五 ~ そんなこと、聞いていないぞっ。 ~ (2)
やっぱり、お弁当って嬉しい?
2
その日からである。
毎日のように、姫香が弁当を持ってくるようになったのは。
何度となく、いかがわしいおかずはあった。その都度、姫香を睨んでみるが、幾度となく「自主規制」を言っては、「冗談よ」とはぐらかされていた。
はたして、それは嬉しいことなのか?
確かに可愛い女の子が自分のために、と考えると嬉しいものである。
ただ……。
嬉しいのか?
うれ……。
悔しいが、そのいかがわしい弁当を、結局は食べてしまう僕。
逆らえないのが情けないばかりである。
そんな日が一週間、続いた日の昼休みである。
その日も同じように、姫香の弁当を食べていたときであった。
「この前、本当に私って発作が起きたのかな?」
唐突に姫香が呟いた。
「覚えてないのか。何度も言ったろ。それで、誰か女の人を……」
あの公園の話をしていたときである。
箸が止まる。
「あれ? もしかして、魚は嫌いだった?」
その日の弁当のメインは魚であった。いや、別に魚が嫌いなわけではない。正直悔しいのだが、おかずはみんな美味しい。
でも、箸は止まってしまう。
「いや、そうじゃないんだ。最近、ちょっと頭が痛いんだ」
どうも、体の調子が芳しくない。ずっと頭痛に襲われてしまい、気分は優れなかった。
「ーー風邪?」
隣で同じように弁当を食べていた姫香が、ふと弁当を地面に置いた。
「じゃぁさ、私が血を吸ってあげようか?」
「だから、なんでそうなるんだよ」
「デトックスよ、デトックス。悪い血を吸い出してあげるってことよ」
口角を上げ、八重歯を見せる姫香。すぐさま僕は眉をひそめる。
「お前、それ絶対嘘だろ。自分が血を吸いたいだけで」
「どうだろ?」
疑いのない目。慣れてはいるのだが、反論はできない。
それだけ、気分は優れなかった。
まるで、見えない縄で全身を縛られているような重苦しさに苛まれ、今にでもベッドに飛び込みたかった。
だが、僕はすぐに家に帰りはせず、ある場所にいた。
あの公園に。
気分が優れないなか、どうしても心をざわつかせるしこりが残っていた。
姫香の言葉が突き刺さる。
あいつは発作を起こしていなかったのか?
姫香は発作のことを覚えていないのは本当なんだろうか。
あのときの姫香は、教室のときと雰囲気が似ていた。発作を起こしていないとは思えない。
なら、奇妙な感覚に陥るのは、この公園自体に何かの因果関係があるのか……。
そんなことを考えながら、あの広場に立っていた。
今日はまだ月ではなく、夕焼けが照らしていた。
時間も早いせいか、まだ人影は多く、ジョギングコースを走っている人の姿も今日はいくつかあった。
広場のベンチに腰を下ろした。
なぜだろう。この広場に来たときから、心を締めつけるように心臓が激しく脈打っている。
何かを訴えるように。
それに、気のせいだろうか。ふと、あのときの姫香の姿が脳裏にへばりついていく。
しかも、呼応するように、頭痛が酷くなっていた。
つい頭を抱えてしまう。息も上がり、目を瞑った。
この気持ち悪さも、この公園の“狩り場”という土地が心をざわめかせているのだろうか。
容赦なく頭痛に襲われてしまう。
意識が薄れるなか、脳裏に姫香の姿が浮かぶと、何かを訴えるように話しかけてくる。
また茶化すのか。こんなところでまで。
「これ以上、関わらないで」
信じられないほど冷たい声が鼓膜に響いた。
やはり、おかしくなっているらしい。幻聴はどこか姫香の声ではないように聞こえた。
やばい、限界なのかな……。
ちょっと、気になることもあるんだよね。




