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第49話 前に進むために


シャルラの部屋から退出したあと、案の定と言うべきかエドと鉢合わせる。彼がシャルラの護衛をしている以上はこの辺りを彷徨いているはずであり、もしかすると今までの会話が全て聞かれて出てくる機会を窺っていたのかとすら思わせる。


「多分心配かけたと思う、勝手に話を進めたし」


あの時のクロードに物事の判断がつくほどの精神は持ち合わせていなかったとしても、あの行動は異常だった。いきなり人を引き連れて帰ってきたと思えば、シャルラを運び出して別の場所に移動させる。その後は音信不通で何かをしている。


本来なら問い詰めてでも聞き出すべき事だが、エドがそれをしなかったのは守りきれなかったことへの罪悪感か、それとも単に言い出せなかったのか、


「俺もシャルラを守りきれなかった、すまない」


けれどサボっていたわけでもないし、シャルラも責めてはいない。

エドが戦っていたのは彼の鎧についている血痕から知っていた。


「あいつら引き連れてたのは俺みたいなもんだし、その……これからも引き続き頼んでもいいか?」


あの時はと言えばあまり思い出したくない記憶、そのためどこかバツの悪そうな顔を逸らしてそう言った。


「了解だ」


こんな形になったといは言え、クロードはエドとの約束は果たしている。


「引き続き俺はやる事があるからあとは頼んだ」


肩の荷が降りた、背負って来た物を一つ解消した。

たった一つ、今抱えているたくさんの問題の内の一つだけれど、気持ちは幾分楽になった。思い詰めなくていいと言うのは随分と軽いものなのだと、クロードは初めて知った。


後悔して、傷つけられた物を抱いて進むことしかできなかった。

それ以外の手段を知らなかった。

この口から弱音を吐く事は許されないとすら思っていた。


いつも謝ってばかりだけれど、今回だけは少し違う。


「俺も少しは大人になったって事で手を打つよ」


何もなかった人生と、何もかもを取りこぼしてきた人生の末に、ようやく成長できた。

シャルラに気を使う必要はもうない、今の顔はきっと今までよりも生きている。


そうやって場を去って行き、あることを為すために歩き出す。


「……残っているのは家の問題だけだ」


始まりがそこにあり、終わりもここにある。


ガジスとの決着をつけない限りクロードは終われ続け、シャルラは殺されるだろう。それを阻止するためにも相手を政治的失脚などで済ませてはいけない。確実に息の根を止めるしか、ことの解決を図る手段はない。


父親を殺す。

それは殺された母の敵討ちであり、シャルラを傷つけた復讐でもある。

ハクの時に両親を殺され、ティアを託されたときはこうなる事など予想だにしていなかった。死んだ両親の代わりが別にいるとも思っておらず、家族が増えるなんて端っから諦めていた。


けれどこうして、転生という形で新たな家族ができた。


こんな形になるとは誰も予想していない。

クロードの親はガジスとのアリーシャ、彼らだけだ。それは否定してもここ数日間で染み込んでいる、取れる物ではない。


アジトから外に出て森の中へと踏み入れる。

人が全くいない場所で、一人になるにはちょうどいい場所だ。


日の当たらない木陰に座り込んで上を見上げる。

そうであって欲しいと、思っただけだ。


「俺は一度でも母さんと呼んだ事がなかった、言葉の上ではそうだった。けど本心から、心からそう呼んだ事はなかった」


家族という枠組みとして捉えて、不都合がないようにそう呼んだに過ぎない。

クロードがアリーシャを母と思った事は一度たりともない。


「なのにあんたは俺の母さんだった、最後まで母として死んだんだったな」


クロードはコルキウスに入ってから情報を集めることにして、1年間の間に起こった情勢変化に目を通しておこうと新聞を読み漁った。

それは朝の朝刊だけではなく、過去の記事も。数ヶ月前の情報から得ていた。


新たな理不尽な制度、意味のない重課税。

そんな情報ばかりでも、中には小さくひっそりと書かれている事が本人にとって大きな意味をなす事だってあり得る。


「俺は一度も母親だとは思わなかった、なのに俺を見て息子として接した」


アリーシャの死因は未だ分かっていない。

ただガジスが『邪魔だったから殺した』と言っている以上は生きていない。彼らが殺したのだ。


「なんで死んだんだ、謝らせてくれよ。親なんだろ……子供の躾くらいしろよ」


それが新聞の端に載った、息子を探す親の文面を思い浮かべて。


「…………あんたは立派に母親だった、俺がそう思えなかっただけでちゃんとしてた。だから……母さん、最後に一つだけ迷惑をかける」


初めからそう言えていればよかった、

失ってから気づくものが多すぎた。


「俺は父さんと兄さん達を殺すよ、それが俺にできる最後のケジメだ」


直視する時が来た、彼はクロードなのだと。

他の誰でもないその人なのだと直視する時が来た。


「クロード=インティウムとして戦う、そして俺がこの戦いを終わらせる」


全てを生んだのが俺自身ならーーそれを終わらせるのも役目のはずだ。


投げ出す事は許されない、ここから先が本来の戦いだ。


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