れられない。決して、どうしても……」
「何を言っているんだ」
「……関わらない方がよかったのに……」
力なく呟いた声は、風に乗って散り、僕の鼓膜まですべては届かなかった。
ただ、背けた横顔は夕焼けに寂しそうに照らされていた。
目の前に現れたのは、何が目的?




