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春愁の坂にて ─1945年、あの日のそよかぜ派生作品─  作者: 乃土雨


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10/10

小春日和の縁側

  15日も激しい戦闘が繰り広げられた。


 しかし、クラの姿は戦地にはなかった。


 早朝に用を足しにいったところを付近の住民である高齢女性に見つかり、性別を誤魔化して入隊していることがバレた。薩軍には黙っておいてやると言われ、クラはそのまま田原坂近隣住民が避難している地区に連れられていったのだ。


 翌16日は休戦。


 17日、18日と両軍の攻防が繰り広げられた。


 19日は再び休戦。雨の1日となった。


 雨は日付けが変わっても止まず、明け方には霧まで発生した。


 早朝、官軍は一気に攻撃を開始。薩軍は雨と霧のせいで対処が遅れ、とうとう田原坂を官軍に制服されてしまう。

 4時間で決着がついた20日の戦い。正午頃には官軍の勝利が近隣の住民にも知らされた。


 その知らせを聞いて、いてもたってもいれなくなったクラは田原坂まで走った。


 避難所で左頬の傷の手当てを受けており、頬を押さえるように頭部側面に包帯を巻いていたが、途中で緩んでいき、七本の基地を過ぎる頃にはもう包帯はどこかへいってしまった。


 その頂上、三の坂を前線で守っていた堡塁跡地でクラは必死に藤一郎を探した。冷たい雨に打たれて幾重にも重なる薩軍兵士の屍。ぐちゃぐちゃに踏み荒らされた地面には幾つも血だまりがあり、クラの紺色の着物の裾もみるみる黒く変色していく。


 「藤一郎さん!」

 クラは泣いているのだろうが、走ってきた汗なのか打たれている雨なのか、もはやわからなかった。


 「藤一郎さん!クラです!返事してください!」

 呼びかけながら遺体の顔を確認して回ったが、どの遺体も血や泥で汚れていて判別できない。


 ──生きちょって!お願いやから生きちょって!


 そう祈りながら藤一郎の名を叫ぶ。


 「あの」

 官軍の制服を着た男性がクラに声を掛けた。


 「薩軍の方をお探しですか?」


 咄嗟のことで声が出ずに、大きく頷いてみせた。


 「でしたら、そこから三の坂の方にあるのは官軍の遺体だけです。探すならあちらの方が良いかと」


 クラは男性にお辞儀をして、指さされた方角へ向かって走った。


 ひどく被弾しているもの、めちゃくちゃに切り付けられているもの、肢体が分離しているものなど見ていられない程惨たらしい遺体が多くあった。


 折り重なって息絶えているものの間から出ている右腕に目が止まった。


 ──嘘や・・・


 あの大祭の日に正右衛門から切り付けられてできた傷があったことで、その腕が藤一郎のものであるとクラはすぐに理解した。


 クラ一人の力では、腕を引っ張って体を引き抜くことはできなかった。


 腕を持った時に、そのあまりの冷たにクラは驚いた。


 「藤一郎さん・・・・寒かったやろ・・・痛かったやろ・・・」


 クラはそう言いながら藤一郎の右手を何度も摩って温めようとしたが、何度摩ってもその手に温もりが戻ることはなかった。



◇◇◇


 クラはその後、先程声をかけられた官軍の男性に連れられ、小山田に帰った。

 それはそれは叱られたが、家族全員が泣いて何度も良かった良かったと言ってくれた。


 あれから実に68年。


 日本は3度戦争を繰り返した。


 小春日和の縁側に座っていると、クラはどうしても藤一郎を思い出す。


 「もう戦争は懲り懲りや・・・そう思うやろ藤一郎さん」


 そう呟いて左隣を見ると


 「ああ、平和に暮らしてみたい。クラとな」

 そこには優しく微笑む藤一郎の姿があった。


 「オレはもうババアになってしもたかい・・・藤一郎さんは美しいまんまじゃ」

 そう言ってクラが微笑むと、藤一郎の姿が消え、代わりにそこには平太が座っていた。


 ──なんじゃ、平太やったか・・・


 「おい平太。縁側に座っていいと言うちょらん」


 ──そこは藤一郎さんの場所やかい



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