第32話 後回しにした決断
武器庫の中から改良できそうなものを見繕い、両手で持てるだけ抱え込んで廊下を歩いていた。
クロードの身長よりも一回り二回りも大きい武具だが、そこは身体強化で誤魔化している。実際に彼が武器を振るおうとしたとき、身体強化がなければ持ち上げることすら至難の技であり、戦闘中は常時開放している。
抱えている武器を一つ取ってもシオンの魔道具のためクロードが製作した物より性能がいい。魔道具に存在するランクは下から2番目の聖具。シオンがお蔵入りした性能であってもクロードが偶にできる最高品質と変わらない。
細かい造型まで彫られた魔剣と槍を手に持ち、どうしたらこんな物が作れるのだろうとこの数日間でシオンの凄まじいまでの才能を見せつけられたクロードは頭を悩ませる。
視線を下に落として刻み込まれた術式に目をやり、資料から得た情報と照らし合わせる。
シオンが言わなかったことや、秘術のようなものが多数記されており、読んでいいのかと不安に駆られたが、結局目を通したのだから吹っ切れた。
「…………」
ふとシオンの趣味が出ている扉の向こう側から詠唱を唱える声が聞こえ、何事かと顔を出す。
「何で中位魔法以上がないのよ」
魔法の辞典のような物に悪態をついては放り投げるシャルラの姿がそこにはあった。
今から話しかけてその答えを教えてやろうかと身体が前に出るが、現在ケンカ中に似た状況の為に話しかけづらい。クロードはシャルラに魔術の死のリスクについていまだに濁したままで、彼女がバカでない限り有効期限は切れていない。
今の状況は彼女を騙して遠ざけて、先延ばしにしているに他ならない。
シャルラが面倒臭い人間でない事はエドと和解した事から知っているが、それでも気まずい空気が流れている。クロードの思い過ごしで勝手に被害妄想に浸かっているだけならば胸を撫で下ろす余地もある。
だが彼の脳裏からシャルラの言葉には表せないであろう表情が残ってしまっている。
『クロード』
あの場で言い争いをする事が場違いだとわかっていたから一度は先送りにできた。
裏を返せばシャルラは賢く、あの時の表情がクロードの思っている通りだと言う確証でもあった。
魔導書を探しているシャルラへかける言葉など初めからなかったのだと引き返すと、
「そこにいるの知ってるんだから」
突然のことに振り返ると、シャルラと目があった。
「……悪い」
今まで本を探していた少女はクロードへ顔を向け、少しばかり起こっているようにも見えた。
「気配とかダダ漏れ、隠れて見るならもっとバレないように」
どんな罵倒を言われるのかと身構えていた彼にとって、飛んできた物は思ってもなかった言葉だった。黙っていた事を責め立てられるのではないだろうかと怯えていたが、当の本人はそんなことなかった。
「悪い、今度はバレないようにする」
呆気に取られたまま流れに任せて適当な事を口走る。
「最近はエドさんに稽古つけてもらって私だって強くなってるんだから」
「ちょっと待て、エド……さん?俺は呼び捨てなのに?」
エドとシャルラは殺し合った仲で、最後にはどちらかが死ぬとまでいった奴らだ。
そいつらが仲良く一緒に特訓している事も疑問だが、クロードにとってエドが尊敬に似た何かで呼ばれている事が気に食わなかった。
「年上の人なんだから当たり前、礼儀ってやつよ」
「俺は?なんかないの?」
さぞ当たり前だと言うシャルラにクロードは手に持った武具を落とす。
彼女から見ればクロードは4歳年下のクソガキだ。それもとにかく生意気なクソガキだ。だがクロードの人生経験だけならば40を超える。
精神に関しては土台となったハクの占める割合が大きいが、それでもシャルラより年上だ。
クロードの中だけを見れば、年下の女の子に呼び捨てにされ、挙句の果てに後から出てきた
エドの方が尊敬されていると言う状況。
「嫌よそんなちんちくりん」
「うっ!!」
幼少期では女性の方が身長が高い、それも4歳の歳の差があれば歴然もいいところ。クロードは背伸びしても届かない、チビなのだ。
「年下相手は舐めてかかっていいのよ、知らなかった?」
「そんな不条理な話聞いた事ないぞ」
年上だと言いたいが転生に関してはエドに公言を止められている。
彼曰く転生に関する記述は五百年前に存在していたらしく、それをした者は魔王の1人。
詳しい話は本人に聞けと突っぱねられたが、詰まる所言いふらすなと言う事だ。
そのため「俺の方だ年上だ!」とシャルラを解く伏せる事はできないのだ。
それをした時点で大人気なく、子供だと言われるが彼は子供なので忘れていた。
「……私より背が高くなれば考えなくもないけど」
本で顔を隠しながらシャルラが何かを呟いたが、反論を考えていたクロードには届かない。
「それより魔術の事」
「それは……」
回ってくるだろうと思ってはいた。
いつまでも先延ばしにはできないと分かっていた。
それでも言ってしまえば止められるのではないかと、これしか方法がないクロードはどうする事もできない。
全てを話して謝るしかないと頭を下げる準備をして目を瞑る、
「エドさんから聞いたよ、使いすぎると死んじゃうって事も。命を削っているから長生きはできないって事も」
「事実だ」
「でもそれしか方法がなかった事も聞いた。命に変えても守りたい人がいてそのために……つ、使ってる事も聞いた。その人の事を愛してるとか、そんなことも」
シャルラの反応がおかしいと気づける者はここにはいない。
謝罪間際のクロードと、エドの転生に関しては全てボカした言い訳のせいで間違って伝わってる。
「本当だ」
「本当なのね、本当だったのね!」
ひどく赤面して顔を隠すが。頭を下げる誠意を見せる事しかできないクロードには通じなかった。
シャルラとしても見られたくない物なので本人は良かったと思っているが、話はこじれる。
「本当に大事な者のためにしかその力を使わないとか、愛する者のためにしか使わないって決めてるとか……」
間違ってはない。
クロードはティアを守るために力を使うことに決め、その為に命を削る覚悟を決めた。
そして再起させてくれた恩や支えてくれた感謝、前に進む原動力となったシャルラの事も対象に入っている。
「わた……私は、その……この話終わり!」
床に転がっている本を手に取ったと思えば投げつける彼女に頭部を抑えて逃げていく。
置いてきてしまった武具を高速で回収して廊下を走って工房へ逃げ込むと、
「大切な物……後どれくらい残ってるんだろうか」
壁に寄りかかって引きずるように座り込んだ。




