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第9話 日常になりつつある非日常



6歳になってからは外部の人との交流が増えた。

外に出かけられる歳になったというか、まともな二足歩行ができるようになったのだろうか。未だに剣を持つ事は叶わず引き摺り回すだけなのだが、飛んだり走ったりと言った運動能力に関しては今までよりもずっと発達した。


そう言っても六歳児にしては、今までよりかは動けるだけで。死ぬ前の肉体のどれだけの力が発揮できているのか、その中で2割あればいい方だろうか。


「クロード様」


だが今までのように魔術と肉体を鍛える事だけに時間を割けなくなったことも確かで、クロードとしての仕事が増えたのだ。貴族の子息として最低限の礼儀作法や伯爵という地位はその辺を重視するようで、お勉強が増えていった。


「本日のお召し物です」


僕は貴族というガラではないはずだが、貴族主催のパーティーには行く義務がある。動きにくい衣服を着込んできらびやかに会場で食事を取るだけの騒ぎ。ただそれだけのはずが何故だか注目の的として担ぎ上げられた。

実際僕はレイガスのような好青年でもない、顔に関してはハクだった時よりは良くなっているがレイガスと比べれば見劣りするし、身長も六歳児というだけあって大人の足下だ。


それでも伯爵家の地位、そして僕自身が外交官に任命された事が貴族たちの目に留まった。レイガスが王族に迎えられられた事が一番関わっており、僕は貴族のパーティーでは見世物にされた。


ギラつく大人達に囲まれて愛想笑いを繰り返していると、


「クロード」


とても低い男の声が僕を呼んでいた。その声に聞き覚えもなく、またどこかの貴族なのだろうと思って愛想笑いを浮かべて頭を垂れようとしたが、いきなり散っていく人達に違和感を覚えて目線だけは下げなかった。


「初めて会うな、俺の息子よ」


長身の茶髪の男だった。黒い燕尾服を着ているそいつは僕のすぐ側まで近寄ってくる。


「お初目お目にかかります御父様」


僕はこの男に会った事はない。だが父親を見たこともない。

だから父親がどのような人間かを知らない。

目の前の男が自らを父と言うのならそうなのだろう、僕には確かめる術はなく言葉を疑うことしかできないのだから。


「随分と目立つようだな」


「御父様と兄様の威光でしょう」


この男が来てから寄ってたかって近づいてくる人の数が極端に減った。誰もが近づかないようにと遠ざかっていく様子は気色悪い。まさかとは思うがこの男に怯えているのかと、一瞬思ったが伯爵家は上級貴族とだが上はまだいる。

この場に公爵でも侯爵だっているはずなのに誰一人として話しかけてこなかった。


「そこまで分かっているのならいい」


僕が周りを視認している事がバレたのか、睨みつけてから何処かにふらっと行ってしまう。感に触ることした覚えはないが、思い当たる節は多いので何も言わずに後ろ姿を見送った。


父親なのだろう男を見送だあとは誰も話しかけてこなかった。

今までの騒ぎがなかったかのように静まりかえって、僕としては良かったが場の空気は最悪だ。


けれどレイガスは世話を焼いて話しかけてきた。


「クロード、最近どうだい?」


随分とやつれている様子だったが、あえて聞かない。

それも横にいた王女らしき人に配慮してだが、


「特に変わりはありません」


「そうか、それに対して僕は辛いよ。政治って難しいんだね」


作り笑いを浮かべてレイガスは僕に笑いかけた。

上手くいっていない証拠が見てれとるが、王族に名を連ねる以上多忙なのは仕方がないことだ。それに僕も一歩間違えていれば死にかけるほどの多忙を極めた可能性だってある。あまり哀れまないようにしよう。


「頑張ってください」


「ありがとう。それと僕はいい国を作るように頑張るから応援していてくれ」


レイガスの目は死んでいなかった。

やつれて死にかけていながらも諦めていなかった。

その姿を別のところで見た気がしたが、もう忘れてしまった。


「それでは」


パーティーは少しずつ終わりに向かう。

主要人物が帰り始めると、それに便乗してみんな帰っていくのだ。目当ての人が居なくなれば用済み、本当に貴族の宴などそんな物なのだろう。


行きに乗ったものと同じ馬車で家に帰る、何故か知らないがアリーシャは来なかった。あの父親を見てからだとあの人に理由があるように思えるが、特に大事にならなければいい。


僕の目的は最後までティアを守る事だ。

そうと決まっている。


馬車の窓から見える星空を眺めながら、ティアはどうしているだろうかと物思いにふける。



時々分からなくなってしまう時がある。

僕は本当に僕なのか、この意思が本物である確証はあるのか。

僕は本当は孤独なんじゃないかって思ってしまう。




違う。絶対に違う。

ティアを守ると誓ったんだろ。

だったら最後まで貫き通して見せろ。

それが僕だろ。


「僕はやるべき事がある」



やる事がある、絶対に成し遂げる事がある。

だから迷っている時間はない。最後まであの日の誓いを守り続ける。そうする事が今の僕に与えられた使命で、生きる意味だ。


だから迷わなくていい、僕は必ず成し遂げて見せる。


心から離れてしまわぬように刻み込んで家に帰った。

二度と忘れてしまわぬように刻み込んで床に就こう。


布団の中でゆっくりと意識を手放して、二度と目覚めない夜に落ちていく、


──日常が壊れる事を誰よりも知りながら、


──現実が甘い果実ではないと知りながら、


──僕はそれを忘れていた


『現実は理想の殺戮者』


           

二章を分けるとしたらこの辺です。

そしてようやく話が軌道に乗り始め、次回からまともな物語が展開されます。


明日は午前12時、午後6時、12時に投稿するので暫しお待ちを

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