10.Consultation (相談)
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本来なら昼食を取った後、直ぐに訓練が始まるはずだったのだが、召喚者の精神的な損耗が激しかった為に、一時間の休憩が設けられた。
部屋に戻って先程の疑問などを解消しようとしていたアオイは、日菜子の部屋で椅子に座っている。
と言うのも、先述の通り部屋に戻ろうとしていた道中、日菜子から「相談があるの」と、声を掛けられ、部屋まで連れてこられたという経緯があった。
大きさはアオイにあてがわれた部屋と大差なく、二人の部屋で違うのは、家具の配置と、女子の部屋特有の匂い、そして、気まずさ故の沈黙だけだった。
家族以外の女子の部屋など行った経験が無いアオイは、場の雰囲気以上に緊張の度合いが高まっている。
この部屋には現在、アオイと日菜子、二人の侍女のアルテナとフリットが居る。アオイと日菜子が二つしかない椅子に座っているので、侍女には悪いが立って貰っている。
何となく気が引けたが、両侍女からアオイが座れと言われたので、なるべく気に掛けないようにし、どんな相談をされるのだろうかと考える。
予想だが、恐らくは異世界に来てからのことについてだろう。相談内容がこれ以外だったら、芸人も真っ青な演技で、椅子から転げ落ちてしまえるだろう。
なにせ学校では、書記の仕事以外で会話らしい会話をしたことが無い。いや、アオイの記憶の中では、恣意的な会話は一度たりともしていない。だからこそ、家族以外の感情に疎いアオイにすら予想が建てられる。
そもそも葵の人生において、相談と言えば結愛との夕食決めや、家計のやりくりくらいの経験しか無いので、相手が務まるとは思えない。
相談相手なら、彼氏である翔や、友達の女子など沢山候補はあるだろう、と若干不思議に思いながらも、その相談とやらの口火が切られるのをを待つ。
何故務まらないと分かっていて、この場にいるのかと問われれば、ここで話を聞かずに去ってしまえば、それはアオイの信条、主義に反するからだ。
一度頼まれたことを、無責任に放棄するのは相手に悪いし、心象も悪くなる。それは今のアオイにとっては避けたい事象だ。
なので、最大限その相談とやらに耳を傾けるつもりだ。
アオイが心の内で覚悟を決めたタイミングで、目の前の椅子に座る日菜子がその口を開いた。
「突然来て貰ってごめんね。なるべく手早に済ませるつもりだから」
「うん。分かった」
開口一番、日菜子が発した言葉は謝罪だった。アオイが結愛の捜索の為に時間を大切にしているということを知っているからこその発言だろう。
それに大丈夫だと答え、一応、念のため聞いておく。
「それはそうと、一つ聞いておきたいんだけど。相談相手が彼氏の翔や友達じゃなくて、俺なんかで大丈夫なのか? 正直、家族以外からの相談なんて初めてだから、相談に答えられるとは限らないけど……?」
「うん。綾乃君が良いの。相談したい内容が、雪菜や舞、翔には話せないことだから……。でも自分の中に留めておくことも出来なくて、誰かに話したいって思ったの」
アオイの考えていた懸念を真っ直ぐ伝えると、そこは問題ないと答えた日菜子だが、続く言葉で俯いて、力無さげにそう告げ、手をギュッと組んでいた。
その様子をつぶさに観察しつつ、更に話を掘り下げる。
「親しい人には話しづらいってことがあるのは分かるけど……俺じゃなきゃダメって言う理由を聞いても良いかな?」
アオイの質問に、日菜子の視線が若干ぶれる。観察を続けたが、どうやら何か葛藤をしている様子が窺えた。
何度か迷いがチラついたように見えたが、何か決めたような表情になると、その理由を話し始める。
「綾乃君って、結愛会長と仲良かったよね?」
「うん、まぁ……一応家族だからね」
突然の問いに僅かに驚きつつも、アオイは答える。
一応と言ったのは、アオイと結愛の関係は少し複雑なものだからだ。それに、アオイは説明が大の苦手なので、面倒は避けたいと言う思いもあった。
それに家族だということを打ち明けたのは、召喚時にあれだけの目がある中で、結愛のことで一人で勝手に暴動を起こしたからだ。
あれだけのことをして、自分と結愛は何の関係もありませんなんて言葉を、誰が信じると言うのだろうか。
そんなわけで打ち明けた秘密は、予想と違わず日菜子を驚かせた。
「そうだったんだ……。だったら、結愛さんのあの過剰なスキンシップにも納得できる……かな。あれ? でも結愛さんと綾乃君は苗字が違うよね?」
やはりそこに注目するよなと、アオイは顎に手を当て考える。このまま説明をすべきか、あるいは誤魔化して会話を進めるべきか。
だがここで誤魔化しても、日菜子が納得するかどうかは分からないし、それならばいっそ、事実を述べて、信じるかどうかは任せると言った方がいいのではないだろうか? と結論付ける。
話す内容を、これでもか! と頭をフル回転させ、“集中”すら使って内容を整理し、苦手分野である説明を始める。
「簡単に言うと、俺と結愛は幼馴染で、訳あって同棲してるってことかな。……ああ、でも俺の両親もいるし、弟妹もいるから、二人きりで同棲しているってことじゃないよ」
「……そうだったんだ。やっぱり間違いじゃなかったんだね」
アオイの選択は日菜子相手には間違っていなかったようで、納得顔を見せる日菜子に、安心に似た感情を覚える。
小さな声で何か呟いたようだが、アオイは聞き取れなかった。聞こえるような音声で言わなかったのは、聞かなくてもいいということだと判断する。
「それはいいとして、まだ肝心の理由を聞いてないんだけど」
「あ、ごめんね。私が綾乃君にしか頼めないって言ったのは、なんとなくだけど、綾乃君と私が似ているような感じがしたの」
「……どういうこと?」
突然のカミングアウトに、アオイの頭上には“?”が浮かぶ。
自分と日菜子が似ているところなんてあっただろうかと、乏しい学校生活での記憶を辿ってみるが、似ている部分など一つも見当たらない。
故の疑問に、日菜子は自分の説明が足りていなかったことに気がついたのか、発言の意図を解説する。
「もう知っているかも知れないけど、私と翔は幼馴染なの。似てるって言ったのは、綾乃君と結愛さんの関係が、私達のそれと似ていた気がしたって言うことなの」
「確かに幼馴染だってさっき言ったけど、恋人ではないよ?」
アオイの疑問に、日菜子は首を傾げる。アオイもどういうことだ? と首を傾げる。
「え? 二宮と小野さんって、付き合ってるんでしょ?」
「いいや、翔とは付き合ってないよ? ただ翔はイケメンだし、人当たりも良いから直ぐに女子が寄ってきちゃって大変だし、私も男の子たちに言い寄られることが多かったから、幼馴染で恋人って言う形を取って、少しでも厄介ごとを減らそうとして、噂を流したの」
その結果、翔は女の子たちから猛烈なアピールを貰うことも減ったし、私も男の子たちからアピールされることも無くなったし……と頬を掻きながら、日菜子は苦笑いする。
聞く人が違えばただの自慢にしか聞こえない日菜子のセリフに、アオイは納得する。他人として見た場合、日菜子は可愛いし、翔はイケメンだ。
翔に至っては、学校で話したことが無いアオイですら、翔の人となりは知っているほどに有名なのだ。
その二人が打ち出した噂にまんまと踊らされ、それを事実だと勘違いしていたアオイは、それなりに驚いた。
「ああ、なるほど。理解したよ。似た者同士なら話しやすいって考えたのか……。でも、さっきも言ったように、俺なんかじゃ相談に乗れることは少ないと思うよ? ほら、俺って友達居らんし……」
日菜子がアオイを頼った理由は理解したが、それでも疑問は残った。
結愛を除き、アオイが学校生活において一番会話をしたのは、確かに日菜子だ。仕事上、そう言ったことは多かった。
ほんの少しくらいはアオイのことを知っているであろう彼女が、基本無口で且つ結愛の態度の所為でクラスメイトだけでなく結愛のファンクラブからも敵対されるような行動ばかりとる人間なんかに相談しようとしているのか、分からなかったのだ。
アオイではその役に適さないことを、再度、要らない情報を交えながら伝えるが、日菜子の意思は変えられなかった。
「ゲームや漫画なら、翔に付き合わされてやっていたし、私は綾乃君に聞いてもらいたいの。もし綾乃君が相談を聞いたうえで自分の手におえないと思ったら、この部屋から出ていってくれても構わないから。だから、聞くだけ聞いてくれないかな?」
両手で優しく包み込むように手を握られ、期待の眼差しを向けられながら真っ直ぐお願いされた。
葵であれば赤面待ったなしのこの状況で、アオイは大胆なことをする日菜子に驚きつつもそれを了承した。
同時に、この場面を葵が対処するのは無理だったな自己分析し、用途は違うが、アオイを作っておいて正解だったと内心自画自賛する。
そんな葵に対して傲慢な考えを抱いていたアオイの頬が若干紅潮していたことに気がついたのは、外から傍観しているアルテナとフリットだけだった。
取り敢えず手を離させ、少し興奮気味にあった日菜子を落ち着かせる。自身の行動を思い返したのか、比喩無しで漫画でよくある恥ずかしくなった時の表現のように赤くなっていく。顔から蒸気が出そうなくらい真っ赤になっている。
深呼吸を数回。侍女が淹れた紅茶の入ったカップをティーテーブルから持ち上げ一息で飲み干した。
「……その反応だと、今まで異性と付き合ったこと無かったりする?」
「……う、うん。昔は人見知りしてたから……」
場の雰囲気と、自身の気を紛らわすために、アオイは今の日菜子の反応から思ったことを口にする。
その疑問に対する日菜子の返答に、驚きもあったが、それ以上に親近感を覚えた。
言った後で女性に対して無神経に恋愛のことを聞いたのは失敗だと思ったが、日菜子は気にした様子もなかったので杞憂だったようだ。
結愛であれば、般若の如き笑みを浮かべつつ、周囲一帯を氷漬けにするような冷えた声で威圧を放っていたので、感覚が少しだけ敏感になっていたらしい。
日菜子はティーカップをテーブルに置き、フゥと小さく息を吐くと、真剣な表情でアオイを見据えた。その表情からは、これから相談に入ると言う無言の言葉を感じた。
なので、アオイも椅子に深く座り直すと、日菜子の言葉を一言一句聞き逃さないように神経を尖らせる。
「……本当ね、戦争に参加したくないんだ」
目を伏せて、日菜子は呟きに等しいくらい小さな声で言った。その声は若干震えていて、相談内容を打ち明けることを嫌がっているようにも聞こえた。
まだ覚悟が決まっておらず、揺らいでいるのかもしれないと、何も言わず静かに続きの言葉を待つ。
「……さっきも少し言ったけど、私は昔人見知りだったの。小学校の終わりくらいには段々と慣れてきたんだけど、それまで学校ではずっと翔の陰に隠れていたの」
自身の過去を独白するように、思いを噛み締めたような声音だった。そこには恥ずかしさや、悔しさと言った感情も見え隠れしている。
「慣れてからは、友達が多い翔の近くに居たこともあっても、今は雪菜や舞のように親友と呼べる人達も出来たの」
アオイがクラスや生徒会で見てきた日菜子の印象は、可愛い系の文学少女だ。友人も多く、クラスメイトからの信頼の厚い女の子であると認識していた。
葵はクラスではあまり目立たなかったし、そもそも他人との関わりは最低限で済ませていたので、詳しくは分からないが、傍観者の葵からは少なくとも、日菜子の人見知りと言う部分は見受けられなかった。
「慣れるまでの間、私は隠れていたと同時に、翔にずっと頼ってきたの。家にいる時以外は殆ど傍にいて貰っていたから。家以外だと、他人が怖いと思っていて、自己防衛のためにそうしていたんだと、今なら思うんだけどね」
苦笑いを見せながら、しっかりとした声で、過去の自分を分析している。話しているうちに、何か心の変化でもあったのだろう。
今聞いた話から推察するに、昔の日菜子は昔の葵と同じで、親しい仲の人とそうでない人との接し方が本能的に、無意識下で変わるのだろう。
やはり、日菜子の直観は彼女自身が思っている以上に正しかったのだろう。今の二人は対極にあると言っても過言ではないが、似ている部分もあったらしい。
「だから、なのかな……? 翔にお願いをされると、どうしても断れないの……」
分析をしているアオイに、少し俯いて、日菜子は弱気な発言をする。
きっと今の日菜子は、学校で見せる美少女の日菜子ではない、素の日菜子のなのだろう。
勘でしかないが、学校では普段から殻に籠っていることが多いアオイはそう感じていた。
「戦争に参加してほしいと、オディト王に言われた時は、正直に言うと嫌だった。自分の命が失われるかもしれない戦いに、わざわざ参加したくないと思ったし、その戦争で元の世界に戻れなくなることも嫌だったから」
日菜子の思考は、きっともっともなものだろう。
被害的な部分を誇張して言えば、どこの誰とも知らない人間に、いきなり自分達の生活を奪われ、挙句の果てには、命を賭けて我々を救ってください、なんて傍若無人なことを言われたのだから。
まだ戦争に参加しなくてもいいと言う猶予があっただけマシで、その選択が無ければ、魔王を倒し元の世界へ還るか、魔王に滅ぼされるのを待つか、の二択。
選択の余地のない、ただの決定事項になっていただろう。
異世界モノの知識があるアオイも、戦争になんて参加したくないし、ましてや知識もなく、この世界に未練なんてない日菜子たちが嫌がるのは当然だろう。
アオイが参加すると決めたのは、結愛を見つけだし、無事帰還すると言う目的の延長線上に魔王という障害があっただけのことだ。
もしそれさえなければ、前述のとおり戦争になんて参加していない。
「綾乃君が謁見の間を退出した後、戦争反対派と戦争参加派で分かれたの。でも隼人君が、参加は自由意志だから、したくない人はしなくていいって言ったことで、一応の話し合いは決着したの」
葵に突っかかってきた隼人が活躍したのかと、内心驚いているアオイを他所に、日菜子はその時の状況を淡々と述べる。
「さっきも言ったように、私は戦争反対派だった。王国側で参加する人を把握するために、名前を言う為に立ち上がって前に出た時に、翔が『さ、行こう』って、手を差し伸べてきたの。そしてその手を、反射的に握り返してしまった……」
自身の右手を見つめながら、後悔の感情を隠さずに語る。
「その結果、私は自分の意思とは反して、戦争に参加することになってしまったの。雪菜も舞も、手を取った私のことを、当然のように見ていた」
後悔に少し、恐怖が混じった。
自身の価値観とは違う考え方が、あたかも正しいように扱われ、それに対する反論は許されない。そんな雰囲気が無意識的に、彼らから発せられていた。
自分を自分のままで突き通せば、異端の目で見られる。今時の人間は、周りからずれることを嫌う傾向にある。ましてや昔が人見知りで、克服した日菜子からすれば、困っていた時に傍にいて、助けてくれた翔の意思に反することは避けたいだろう。
それ故の恐怖。
日菜子は翔に恩を返したい。だが今回の場合は、自分の意思に反している。
悩み、苦しみ、葛藤し、それでも答えが出せず、アオイに相談を持ちかけてきた。
「周りに振り回される自分の意志の弱さと、一度決まったことなのに、覚悟を決められずグチグチ悩んでいる自分の弱さに、私はどうすればよかったのかな、って……。これが私の相談したいこと……」
後悔がとても酷く感じられるような落ち込んだ声で、日菜子はそう締めた。
手は膝の上に力なく置かれ、視線は既に手に向いている。
周囲に流され自分の意志を貫けない弱さと、過去のことを後悔し続け、前に進めない自分の弱さに、日菜子の心は打ちのめされていた。
さらに、異世界召喚と言う現実離れした出来事や、自身の選択の所為で、他人の命を奪わなければならなくなると言う常人であれば精神的に真っ当でいられなくなるような未来が、日菜子の心を追い詰める。
日菜子は過去の出来事の所為で、翔に逆らいにくいという弊害があり、それが悪い方へ悪い方へと向かったせいで、この状況を生み出しているということだ。
正直、手っ取り早い解決方法がある。それはアオイが翔に、日菜子は戦争に参加したくないんだって、と今聞いた話をそのまま伝える方法だ。
翔はアオイが見てきた範囲の中で、とても優しい男だ。今朝、食堂でアオイを気遣った言葉で話してくれていたのが、その証明だ。
だがこれはダメだと、アオイはその案を却下する。
周りに流される自分の弱さで悩んでいる日菜子に、悩みを解決する方法として、他人を頼る方法を提示するのは、『死ねとか直ぐ言うやつは嫌いだ死ね!』とか言う支離滅裂な発言と同じくらい論外だろう。
そもそもの話、『どうしたらいい』なんて過去の話をされても、どうしようもないと言うのが本音だ。
起きた過去は変えられない。もし過去を変えられるのであれば、とっくに結愛が行方不明にならない道を選んでいるし、召喚されることを知っているので、そもそも教室にいないでやり過ごす、という手段を講じている。
それが出来ないからこそ、葵はアオイを作った。
それが結愛を探し出す最善だと信じて。
故に、今の案は却下、不採用だ。
他の選択肢を模索していると、ふと、アオイにはこんな経験が有ったことを思い出す。
例は違うし、起こっていることも違うが、似た経験を持っているアオイは、自身の解決方法を頼りに、アドバイスをする。
「あくまで自論で、これを聞いたからって、その通りに動くことが正しいとは限らないけど」
そう前置きする。
その言葉に、日菜子は俯いて垂れていた頭を上げ、アオイの瞳に視線を向ける。
それを恥ずかしがること無く、真剣な表情で見返しながら続ける。
「小野さんは、戦争に参加しなくてもいいと思うよ」
「……え?」
その言葉に、日菜子は驚いた表情になる。その表情は、何を言っているのか分からない、と語っている。
「小野さんが言った、周りに流されるってことは、決して悪いことじゃない。普通でなければ排除の対象になり得る今の時代、周囲に合わせるって言うことは、自分を守る為の最善とも言える」
小学校の頃、調子に乗ったからと、隼人の普通の基準に付き合わされて、貶められた。
隼人の言った普通が、クラスメイトの普通と同じだったからこそ、葵は周囲から拒絶された。
例を言えば、世間一般のアニオタ嫌いとかそうではないだろうか。
アニオタを嫌うのは、アニメオタクの一部が、常人からは異端だと考えられることを行うから。
幼女ペロペロだとか、〇〇たんハァハァとか、ネタでやっていることもあるだろうが、それはアニメを知らない人からすればただの変態的行為に過ぎない。
それを一部の反アニメ派やアニメに関しての知識を持たない一般人が、影響力や拡散力の高いネットなどであたかもアニオタがおかしいかのように取り上げる。
それをアニメを大して好きでもなく、アニメを見てもいない人間が閲覧し、“アニオタ《あいつら》は違う”と一部のアニオタ行為が、アニオタ全体の行為へと置換される。
それは異常な一部を否定することで、自らの周囲からそれを排斥し、自分は普通だと、正しいのだと周囲の普通な一般人と同じように振る舞って、正当化を図っているのではないかと、アオイは思っている。
今回の翔や雪菜や舞などは、例えの中で言うとその一般人に当たる。幼馴染で、今までとても頼ってきた翔。親友として、学校では色々な話をしていたらしい、雪菜と舞。
彼らの持つ価値観と、日菜子の持つ価値観は違ったのだ。
「きっと小野さんは、戦争と言う言葉をよく考えているんだと思う。いくら力があっても、人は生物である限り死ぬ。生き物であり永遠の命が実現していない以上、終わりは来る。それを恐怖することは間違いじゃない」
価値観を巡って現実で起こるような出来事。
例えば、きのこたけのこ戦争。翔達三人がきのこ派で、日菜子がたけのこ派だったとしよう。それならば、日菜子はきっとだが反論が出来るだろう。
そこには命のやり取りも、ましてや覚悟なんてものは必須ではない。あるのは自分の好みだけ。好みが変われば、立場も変えられる。
だが今回の話はそんなレベルじゃない。きのたけも“戦争”とは言っているが、実際に命が関わる戦争とは何もかもが比べ物にならない。
今回の選択は、自身の命は勿論、相手方の命やその他いろいろな責任が付いて回る。
人を殺す感触と、命を潰す感覚と、遺族に恨まれ続ける恐怖と、それらを押し切ってでも為し得たい覚悟。
それらが無ければ、戦争なんてものは出来ない。
結愛を必死になって守りたいと願ったのは、葵が過去に命が消えるその瞬間を見ていたからだ。だから、もう二度とそんなことはさせないと、アオイが知り得る範囲では、そんな悲劇が起こさせまいと尽力してきた。
日菜子が何処まで考えているのか、アオイには分からない。
葵と似た過去を持つ日菜子は、親しい彼らと違う価値観を持っていることで、彼らが自分から離れていくのではないかと、無意識的に恐れているのかもしれない。
これも勘だが、人見知りであった葵には、とてもよく理解できる感情だ。
だから可能性は充分にある。
見ず知らずの人に助けてくれと願われて。
それが出来る力を秘めていると教えられ。
親しい仲の人間に一緒に行こうと誘われて。
参加しない派が多数な中、目立つように手を差しだされて。
一緒になって人類を助けよう、と傍から見ればかっこよさげな台詞を言われた。
実際、翔というイケメンにそれをされたら、殆どの女子が頷いてしまうだろう。だが今はそれはどうでもいい。
断れば、きっと間違っていないことだとしても、驚きと信じ難いものを見る視線を向けられただろう。
価値観の違いとは、結局そう言うものだ。
価値観が違う人間とは、両方が相手を理解しようとしない限り、分かり合えない。
だから、アオイは我を押し通す。
「間違っていないのだから、それを押し通せばいい。もし戦争に参加しないと言って、今の関係が壊れるのを嫌うなら、そのまま流れに身を任せればいい。人は急には変われないし、ましてや一回悩んだだけで答えが出せるほど単純じゃない」
無論、例外は存在する。あくまで一般。
「だから、好きなだけ悩んで、好きなだけ考えて、もし困ったなら、今みたいに誰かを頼っても良い。その上で出した答えなら、きっと誰も反論できない。その答えは、その人が最果てに見つけ出した覚悟なのだから」
葵がそうだった。
家族が、結愛が、葵を救ってくれた。自分をずっと大切に想ってくれていた人達を守りたいと、そう思った。
その想いは、葵が見出した意味で、覚悟だ。
「俺は、俺が結愛を助けたいから行動する。例え力が無いと知っても、絶対に諦めないし、その道のりがどんなに長くて険しくとも最後まで進み続ける。それが俺の覚悟――俺の決めた道だから」
「……」
答えは言わない。と言うより、回答を知らないアオイは答えが言えないので、アドバイスでそれを補う。
「もし命を奪うのが怖い、と言う理由で戦争をしたくないのなら、まず命を狙われると言う恐怖を覚える。その恐怖を常に感じながら、それでも戦えると判断したら、力をつければいい。実力に圧倒的な開きがあれば、相手を無力化し殺さなくて済むでしょ?」
殺さずに勝つ。
馬鹿げているようで、現実になれば人を殺す恐怖を味合わなくて済む最適解な行動。
それを為すには絶大な実力差が無ければ成り立たないが、きっと日菜子ならできるだろう。
日菜子は素質が高いし、昔の葵と同じような経緯を辿っているのなら、今のアオイのようになれるかもしれない。
勿論、“覚悟を決める”と言う意味で、だ。
「ここまで言っておいて無責任だし、そもそも何の解決にもなっていないけど、この先の未来を決めるのは小野さんだ。幸い、まだ時間はあるからゆっくりと――」
「ありがとう、綾乃君。やっぱり綾乃君に相談して良かったよ」
アオイが締めくくっていた所で、日菜子がそれに被せるように感謝を述べる。
その表情は、相談前のモノとは明らかに違い、晴れ晴れとしたモノだった。
「――決めた。私はこのまま進むよ」
「……そう」
「私は、地球に還りたい。一人じゃなくて、翔も雪も舞も、クラスメイト皆で無事に帰りたい」
覚悟の決まった晴れ晴れとした表情で、日菜子は語る。
「私は敵を無力化することは出来ない。価値を感じないは暴力は嫌いだから。でも私には、皆を守る力がある。だから、この力をちゃんと使えるようにして、本当の意味で力をつける。そして私は、私の為に、行動することにする。戦争に行くと幼馴染が、親友が言っているんだから、それを守る為に、私は動くよ」
目の前でギュッと握り拳を作る。その声は決意に溢れており、瞳に映るのは恐怖でも不安でもなく、ただただ強い覚悟の炎だった。
それを見て、アオイは自身の役目の終了を理解した。
正直日菜子一人でも解決できた気がしないでもないが、相談が解消された以上、話し合いはここまでだ。大人しく退室することにする。
「悩みも解消されたみたいだし、俺はもう行くね」
「……あっ、あの!」
腰を上げ、部屋の扉に向かおうと反転したアオイの背中を、日菜子は呼び止める。
「ん? まだ何かあった?」
「いや、えっと……これから葵君って呼んでも良いかな?」
「別にかまわないけど……。急にどうしたの?」
あまりに唐突な呼び名の変更に、アオイは訝しむような表情になる。
それを見て、慌てて手を横に振りながら、日菜子は弁解する。
「いや、深い理由はないの。ただこうして、私が変わるきっかけをくれたわけだし、それに結愛さんのように気楽に話せる相手がいた方が、少しは楽になるのかなぁと思って」
そこでアオイは気を遣わせていたことに気がつき、無言になる。
この悩み相談には、もしかすると、アオイを気遣った部分もあったのかもしれない。
そして同時に、思っていたよりも、自身が精神をすり減らしていたことを知る。日菜子の言葉に、心の蟠りと言うか燻っていたものが、若干晴れていく気がした。
何も言わないアオイに、日菜子は焦りはじめる。
余計なお世話だったかな? や、もしかして言っちゃいけなかったかな……、など焦りを孕んだ声で、あわあわと慌てながら、私も日菜って呼んでくれていいよ、と、若干主旨が逸れている気がする発言もあったが、今のアオイにはそれすら心地良い。
「いや、こちらこそありがとうだよ、小野s――いや、日菜……さん」
感謝と無意識的にあった悩みを解消してくれた彼女に畏怖を込めて、愛称呼びをしようとしたが、恥ずかしさが天元突破しそうになり、敬称をつけてしまう。
決して、格好つけようとしたわけではない。そんなことは、断じてないのだ。
締りの付かない終わりに苦笑いを浮かべつつ、アオイは日菜子の部屋を退出する。
その後行われた訓練は、基本的な運動能力の測定で終了した。学校で毎春行われる体力テスト、といえば想像し易いだろうか。
個々人の能力値は既に紙に記されているので分かるが、その人の運動センスや戦闘に向いているかなどは、実際に試してみなければわからない。
ともあれ、その運動能力検査は、もともと鍛えていたこともあり、アオイが断トツで優秀な成績を納めた。
だがトップ成績のアオイでさえも、結愛を探しに行けば死ぬと言うのだから、外と呼ばれた世界は相当厳しい場所なのだろう。
測定後に、ルディアンから少しだけ実力を読み違えたと言われたで、若干生存率は上がったかな? と考える。
本当にこんな戦力で、魔人と戦える力が付くのかとても不安ではあるが、アオイはアオイのやるべきことをこなすだけだ。
明日から訓練は自由参加になるらしい。なのでアオイは、個人で鍛錬をしつつ、知識の収集に励むことにして、パレードまでの計画と、パレード後の計画を綿密に立てていく。
シリアスと言うか、心の問題について書くのは思っていた以上に難しいですね。
恐らくこう言った回は、かなり改稿を重ねると思うので、内容が変わるかもしれません。
ご了承ください。




