第37話 クロードとして
用意された高価な馬車に揺られ、長い時間を険しい顔で過ごしていた。
クロードにとって父親との再会はできるのならしたくなかった。
一度だけしか会ったことのない父親に、大して関わりがある訳でもなかった人物に顔を合わせる。しかもそれが自身が売られる前日に行われた物だとすれば疑いの目も向く。
それでも決めつけるわけにも行かず、あくまで可能性の一つとして端に追いやっていた。
ただそれは出来る事ならずっと目を逸らしていたい現実でもあった。
「……クロードのお父さんって貴族だったんだね」
それはクロードも貴族だと指しているようなものであり、馬車の外の景色を眺めて顔をこちらに一切向けないシャルラが離れていってしまう気がしてすぐさま首を振った。
「……そうだ、驚いたか?」
首を振って、違うと言えれば楽だった。
だがそれが出来る時間は既に終わっている。
シャルラとエドの2人と共に馬車に乗せられ、幸いあの父親とは違う馬車だった為まだ平常でいられる。それも気はずっと立って落ち着きはないが。
「なんか妙に詳しかったりするから、あるのかな?くらいには思ってた」
「笑ってくれるか?俺が貴族だったことに……」
「…………」
貴族と平民には壁がある。物理的ではなく精神的な隔てが存在する。
住む場所も違う、通う学校も違う。
生きる世界が違うと誰もが思っている。
平民からすれば貴族は雲の上の人、目にするだけでレアなのだ。
だからシャルラはクロードがどこか別の者に見えた。
「クロードはずっとクロードなんだよね?」
「……………」
そうしたいと思っていても、できない。
「私のクロードのままで居てくれる?ずっと一緒に居てくれる?」
「そのつもりだ」
本当は分からない。
意思がそうだったとしても、現実は違うのだから。
「なら良いよ」
そんなはずがないだろうと、クロードは強く拳を握りしめた。
せめてこちらを向いてくれ、逸らさないでくれと、言いたくても言えなかった。
■
クロードをわざわざ連れてきたと言うのにもかかわらず、明日に予定すると言い残してどこかに去っていった。行く場所など決まっているだろうと、久しぶりに戻ってきた王都の城を見上げた。
国王が住み、政治など全てが取り計らう場所。王城だ。
それが目にできる程近くにある宿に連れて行かれ、高級の宿舎に入れられて時間を待てと言われていた。
クロードだけは家に帰る選択肢はあったが、王城からは距離があると言い訳をしてここに残らせた。本心は帰りたくない気持ちと彼らを残していけなかった。
既に料金は払われていたようで何事もなくスムーズに話が進み、絶対にお目にかかることのない高級な部屋に入れられることになった。
それが普段のクロードなら眩しさに苦しむ所だが、今はそんな余裕はない。やるべき事としなければならない事を両立させるために無駄な行動は控えた。
シャルラは何を思っているのか、騒がなかった。
騒ぐ相手が何もしなかったから何もできなかったのか、部屋の空気は険悪そのものだった。
そして誰も口を開かないまま時間は過ぎていき、日が暮れてしまう。
どれだけ大人ぶったと所で子供のシャルラはベットに入り寝息を立て始め、それに伴って明かりが消えた。
寝ているシャルラを横目にクロードはベランダへと足を運び、扉を開けると、
「寝ないのか?」
「眠れないんだよ」
背後に立っているエドの声にひょうひょうと返した。
彼が寝ているとは初めから思っていない、話しかけられることも分かっていた。待っていたの方が正確だった。
「もしかしたら、いや違うか……俺は帰ってこない」
「それで良いのか?」
「絶対に嫌だけど、そうも言ってられない状況みたいだ」
「シャルラにはどう説明つける気でいる」
「見捨てたりはしない、必ず追いつく。だから……それまではエドに頼んでも良いか?」
初めから予期していたわけではない。
だがクロードがシャルラを守れなくなる時期が早まってしまっただけ、いつか来る別れがこんな形で終わってしまうだけ。
感動的に笑っていきたかったのが、不可能になっただけ。
「対価を払え、魔術師」
クロードは魔術師だ。対価を払うことで何かを得る。
その彼にとって対価とは絶対的な物。
「ああ、そうだな」
「貴様が死なない事、そして生きて戻ってくる事」
「分かった……その対価でシャルラを守ってくれ」




