23.Talks (対話)
本来なら投稿日ではありませんが、25日にクリスマスの話を書きたいが為に投稿します。
次回で、一章終了予定です。
アオイとレイとの模擬戦は、レイの勝利で終了した。
子供達は、今まで見たことがないであろう母親のカッコいい姿に全員が興奮して歓声を上げていた。孤児院に遊びに来ていた子供達も、目の前で起こっていた戦闘に、孤児院の子供達と一緒になって声を上げている。
大きな歓声を聞きながら、レイが差し伸べた手につかまって立ち上がる。礼を言い、服についた土を払っていると、レイが戦闘の直後だということを忘れさせるような軽い様子で話しかけてきた。
「それにしても最後の攻撃は私の真似か? あれほど早く習得されるとは思わなかったよ」
「俺の特技っていうか、唯一あった才能が模倣なんだ。ま、難なく対処されている時点で、その練度が大したことないってことは分かるでしょ」
アオイが最後、レイにはなった攻撃は、レイがアオイにした視界を塞いでからのフェイント攻撃の応用だ。
狙うと思わせ、防御を取らせたのちに攻撃場所を変えると言う割と初歩的な小技だが、こと切迫した状況に置いては相当効果を発揮する技術だ。
褒められたのに、自身の至らなさを卑下するアオイを、レイは否定した。
「いや、そんなことはないだろう。あの戦闘時に、相手を観察し、その技術を取り入れるのは生半可な努力で身に付けられるものではない。謙遜するのは悪くないが、誇ることが出来るものだぞ」
「あっさり対処した相手に言われてもなぁ」
「そもそも、私がやったことを真似されたわけだからな。私が対処法を知らないでどうするんだ」
「……それもそうか」
確かにアオイは、レイの真似をして攻撃を放った。
だが結果は見ての通り、レイには届かなかった。レイ自身が行っていたことなのだから、当然と言えばそうなのだが、虚をついたあの攻撃で決められないのは、アオイの実力不足と言わざるを得ない。
表面上そんな雰囲気は見せないが、内心かなり反省しているアオイは、子供達の傍で模擬戦を見守っていたアルテナの元に向かう。
「いやー完敗だ」
「大声で言うことではありませんよ。お二人とも怪我はないですか?」
アオイの軽口を嗜めつつ、レイとアオイの身体の心配をする言葉を掛ける。
多少体が痛む程度で行動に支障がでるわけでもないので、問題ないと頷いておく。レイは、アオイがまともな攻撃をできていないので、聞くまでもなく問題なかった。
だが模擬戦を行ったことで、レイの話が本当か否かを確認することが出来た。
少なくとも、嘘はついていないと思う。もしあの話をアルテナを守る為にずっと昔から考えていたもので、それを嘘にしない為に鍛錬を積んでいたのならどうしようもないが、そんなことはないだろう。
それに、召喚者であるアオイは、王にこの話を問いただすこともできるので、王の名を出したということは、それが嘘ではないことの証明になるだろう。
レイの話が本当であれ嘘であれ、アルテナと共に旅をしたいと言う気持ちは変わらないのだ。
そんな、声に出していれば告白ともとられそうな考えをしていると、不意にぐぅ、と誰かの腹の虫が鳴いた。
音のした方を向いてみれば、そこには恥ずかしそうに耳を真っ赤にし、俯いているアルテナの姿があった。顔は俯いているので見えないが、耳が赤いということはきっと顔も真っ赤なのだろうと予測できた。
久しぶりの実家で、安心しきってしまったのだろうか。
「もうそんな時間か」
「そうだね。じゃあお昼にしようか。皆、手伝って!」
「「「「「はーい!」」」」」
アルテナを援護するように口を突いて出た言葉に、レイが同調し子供達に声を掛けながら、家の奥へと歩いて行く。
近所から遊びに来ていた子供達は一度自宅に帰り、孤児院の子供達はきちんと手洗いうがいをして部屋の中に入ってきた。
「アオイ達も、食べて行きなよ」
「……お言葉に甘えさせてもらいます」
迷惑だろうと断ろうとしたが、アルテナの為にここに来たので、久しぶりに家族とご飯を食べるのも悪くないだろう、とレイの提案を受けることにした。
それならばアオイ達が邪魔になってしまうが、アオイ達が食べないと言えば、きっとアルテナもせっかくの食事に手を付けないだろう。それは勿体ないので、アオイ達も同伴させてもらうことにした。
「そっちの二人は何を食べるんだい?」
「あー、何か食べられないものとかある?」
「いえ、特にはありません」
「分かった。じゃあ少し待っててね」
レイが料理の準備をしている間、子供達は机の準備をしたり、配膳をしたりと手慣れた様子でテキパキと準備を進めた。何か手伝おうとする間もないくらいの速さで、昼食の準備が整えられた。
「はい、じゃあ食べましょう」
「「「「「いただきまーす!」」」」」
レイの掛け声で、子供達は元気よく食事前の挨拶をした。
昼食は孤児院とは思えない程の豪勢さで、白米に野菜のスープ、大皿に盛られた鶏の唐揚げがずらーっと長机に並んでいた。しかも、かなり美味い。
アルテナは恥ずかしそうに俯きながらも、しっかりと実家の味を堪能しているようだった。箸を進めていく内に、顔が上を向いてきた最終的には明るい笑顔でご飯を食べていた。
心配ないな、とアルテナの様子を見て判断したアオイは、昼飯の美味しさに感動しながら、こんな飯が食えるこの子たちは、さぞ幸せだろうなぁ、と少しだけ嫉妬した。
王城を出てからまともな昼食など、初日くらいしか取れていない故の嫉妬だ。
本来ならこの後、王や士団長に隣国へ向かうことの説明に行くのだが、珍しくアルテナが我が儘を言いたそうな顔を見せた。
共和国に行けば、こんな気軽に家族と会えなくなってしまうだろう。滅多にない機会なのでアルテナには孤児院に残ってもらうことにした。
ヴァイとヴァルは、アオイが従魔にしたことを直接説明しに行くために連れて行こうとしたのだが、ヴァイが子供達のいい遊び相手になっているので、結局アオイとヴァルの一人と一匹で行くことにした。
置いて行くと判断した時のヴァイ表情が、とても絶望的で信じられないものを見ているようなものだったが、アオイは見ないことにした。世の中には、知ってはいけないことだってあるのだ、と自分に言い聞かせて。
孤児院は一区にあったので、王城までは近いだろうと甘く見ていた。確かに直線距離で言えば、王城まではかなり近い。だが、一区は居住区で、王都民の半数はこの区画に住んでいる。
故に、家の数も多く、道がかなり入り組んだ形になっていた。初見の道順を完璧に理解できるような馬鹿げた頭脳は持っていないので、素直に分かり易い道で、且つ時短出来る道順で王城までいくことにした。
アオイは出力をなるべく抑えた“身体強化”で跳躍し、家の屋根に着地する。そこからなら、王城がよく見えた。ヴァルは高い身体能力を活かし、家の壁をマ○オのように軽い足取りで蹴り上がってアオイの元に来た。
屋根の上を行くのが、最短だろう、と昔見たアニメを思い出し考えた。
結局、そこからは家の人に迷惑を掛けない程度の速さで走ったので、三十分も経たずに王城へと着いた。
屋根の上を走るアオイ達を見つけた、門の見張りを行う騎士団員にとても驚かれたが、アオイが召喚者であることを右手の魔方陣を見せることで納得してもらい、魔物を連れていることと、アオイが謁見を望んでいることを王に伝えて貰いたいと説明した。
アオイの説明を受け、王への謁見許可を取る為に騎士団員の一人が王城へと走っていった。
騎士の一人にヴァルのことを説明したり、ヴァルに解呪以降の体の調子を聞きながら待つこと数分で騎士が戻り、王が執務室で謁見を許可することを伝えてくれた。
彼に礼を言って、アオイは王の待つであろう執務室へ歩を進めた。城内で他の召喚者と会うことはなかったので、無駄な時間を喰わずに済んだ。
執務室の前に到着し、深呼吸を一つ。
扉をノックすると、向こうから「入れ」と声が聞こえた。
扉をゆっくりと開け、「失礼します」と礼儀正しく入室する。多くの紙が乗っている机を前に座っている王と、その脇に控えるアンクの姿があった。
扉を閉め、会話が出来る距離まで近づき頭を下げる。
「いきなりの訪問と、魔物を無断で連れ込んだことを了承ください」
「よい。それよりも、その者の説明をして貰えるか?」
「はい。こいつはシュヴァルツ・ノヴァ。ヴァイス・ノヴァというもう一匹の銀狼と白の森にて手助けをし、その結果懐かれ主従関係となりました」
その際に、白狐と対峙したこと。アオイ達が一時的に壊滅的な状況に陥ったこと。その後、アオイはよく分からないが、白狐を倒したということを説明した。
ついでに、アオイが冒険者として動いている間に得た情報を、二人に話す。最重要だと思われるのは、話すのは魔物の数が減少しているということだ。
アオイの齎した情報に、二人は神妙な面持ちになる。
「魔物の数が減っている……。大戦前に余計な戦力を投じることが無くなったのは嬉しい誤算ですが、兄やら不気味なものを感じますね」
「……ああ。何があるか分からない。召喚者達に実践を積ませられないのは痛手だが、最悪共和国の『ダンジョン』に向かってもらうことになるかもしれん。頭の隅においてくれ」
「ハッ」
アオイの危惧に二人は短く対策を立てた。
二人が話している『ダンジョン』と言うのは、共和国の地下に存在する遺跡だ。人工的な作りで、その昔、神が『天の塔』と同時に作った物だとかなんとか噂されているが、その正体は未だわかっていない、とアオイが読んだ共和国の本に書いてあった。
そこがどう実践訓練と結びつくのかと言うと、『ダンジョン』内には沢山の魔物がいるのだ。それも、町の外と変わらないか、それ以上の数が生息していると予想されているらしい。
と言うのも、この『ダンジョン』は相当昔から存在し、何千年もの間“探索者”と呼ばれる冒険者や力自慢が『ダンジョン』攻略に励んでいるのだが、一日経てば攻略したはずの層を、再び魔物が徘徊しているらしい。
その理由は階下から魔物が上がってくる説や、『ダンジョン』内の魔物が人間の知り得ない特殊な生態を持っている説など、様々な憶測が飛び交っているくらい、魔物の数が減らないのだ。
故に、そんな真実めいた噂が流れているのだ。
ともあれ、例え町の外の魔物が減ったとしても、『ダンジョン』があれば実践は積める。
二人がこれを最初から推奨しないのは、『ダンジョン』内が整備されているからだろう。アオイ達が人魔大戦で戦う戦場は、ウーヌム大陸南西のどこの国にも属さない荒野だ。
魔族が生息するドゥオ大陸から近い陸地がその荒野当たりで、戦争のたびにそこが決戦の場となっている。わざわざ町で戦争するよりも、何もない場所で戦った方が人間側としても損害が少なくて済むのだから丁度良い。
そんな戦場となる荒野は、幾度の戦争によって足場が整っているなんてことはない。寧ろガタガタのボコボコだろう。
実践訓練ならば、実戦を想定するのが常だ。故に、環境の違う場所での訓練は、あまりおすすめできないのだ。
「そう言えば葵。侍女はどうしたんだ?」
「アルテナは今、家族と団欒しているはずです。これがもう一つの報告と繋がるんです」
アンクから、いつも傍にいたアルテナの所在を聞かれた。
丁度良かった、とアオイは本来の目的であった、結愛捜索の為に共和国に向かうこと話した。
それを聞いた二人は、少し驚いた表情をしながらも、アオイの意思を尊重してくれた。
「共和国に行くのなら、書状を渡そう。共和国に着き、落ち着いたらで構わない。渡した書状を共和国の大統領のコージに渡してくれないか?」
「お安い御用です。任せてください」
「うむ。では、書状をしたためるので暫し時間を頂けるか?」
王の言葉に、アオイは顎を引く。
しばらく待つことになったので、久しぶりに騎士団の訓練に参加することを告げ、アオイは執務室を退出する。書状が完成したら、誰かを使いに寄越してくれると嬉しい申し出を受けたので、気兼ねなく訓練に参加できる。
レイとの戦闘で、自身の未熟さを把握した。もとより、隼人戦や白狐戦など、自身が至らないことは重々承知していたが、今回のでより明確になった。
今回のレイ戦のような、戦闘中に学べるような余裕のある戦いはあまりないだろう。
よって、なるべくそう言う機会を作り、自身の技術や戦闘のバリエーションを増やすために、訓練に顔を出すことにしたのだ。
そこで、他のクラスメイトとも再会したが、何やら意識改革でもあったのか、訓練に参加しているクラスメイトの数が増えていた。
その中から、アオイの姿を見つけた日菜子が走り寄ってくる。
「葵君久しぶり!」
「小野さ――」
「名前」
「……日菜さん。久しぶり」
挨拶をされたので返そうとしたのだが、威圧気味で食い気味にアオイの返答を訂正された。
そう言えば、名前呼びしたっけなぁ……と、うろ覚えと言うより忘れていた記憶を呼び起こされ、訂正して挨拶する。それに満足したのか、日菜子はうん! と満面の笑みを見せる。
「その子は?」
「ああ、こいつはヴァルだ。驚かせるかもしれないけど、銀狼っていう種族の魔物だ」
「えっ魔物!?」
日菜子の問いに、あらかじめ前置きして説明をした。
だがやはり驚かせたようで、アオイの説明の声が届いていた範囲のクラスメイトは皆一様に驚いた表情を見せた。クラスメイトだけでなく、一緒に訓練をしていた士団の人達も驚き臨戦態勢を取っている。
クラスメイトは単純に魔物と言う存在に驚き、騎士団の人達は魔物以上に銀朗と言う種族名に恐れを抱いている様子だった。
「あ、魔物って言っても大丈夫だよ。言葉を理解する知能もあるし、会話もできるし」
こっちの説明を先にしてあげるべきだったな、と反省しながら、ヴァルに対する印象を柔らかくしようと試みる。
日菜子は最初こそ驚いていたものの、アオイの説明を信用したのか、ヴァルの前にしゃがむと手を差しだして話しかける。
「初めまして。私は小野日菜子って言います。よろしくね」
「……はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
日菜子の差し出した手の匂いを嗅ぎ、いい印象を得たのか丁寧な挨拶を返す。
日菜子が挨拶を成功させたことで、他のクラスメイトもどんどんと寄ってきた。口々にヴァルへと挨拶をしたり、その毛並みをモフったりと、好き放題していた。
案外、悪い気はしていないのか、ヴァルはそれにしっかりと答えていた。それにしても、クラスメイト達がここまで食いつくとは思わなかった。
魔物と言えば、もう少し驚くなり怯えるなりして、近寄ってこないものだと思っていたが、ヴァルが狼とは言えペットとして飼われている犬に似ているから忌避感があまりないのだろうか。
「ふふっ、ごめんね? ヴァルちゃんとっちゃって」
「いいや、気にしなくていいよ。ヴァルも嫌がってないみたいだから」
クラスメイトにモフモフされるヴァルを眺めていたら、満足したのかその輪から抜けてきた日菜子がアオイに謝罪した。別に謝ることではない、と言いながら、訓練場に入った時に気になったことを訊ねる。
「そう言えば、訓練に参加しているクラスメイトが増えてる気がするけど、何かあったの?」
「ああ。葵君がここを出る前に、隼人君と戦ったでしょ? その時に何か心変わりがあったのか、訓練に参加したい! っていう人が増えたの。そこからは少しずつ参加したいって人が増えて、今では二十人を超えたんだよ!」
日菜子の説明に、アオイは少し驚いた。クラスで目立っていたわけでもないし、ましてやクラスの為に何かしたわけでもないアオイの行動でクラスメイトが変わったのだから、その反応は不自然ではないはずだ。
人は変わろうとして容易に変われるものではないが、ふとしたきっかけで変わることもあるという矛盾が成立するのが人間でもある。
驚きはしたが、戦争に向けての戦力が増えることに越したことはない、とポジティブに考える。
日菜子との話もそこそこに、アオイの登場で予期していないだろう訓練の中断をさせてしまったことを、遠目から見ていたルディアンに謝罪する。
ルディアンはそれを受け、ちょうど休憩にしようとしていたところだ、と大人の対応をしてくれた。
ルディアンも、王国の軍事を担う人物なので、話しておいた方が良いと判断したので、休憩の間、アオイは王とアンクにした説明をした。
ルディアンも、結局二人と然程変わらない結論を導き出した。それと同時に、少し嫌な噂を聞かせてくれた。
アオイ達がこれから向かう共和国内で、少し不穏な空気が流れているらしい。
何でも、今回の人魔大戦対策会議に参加した共和国の大統領が何かやらかしたのか、危ない立場に立たされているらしい。
ルディアンから話を聞いたアオイは、少しだけ責任を感じていた。
ルディアンが話した情報は、王から聞いた者だと言っていた。即ち、アオイが王に託されるであろう書状は、きっと重要なものになる。王は「書状を渡すのは落ち着いたらでいい」と言っていたが、十中八九、額面通り受け取ってはいけないものだ。
アオイに使命感を持たせたくないと考えた王なりの配慮なのかもしれないが、知ってしまった以上、しっかりとやらねばなるまい。アオイはそう心に決め、ルディアンに話の礼を言う。
休憩もいい塩梅にとれたので、士団は再び訓練を開始した。休憩の間、ずっとヴァルをモフモフしていたクラスメイトは、疲れがさっぱりとれた様子で訓練に励んでいた。
元々話をするためにここに来たわけではないので、アオイも訓練に参加する。
クラスメイトと模擬戦をしたり、ルディアンと一対一をしたり、ととても有意義な時間を過ごすことが出来た。
ついでに、ルディアンと戦って分かったが、もしレイがこの騎士団に所属していれば、きっと五本の指に入れるくらいの実力がある。少なくとも、アオイはそう感じた。
気が付けば、王が寄越した連絡係の侍女がアオイを呼びに訓練場まで来ていた。
ルディアンと、一緒に訓練をしてくれた士団の人達、それと模擬戦をしてくれたクラスメイトに礼を言って、侍女に連れられ執務室に向かう。
執務室で王から書状を受け取る際に、ルディアンから聞いた話を真っ直ぐ訊ねてみた。腹の中を探りあう時間はないし、そもそもそう言った会話は苦手なのが、ストレートに訊ねた理由だ。
王は、知ってしまったか、とでも言いたげな表情を見せると、ルディアンの言葉を肯定した。だが、アオイにこれを強いるつもりはないのだそうだ。共和国の大統領が言った、“召喚者達の意思を尊重する”。
アオイがこの書状を渡すために結愛の捜索を中断してしまえば、この約束に反することになってしまう。
ありがたい約束だが、以外と面倒な一面もあるものだな、と変な関心をしつつ、王に挨拶をしてアオイは王城を後にした。
太陽は既に傾き始めており、もう一、二時間もすればすっかり夜になるだろうと予想できた。
暗くなる前に宿に帰ろうと、再び屋根上をほぼ一直線で疾走したので、十分も経たずに孤児院に着く。
そこでは、笑顔で子供たちと遊ぶアルテナと、未だ子供達に追われているヴァイの姿があった。
「お待たせ」
「遅かったね?」
「ええ。少し騎士団の人達と訓練をしておりまして」
そう言えば、王に孤児院のことを聞き忘れたな、と今更ながら思い出した。レイのことは信用しているので、聞かなくても問題ではないか、と自身の忘れ物の理由を正当化する。
「アルテナは満足したか?」
「あ、はい。ありがとうございます。お陰でとても楽しい一日を過ごせました」
「それは良かった」
アルテナが最後に別れの言葉を述べている。それを邪魔しないように、アオイ達一人と二匹は遠目から眺めている。
やはり、アルテナもまだ十三歳の女の子だ。家族と別れて命を懸けた旅をするのは、いくらアルテナが大人っぽい考え方をしているとは言え厳しいものがあるだろう。
その証拠に、アオイ達と旅をしていた時の表情と、家族たちと話している今の表情の差が、はっきりとわかる。
レイにはアルテナと一緒に旅をしたいと言った。だがやはり、アルテナのことを第一に考えた時、ここに置いて行くべきではないのだろうか、自分の判断は間違っているのではないか。そう言った思考が頭を巡る。
額に手を当て、俯きがちにそう考えていたアオイの思考は、声を掛けられ強制中断する。
「葵様、如何なされましたか?」
考え込んでいたアオイは、どうやら挨拶を終え近づいて来ていたアルテナに気が付かなかったらしい。
下から覗きこむようにアオイと顔を合わせるアルテナに、顔を上げ、少し言い淀んでからアルテナに尋ねる。
「アルテナは、ここに残りたい?」
「……」
突拍子もなくそう尋ねられたアルテナは、何も答えない。そんなアルテナの様子に気づくこと無く、アオイは続けた。
「ほら、今日のアルテナとってもいい笑顔だったでしょ? 俺と旅をするよりも、ここで家族と暮らしていた方が良いと――」
「――葵様」
アオイの言葉を遮って、アルテナは言った。少し怒気を孕んだ言葉に、アオイは少しだけたじろいだ。その隙を突くように、アルテナは続ける。
「私は、葵様の侍女です。誰に仕えるななどは決まっておりませんでしたが、自薦でこの仕事を選ばせて貰った以上、その責務を最後まで果たすつもりです」
アオイがポカンと何も反応できずにいるのも構わず、アルテナは続ける。
「確かに、ここにいると楽しいです。家族と一緒に居られることは、何にも代えがたい、大切なものです」
「なら――」
「だからこそ、葵様がその時間を手に入れられるよう、私は尽力します」
「――あ」
アオイも良く知っているではないか。
家族と過ごす時間は楽しいもので、何にも代えがたい。
それを取り戻すために、こうしてアオイは旅をしてきた。アルテナはそんなアオイの侍女だから、仕事として仕方なく付いて来てくれているものだと思っていた。
だが、それは違った。家族と過ごす時間の大切さを知っているアルテナは、仕事だと言う理由もあるがそれ以上に、その大切な時間をアオイにも過ごして欲しいと言う気持ちがあっただけなのだ。
だからアルテナは、アオイについてくる。それに、とアルテナは前置きして続ける。
「もし葵様と私の立場が逆だとして、葵様は仕事だから、何て理由だけで命を張れますか?」
アルテナの問いに、アオイは無理だと答える。
アルテナの事情を知り、アオイが大切だと思っているものをアルテナが取り戻そうと頑張っているのなら、アオイはきっとそれを助けただろう。
それに、とアオイは自身の覚えの悪さに呆れに似た感情を抱く。
レイに『アルテナの過去を背負う』と言ったではないか。今更、アルテナの為なんて偽善の言葉で、その約束が取り消せるわけではない。
そうだ、そうだった、とアオイは笑みを浮かべる。
そして、弱気になっていた自分への戒めと、その弱気な自分と対面させてしまったことを謝罪する。
「すまん。少し弱気になっていた」
「いえ。主の手伝いをするのは、私の役目ですから」
アオイの謝罪に、アルテナは何でもないように答える。
全く、どこまでも大人な対応をしてくれる。
孤児院から去る前に、レイの方を向いて頭を下げる。
「昼食ありがとう」や「お邪魔しました」など、色々な感情を合わせた礼。だがそれ以上に、アオイを信じ、アルテナを託してくれたことに対しての礼の比率が、一番大きい。
レイはそれを笑顔で受ける。
こうしてアオイ達は、孤児院を出て明日の出立に備え、サンタクルへと帰路を辿った。
【次回予告】
サンタクルへと戻ってきたアオイは、いつものように鍛錬で一夜を過ごした。
鈍った体を解そうと庭に出よう一階に降りたアオイは、悩んでいるポーラとばったり出会う。
ポーラが放っておけず、流れでアオイは話を聞くことになった。
次回「不安」 次回投稿は明天皇誕生日の振り替えの12/24です。




