(51)オレは監視されている
バシャを出す前に、死んだ冒険者たちをどうするべきかという問題が発生した。
間違った依頼とは言え、オレたちを襲ってきた連中なのだから別にそのまま放置しておけば良いというリズとマリュウに対して、騙された上に殺されちゃったのだからせめて埋葬ぐらいしてやってもいいんじゃないかというジュリア&ピンピン。
だが、オレはもっと別な事が気になっていた。
このまま放置して行った場合、オレたちに冒険者殺害容疑がかかる可能性があるのではないか。
犯罪者扱いされるのは御免だし、改めて捕縛や討伐の依頼が出ないとも限らない。
そのためにはチャンプーで出されていた依頼自体を撤回させる必要がある。
冒険者の遺体をどうするかよりも、そっちの方が問題なのではないか。
「アスカの心配もわからないではないけれど、今はシャイア教に時間を与えない事の方が重要ではないかしら」
「私もリズ様に同意します。次の追手がかかるかもしれませんし、ユミロフがまた逃亡する可能性もありますから」
確かに2人の言う通りだ。
オレたちが今一番優先すべきモノは時間だった。
追手がかかっている以上、ユミロフがオレたちを意識している事は確実。
なら、向こうが次の手を打つ前にこちらが動かないと後手を踏む事になる。
「わかった。すぐ出発しよう。異論のある人は?」
表情こそそれぞれ違うものの、リズたちの言う事が正しいのは誰の目にも明らかだった。
「じゃ、行こう。シン、頼む」
「はい。それじゃみなさん、早く乗ってください」
ジュリアとピンピンは冒険者たちの倒れている方角へ軽く頭を下げてから客車へ。
リズとマリュウはもう先に乗ってしまったらしい。
御者席のシンの横にはニナが座っている。
「出します!」
シンの声と共にバシャが動き始める。
ゆっくりと、まずは街道へ戻り、それから加速を始める。
しばらくは誰も口を開かず、陰鬱な空気が客車内に流れていたが、パルピンに着く前にさっきの出来事を整理しつつ共有しておきたかった。
あーこれもオレが口火を切らないといけないのか。
やっぱ司会って面倒だなぁ。
早く誰かに代わりたい……。
「そろそろいいかな」
どう言い出したらいいかわからなかったが、とりあえずそう言って見た。
話をしてもいいかな、という意味だ。
微妙な間が空いたが、みんな顔を上げてこちらを見る。
「いいわ。始めて、アスカ」
ジュリアが進行を促した。
「とりあえず冒険者の方は置いておくとして、後から来たヤツらについてだ。リズの見解は?」
「シャイア教の中でも特殊な訓練を受けた部隊だと思うわ。マリュウの闇魔法も効かなかったもの」
「闇魔法っていつもの見えなくなるやつ?」
「はい。まるで効果がなかったように普通に動いていました」
やはりそうか。
で、もうひとつ聞いておくべき事がある。
「特定の魔法に対して効果を減殺したり無効化するような方法ってあるの?」
「反対属性の魔法を使う事以外で?」
「そう」
ジュリアの言う反対属性の魔法とは火属性に対して水属性、雷属性に対して土属性、光属性に対して闇属性の3組を指す。
風は反対属性が存在しない。
「ヤツらが光属性の魔法を使ってマリュウの闇魔法を打ち消した訳じゃないんだよね」
「それはなかったと思います」
「じゃ、他に何か方法があるのかな」
「私は聞いた事がありません」
「私もよ」
マリュウとリズは何も知らない、か。
「ジュリアとピンピンは?」
「知らないわ」
「私は魔法全般に詳しくないので……」
やはりそうだよな。
でもロビィはあの時、ヤルタの影縛りを自力で解いた。
闇魔法の中でも見えていた。目が赤くなっていたけど。
「ロビィの事を考えてるんでしょ」
ジュリアはお見通しというわけか。
「確かに、ロビーナがいてくれたら何かわかったかもしれないわね」
「いない人を頼りにしても仕方がない。とにかくヤツらはそれが出来るらしいって事は覚えておく必要がありそうだ」
そう言いつつ、何よりもオレ自身がロビィの助言を欲している事を自覚する。
そして、森の民の技を持つ協力者の事がまた頭に浮かんだ。
「次にあの武器の事だけど……」
「剣と槍ね。普通の武器の半分ちょっとの長さだったわ」
ジュリアの言う通り、オレにもそれぐらいに見えた。
「あれはたぶん暗器の部類に入る武器ね。隠し持つのに丁度良いわ」
「となると、あの部隊の運用目的は暗殺という事になりますね」
「暗殺ッ?」
リズとマリュウの見解にジュリアが驚く。
「私たちに暗殺命令が下ったって事!?」
「そういう事になるわね」
リズはどこまでも冷静だ。
まぁ確かにオレもそういう手段もあり得るとは思ったが、あそこまで訓練された専用部隊があるとは思いもよらなかった。
「ただの足止めにあの連中を寄こしたとは思えないわ」
リズの言った意味をきちんと理解するのに少し時間がかかった。
「そういう意味ではチャンプーの冒険者の方が足止め役と思われます。暗殺部隊が到着するまでの時間稼ぎとして」
なるほど、マリュウの言う通りかもしれない。
本来なら街道上で挟撃する予定だったのだろう。
それなら他の通行人やバシャ等も囮や壁として利用出来た可能性が高い。
いかにもそういう戦い方をしそうな連中だった。
「それで、自分たちが来たから用無しって事で始末したわけか」
「酷い……」
ピンピンがギリッと奥歯を噛む音がした。
ミト村の件といい今回の冒険者の件といい、シャイア教のやり口にはいちいち虫唾が奔る。
もはや遺伝子レベルで不快と言ってよい。
絶対に許せない、という思いはオレの中で使命のようなものに変化しつつあった。
この世界で命ある限り、敵として戦うべき相手なのかもしれない。
「ああいう連中がシャイア教にはどれくらいいるんだろう?」
だが、オレたちはあまりにも敵の事を知らな過ぎる。
相手の戦力を知らずに戦いを挑むのは愚か者の所業だ。
「どうかしら。マリュウ、何かわかる?」
「すみません。私もシャイア教とはこれまであまり接点がなかったもので……」
やはりそうか。
「たくさんいるに決まってるわ!」
突然ジュリアが力説し出した。
「どうしてジュリアにそんな事がわかるのよ」
「私たちがペピンを出てまだ1日しか経ってないのよ。それなのにもう8人もあんな特殊な連中を指し向けて来た。キャリオだけじゃなくグルド全体……ううん、ラインガルド中にそういう連中がいるって事でしょ」
「ジュリアにしては的確ね。確かに手回しが良すぎるわ」
「にしては、って何よリズ」
「ああ、ごめんなさい。忘れて」
「なら最初から言わないで」
「はいはいそこまで。時間がない。本題だけに集中しよう」
こんなやりとりがあっても、実際のところはそこまでお互い気にしているわけではない。
重苦しい話題、先の見えない議論から少しでも気持ちを逸らせるための、息抜きなのだ。
とはいえ放置して万が一本気になられても困るし、時間がないのも事実だ。
適当なところで仲裁に入るのは司会者の役目ってね。
あー面倒臭い。
「あいつら、全員瞬足使ってなかった?」
「使っていました! 師匠とほとんど同じ速さでしたから」
「やっぱり? ちょっとショックだな……」
「ですが、瞬足にしては最初の移動は少し距離が長かったように思います」
「え、マリュウ。それってまさか……」
ジュリアが言葉を濁した意味がオレにもわかった。
――超足だ。
「まさか! 超足は師匠が編み出した技のはず!」
「瞬足は元々直線的な動きにしか対応できない戦技よ。でも彼らはアスカと同じように自在に動けていたわ」
「それじゃやっぱり……」
「まぁ別に超足と全く同じじゃなくても、似たような発想で訓練して習得した可能性はあるだろうね」
「そんな呑気な事言ってる場合じゃないわ。敵がみんなあんなの使ってきたら私たちどうすればいいのよ!」
ジュリアの心配も尤もだ。
オレだってやめてくれと言いたい。
「でもやはりあれはアスカの超足とは別物よ」
「そうなの? どうしてリズにわかるのよ」
「アスカと同じ速度が出せたのは直線的な動きの時だけよ。自在に動けてはいたけれど、その時の動きはアスカの超足とは比べものにならない……速いけれど、私でも目で追える程度の動きだったわ」
「確かに。そう言われると私も動きを追えてた……」
うん、確かにピンピンは互角に戦えてたよ。
「そっか。至近距離だと急に動かれたら消えたように見えるけど、ある程度距離を取れば見える程度だったわね」
「という事はアスカさんの超足を盗んだ訳ではなく、彼らなりの暗殺術の訓練過程で獲得した独自の技術という事になりますね」
「いずれにしても厄介な事に変わりはないわ。あの恰好の敵を見かけたら要注意よ」
リズの言葉に全員が無言で頷く。
うん、やはりこうしてそれぞれの感じた事を共有してすり合わせるのは大事だと改めて感じた。
漠然とした不安よりも、明確な脅威の方が対処しやすい。
何より心の持ちようが全然違う。
「あ、ごめん。もうひとつあった。あのリズたちの方にいた敵が使った魔法なんだけど……」
「空から火の玉が落ちて来たヤツ!」
「そう、ジュリアそれ! あれについて誰か知ってる?」
みんな自然にマリュウの方に視線を向ける。
マリュウが困ったような顔になりつつも、何か思い出そうと顎に左手の甲をくっつけて考える。
「うろ覚えで恐縮なのですが、異なる属性の魔法を同時に操る方法があるそうです」
「ウソ!? そんな事が出来るの!?」
「でもあれはどう見ても火属性だったわ。魔法に疎い私でもわかる……」
オレもピンピンに同意。あれは火属性だと思う。
「いえ、確かな事はわかりませんが、私の見た所ではあの魔法は火属性と土属性の魔法ではないかと」
「え? どの辺が土なの?」
「基本が土属性なのです。あれは落石の魔法です。それに火属性を加えたのではないかと思います」
ああ、なるほど!
隕石は石や鉱石だから土属性になるのか。
それに火を加えて……ってやっぱメテオじゃねーか。
土属性に火属性ならオレにも出来るかも!!
「ねぇマリュウ。落石の魔法って石がないところでも出来るの?」
「はい。石を上空に生成するだけです」
「だけ、ねぇ……」
うっは。それはまだやった事ない。
あんま出来る気もしないなぁ。
すると目の前でマリュウが手の平を上の方に向けて集中し出した。
次の瞬間、マリュウの手の上30cmぐらいの空中に直径2cm程の小石が現れたかと思うと、そのまま手の上にポトンと落ちた。
「こんな感じですね」
おお! とリズ以外の3人がハモった。
「私は大きな石の生成が苦手なのであまり使いませんが、隆起や陥没なら比較的得意です」
うん、それはカカ山の採掘穴で見たからよく知ってる。
あ、いかんいかん。話を戻そう。
「魔法を使えたのはリズとマリュウが相手してた2人だけかな」
「こっちの方は誰も使ってなかったわよね? ピンピン」
「そうね。使われてたらちょっと危なかったかも」
それなら魔法が使える2人を予めリズとマリュウの足止めとして充てがった事になる。
「やっぱり火属性と土属性だったの? リズ」
「私が相手をしたのは雷属性だったわ」
「それじゃ、リズの得意なのと一緒じゃない」
「そうよ。だから厄介だったわ」
同じ属性同士の魔法では効果が減殺されてしまうらしい。
多少威力の違いがあっても同じなのだそうだ。
圧倒的な差があれば別なのだろうが。
確かにリズは至近距離でバチバチやり合ってたっけ。
あれは両方雷だったからなのか。
「それじゃ、火と土のヤツはマリュウ?」
「はい、そうです。リズ様の相手もそうでしたが、魔法の方もかなりの腕前だったように見受けられます」
やはり、そうか……。
「使えるのが2人だけで助かったわ」
ジュリアならずとも誰しもそう思うに違いない。
「でも雷属性の得意なリズさんへ雷属性の敵、土属性が得意なマリュウさんへ火と土の敵でしょ。これって偶然だったのかしら」
ピンピンが何気なく呟いた事実に、オレは驚愕した。
「こっちの手の内がバレてるのか!?」
「どうして?」
思わず口走った言葉にジュリアが即行聞き返す。
そんなの知るか。
逆に教えて欲しいわ。
ふと、思い当たる事があって客車の窓から外を見る。
目を凝らして、見える範囲を凝視。
「どうしたの急に。ねぇアスカ」
「バニーニを探してるんだ。ジュリアも探して!」
「え、バニーニ? どうして?」
「まさか! アスカあなた……」
「確かに有り得る話です」
「私も探します、師匠」
みんなで窓からバニーニを探す。
が、当然ながら見当たらない。バシャは結構な速さで走っている上、周囲の見通しはあまり良いとは言えない。
道から少し外れると林になっていて、そでまでの間は長い草が生い茂っている。
「やっぱり無理か」
何気なく空を見上げたら、鳥が空を舞っていた。
しばらく見続けていると、単に舞っているのではなくオレたちのバシャについて来ているように思えて来た。
「ピンピン! ちょっと上見て」
「はい師匠。……鳥ですね」
「なになに? あ、ホントだ。あれはピーね」
ジュリアも窓から頭を出して上を見上げながら言った。
「ピー?」
「ピーヒョロロロロって鳴くからピーよ」
ジュリアの言うピーという鳥はオレらの世界でいう所の鳶のような鳥だと思われる。
「もしバニーニじゃなく、あの鳥も操れるとしたら……」
「それじゃまさか!」
「ここからではよくわかりませんが、可能性はあります」
全員窓から顔を出して上を見上げている。
ニナが不思議そうな顔でそれを御者席から眺めていた。
客車の中に戻り、改めてうんざりした顔で見つめ合うオレたち5人。
「状況から考えて間違いないと思う。オレたちは動物を使って監視されている」
「それで居場所やそれぞれの戦い方なんかも全部バレちゃってるってわけね」
「なんて事……」
リズが忌々しそうに吐き捨てる。
「でもいつから見張られてたのかな」
「うーん、少なくともヤルタと戦っている時から、じゃない?」
「私もそう思います。おそらくバニーニはヤルタの監視役だったのではないかと」
「なるほど、その方が納得がいく!」
バニーニはヤルタを監視していた。
実験の進捗もあるだろうが、オレたちが来るのがわかっていたのであればヤルタを見張っていればいいのだ。
何より、あんな風にヤルタが尋問されるような状況になった時の奥の手でもあったのかもしれない。
その後、ヤルタを倒したオレたちの監視に移行したのだろう。
監視役は時にはバニーニであり、時にはピーであり、他にもまだ何かいたのかもしれない。
最初のバニーニだけでオレたちをずっと追跡するのは不可能だからだ。
その間、何の警戒もせず一方的に敵に情報を与え続けていたのだ。
クソッ!!
「でもどうするの? 動物の監視を避ける方法なんてある?」
「片っぱしから殺すわけにもいかないしな」
「なんて事を言うんですか師匠!」
「冗談だよ、ピンピン。冗談」
「師匠の冗談はいつも趣味が悪すぎます」
「えー、ひどいなそれは」
「ピンピンの言う通りよ。ちょっとは反省しなさい」
ひー、軽い冗談のつもりが親友と弟子から叩かれる羽目になった。
ま、でもこれも本気のやりとりじゃないからいいんだけど。
「でもマズったなぁ」
「なにが?」
「さっきみんなで窓から顔を出して上を見上げちゃったろ」
「それがどうかしたの?」
「向こうにもバレちゃったなぁって」
「あ…………」
ジュリアも気が付いたらしい。
うーん、こっちが気付かない体でいた方がまだ対策が出来たような気がする……。
痛恨のミスだ!
「たまたまあの時は見てなかったって事は……」
「そんな都合のいい事あるわけないだろ」
「でも四六時中見張ってる訳でもないんじゃ……」
「だからって見られてない前提で考えるなんて危険すぎる」
「だよね……」
ごめんジュリア。元々はオレのせいなのに。
そこから敵はどうやって動物を操っているのか、操る動物をどうやって決めているのか、操るための条件は何かなど色々議論したのだが、そもそも現段階では全ては何ら根拠のない憶測の域を出ず、結論など出るはずもなかった。
ただ、あくまで常識的に考えた場合、以下の2点はまず間違いないだろうとなった。
同時に操れる動物は1体。
幾つかの動物を切り替えて監視している。
それがわかったから何だというかもしれないが、前提として頭に入れておくに越した事はない。
「いつの間にかもう夕方よ」
ジュリアが窓の外を見て言った。
確かにもう陽は落ちかけている。
「シン! パルピンまであとどれくらいだ?」
「このペースなら2~3時間ですが、もうすぐ陽が暮れるので……たぶんもっとかかります」
「わかった。それじゃ無理しなくていい。最悪パルピン手前で夜営だ」
「わかりました」
シンにはそう伝えて客車のみんなに向き直る。
「今日中にパルピンに着かなくていいの?」
「そのために急いで来たんですよね、師匠」
「何か考えがあるのね、アスカ」
リズに促されたので作戦、というかさっき思い付いた事を話そうと思う。
会話まで全て監視されているわけがない、という前提にはなるが、パルピンまで急いで行かない様子を監視を通して見せる事で、向こうの油断を誘いたい。
しかも、後少しのところで夜営をすれば一晩猶予が出来たと向こうは思うだろう。
もうパルピンから逃げ出してなければ、の話だが。
そこで、夜になってから監視の目を逃れて何人かで走ってパルピンへ向かう。
居残り組は夜営を続けて監視を引き付ける。
今夜のうちにユミロフと協力者を確保してしまおうという考えだ。
「ちょっと無謀な作戦のように思えるのだけれど」
「まず監視の目を欺いてパルピンへ行けるかどうかが、最初にして最大の難関ではないでしょうか」
リズとマリュウの言葉は客観的な意見だと思う。
一方、ジュリアとピンピンはと言うと……。
「パルピンへ行くのは当然私よね?」
「私も行きます、師匠!」
誰がパルピンへ行くのかどうかに関心が集中してしまっているらしい。
おい、もっと考えてくれよ。
ちゃんと他の人の意見を聞きたくて説明したんだから。
「あなたたち、それしか言う事はないの?」
「それが一番大事な所じゃない! 何言ってるのよ」
「それじゃ、リズさんたちが留守番でもいいんですよね?」
「私がいつそんな事を言ったかしら。当然、私たちも行くわ。ねぇマリュウ」
「でも、それでは誰も夜営組に残らなくなってしまいます」
おいおい、だから編成について話す前に作戦そのものの是非をだな。
「それは後で決めよう。その前にまず作戦の中身を一緒に考えてくれ」
「もちろんよ、アスカ」
「わかりました師匠」
「あの、そろそろ監視の動物が切り替わる頃だと思います」
「えっ!?」
みんなオレと一緒に驚いた顔をしてマリュウを見たよ。
なんでそんな事がわかるの?
「今監視しているのがさっきのあのピーだったと仮定すると、もうすぐ陽が暮れますので他の動物に変更しないと見えなくなります」
「ああ、鳥は夜目が利かないものね。確かにそうだわ」
そうか、鳥目って言うしな。
「だとすると、どうやって切り替わるのかを見るチャンスって訳だな」
「はい。うまくいけば、ですが」
ナイスだ、マリュウ!
「全員、敵に悟られないようにしながら鳥と周囲に注意するんだ!」
「でも師匠、作戦は……」
「それは後でもいい。今はこっちの情報が少しでも欲しい」
「わかりました」
ピーはまだオレたちのバシャの上をくるくる飛んでいる。
だいぶ陽が傾いて、空が赤やオレンジや黄色になってきた。
ピーが少しづつ高度を下げているような気がする。
そろそろか――。
「あっ!」
ジュリアが声を挙げた。
ピーが急に興味を失ったかのように四時の方向へ飛び去って行ったのだ。
「誰か何か気付いたか?」
思わずみんなに尋ねる。
「シーッ」
マリュウが口に指を当ててオレたちを制する。
「どうしたのマリュウ」
リズが小声で尋ねると、マリュウが客車の前の方を指差してツンツンした。
まさか――。
「どうしたの?」
「なんですか?」
シッとオレも口に指を当てる。
オレとマリュウとリズが顔を見合わせ、頷く。
「ちょっと何なのよ、もう!」
シッ。
ジュリアうるさい!
仕方ないのでジュリアとピンピンに手招きをして近くへ来させて、耳元でこっそり教える。
「オレたちのバシャのパカラだ」
2人同時にビクッとしたように顔をこちらに向けた。
目と口が大きく開いてるw
そんな顔見たら男がみんな逃げていくぞー。
もしかすると最初からそうしていた可能性すらある。
シャイア教との戦闘の時、ピーに変更してその後上空からパカラに移動。
それ以降は空からと地上からを交互に見ていたとか。
そんな事よりも、これでさっきの作戦がやり易くなったかもしれない。
パカラの視界さえ何とかすればいいのだ。
ただ、聴覚まで利用している場合は話が聞こえないようにする必要があり、厄介だ。
しかもオレたちがそれと気付いていないように振る舞う必要もあるため、演技力まで要求されるときてる。
これはなかなかの難題だぞ。
悩む間もなく、夕闇が訪れた――。
読んでいただき、ありがとうございます。
正体のわからない敵との密かな戦いが始まっています。
果たしてどうなるのか、まだ私にもわかりませんw
引き続き、応援よろしくお願いします




