五 ~ そんなこと、聞いていないぞっ。 ~ (3)
気分が悪いのだが、どうも責められているみたいだな……。
3
何をやっているんだ、と自分に問いたくなってしまう。素直に家に帰ればいいのに、体は家に向かっていなかった。
ずっと誰かに体を操られているような、居心地の悪さを抱きかかえたまま、僕は聡の店に来ていた。
どうも、調子がおかしい。これは本当に疲労や風邪とは考えられなかった。
「あぁ、それは多分、副作用だね。「繋」としての」
聡が出してくれた椅子に座り、カウンターに突っ伏して上の空で聞いていた。
体を起こす気にもなれない。
もう真剣に話を聞く体力も残ってなさそうだ。
「ふんっ。さっさと姫に血をあげへんかった罰や」
鋭い雷鳴が脳天から突き落とされ、瞬きをしてしまう。
そのまま倒れそうな体に、さらに容赦ない罵倒が僕に降り注いだ。
棘ばかりの関西弁にげんなりし、なんなのか痛感しつつも、体を起こした。目をしょぼしょぼとした先の壁に、腕を組みながら悠然と立ち、こちらを睨む人物がいた。
今田梨花、もとい、お姉さんが……。
店に入ったのが最悪のタイミングであったと後悔した。扉を開いた先に、お姉さんの姿があったから。
「ったく、あんたは許さへんで。姫を危険な目に合わせるなんて」
店に入った途端、ずっとこうである。気が滅入りそうだ。
「もっと、早く姫に血を上げておけば、こんなことにならへんかったのにっ」
「まぁ、まぁ、梨花さん。落ち着いて」
両手を見せて宥める聡に、納得しないという態度で僕を睨み続ける。
反論すれば、もっと鋭い棘が飛んできそうだ。
「んで、どういうことだよ、副作用ってのは」
苦笑する聡に、先を促さすように聞いた。
うん、と答えてから、聡は椅子に深く凭れると、腕を組んだ。
「姫ちゃんが襲われたのは一週間ほど前だろ。んで、お前のことだから、一度も姫ちゃんに血を吸わせてないだろ」
「ーー当然」
「だからだよ。「繋」ってのは、一度契約すると、定期的に血を吸われないと、気分が悪くなるんだよ」
「なんだよ、それ?」
意味がわからず、聡とお姉さんの顔を交互に見比べた。すると、お姉さんが溜め息を吐く。
「こういう言い方だと、姫が悪者みたくなるけど、血を吸われることで、人の血液成分が少し変わるの。それは、普通の人にとっては、負担が大きくなり、体調が悪くなる。そこで、悪くなった血を抜き取るのよ。まぁ、毒を抜くようなものよ」
んんん?
「じゃぁ、ずっと血を抜かなかったら、どうなるのさ?」
率直で恐怖の疑問を投げかけると、二人は黙ってしまった。
黙っているのが答えなのか。ならば、先がわかっていることになる。
「だから、手っ取り早いのは、姫ちゃんに血を吸ってもらうことだよ。そうすれば、お互い助かるってことなんだから。ほら、デトックスだよ」
指を突き立てて提案する聡であったが、
「ーー断る」
激しくかぶりを振ってやる。
「ったく、ガキか。強情なんやな。はよ吸わせたらいいのに……」
呆れた、という様子で、溜め息をこぼすお姉さん。かぶりを振る姿に苦笑する聡。
一通り笑うと、僕の方に振り向き、
「一応、薬はあるよ。高いけど」
そこで、不敵に口角を上げ、指で輪っかを作り、大金をせがんだ。
「……ちなみに、成分はなんだ?」
「ーーそれ、聞く?」
傲慢な態度で呟くお姉さんが怖い。なんだろう。また、(自主規制)な言葉が飛んできそうで頭がふらついた。
これ以上聞くことは止めておこう。
「ま、あとは我慢だね。ちょっとした頭痛と倦怠感。しばらくしたら治まると思うよ。でも、頻度は多くなるかも。まぁ、そのつらさに耐えられるかどうかだけどね」
苦痛を摂るか、薬を取るかの選択ってことか。
「だから、早く吸われろやっ」
お姉さんの叱咤が痛いです。
嫌だ、とは口が裂けても絶対に言えない。
「あ、あと忘れるところだった」
「ーー?」
「あんまり、あの公園には行かないことだね。あそこは土地柄から、体によくないと思うから」
「なんだよ、それ」
「まぁ、一つの忠告かな」
副作用?
あり得ないだろう。なんだよ、それ。




