第36話 追いつかれた過去
道中に現れる魔物達をシャルラの遠距離魔法で塵も残さず蒸発させ、爆風と舞い上がる土煙に目を塞いだ。
灼熱の炎が残っていた雪と霜も全て破壊して一面を地獄と化していた。
「やっぱりこれやめない?」
「ちょうど今同じこと考えてた」
出会す全ての魔物に魔法を叩き込んでいては、道が破壊されて前に進めるものも進めない。
ついでに地形が変わってしまうとせっかく覚えた世界地図が無駄になってしまうからでもある。
「魔物は避けながら街を目指すか」
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田舎者の性という物は大都市を前にすると凍りつく。
クロード自身もたった6年とはいえ王国随一の大都会に住んでいたために心臓が飛び出るようなことはなく、精々固まって動かなくなるくらいだ。
とは言え、エドの感覚ではタイムマシンに乗って未来に来た人間くらいのリアクションはあるので、下がいると胸を撫で下ろすのと同時にチラリと視線をやった。
だがエドは全く動じない。
表情一つ動かさずに立ち尽くしている、彼には何も響かなかったのか。500年間の違いに何も感じないのかと、驚愕しながら口を開けていた。
「そんな所に立ち止まってたら邪魔になるでしょ、ほらほら」
最後の頼みの綱は周りの人に気を使えるレベルにまで慣れていた。
「なんともない?」
「何が?」
「思ってたより大都会だぞ?」
「このくらい普通、貴族が偶に寄ったりすれば街は見栄を張るってもんよ」
「え、えぇ」
一応貴族だったこともあり、知識の数や政治系統に関しては詳しいつもりでいた。
そしてクロードの思い描く理想像としては「シャルラに自慢げに話をする男」遠回しに表現すればうざい奴、友達にはなりたくないと思われる人物だが。彼はどの人生にも友達などいなかったためそんな事には気づかない。
いきなりマウントを取られ、知らない知識までひけらかされては歳上の威厳とはどこへやら。シャルラに悪意はなく、それに対してケチをつけるつもりもないが、井の中の蛙を知らされた悲しい少年の心を折るには十分すぎた
「ちょっと恥ずかしいから行って」
「い、嫌だー!都会マイスターの意見なんて聞き入れるものか、唯我独尊してやる」
大通りの端に蹲って無駄な抵抗をし始めるクロードを無理やり引っ張ろうとするが、伊達に視線をくぐり抜けて来たわけではない。
身体強化魔法は使わずとも踏ん張る技術を手に入れているのだ。
魔道具の製造以外に肉体改造まで施した今のクロードは超人七歳児。
女の力程度で動かせる物ではない。
「精神が引っ張られてないか?」
少し離れて、側からみれば他人と思われる距離に居座り。新たな転生の影響を記憶し続けるエドだが助ける気はない。関わって奇怪な目を向けられる事だけは避けたい一心で。
「都会にコミットしちゃったお前には分からんだろうな」
「さっきから変な事ばっかり言ってるけど、そろそろいつもの……いつも?いつもこんな感じだ」
自分に非がある時しか真面目にならないクロードだ。
常に気を張っているわけにもいかず、何かの拍子に心が折れればこうなる。
それもあくまで気を許した相手にしか該当しないが。
「憲兵さん呼んでくる」
手がつけられないと判断して、大人の力を借りようと街の秩序を守る憲兵に応援を要請した。
「そこの貴様!騒がしいぞ」
シャルラが憲兵を呼びに行こうとした直属、貴族の馬車が通りかかり。紋章を付けた護衛兵がクロード達を注意した。
それは子供相手に促す物ではなく、相手を斬るつもりで剣を振り上げた。
だがここまでされては無視を決め込むのは限界になり、エドが護衛兵の腕を掴んで剣を取り上げた。
「何をする!」
「あまり良い手とは思えんぞ。主人の顔に泥を塗るのは配下としてやめておいた方が身のためだ」
高身長のエドが相手を上から威嚇するように睨みつけ、相手の小手を腕力だけで砕く。
「インティウム家に逆らってただで済むと思うのか!」
「500年前の炭坑夫が偉くなったものだな」
「貴様っ!」
エドの言葉の意味を理解できるはずもなく力任せに手を払う。それでも小手は砕かれ腕を抑えている辺り確実に異常をきたしている。
エドが腕を掴むだけではなく怪我をさせた事で残りの護衛兵達もが剣を抜き初め、貴族の特権を使って排除にかかる。
平民ならば殺しても罪に問われないのが貴族の特権であり、使える者ならばある程度は融通が効く。
「貴様ら!」
騒ぎの発端であるクロードとシャルラへ剣を振るうが、そうなってしまえば泣き喚きているわけにはいかない。
「手を出すな……」
袖の中から飛び出した4本の短剣が護衛兵の鎧に突き刺さり、次の瞬間。光を帯びて爆発した。爆風で貴族の入った馬車に叩きつけられて血を引きずりながら地面に落ちる。
「……次は誰だ」
何をしたのかこの場にいる者の殆どが理解していない。
魔術自体の認識がこの時代には存在しないため、タネが割れることもない。詠唱もなしに使える魔道具だとすればそんな貴重なものをゴミ同然に放り投げるメリットはない。
クロードの攻撃は誰にも理解されていない。
「俺が行こう」
そのはずなのに誰かが名乗りあげた。
相手がいつ斬りかかって来ようとも反撃できるよう、腰にかかった剣へと手を伸ばして抜刀の構えに入る。
「その声で誰だか理解できた、お前はクロードだ。一年ぶりだな」
最後に見たのは、最初に見たのもパーティ会場だった。
一年前、クロードが売られる前に出会っていた父親の姿だった。
「そうですね、御父様」
構えを解き、エドにもう良いと合図を送るとエドの方も警戒をやめて後ろに下がっていく。
「御父様!クロードの?じゃあこの人が……」
クロードを売った可能性がある。
「今から屋敷に来い、重要な話をするだけだ」
「…………」
「馬車の手配はしてやろう。そこの仲間も連れて行ってやる」
「…………」
「拒否権はない。今すぐここで捕らえられるか殺されるか選べ」
「話を聞きましょう、ですが彼女達に危害を加えないでください。それが条件です」
ーー守れないのなら、俺はお前を殺してみせる。
「いつでも殺せる相手だ、構わん」
逃げられるはずはなかった。
いつか向き合う時が来ると知っていた。
それが早かっただけのことで、家との折り合いをつけるのはいつか必ずする時が来ると理解している。




