えくすとら! その二百三十一 あれ? こっちも被弾してね?
「色々言ってすみませんでした。そうですね、お二人の中で決着が付いているのであれば、俺が偉そうに口を挟む問題じゃなかったですね」
「気にすんな、秀明。俺だって……まあ、ちょっとどうかって思うのは思うし」
浮気をするつもりは毛頭ないが……『お前、何様だよ?』って言われそうだけど、不安? 不満? まあ、そういう気持ちを抱かせるかもとは思えるし。
「いえ……俺もちょっと言い過ぎました。よく考えれば、俺だって智美さんと逢わないとか……まあ、物理的に無理でしょうし」
少しだけ気まずそうにそう言いながら、秀明がゆっくりと中空を見つめる。ま、そりゃそっか。同じ地区のバスケ部同士、試合やなんやで顔を合わせる事もあるだろうし。
「まあ、デートに行ったりとかした俺とはまた事情が違う気もするが……」
「……」
「なに? 秀明、浮気するつもりなのかしら? 私という可愛い彼女がいながら? へぇえええええー!! そういうつもりなんだ、ひ・で・あ・きぃ!!」
気まずそうに沈黙し、そのまま視線を逸らす秀明に俺の――じゃなかった、茜の目がギラっと光る。その視線の厳しさに思わず秀明が『びくっ』と体を震わせた。
「ち、違う!! そんなつもりは毛頭ねーよ! 毛頭ねーけど……と、智美さんだぞ!?」
「なに? やっぱり智美ちゃんの事が好きなの!? 言っとくけど、今更そんな事言っても絶対に認めないんだからね!! 秀明は誰にも渡さないんだから!!」
そう言いながら、瞳に涙を湛えて秀明の袖をちょんと摘まむ茜。そんな茜に、一気に顔を真っ赤にさせながら、それでもチラチラと視線を茜に送る秀明――と、そんな二人にキラキラとした視線を向ける桐生。おい。
「……おい、ラブ警察」
「いい所よ、東九条君!! さあ、私たちは壁になるの!! これから絶対、きゅんきゅんシーンが来るから!!」
「前々から思ってたけど、のぞきって罪じゃ無いのか? 桐生の治めるラブ警察では?」
藤田と有森の告白シーンとかものぞき見してたし……秀明と茜の所も。いつかこいつ、ガチの方の警察に捕まるんじゃないの? 人のプライベートというか、プライバシー、見過ぎじゃない? そんな俺に、桐生は何でもないように。
「軽犯罪法第1条23号、窃視の罪の話かしら?」
「せ……なんだって?」
「軽犯罪法第1条23号、窃視の罪。正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者を罰する法律よ。盗撮とか、そういう行為を取り締まる法律ね。科料、罰金は千円以上一万円未満。拘留期間は三十日以内よ」
「……」
「私は別に、通常衣服をつけない場所をのぞき見している訳じゃないわ! 単純に、きゅんきゅん成分を摂取しているだけ! どこにも罪に問われる要素は無いはずよ?」
そう言って胸を張る桐生。うん……なんだろう? あれだよね? 犯罪者とかが、捕まらない為に法律勉強して普通の人より詳しくなる姿と今の桐生、滅茶苦茶ダブるんですけど。
「……お前を取り締まるのは法律じゃなくて倫理か~……」
日本の法律はどうやら、桐生に追いつけないらしい。俺がそんなバカな事を考えていると、先程まで秀明の袖をちょんと摘まんでいた筈の茜が、ぐいっと秀明の胸倉を掴み、その細腕の何処にあるのか不明な膂力を持って秀明の体を持ち上げる。身長差も結構あるのに……ホントにフィジカルエリートだよな、あいつ。
「さあ、キリキリ吐きなさいよ!! なに? 智美ちゃんとデートに行きたいって言うの!? 良いよ? 言ってみなさいよ!! 明日の朝日が拝みたくないって言うならね!!」
「こえぇーよ!!」
「そうよ! 私は怖いの!! 浮気なんか絶対に許さないだから!!」
「違う!! 浮気なんかしねーよ! でもな!? 智美さんだぞ!?」
「だから!!」
「あの人、俺の告白とかもう、全然気にして無いし、なんなら覚えてもいねーの!!」
「「「……」」」
秀明の絶叫に思わず皆の憐憫の視線が集まる。茜は茜で、持ち上げていた秀明をそっとおろし、胸元の乱れをそっと手で整えながら、口を開く。
「え、えっと……秀明? 流石にそれは無いんじゃ……」
「……まあ、覚えて無いは言い過ぎかも知れん。でもな? きっと智美さん、俺の告白の事とか全然気にしてないぞ?」
「……」
「だってお前、告白した俺の隣で『ヒロが、ヒロが~』って楽しそうに話してるんだぞ? 覚えてない事は無いかも知れんが……普通、ちょっとは気にするだろ? フッた男の前だぞ? そんな事、普通するか?」
「……で、でも! 智美ちゃんだし! そ、そういう可能性はなきにしもあらず……と、いうか」
「そうだよ。智美さんなんだよ! きっと、智美さんの事だ。これは悪い意味じゃなくなんだけど……俺とも昔通り接してくれようとしているんだろうとは思うよ。そういう……『優しい』人だし。俺から距離を取るならともかく、気まずくならない様に振舞ってくれているんだと思うんだよ。良い、悪いはともかく……罪悪感を感じるのはフッたほうだろうし。智美さんが俺から距離をとっても責められる事は無いのにな。そういう人だろ、智美さんって」
「……うん」
「だから……デート云々はともかく、例えばどっかで逢って『おっす、秀明! ご飯でも食べようぜ~!』なんて言われたら……そら、行くだろ? あっちは気を遣ってくれてるんだし。断るのも変な感じだろうが!」
「……た、確かに……」
「……だからまあ……よく考えたら、うん……俺、あんまり浩之さんの事、責められないかも知れない……」
少しだけ申し訳無さそうな顔でこちらを見る秀明。そんな秀明から俺はそっと視線をそらし。
「……ねえ?」
「……なんだ?」
「さっきは涼子さんの事、悪魔と化かし合いしても勝てるって言ったけど……もしかして智美さんって、小悪魔なのかしら?」
「……そういうものでは無いと思います」
悪魔と小悪魔って。どんな幼馴染だよ、俺の幼馴染。




