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第80話

なんかいろいろと間違っている可能性大です。パソコンに詳しい方、大目に見てください…。

「おじゃまします」と形だけの挨拶をし、相変わらず犬に唸られながら廊下を進む。

きっと、いや絶対この犬は俺の事が嫌いだ。飼い主である神崎に何回も注意されてその時は尻尾を振って彼女の方へ行くけれど、いなくなった瞬間唸りだした。確信する。こいつは絶対俺が嫌いだ。


俺としても犬は好きだし、賢そうな犬なので触ってみたいと思ったが明らかに敵認識されている以上、それはするべきではない。唸っている以上、咬まれる可能性も大いにあり得る。

触らぬ神、ならぬ触らぬ犬に祟り無し。だ。



入るつもりは無かった神崎の部屋に足を踏み入れる原因ともなったSkypeだが、繋いでもいいものかと内心疑問に思っている。

なにせ、パソコンのカメラを通じてN.Yにいる父親と言葉通り面と向かって話すのだ。谷野に殴られて腫れてしまった頬に、白い湿布を貼っている事など容易に知れてしまうだろうに。


多分神崎はSkypeを理解していない。それは先程の会話で薄々勘付いた。

一応「あちらにも顔映るぞ」と忠告してやった方がいいのかもしれないが、義父である桐生総一郎の娘を心配している声を聞いた以上、繋いでやらないといけないだろう。

Skypeの事で話をする際、不機嫌そうな声とやはり心配していたのだろう。どこかほっとした感じの声で少しだけ会話をした事を思い出す。



『Skype繋いでやってくれ。リビングに秀人が唯に買ってやったデスクトップがあるから、それにいろいろと入ってる。しかもあいつはご丁寧に脇のメモにいろいろと書き込んでたから、それを見ればわかるはずだ。』


「わかりました。」


『…なるべく早く頼むな。顔を見ないうちには安心出来ない。』



経緯をどこまで知っているのか解らないが、神崎が襲われたと言う事は知っているらしい。だからこそこんな時間(N.Y時間で朝の三時、四時頃か)に電話をかけてきたのだろう。

そう言えば前に理事長も神崎の事情を知っているとか言ってなかったか?だとすれば、今は出張中で学校にはいない理事長から直に連絡をもらったのかもしれない。


その出張中の理事長もすぐに帰ってくるだろうし、谷野の処分はわりかし早いだろう。

問題はそれを携帯で撮っていた生徒の方だ。持ち上がり組の吉川とか言った生徒で、確か親が五月蝿いので有名なのでは無かったか。モンスターペアレンツまでは行かないらしいが、それでもあの娘の言う主張をそのまま真に受けてギャンギャン喚くのだろう。少し考えただけでウンザリするが、関わってしまった以上、事がどういう風に収まるのか見届ける義務がある。



何より、このまま被害者である神崎が元通り学校に通えるようになるのか。そして、事件のせいで彼女が男性恐怖症にならなければいいのだが。

それが本当の問題だ。




広いリビングに案内されて一番先に目に飛び込んで来たのは、入って右側に設置された大型のテレビと白いソファー。ガラステーブルの上には小物が置かれ、涙形のクリスタルが印象に残った。また、テレビの近くには桐生総一郎が言っていた通りのパソコンがあり、モニターがないのを見るとどうやらテレビがモニターの代わりになるやつのようだ。

左側にはカウンターキッチンがあり、システムキッチンとこれまた大型冷蔵庫や流行家電がちらほらと見える。


俺がリビングに通されての第一声。



「どこぞの新婚の家だよ、これ…」



呆れるほどの高校生らしからぬ部屋の広さと、置かれた家電やインテリア。まるでモデルルームのようなのにも関わらず、住んでいる人の温もりがある事から、ほとんどマンションを購入したての新婚夫婦のような部屋だなと率直な感想を述べてしまった。

あまりの完璧さに、思わず笑ってしまったのはしょうがない。しょうがないとしても、隣で犬を従えて若干しょぼんとしている神崎をフォローするためにかける言葉を、俺は持ち合わせていない。



「…パパやお兄ちゃん達が来るたびに家具とか家電が増えていくんです…もう置くところないって言っても聞いてくれなくて…」


「わふっ!」


「お姉ちゃんに至っては、買い物してきた服とかメイク道具とか全部私のものだって言うし。本当に置くところが無くなりそうで怖いんです。」


「………気の毒に…」


「ありがとうございます…」



なんとなくげっそりとした神崎に促されるまま俺はパソコンを起動させ、置かれてあったメモに目を通しながら繋げていく。五分後と言ったものだから悠長にしてられないなと思いつつも、桐生さんがいろいろと弄っているらしいパソコンはサクサク進む。

俺もそろそろもう一台買うべきか…と悩んでいるのを思い出しつつ、あと少しで繋がる時になって、そう言えば…と思い出した。

パソコン画面から目を離し、神崎の姿を探すとキッチンに彼女はいた。香ばしい香りを漂わせつつ。



「おい、神崎。」


「はい?あ、先生、コーヒーはブラックですか?砂糖かミルク入れます?」


「あ?いい、別に。」


「いいですよ、遠慮しないで下さい。その、『すかいぷ』?やって貰ってるお礼ですから。」


「…じゃあブラックで…」


「はい、わかりました。」



全く気を使う奴だなと思いながらも、出されたコーヒーを有難く受け取った。さっきタバコを吸った時に多少イライラは収まったが、やはりカフェインの方が慣れているのか落ち着くのが早い。少し熱めの濃いブラックを一口飲んで、ふうと一息付くと、目の前のパソコン画面にもう一度視線を戻した。



「お前Skypeってどう言うものか知ってるのか?」


「?知りません。私機械駄目なんですよ。」


「……だろうな…。あのな、Skypeってテレビ電話と同じだ。つまりこっちでもライブ映像が観れる。逆に言えば、お前のパパにもお前がライブで観えるって事だぞ?」


「…えーーーーー…っと…?つまり?」


「湿布して痛々しいお前が、お前を溺愛してるパパに丸見え。」



その会話をしている最中も手は止めない。

なんの反応も無い神崎を不思議に思ったものの、あと少しという所でようやく気付いたのかがしっと腕を掴まれた。

びっくりして腕を見ると、神崎が泣きそうな顔で俺の腕を両手で掴んでいた。



「駄目、駄目駄目駄目駄目!!!!先生、駄目です!!やだ、繋いじゃ駄目です!!!!」


「…って言ってもな…」


「お願い、先生!やだ!何の心の準備も出来てない!!」


「…悪いが、それは聞けない。」



少し罪悪感を感じたものの、そのままキーを押した。



『きっちり、五分だな。感謝する、先生…………唯、お前その顔…………』



大きなテレビ画面の向こうには、絶句する桐生総一郎が映っていた。

申し訳ないですが、ころころ視点変わります。

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