第三十話
「全員助けられたみたいだな」
「なんとかね、ふー」
「クレイ様お疲れですか」
「ちょっとね」
「私が介抱します!」
「いやそれより処刑場がどうなったか確認してきてくれないかな」
「分かりました、フォルト行こう」
「すぐ戻る」
部屋にクレイとティアを残し二人が出ていった、少しして宿の従業員が部屋の扉を叩く。
「お客様ルームサービスです、お飲み物をお持ちしました」
「どうぞ入ってください」
「疲れは取れましたでしょうか?」
「うん、だいぶね」
「外は大変な騒ぎですよ、外出は控えるように言われました」
「何かあったんですか?」
「処刑場が襲撃されたそうです、亜人にも全員逃げられたとか」
「見物人が多かったんでしょ?被害者もたくさん出たんでしょうね」
「それが死亡したのは兵士数名らしいですよ」
「そうなんですか!それにしても処刑予定の亜人全員に逃げられるなんてね」
「まったくです、じゃあごゆっくり」
「ありがとうございます」
フォルトとクラリスが気を利かせてルームサービスを頼んでくれたようだ、温かい飲み物を飲み休んでいるとフォルト達が帰ってきた。
「クレイ帰ったぞ」
「お帰り、どうだった?」
「中央広場へは入れなかったが大変な騒ぎになっていたな」
「逃げたエルフの姫を捜索しているようですが町の外へ逃げているとは思っていないようです」
「それはよかった、ダンジョンには入れそう?」
「無理そうだな、警備が厳重になってる」
「やっぱりそうかうーん困ったな、隠密薬でこっそり入るしかないか」
「長居は無用じゃぞ」
「明日には出発しよう」
翌日、宿をチェックアウトすると混乱が続く町を移動しダンジョンの入り口に近い路地裏に入る、サーチの魔法を使い辺りに人がいないのを確認し隠密薬を飲む。
「手を繋いで行くよ」
「はい!」
クレイを先頭にクラリス、フォルトの順でダンジョン入り口へ移動する。
「警備が多いけど通れそうだ」
「クレイ様、ゆっくり」
「うん、ゆっくりね」
警備兵の間を通り抜け入り口に入る、中に人の気配はなかったがクリンにマップを表示させ階段の場所まで隠密薬の効果を保ったまま慎重に歩いていった。
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エリオン聖王国の宰相執務室で宰相ラング・バル・レングリーは処刑場襲撃事件の報告書に目を通していた警備兵からの報告書には依然囚人全員が行方不明とある、当日の映像を何度も見返しているが謎だらけだ。
「エルフの姫が裸にされるところまでは異常ない、だが次の瞬間凌辱役の兵士が殺されている、進行役も殺され不審者が突然エルフの姫の前に現れている何者なんだ」
ドアをノックする音に声をかける。
「入れ」
「失礼します!ギルドからの報告書をお持ちしました」
「リン殿はまだか?」
「はい!もうすぐいらっしゃる予定です」
「そうか、下がってよし」
「はは!」
報告書に目を通すダンジョンは封鎖中で不審者の情報は無しとある、城門の兵士からの報告書にも不審者の出入りは確認できない。
「やはりカムフラージュの魔法か?」
防御シールドを展開し続いて魔法防御シールドを展開する、これ以降は映像が霧の中のようにしか撮影できていない、魔法防御シールドが影響しているのだろう。
「防御シールドも魔法防御シールドも強力過ぎる、魔法師による魔法攻撃、レーザー銃、ロケット砲、飛行部隊によるミサイルまで使ったがヒビひとつ入っていない」
ドアをノックする音に答える。
「入れ!」
扉を開けたのは王国魔法師長リン・クラブ・ルックだった赤い髪を後ろで束ねている女性でこの国で一番の魔法師だ。
「リン殿」
「どうです?報告書で何か進展はありましたか?」
「いや、全く無い」
二人で映像を見ながら判明している事実を確認し合う。
「私の方で現場の状況と映像を調べてみたんですがこの時点でエルフの姫に奴隷の契約魔法が見られます」
「それがどうしたのだ?」
「巻き戻して拡大した映像です柱に縛った方は契約魔法が消えています」
「なんだと!」
「スローで見ると順番に解除されているのが分かります」
「この処刑場で奴隷契約が解除されていたのか、ならば遠方に逃げた可能性もあるな」
「契約魔法を解除するには契約書を破棄するか魔法を使用した魔法師を殺すしかありません」
「魔法師は殺されていないのだろう?」
「生存が確認されています、ただ契約書は破棄されていました」
「仲間がいると?」
「いいえ、契約書は厳重に保管されていました、処刑場の奴隷から直接契約魔法を解除して契約書を破棄したようです」
「そんなこと可能なのか?」
「膨大な魔力を持つ者で、私よりずっと高レベルな魔法師なら可能性はあるかと」
「魔法師のようには見えんのだがな」
「全身をカムフラージュの魔法で変えて見せている可能性もあります」
「突然エルフの姫の前に現れたのは?」
「隠密魔法でしょう」
「魔法師の仲間がいるのかも知れないな、隠密魔法を使って処刑場から逃げた可能性が高いか」
「その場合すでに町の外へ逃げた可能性もありますが人数を考えると可能性は低いかと」
「もう少し調査して発見できなければそう発表するしかないな」
「防衛力を強化せねばなりません、帝国に協力をお願いしましょう」
「共和国への賠償金で困窮しているだろうから安く仕入れられるよう交渉してくれ」
「外務大臣に伝えます」
それから数週間国内を徹底的に調査されるがどこにも逃げ込んだ形跡がなく、また協力者も発見できなかった、この報告を受け全員国外へ逃亡したと正式に発表されたのだった。
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エルフの姫達はクルマを森へ向け走らせる、クルマの発見を遅らせるため途中で南に進路を変え森に沿って走る、聖王国からの調査が届かないような荒れ地を通りクルマを岩場の穴に隠すと森へ入っていった。
エルフと獣人はいくつかの里に分かれて暮らしており中央の大きな里に王様が住んでいる、里は里長が管理していて重要な情報は里長から住人へ伝えられる、姫達が森の南の端に位置するエルフと獣人の里に到着すると里長に報告するため集会所へ向かった、そこには大勢の里の人達が集まっており重い空気が漂っていた。
「ミリア戻りました」
エルフの姫がそう言うとその場にいた全員が驚き集会所の入り口を振り返った。
「なんと、報告では聖王国で処刑されるとあったがよく無事に戻れたな」
「フェアリーのティア様達に助けられました」
「フェアリーのティアだと!生きていたのか」
「ご存じなのですか?」
「かつて悪魔狩りとして名を馳せていた、我々の英雄であるハイエルフのリューズに獣人のランカそして吸血鬼ミカエラと共にな」
「英雄リューズ様の仲間ですか」
「そうか、生きておったか、ならば奴らを何とかしてくれるやも知れぬな」
集会所に集まっていた人々も笑顔が溢れている一緒に帰って来た獣人の中にはこの里の出身者もいて、家族と抱き合い涙を流していた。
こうしてエルフと獣人の希望となったティアだが本人にその認識はなくクレイ達と旅を続けるのだった。




