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第91話

いつものように決められた時間割通りに進む時間。

だけど、そこにいつものような平静さはない。


覚悟していたことだが、静かに。だが着実に事件の話は広がっていた。

生徒会と理事会から緘口令が出ていたものの、人の口に戸口は立てられないという言葉通り、どこから聞いたものかある生徒から始まったソレ(・・)は、確実に真実とは違った方へと動き始めている。

昼休みになる頃には、もう既に全校生徒に広まっているようだった。


教師達も全容を知らされていない者もいるので、生徒からどうなんだと聞かれても答えに詰まる。それがさらに噂に尾ひれをつける結果になっているのは明らかだった。


俺は資料室でコンビニで買った昼飯を食いながら、一応母にメールを入れておいた。返事は食い終わるより早く返って来て、見ると



『唯ちゃんご飯食べないのよね。昨日もスープだけだったし、朝もほとんど残してたからお腹空いてないはずないんだけど、一貫して『食欲ないんです』だもの。このままだったら、あの細い身体と骨と皮だけになっちゃうわ!』



とあった。


あいつ、食ってないのか…。

はあ…と溜め息を付く。神崎の食いっぷりはガネッティの店で目の当たりにしているから、食べないということに不安になる。かと言って食えないものを無理矢理食わせたとしても、後で吐かれたりする事を考えるとそれも出来まい。

俺は食ったゴミを片付けながら、今日実家に帰る時に何か軽いものでも買って行ってやろうかと思った。



ようやく訪れた放課後、俺は悠生と共に理事長室へと呼び出された。

事情を知らない同僚にはどうしたんだと言う目と、全容は知らないながらも少しは事情を把握していて、それでいて好奇心たっぷりの目があった。後者の中には有紗もあったが、それは無視しておいた。


理事長室へ向かう途中、明らかに不安そうな悠生へ声をかけた。



「別にそんなに緊張しなくてもいいだろう。俺達が何かしたわけじゃないんだし。」


「でもー…吉川さんの母親ってモンペアなんでしょ?それ最初に聞かされちゃ、嫌が応でも緊張しますよ。何気ない一言が命取り!なーんて事に…やっべ!すっげー怖えー!」


「お前…何気にヘタレだよな。神崎に手を出す奴はなんたらーって言ってたくせに、いざそうなったら、お前ただ見てるだけだったしな。」



思い出してくつくつと笑ってみれば、不服そうな顔をした悠生が「ヘタレって言わないでーー!」と多少声を荒らげた。



「あの時、亨さんどんな顔してたか覚えてます?すっげー怖い顔してたんですよ!?下手に手出してたら、絶対俺が逆に絞められてた!!」


「んなことないだろ。」


「いーや!そんなことありますって!俺が動くより早く、亨さんあいつ()してたし。…ねえ、亨さんって、護身術以外にも何か習ってたりとか…します?」


「合気道と空手を少し。ま、これも護身術の範囲だから別に特別…」


「え、マジで!?道理で……なんか今回の件で、亨さん怒らせたら怖いってわかりましたよ。なんか、あいつも気の毒だなー。怒った亨さんを間近で見るような事になって。って言っても同情はしないけど!」



いささか不謹慎ながらも、悠生と的の外れた話をしていると気が抜けた。

こいつは…大らかなんだか能天気なんだか…。ま、こう言った雰囲気が年下らしいっちゃあ年下らしいが。

そう言えば桐生さん(秀人の方)が探してたモデル、もう見つかったのだろうか。なんだったらこいつを紹介してみてもいいんだが…。何気に美奈のファンらしいし、もしかしたら『カサブランカ』のコレクションを見に会場に来ているかもしれない。それが縁で何かしらの出逢いがあったら、それはそれで万々歳だろう。



「お前、身長いくつ?」


「え?俺ですか?えーっと、春の健康診断の時は179でしたね。あー、あと1cm!!あと1cmで180なのに!!」


「変わんねえし。」


「この切実な感じ、亨さんにはわかんないですよ。亨さん、どうせ180オーバーでしょう?」


「ああ。」


「ほらー!この越えられない壁越えてる人が言う1cmって、微々たるもんだと思ってるでしょうよ!でもね、違うんですよ!170と180って!」



1cmについて切々と語る悠生に生返事を返しながら、いつの間にか理事長室の前まで来ていた。

既に中から金切り声に近い声が聞こえていて、俺は眉を顰めた。


吉川の母親っていう人は今まで見た事が無いが、要注意人物だと言う事は教師達の暗黙の了解で、付属の中学からブラックリストが回ってきている始末。

かなり気を引き絞めていかなければ。何せ、被害者の神崎の今後がかかっている。吉川が何を唆したにせよ、あの場にいながら助けを呼ばなかったばかりか、自身の携帯で現場を撮っていたという物的証拠も揃っている。

彼女が当事者であることに変わりは無い。


俺は深呼吸を一つし、流石に真剣な顔になった悠生と共に理事長室のドアをノックした。

あけましておめでとうございます。

今年も『編み物BABY』をよろしくお願いします。


今年こそは二人をくっ付かせたい…。願望です。頑張ります…。

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