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吸血彼女のお願い  作者: ひろゆき


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42/57

 五 ~  そんなこと、聞いていないぞっ。  ~ (3)

 気分が悪いのだが、どうも責められているみたいだな……。

            3



 何をやっているんだ、と自分に問いたくなってしまう。素直に家に帰ればいいのに、体は家に向かっていなかった。

 ずっと誰かに体を操られているような、居心地の悪さを抱きかかえたまま、僕は聡の店に来ていた。

 どうも、調子がおかしい。これは本当に疲労や風邪とは考えられなかった。

「あぁ、それは多分、副作用だね。「繋」としての」

 聡が出してくれた椅子に座り、カウンターに突っ伏して上の空で聞いていた。

 体を起こす気にもなれない。

 もう真剣に話を聞く体力も残ってなさそうだ。

「ふんっ。さっさと姫に血をあげへんかった罰や」

 鋭い雷鳴が脳天から突き落とされ、瞬きをしてしまう。

 そのまま倒れそうな体に、さらに容赦ない罵倒が僕に降り注いだ。

 棘ばかりの関西弁にげんなりし、なんなのか痛感しつつも、体を起こした。目をしょぼしょぼとした先の壁に、腕を組みながら悠然と立ち、こちらを睨む人物がいた。

 今田梨花、もとい、お姉さんが……。

 店に入ったのが最悪のタイミングであったと後悔した。扉を開いた先に、お姉さんの姿があったから。

「ったく、あんたは許さへんで。姫を危険な目に合わせるなんて」

 店に入った途端、ずっとこうである。気が滅入りそうだ。

「もっと、早く姫に血を上げておけば、こんなことにならへんかったのにっ」

「まぁ、まぁ、梨花さん。落ち着いて」

 両手を見せて宥める聡に、納得しないという態度で僕を睨み続ける。

 反論すれば、もっと鋭い棘が飛んできそうだ。

「んで、どういうことだよ、副作用ってのは」

 苦笑する聡に、先を促さすように聞いた。

 うん、と答えてから、聡は椅子に深く凭れると、腕を組んだ。

「姫ちゃんが襲われたのは一週間ほど前だろ。んで、お前のことだから、一度も姫ちゃんに血を吸わせてないだろ」

「ーー当然」

「だからだよ。「繋」ってのは、一度契約すると、定期的に血を吸われないと、気分が悪くなるんだよ」

「なんだよ、それ?」

 意味がわからず、聡とお姉さんの顔を交互に見比べた。すると、お姉さんが溜め息を吐く。

「こういう言い方だと、姫が悪者みたくなるけど、血を吸われることで、人の血液成分が少し変わるの。それは、普通の人にとっては、負担が大きくなり、体調が悪くなる。そこで、悪くなった血を抜き取るのよ。まぁ、毒を抜くようなものよ」

 んんん?

「じゃぁ、ずっと血を抜かなかったら、どうなるのさ?」

 率直で恐怖の疑問を投げかけると、二人は黙ってしまった。

 黙っているのが答えなのか。ならば、先がわかっていることになる。

「だから、手っ取り早いのは、姫ちゃんに血を吸ってもらうことだよ。そうすれば、お互い助かるってことなんだから。ほら、デトックスだよ」

 指を突き立てて提案する聡であったが、

「ーー断る」

 激しくかぶりを振ってやる。

「ったく、ガキか。強情なんやな。はよ吸わせたらいいのに……」

 呆れた、という様子で、溜め息をこぼすお姉さん。かぶりを振る姿に苦笑する聡。

 一通り笑うと、僕の方に振り向き、

「一応、薬はあるよ。高いけど」

 そこで、不敵に口角を上げ、指で輪っかを作り、大金をせがんだ。

「……ちなみに、成分はなんだ?」

「ーーそれ、聞く?」

 傲慢な態度で呟くお姉さんが怖い。なんだろう。また、(自主規制)な言葉が飛んできそうで頭がふらついた。

 これ以上聞くことは止めておこう。

「ま、あとは我慢だね。ちょっとした頭痛と倦怠感。しばらくしたら治まると思うよ。でも、頻度は多くなるかも。まぁ、そのつらさに耐えられるかどうかだけどね」

 苦痛を摂るか、薬を取るかの選択ってことか。

「だから、早く吸われろやっ」

 お姉さんの叱咤が痛いです。

 嫌だ、とは口が裂けても絶対に言えない。

「あ、あと忘れるところだった」

「ーー?」

「あんまり、あの公園には行かないことだね。あそこは土地柄から、体によくないと思うから」

「なんだよ、それ」

「まぁ、一つの忠告かな」

 副作用?

 あり得ないだろう。なんだよ、それ。

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