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春愁の坂にて ─1945年、あの日のそよかぜ派生作品─  作者: 乃土雨


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小春日和

1945年、あの日のそよかぜの1万PV記念作品です。

「そよかぜ」に登場する沢口クラが主人公の物語、お楽しみください♪

「顔に傷のある女は一途やとよ。そう思うじゃろミカ」


 1945年11月22日木曜日

 新生児の名付け祝いの際に執り行われる「弓の音」という儀式

 その後の酒宴の際にミカ(17歳)はこの家の家主にしてこの村の長老、沢口クラ(80歳)からそう言われた。

 ミカもこの年の3月にあった宮崎空襲の際に左額から右顎にかけて斜めに1本の大きな傷を負っていた。クラの傷は左目尻の少し下あたりからまっすぐえら顎下まであった。普段は顔の皺に紛れていて目立たないのだ。


 クラの傷は、西南戦争の激戦地、田原坂で負ったものだ。


 酒宴も終わり、客人がいなくなった座敷にクラだけが座っていた。

 縁側に面してる襖は開けられ、西に傾いた日が座敷に差し込んでいる。


 「クラも、小さい時は棒切れを持って走りまわっちょったが」


 のそのそと立ち上がってクラは縁側に移動した。

 縁側の座布団も敷かずに座って

 「藤一郎さん」

 と誰もいない左隣に向かって言ってみて、すぐに縁側のガラス戸から見える庭を見た。

 「みっともねぇ。オレは慶応元年生まれ、岡田以蔵の生まれ変わりやど。まだ忘れられんとじゃろかね。藤一郎さん」

 そういうとクラはまたのそのそと立ち上がり、土間で酒宴の後片付けをしている義理娘のヤエ子を激励するため、土間に向かった。



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