第52話 次なる任務
あまりいい気分はしない。そんな物はもう慣れろと言われるかもしれないが、クロードは未だいい顔はできない。
アジトに戻り、夜を明かす。
そうして宛てがわれているこじんまりとした部屋のベッドに俯して睡眠をとる。日が登ってくると目を覚まして適当に廊下を歩いたり、無駄に広い共用スペースで情報を仕入れて次の作戦を待つ。
コルキウスの兵士達の中には朝から必死に剣を振る者もいるが、それを見た所で「昔はああやっていたな」くらいの感想しか出てこない。
剣が使えなければ剣以外を使えばいい、錬金術師として、魔術師としては正解だが剣士としては敗北。
剣など腰にかかっているだけで使っている武器の大半は別の物なのだから諦めてすらいる。
「…………」
置いてあるソファに腰掛けて今日の新聞を手に取り眺める。
そうでもしないと外部の情報がなさすぎる、ここまで持ち込んでいる者がいるならいつか礼を言っておこうと思いながら広げた。
大きな見出しに書かれている民家の爆破事件、そして貴族のいざこざに関しては全くと言っていいほど書かれていない。この様子ならマスコミはうまく騙せたようだと安堵して息を吐く。
貴族の汚点となる物は全力で潰しにかかるだろうし、民主制でもない限りマスコミの力が上回ることはない。圧力がかかれば口くらいはいくらでも塞ぐ、人間なんてそんな生き物なのだ。
爆破の原因は不明。それもそのはず、粉塵爆発は十九世紀になってから危険視され始めたのだから気付かなくても当然。むしろ気づかれるとクロードの立場がない。
黒騎士は死亡、裏路地で行われた殺傷騒ぎも街中での狙撃も、全てが別の事件に持って塗り潰された。弾丸に関しては持ち帰ったので証拠はなく、皮膚を焼いて溶かす手段を用いて傷口を塞いだので銃創も見つからない。
後から騎士同士の戦いにふさわしいやり方で殺された死体が、今頃王都に運ばれて刑罰を決めかねているだろう。
名を出したのがガジスだとしても、裁かなければならない。
表立って動かなかった以上は、差し向けた刺客に罪を被せて葬るしかない。相手の戦力は減っていき、これ以上は下手な動きはできない。
「次の作戦はいよいよ王都だ」
いつものように現れるレイリはクロードに肩を組んで、その格好には見合わない思い話をする。
「随分と早いんだな」
「まだ全面戦争とはいかない、一部施設を破壊して大混乱と力を削ぐ。そのために兵士の司令官を追いやったんだろ」
「そういえばそうだった」
今現在は王都の防衛機能が低下している。
突破は容易になる。
「直接対決のシナリオは別の奴が考えてる、まあそれは単に暗殺って事で全てを終わらせる気はない。面と向かって殺し合い、俺達がこの国を倒したと知らしめる必要がある。それだけだ」
ただ暗殺するならここまで手を込んだことをする意味はない。
回りくどいやり方をしてまで直接対決に持っていく理由は、王が死んでもその次がある。次が死んでもまた次が出てくる。
そうして永遠に続いてしまう物をどうにか止めなくてはならないからだ。
全ての者に勝利を見せつける必要があるのだ。
そのためにも今相手の力を引き摺り下ろすところから始まっている。
「破壊する施設ってなんだ?もし病院とかならやりたくないんだが」
破壊する施設によって変わるものがある。
交易の場を破壊すれば物資の供給が止まる、病院を破壊すれば治療ができなくなる。そう言った影響を使うと理解しているが貴族以外の人間にまで被害を与えたくないとクロードは悩むが、レイリの口から出てきた物はとんでもない物だった。
「城だ、王城。ハルイザ王国の行政機関を破壊する」
それが決まったと言わんばかりの物言いだが、そんなことが本当に可能なのか、実現不可能なのではないかと思わせる。
「目的は王城にある地下牢、知ってるな」
「監獄とは違う、貴族が罪状を決めた犯罪者だけが収監される場だろ」
犯罪者の罪状はあくまで国が決定しているというスタンスをとっている。
裁判になる事はほぼ無いと言っていいが、それでも犯罪者には何かしらの罪状がくくりつけられて監獄に収監される。
その中でも貴族が罪状を決めるパターンも存在する、その場合は犯罪者が貴族の場合。
基本的にこの国は罪状は書類審査とそれに沿ったマニュアルで決めているので、反省の色とかは全く見ていない。
だが貴族が犯罪を犯した場合に限り、特別な処置の下決められる。
そのためには明確な犯罪の証拠を提示する必要があり、この時だけまともな裁判が執り行われる。法廷なんて物はこのためだけに存在しているオブジェクトと化しているのだ。
「収監された貴族でも助けるつもりか?」
「会議で言ってた話だが、あんまり覚えてない。なんとなく思い出せる範囲では貴族ないのパワーバランスを変えるらしい」
「動かす材料を持ってる奴がいるってことか?」
「ハルイザ王国の外交立場ってお前なら知ってるだろうがかなり曖昧だ。グレー過ぎるくらい汚い」
外交官候補生として勉強していたクロードには表面上のことは知っていても、それほど深い所になってくると情報規制が入ってしまって分からなかった。
ただ制度だけなら理解している、それがどう使われていて、どこに触れているかは理解していないが、
「他国の重鎮をぶち込んだらしい」
「それって……」
基本的に貴族は治外法権が適用される。
一度国に帰り、その後罪状が言い渡される仕組みになっている。
だからこそ、この行動は世間に晒されれば批判の的になる。
「なるほど……そうするのか。今の国の在り方を異国から指摘させるってことか、さすがに他国からとやかく言われれば考え直す必要がある」
外から突っつかれる事で内ゲバを生じさせる。
同じ国内の中では踏み潰せたとしても、さすがに他国にまで影響力を及ぼす事はできない。知れ渡ってしまえば株は落ちる、外国からの見る目が変わる。
すれば変わらなくてはならなくなる。
「そんな安全策を取るわけないだろ。いい感じに火をつけて、俺達を支持してくれる人を増やす。国内でも不信感を覚えた奴が流れてくれば色々と都合がいい」
「この手で父さんを倒すなら、気が変わるのを待つより叩き潰したほうがいい」
握る拳を眺めながら力を込めるクロードをレイリは奇怪な目を向けた。
「父さん……かあ」
「認めるしかない、あいつはどうあっても俺の父親で殺すべき敵だ。出来るだけ逃げないようにするって決めたから」
「そりゃあいい、次の作戦もお前の力が絶対にいるだろうから覚悟しておけ。デッカイ吹き矢もまた頼むぜ」
「銃って言わなかったか?」




