第九話「棚から牡丹餅、お腹からお宝」
第九話「棚から牡丹餅、お腹からお宝」
ダンジョンのコンセプトが決まり、魔物が加わった。一見するとダンジョンとしての活動がスタートしたかに見える。
「ちょっと待って下さい。お宝を用意しましょうよ」
「うぬ? なぜじゃ?」
「人間たちが攻め入って来ないからですよ」
人間たちがダンジョンに攻め入る理由は大きく分けて3つある。魔物の脅威から逃れるため、さらわれた者や奪われた品を取り返すため、そしてお宝を入手するためである。人間との関係性を良好に保ちつつダンジョンを経営するためには、お宝を用意することが最善手である。
「人間たちが定期的に攻め入って来ないと補助金が出ませんよ」
「うぬ? 補助金とは何じゃ?」
「え? えぇと……」
ステラはアルが補助金のことも知らないことに驚くが、丁寧に説明を始める。
「簡単に言うと、人間たちの力を削ぐことが目的です。余りにも人間たちが強くなりすぎると私たちも困ってしまいますから。それを補助するため、定期的に人間たちが侵入するダンジョンには魔界から補助金が出るんです」
「そ……そうじゃったのか。てっきり人間たちから金品を奪うだけかと思っておったのう」
「それも一つの手ですけれど、集落まで出向いて強奪すると恨みを強く買ってしまいます。ある程度強ければそれでも良いですが、私たちはもっと後のことでしょうね」
「うぬぅ……なるほどのう。ところで、今日は色々と説明が多いの」
「忘れましたか? これでも私はダンジョン経営代理人ですよ? 本当なら、この辺りからが仕事なんですから」
「それは済まぬ。我の力不足ゆえ……しかし、ステラのお蔭で何とかスタートが切れそうじゃ」
「待って下さい! まだお宝を用意できていませんよ!」
「お宝なら、我の体内にある」
そう言ってアルはお腹の栓を外してお金を全て取り出す。それから更に奥まで手を入れて、宝石のようなものを取り出した。
「それは何ですか?」
「これは我の古い友人からの預かり物での。龍の宝玉じゃ」
魔界でかなり強い部類に入る龍族。その中でも一握りの竜は宝玉を与えられ、その力を保障されているのだ。今アルが手にしているのはまさにそれである。
「え……えぇっ!? ほ、本物ですか!?」
「本物じゃ! ほら、ここに龍族協会と書かれておる」
人間から見ればそれっぽい呪文か何かに見えるであろう文字で、確かにそのように刻印されている。
「アルさん……もっと早くに教えて下さいよ!」
ステラはがっくりと肩を落とした。