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異世界最強の翻訳家  作者: 高田大輝
第一章 召喚と王国捜索
11/38

11.Six days (六日間)


 召喚三日目


 食事は給仕のメイドさんに頼み込み、部屋へ食事を持ってきてもらう方式にしたので、召喚者達と出会うこと無く一日を終えた。


 そのお陰で、一日中部屋から出ずに知識の収集に励めたのは嬉しいことだった。


 本の貸し借りで図書室に通っていたら、常に図書室にいる司書さんたちと仲良くなり、色々な話も聞けた。


 やはり、読書だけでなく人の話を聞いておくのも大切だと再認識した日でもあった。


 この日も今までと変わらず、アルテナはずっとアオイに付き従い、一緒になって本を読んでいた。本の内容や、気になったことをたまに質問すると、アルテナの知り得る範囲で懇切丁寧に答えてくれた。


 こんな俺の侍女になって面倒じゃないか? と一度だけ気になったので訊ねたが、そんなことはないです、と即答された。


 それが本心なのか、葵を気遣っての言葉なのかは分からなかったが、これだけ尽くしてくれるのだから、これからはなるべくアルテナの希望にも応えるようにしよう、と決めた。






 召喚四日目


 必要そうな書物を粗方読み漁った一日になった。


 これまでに読んだのは大体が、歴史書、魔法書の二種類だ。割合的には、歴史書が一番の比率を占めているだろう。地理に関する本も読んでいたのだが、これは一冊で事足りた。


 就寝前に、借りていた本を図書室に返しに行ったのだが、懇意にして貰っている司書の一人から珍しい書物があると言われ、読ませて貰った。


 その書物を読むに当たり、特別な場所へと向かったのだが、その入り口が何と隠し扉になっていた。


 初日の葵の予想が当たっていたことと、何よりテンプレだが実際目の当たりにすると面白いその仕掛けに、心が躍ったのは言うまでもないだろう。


 隠し部屋には司書しか入れないらしいので、外で数分待ち部屋から出てきた司書から一冊の本を渡された。


 その本はこの国では禁止とされる呪術に関する本だ。俺に見せても大丈夫なのか? と質問したが司書曰く、もし無法者が何らかの方法で呪術を知り、それを発動した場合に備えての対策は必要だろう? とのことだった。


 よくよく読んでみれば、そこには掛けられた呪術の解呪方法しか載っていなかったので、その言い分が正しいのだと理解した。


 呪術の基本的な構成は魔術と変わらず、やろうと思えば解呪方法から逆算し呪術を行使することも可能なのだが、それはしない。


 そもそも呪術は発動すれば術者の意思でしか止められず、それ故に禁忌とされているのだが、呪術は対象に直接呪術の魔方陣を描かなければ行使できないのだ。


 そんな非効率的なことをしていれば、時間が勿体無いし、そもそも逆算にも時間が掛かるので時間が勿体無いアオイからすれば、それはできない。


 それに、ここは王に認められた司書しか知らない秘密の部屋らしいので、見つかる心配はないらしい。


 そんな重大な場所を俺に教えていいのかと不安になったが、召喚者の意思は最大限尊重すると言う契約なので、結愛の捜索の手助けになるのならということで特別に、だそうだ。アオイのことを信じてくれていると思うと、少し嬉しい気持ちになった。


 王の意思と、司書の気の利いた行いに感謝しつつ、アルテナに聞いても分からなかったことなどを質問していたら、気がつけば一の刻を過ぎていた。


 最後の方には眠たそうな目を擦っていた司書さんに悪いことをしたなと思いつつ、“魔力操作”の練度を上げる鍛錬で一夜を明かした。






 召喚五日目


 アルテナから今まで覚えたスキルや、覚えようとしたが時間が足りずに一度断念したスキル、この街での常識など色々なことを教えて貰った一日となった。


 知識の収集を終わらせる気はないが、最低限必要な知識は集まったと思うので、体を動かしながら明日以降に備えることにした。


 それとカードについて、色々と実験をした。筋トレでも数値は上がると言っていたので、試しに腕立て伏せを百回やってみた。


 地球にいた頃、いつもやっていた回数なので、特に変化はなかったが、体感で一時間ほど腕立て伏せをしていたら、数値が“1”上がっていたのだ。


 百以上になった頃には既に辛かったので数えることを忘れていたが、傍で見ていたアルテナ曰く、五百十二回も腕立て伏せをしていたらしい。


 腕がプルプルして使い物にならなくなったが、一応やればやるほど効果があることは実証できたので、良しとした。


 残りの時間は腕を使わない鍛錬をして、その日を過ごした。






 召喚六日目


 人生最大の筋肉痛が大胸筋と上腕二頭筋、その他腕立て伏せで影響のある筋肉に襲われている中、騎士団と魔法士団の訓練に混ぜて貰った。


 騎士団では主に対魔物戦の立ち回りや効率の良いレベル上げ方法などを、魔法士団では魔法や魔術などの発動の方法に文書と差異が無いかを確認して、ついでに初級の風の魔法を数種類教えて貰った。


 魔法には初級、中級、上級の三種類があり、初級は一般的に戦闘には使えない程度の威力しか持たないものだ。それでも、中級への足掛かりにはなるので、会得した。


 戦闘職よりも魔力を多く消費するが、魔法が完全に使えないわけではないので、中途半端な自分に呆れつつも、もしかすれば使える時が来るかもしれないと、手札を増やしておいたのだ。


 魔術の方は、本で読んだものと変わらず、規則性のある魔方陣を描くことで発動するようだ。魔術には属性ごとに規則性があり、それを暗記するのには少し苦労したが、魔法が使えないアオイにとっては覚えておいて正解だった。


 その後、魔法士団の副団長が手の甲にある魔方陣の説明をしてくれた。この魔方陣をこれから“魔紋”と呼称するとし、魔紋は恐らく魔法の媒体として機能するとのことだった。


 魔法媒体とは、大気中にある魔素を取り込み即刻魔力へと変換する機能を持つ物質のことで、一般的には魔物から獲れる魔石のことを言うらしい。


 この世界の魔物は心臓と魔石が別にあり、どちらを失っても命が途絶えると、文書にも書いてあったし、魔法士団員は言っていた。


 魔物の性質は魔素型と魔石型の二種類がおり、魔石は後者の魔物からしか得られない。魔素型は大気中の魔素から生まれ、魔石型と違い、人やその他の動物から魔力ないし魔素を喰らう。


 魔石型は大気中から魔素を勝手に吸収するので、そこまで食事の必要が無い。と言っても、肉体があり、その活動に食事は必要なので、完全に要らないわけではないらしいが、遊び程度に人を襲ったりもするらしい。


 無論、例外もおり、初代賢者の従魔で、先代勇者の仲間だったオディト王国北方に位置する白銀の森に住まう『銀狼』という名の魔物や、銀狼と同じで人間の言葉を理解する亜人と呼ばれる魔物の上位種などがその例外だ。


 亜人と獣人は違い、亜人は魔物の上位種、つまり魔物が進化し知恵を身に着け思考するようになった魔物のこと。獣人は獣の要素を残しつつ、本質は人間に近い種のことだ。


 吸血鬼は亜人とされるが、詳しいことは分かっていない。吸血鬼と同じで、人間に敵対せず、寧ろ友好的な亜人は、鬼人や竜人、森精族(エルフ)地精族(ドワーフ)海精族(セーレーン)等がいると本で読んだ。


 昼食後は明日に迫ったパレードの準備の為、オディト王国の宝物庫が開かれた。今回の戦争の為に各国から集められた貴重な武防具が丁寧に陳列されており、とても迫力のある光景だった。


 しかも、召喚者達に渡された武防具は、全てが魔道具だった。


 魔道具とは、簡単に言うと、魔法やスキルの効果が付与された道具のことで、アオイがよく知る異世界モノと変わらない。


 魔道具には発動の種類が二つ存在し、一つは魔石によって常時効果が展開されているもの。二つ目は魔力を通すことで効果を発揮するものだ。


 次に効果の面で、スキルによる付与と、魔方陣による魔術的な付与があり、前者は自身が持つスキルを物質に与え、魔道具にできると言うものだ。だがエクストラスキルである“付与”を扱える者はほとんどおらず、王国には現在一人、人間という種全体の中でも片手で足りるほどしかいない限りなく珍しいスキルらしい。


 アオイ以外のクラスメイトは、この世界に来てからの訓練で使っている得物を選んでいる。


 戦わない召喚者には、装備が支給されなかった。装備の数が足りないわけではなく、戦わない召喚者もいると国民に表明する以上、装備を身に纏っていれば、実は戦いに参加するのでは? と勘違いされてしまうと懸念されたからだった。


 説明をされている戦わない召喚者を他所に、アオイが選んでいった装備は、黒を基調とした濃い赤のラインが入った若干厨二チックな服だ。


 上下でデザインが統一されており、月明かりの少ない夜だと視認が難しくなるような漆黒のような服だ。服の内には肌着と、その上に斬撃対策の鎖帷子と動きを阻害しない程度の防具をつけている。


 そして、召喚者の証でもある魔紋を隠すために、指ぬきグローブを着けている。指先を出しているのは、指先の感覚をなるべく素のままにしたいだけで、決してカッコつけなんかではない。


 アオイが身に着けている装備は、全て前者の自動展開のものだ。上下の服には障壁が張られており、斬撃打撃刺突に纏めて対応が出来る。それとおまけ程度に魔法耐性もあるらしい。


 グローブや靴、内に来ている装備はまだ魔道具ではないが、順次、出来る範囲で魔道具にしていくとのこと。まずはパレード後、直ぐに旅立つと宣言しているアオイの装備から魔道具にしてくれるようだ。


 ゲームで装備を自作しているような気になってくるので、なるべくいいものにしようと、少し我が儘を言って作ってもらった。


 結果、グローブには魔力を循環させやすくする効果を付与して貰い、靴には靴底には空気を圧縮する魔法を、局所につけた防具については耐打撃の魔法を付与してもらった。


 鎖帷子は鎖で繋がれているので魔方陣を描く場所が無く、一日かけてスキル“衝撃耐性”を付与してもらった。


 防具と何が違うのかと言われれば、効果の差がそこそこ違う。スキルの方が効果が高い傾向にあり、魔法はそれに劣り易い。だが効果の差は、付与する時間の長さにもかかわってくる。


 必然的に高い効果を持つスキルを付与するのには時間が掛かる。それ故にアオイは、防具にスキル付与をして貰わなかった。魔方陣の方であれば、“付与”に比べ、使える人は多いのだ。


 最後、アオイが愛用しているリストバンドには、“洗浄”と“体力回復”のスキルを付与して貰うことにした。“付与”が使えるフィクスさんには負担を掛けることになるが、きっとやり遂げてくれると信じるほかない。


 ちなみに、付与できるスキルの個数は、材質によって変わってくる。材質の持つ強度と魔力順応性の二つが高ければ高い程、付与できる数は増えていく。


 アオイが使っているリストバンドは、師範が手作りしたものだと聞いた。あの武人と言っても過言ではない師範が作ったとは到底信じられないが、それでもありがたく貰うことにしたものだ。


 師範のことだから、相当素材にこだわったんだな、と今思えば確かに、高級タオル並のふわふわ感があったことを思い出した。


 そんなことを考えながら、鎖帷子に付与している作業を見てその技を奪おうとしたが、今すぐに出来るような代物ではなかった。人間の中で片手しか使える人がいないスキルを、見て覚えるなんて芸当は真似が得意なアオイでもできなかった。


 当然のことなのだが、なんとなく悔しかったので、もう一方の魔方陣の付与を教えて貰った。此方のやることは簡単で、魔力を指に集め、その魔力で付与したい効果を持つ魔方陣を描くだけだった。


 やり方は意外と簡単だったが、今のアオイではまだ魔力が足りず出来ないので、今後も地道に続けていくことにした。




 * * * * * * * * * *




 六日目の夜


 リストバンド以外のスキル付与が終わったあと、夕食を食べ、少し時間を空けてから部屋に備え付けられた小さ目の湯船に浸かり、大きな溜息を吐いていた。


 小さ目、といっても、それは別棟にある大浴場と比べての話だ。個室に一つずつある湯船は、足を伸ばしてもまだあまりがあるくらい広い。


 二人が入っても余裕がある広さだが、アオイはそれをしない。そもそも家族以外の異性と風呂に入るという些か童貞には厳しいシチュエーチョンと、風呂場は唯一葵に戻れる空間だからだ。


 それにしても、なぜこんな豪勢な部屋が沢山あるのだろうかと、初日の夜に疑問に思った。召喚に合わせて部屋を作ったなら分かるのだが、部屋は全て王城の中にあり、新築したとは考えにくい。


 アルテナに尋ねたところ、この部屋は来賓や領主が訊ねてきたときに宿泊させるための部屋らしい。どうりで豪華な造りになっているのだと理解した。


 「それにしてもアルテナは物知りだよね」と、何気ない発言は、「教育係が侍女長であるエデュカさんでしたので」と顔色一つ変えずに教えてくれた。


 エデュカさんとはアルテナの言う通り、王宮に努める侍女を統括する侍女長だ。彼女は士団長と同じくらいの権威を持っており、王宮内のことに関しては士団長よりも指揮権が高くなるらしい。


 ちなみに、召喚当初に見た執事などは侍女とは違う別のグループになっており、召喚時の人間ならざる速さで駆けていた執事は、王宮の執事長のサビス・チャンという。


 いつもなら、昼間の疲れを癒すために何も考えずボーっと湯船に浸かるのだが、此方に来てからはそんなことは一度もなかった。今もこれからのレベル上げや、明日からの行動の最適化など、色々なことを考えてしまっている。


 すっかり変わってしまった生活に慣れ始めている自分に、順応性が高いことに喜ぶべきか、変わってしまったことを嘆くべきか。そんなことを思いつつ、過去を振り返る。


 結愛を守る為に師匠や、兄弟子達から沢山のことを教わってきた。それ以外にも戦況の見極めや、対集団戦などの戦い方も学んできた。


 武術の鍛錬も、身体的な研鑽も欠かした日は一度たりともなかった。それでも、ルディアンには全くと言っていいほど、意味を為さなかった。


 師範や兄弟子たちとの手合わせで勝てた回数は、片手で事足りる程しかない。それでもそこらの大人には負けない程の実力は持っていると自負しているし、元の身体能力はそれなりに高い。


 武術の一環として、体を鍛えてきたおかげで、高校のスポーツ程度なら実力の八割を出さずとも上位に食い込めるほどなのだ。


 それをしなかったのは、偏に面倒事に巻き込まれるのを嫌がっただけだ。面倒事に巻き込まれれば時間を浪費する。自由な時間が減れば、それだけ結愛との時間が減ってしまう。


 それは葵の心持ちと、結愛の為に避けたかった。


 異世界召喚と言う面倒事に巻き込まれたので、それを隠す必要はなくなった。それよりも居なくなった結愛を探すためなら、コネでも権力でも、他人にどう思われてもそれを為すのだと、初日の夜に誓った。


 その誓いを守れているのかと、気づかぬ内に口から溜息が漏れてしまったのだ。知らぬ間に弱気になっていた自分がいたと気がつき、そんな自分に葵は再び溜息を吐く。


 葵は元の世界であれば、それなりに良い所まで行けただろうと思っている。慣れは早い方で、結愛に追いつくために勉強もしてきたので、頭も悪くない。


 だがこの世界に来た葵は、他の召喚者と比べると低い素質値で、更に悪いことに戦いに向かない非戦闘職だ。


 例え、他の召喚者より多く異世界モノの知識を持っていて、気になったことは気が済むまで調べたがる癖から、日常生活では使わないような知識を意外と持っているとは言え、それは現状役に立っていない。


 再三、葵は深く溜息を吐き、のぼせる前に湯船から上がる。体に付いた雫をふき取り脱衣所に出て、毎回風呂に入るたびに用意されている服に、見慣れたような様子で着替える。


 そして、明日以降のことを考える。


 結愛を救うために必要なことは、まず情報収集とレベル上げだ。今も、騎士団が王国周辺を探してくれているが、手がかりすら見つかっていない。


 結愛の発見を少しでも早めるために、色々と策を考えた。似顔絵を描き、それを本職で絵描きをやっている人に複製してもらう。本を開けば分かるように、紙は普及しているので問題はなかった。


 あとはレベル上げだが、こちらも一応の対策はしている。この六日間で、アオイは知識を得つつ、少しずつだがレベル上げもしていた。


 毎日日ごろの訓練と同等以上の個人練習をこなしていたら、いつの間にかレベルが上がっていたのだ。アルテナもアオイの成長速度には驚いていたが、スキルにある“成長補正”というのが原因だ。


 ―――――――――――――――――――――――――――――

 特殊技能(extraskill):成長補正

 取得経験値2倍。技能の練度上昇。レベル上昇時にステータスへの補正。

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 これが“成長補正”の効果だった。この効果を乱用し、アオイは普通の人ならあまりレベルの上がらない作業でも、レベルを上げることに成功したのだ。


 それだけでなく、これから襲い掛かってくるであろう旅の災難の為にも、切り札を用意しておいた。急造で用意したこの切り札は、アルテナからまだ使うなと念押しされていのだ。


 理由は単純明快。その切り札を使用した後の代償が大きいからだ。


 その代償と言うのが、軽くて倦怠感。最悪、“魔力操作”と同じで四肢爆裂になるので、普段から死の可能性を無駄に上げるような代物を使っていくような馬鹿な真似はしない。


 だが、もし本当に危機的な状況になったら躊躇わず使うとは思っている。


 無論、結愛を助ける道中で必ずと言っていいほどぶつかるであろう障害や試練にも、使っていくつもりだ。


 アルテナにその説明をしたときに、とても苦い顔をされたが、渋々と言った様子で了承してくれた。アオイが譲らないことを、この数日間で理解してくれたのだろう。


 自分勝手に行動する迷惑な主人に着いて来てくれる判断をしたアルテナに感謝しつつ、明日に備えて今夜は素直に床に就いた。


次回は、葵の過去回想が入ります。

葵が結愛の為にしてきた数年間の努力を、たった一話に纏めるのは意外と難しい……。




次回投稿は、10月27日になります。

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