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(35)オレは若い男に告白される

 穴の中から引き上げた若い男。

 彼はどうやらオレとピンピンを知っているらしい。


 なんとなく見た事があるような気はするものの、少なくとも知り合いではない。

 

 思い出せそうで思い出せない気持ち悪さを抱えつつ男を見下ろしていると、ピンピンの方が先に何か思い当たったらしい。


「あなたは……確かウルズスラで演武会に出てくれた……」

「はい! シンです。お久しぶりですピンピンさん! やっとお会いできました!」

「え!?」


 事情が呑み込めないのはオレたちも一緒だから安心しろピンピン。

 

 だがピンピンの言葉でオレも思い出した。

 確か演武会の試合に2回も出ていたモノ好きな細身の受け流し男。

 そう言えばこんな顔してたな、うん。


 でもあれ?


「あなた、もしかしてシン・ミツルギなの?」

「それでは捜索対象の!?」


 後ろからリズとマリュウが叫ぶ。

 

 そうか、言われるまで気付かなかった。

 まさか今回の依頼の対象者が知っている人間だったなんて。

 しかも、こうして生きている……。


「はい、そうです。みなさんは……うっ!」


 シンが起き上がろうとして苦痛の呻き声をあげる。


「動かないで。どこか怪我をしているの」

「あ、はい。でも大した事ありません。大丈夫です」


 いや、大丈夫じゃないだろう。

 

 見たところ、シンは右腕と左足を負傷している様子だった。

 なるほど、それで自力で穴から出られなかったんだな。


 こういう時は、と――。


「ロビィ」

「わかっています」


 すぐにロビィが治癒魔法を左足に当てる。

 すると、シンの右腕の方にリズがしゃがみ込んで手をかざす。


「え、まさかリズも?」

「リズ様は治癒魔法を得意としておられます」

「得意は言い過ぎよマリュウ」


 こちらを見もせず治療を続けるリズ。


「ああ、なんだかポカポカしてきて気持ちいいす! これが治癒魔法なんですね。すごいッ! ボク初めてなんです」


 なんかちょっとヘンな風に聞こえるからその言い方はやめろ。

 若い男のボク初めてなんですなんて誰も聞きたくないわ。


「あ、良く見たらロビーナさんだ! ジュリアさんもいる! 森のジュリアス揃い踏みだぁ。うわぁ、感激だなぁ」


 なんだこのミーハー男は。

 もしかして演武会の一件でオレたち全員覚えられてしまったのか。

 確かにあの夜以降ちょっとした有名人だったけれども。

 

「あなたたち、そんなに有名だったの」


 リズが真顔で質問してくる。


「まぁね。ゴルテリアではちょっとしたものよ」

「ジュリア、ウソはよくないぞ」

「ウソじゃないでしょ別に」

「ゴルテリアは言い過ぎだ。せいぜいウルズスラまでだろ」

「……アスカのケチ」

「ケチで結構」

「それで、結局どっちなの。有名なの、有名じゃないの?」


 リズが痺れを切らして答えを急かす。


「森のジュリアスを知らない人はウルズスラにはいませんよ! ボクたち冒険者の憧れの存在です!」


 シンが圧倒的支持を表明すればするほど、なんとなく居心地が悪くなってくる。


「まぁ! どうもありがとう。これからも応援よろしくね」


 おかしなポーズを作って応えるジュリア。

 どっかのアイドルのテンプレのような言葉だが、シンは感激ひとしおの様子。


「お取り込み中申し訳ないのだけれど、少し聞いてもいいかしら」


 そしてリズの誰何コーナーの始まり始まり~。

 腕を治療しながらの質問なので、シンに逃げ場はない。


「あ、はい。何でも聞いてください」

「あなた、この穴に落ちたのはいつ?」

「え~っと、たぶん3日前……だと思います」

「その間飲まず食わずだったの?」

「いえ、食糧は多めに携帯していましたし、水も昨日まではありました」

「なかなか用意が良かったみたいね」

「はい。ありがとうござます」


 意外と素直な青年じゃないか。

 ちょっと好感度上がったぞ。


「それで、あなたのお仲間はどうなったの」

「それがですね、実はボクも探していたんです」

「……どういう事?」

「この山に入って2日目に、上の方にある洞窟みたいな所で亜人に遭遇して、これはマズイと思ってみんなで逃げたんですけど、気が付いたらいつの間にかボクひとりになってしまっていて……」

「それで?」

「仲間と合流しなきゃと思って山の中を探していたら、この穴に……」

「落ちたのね」

「はい」


 なんという間抜けな……いや、幸運なというべきか。


「あなたの言う事が本当なら、この山の中を4日間も歩き回っていた事になるわね」

「はい、たぶんそうだと思います」

「その間、他に亜人とか魔物とか人間には出会わなかったの?」

「亜人は何度も見かけましたがすぐ逃げたり隠れたりしてやり過ごしました。魔物は何体かは倒しました。人間は……あ、穴に落ちる前の日に村のような所で一晩泊めてもらいました。すごくよくしてもらって、食事も振舞ってもらって……本当にいい人たちでした。今度改めてお礼に行こうと思ってます」


 シンの話の最後の方はみんなしんとしてしまった。

 あ、いや、シャレじゃないんで。

 

 シンに伝えるべきか、黙っておくべきか。

 そんな空気が流れ出した時、ロビィが治療の終了を宣言した。


「治療は終わりました。もう歩けるはずです」

「早いわねロビーナ。こっちももう少し……そうね、これで大丈夫」


 リズの治療も終わったらしい。


「ありがとうございます!」


 礼を言うなりすっくと立ち上がるシン。

 その場で二度三度と飛び上がって左足の状態を確認すると、右腕で剣を抜いて素振りをしてみせる。


「本当にもう全然痛くないです! すごい! ありがとうございます!」


 礼を言うの何回目だよ、と思いつつもその元気な様子につい微笑んでしまう。

 

「あの、それでみなさんはどうしてここに?」


 シンよ、お前を助けに来たんだよ。

 今更それを聞くのか。


 ジュリアが呆れた口調でシンの疑問に答える。

 

「あなたたちが全然帰って来ないからペピンの冒険者組合が捜索の依頼を出したのよ」

「ええっ、それじゃボクたちのためにわざわざ来てくれたんですか?」

「そうよ、感謝しなさい」

「ありがとうございます! ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんッ!」


 まぁその依頼も今となってはもうどうでもいいんだけどね。

 全部説明するのは面倒だから黙っていよう。


「あの、みなさんもうご存知かもしれませんがこの山、本当にすごい数の亜人がいるんです。特に赤いドルガは危険です。ボクもそいつにやられて怪我をしてしまったんです」

「え、あの怪我、穴に落ちた時のじゃないんだ?」

「やめてくださいよアスカさん。仮にも冒険者なんですからそんなドジ踏みませんよ」


 お、おう。なんかごめんな。


「ラドルガと戦って怪我程度で済んだなんて、あなた実は強いの?」


 リズがシンに向かって疑惑の目を向けながら質問する。


「あの赤い亜人、ラドルガって言うんですか? 知りませんでした。でもボクはまだ全然強くなんてないです。この通り赤札ですし、ピンピンさんにも全然歯が立ちませんでしたから」

「ピンピンと戦った事があるの?」

「はい。ウルズスラで一度。試合でしたけど」

「そう。でも赤札は恥ずかしい事じゃないわ。私たちだってホラ……」


 リズが腰の赤札をシンに見せる。

 シンはリズの赤札を見た後、順繰りに周りのみんなの札を確認する。


「みなさん、ボクと同じ赤札なんですね! うわぁ、なんか嬉しいなぁ」

「私はまだ黒札だけど……」


 ピンピンが拗ねたようにシンを睨む。


「ピンピンさんはボクなんかより全然強いじゃないですか! 札の色なんか関係ありませんよ!」


 これには苦笑いするしかないピンピン。

 

 さっきまで赤札で騒いでいた男が……この軽さはちょっと気になる。

 素直だけど軽薄、うーん。


「それでラドルガの話だけど……」


 話を戻そうとするリズ。


「ああ、すみません。ラドルガってヤツに会ったのは村に泊めてもらった次の日です。あんな村の近くで亜人が出るなんて思ってなくて、ちょっと油断してしまったんです。林の中を歩いていたら少し先の藪の向こうに赤いラドルガがいて……。それで慌てて逃げようとしたんですけど、斧みたいなのが2本飛んで来て足と腕をやられてしまったんです」

「ああ、あの斧ね。でも怪我をしてよく逃げられたわね」

「そうなんです。ボクも不思議でした。斧は飛んで来たんですけど、ラドルガ自身は追って来なかったみたいで」

「その場所、わかる?」

「場所って、ラドルガを見かけた場所ですか」

「ええ、そうよ」

「たぶん……逃げる途中でこの穴に落ちましたから」

「案内して頂戴」

「わかりました」


 こうしてシンの案内でラドルガのいた場所を探す事になった。

 

 リズがどうしてその場所に拘るのかいまいちわからなかったが、亜人の拠点又はシャイア教徒との関連について何か手掛かりが得られるかもしれないので、特に反対する理由はなかった。

 おそらく他のみんなも同じだろう。


 シンとリズにマリュウが続き、その後にオレたちが従う形。

 

「あの、リズさん……」

「エリザベス様です!」


 シンがリズに話しかけようとした所を食い気味にマリュウが一喝する。


「マリュウ。そんな声を出さなくても」

「申し訳ありません。ですがこんな男までリズ様の事を慣れ慣れしく呼ぶなど許せません」

「すっ、すみません。みなさんがそう呼んでいらっしゃったのでつい……ごめんなさい」

「いいのよシン。気にしないで」


 リズが優しく慰めるが、マリュウは許してくれない。

 シンのまん前に仁王立ちになって再度詰め寄る。


「エリザベス様です!」

「は、はい……」


 すっかり畏まってしまったシン。


「それでシン、何か話があったのでしょう」

「あ、はい。さっきラドルガの斧の事を話した時に、エリザベスさん……エリサベス様が知っていらっしゃるような口ぶりだったので気になって……」

「ああ、斧の話ね。あの斧は厄介だったわ。ね、アスカ」


 リズがわざわざ後ろを向いてオレに話を振って来る。


「ああ、あのくそ熱い炎が鬱陶しかったな」

「確かに。リズさんは髪の毛チリチリになってましたよね」


 ピンピンも話に乗ってくる。

 むしろオレよりピンピンの方があの両刃斧については語れるんじゃないか。

 あれだけ接近戦でやり合ったんだから。


「ほんと、最低だったわ。もう治癒魔法で修復したけど」


 え、髪の毛に治癒魔法効くんだ?

 っていうかいつの間に……。

 

「あの、なんだかみなさんもラドルガに遭遇した事があるように聞こえるんですけど」


 シンがおそるおそるといった感じで聞いてくる。

 怖いのはラドルガであってオレたちじゃないぞ。


「遭遇したっていうか、倒したわよ。師匠が。あっという間に」

「ピンピン、あっという間は言い過ぎだ」

「ええっ!? ラドルガを……倒した?」

「師匠が、ね」

「アスカさんが……まさか、あんなバケモノを……」


 おいやめろ、オレをバケモノを見るような目で見るな!


「まぁ私たちも実際にこの目で見てなければ信じられないでしょうから、気持はわかるわ」

「なんたってアスカの見た目はこんなだもんね」


 リズとジュリアが茶々を入れる。


「ちなみに倒したのはついさっきよ」

「ええ~ッ!!!!」


 ピンピンもうやめてあげて。シンが気絶しちゃう。

 シンもその大袈裟なリアクションやめろ。


「すごい、さすがアスカさんだ! やっぱりアスカさんはボクの憧れの冒険者です!」


 なんかシンの態度が豹変したんですけど。

 そのキラキラした少女漫画の主人公みたいな目をやめろ。

 オレに向けるな!

 

 そして周りのみんなが生温かい目で見ているのもすごく気持ち悪い。


「あの! アスカさん!」

「な、なんだよ急に」

「ボクもアスカさんの弟子にしてくださいッ!!」

「はい?」


 藪から棒に何を言い出すんだこの男は。


「プンクル演武団の人達から聞きました。ピンピンさんがアスカさんに弟子入りしたって。そうなんですよね? ピンピンさん!」

「ええ、そうよ。でもあなたはダメ。師匠の弟子は私ひとりで充分よ」

「そんなぁ~。いいじゃないですか、ボクも入れてください! お願いしますッ!」


 叫ぶなり地面に伏せるシン。

 出た! 土下座!

 

 半沢直樹以降何かとお約束のようになってしまった不条理ポーズ。

 リアルに見たの、初めてだよ。

 しかも自分がされる側なんて……。


「悪いけど弟子はとってないんだ。諦めてくれ」

「でっ、でもピンピンさんは……」

「ピンピンは特別」


 フフン、とピンピンが自慢そうに鼻で笑うのが聞こえた。

 おい、お前が得意になるな。


「どうしてもダメですか?」

「ダメ」

「そうですか……。無理を言ってすみませんでした」


 やっと引き下がってくれた。

 というかこういう所も素直なのはやはり好感度アップだ。

 だからって弟子にはしないけどね。


「もういいだろ。そろそろ立てよ」

「あ、はい。すみません」


 やっと立ち上がるシン。

 膝から下が泥だからけだが気にもしない様子だ。


 すると急にジュリアの方を向いて姿勢を正した。


「あの、ジュリアさん! ボクを森のジュリアスに入れてください!」

「えっ? うちのギルドに?」

「はい! 是非みなさんと一緒に冒険者を続けたいんです!」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、ねぇアスカ」


 またこっちに振るのか。

 オレに二度も断らせる気かよ、やめてくれ。

 

 それに第一弟子を断られた直後に今度はギルドに入れてくれって調子良すぎだろコイツ。

 前言撤回。とんでもないヤツだ。

 

「シン、悪いけど弟子がダメならギルドってのはちょっとどうかな」


 しょうがないからまんま言っちゃったよ。


「……そうですよね。調子良すぎますよね。すみません」


 すみませんも今日何回目だ?


 それまで黙って見ていたリズが待ちかねた様子でシンに声をかける。


「もういいかしら。そろそろ暗くなって来たわよ」

「ああっ、すみません。ボクのせいで……」

「それはいいから案内の方をお願い」

「わかりました」


 そう言うとシンは再び案内を始めた。

 

 が、穴に落ちて3日経過しているのでその直前の記憶は定かではないのか、あっちこっちフラフラと彷徨った挙句とうとうギブアップ宣言が飛び出してしまった。


「すみません! もう無理です! やっぱり思い出せません」


 おいおいおい……。

 さすがのリズもこれ以上強要しても無駄と悟ったのか、首を振ってお手上げのポーズ。


「向こうです!」


 いつの間にか木の上に登っていたロビィの鋭い声が響いた。

 

 ロビィの示す方へ行くとそこには――。



「これは……」


 ピンピンが絶句。

 だが、リズは容赦しない。


「シン、これを見て」

「は、はいっ」


 少し前に見たミト村での惨劇を思い出させるような光景。

 

 人間、だったものの残骸が散乱している。

 そしておそらく彼らの所持品と思われるもの……。


「うおえええええええっ!」


 見るなりその場で嘔吐するシン。

 無理もない。


「男のくせに……だらしないわね」


 ジュリアの叱咤も言葉ほどにはきつく響かず、むしろ同情心に溢れているように聞こえる。


 しばらく放置してシンの気持ちを落ち着かせよう。

 ピンピンが背中をさすってやる。


「もう大丈夫です。ありがとうございますピンピンさん」


 うずくまっていたシンが立ち上がると、待っていましたとばかりにリズが声をかける。


「落ち着いたらちゃんと見て。どう? あなたの仲間?」

「……はい。少なくともその辺に落ちている装備やなんかは一緒にいた人たちのもの……だと思います」


 気力を振り絞るように話すシン。


「あ、赤札と黄札!」


 ジュリアが少し離れた所でそれらしきものを拾い上げる。


「クロウ・チョリス……ニール・フォックス。間違いないわね」

「確かに、名前は合っています」


 ジュリアが名前を読み上げ、マリュウが確認する。


「そんな……ウソだ……みんながこんな……」


 シンの顔色が一層青くなる。

 もはや真っ白といってもいい。


 ロビィが静かにシンの所へ歩み寄り、何かを渡す。

 それを見たシンが崩れ落ちる。

 

 ――号泣。

 

「ロビィ、あれは……」

「白札です」


 もうひとりは白札の女性だったはず。

 そうか、これで3人分……。


 女性の遺体らしきものは見当たらなかったが、ミト村の時のように骨まで食われたのだろう。

 

 シンがここでラドルガに会ったその時、まさに喰われていたのだ。

 ラドルガ以外にも亜人がいたのかもしれない。

 新鮮な食事に夢中だったからこそ、シンは見逃してもらえた。

 

 やせ細っている男のシンに、食欲をそそられなかったのもあるかもしれない。

 いずれにしろ、幸運だったのだ。



*****



 ――辺りはもうすっかり暗くなっていた。

 

 さすがにシンの手前というのもあって同じ冒険者の遺体はそのままにしておく事もできず、穴を掘って簡単に埋葬してやったために時間を取られてしまった。

 今日はもうこれ以上移動するのは難しい。


 ここでキャンプを張るしかない。

 

 オレたちはまだ初日という事もあり、幸い食糧も水も充分にある。

 野営用のアイテムも幾つか揃っているので、早速火を起こし焚火を囲んで食事にする。

 

 まだ今日一日の疲れやショックが抜けきらないためか、最初は無言で食べていたのだが、そのうち無理矢理にでも雰囲気を変えようと主にジュリアとピンピンが話をし出して、それにリズとマリュウ、そしてシンが加わるような形で次第に盛り上がっていった。


 オレはピンピンの左隣にいたので、ピンピンとシンの会話が自然に耳に入ってきた。


「そう言えばウルズスラにいたシンがどうしてペピンへ来ていたの?」

「演武会に出てみてボクもプンクルを習おうと思って、演武団の皆さんと一緒に移動したんです」

「あ、そうだったんだ。へぇ」

「てっきりピンピンさんも一緒だと思っていたらウルズスラに残ったって聞いて、びっくりしちゃいました」

「でも先にペピンに行ったんだ」

「はい。少しでも早くプンクルを習いたくて」

「それじゃ、うちの道場にももう行ったの?」

「はい! 着いたその日に入門しました」

「そうなんだ。指導は誰に?」

「セイラン師範代が直々に稽古をつけてくださってます」

「え! セイランが? 珍しいわね」

「そうなんですか?」

「入門したばかりの練習生に稽古をつけるなんて、初めてかも」

「そうなんですか。じゃあボクも早く上達しないとセイラン師範代に申し訳ないですね」

「シン。プンクルは誰かのためじゃなく自分のためにやるものよ」

「あ、はい。わかりました」


 相変わらず返事だけは素直でいいな、シンは。

 

「あの、ピンピンさん」

「なぁに」

「ピンピンさんはどうしてアスカさんに弟子入りしたんですか」

「……それはもちろん、師匠が世界一強いと思ったからよ」

「世界一、ですか」

「そうよ。だってラドルガを一瞬で倒しちゃうのよ」

「みんなそう言ってましたけど、ボクは見たわけじゃないので……ちょっとまだ信じられないんです」

「別にいいんじゃない。どうせそのうちシンもわかるわよ。師匠の強さが」

「はぁ……」


 オレの話題が出たので一時はどうなるかと思ったが、軟着陸してくれて助かった。


「あの、もうひとついいですか」

「いいわよ」

「ピンピンさんも森のジュリアスに入ったんですか」

「いいえ、私は師匠の弟子。それだけよ」

「でも森のジュリアスのみなさんと一緒に行動してるんですよね」

「そうなるわね」

「それなら森のジュリアスに入るのが自然のような気がするんですけど」

「どうして? 私にとっては師匠の弟子でいる事の方が自然よ」

「それじゃあ、もしボクがピンピンさんの弟子になったら?」

「え!?」

「ボクがピンピンさんの弟子になったらボクも一緒にいていいんでしょうか」

「知らないわよ。それに私は弟子なんか取るつもりはないわ。自分の修行だけで精一杯なのに人の面倒まで見きれないわよ」

「そうですか……」


 驚いた。

 シンはまだ諦めていなかったのか。

 というかその執着心はどこから沸いて来るんだ?

 いい加減諦めろって。

 なんか怖いし。


「変わった子よね」


 隣のジュリアが一連の会話を聞いていたのか、オレに話しかけてきた。


「シンのこと?」

「ええ。なんか憎めないのよね」

「まぁ素直な性格っぽいからな」

「シン! あなた年は幾つなの?」


 突然ジュリアがシンに向かって声をかける。

 弟子入りを断られて傷心中のシンが急に話しかけられてドギマギしながら答えた。


「この間、20になりました」

「えっ、年上!?」

「ジュリアさんは何歳なんですか」

「女性に年齢を聞くなんて失礼ね。20にもなったならそれくらいの礼義は弁えて欲しいわ」

「おいジュリア、年上にその言い方は礼義正しいとは言えないぞ」

「シンはいいのよ、別に。ねぇ」

「え、ああ、はい。ボクは別に構いません」

「シン、本当に20なの? 私、てっきり同じくらいの年齢かと思ってたわ。ごめんなさい」

「そんな! ピンピンさんはボクより全然強いんですから気にしないでください」

「強いとか弱いとかは関係ないじゃない」

「いえ! 大事です!」

「あははは、シンったらヘンなの」

「えっ、ボクのどこがヘンなんですかジュリアさん」

「それがわからないところッ」


 女2人に煙に巻かれるシン。

 オレもシンさんと呼ぶのはなんだか違和感があるのでシンのままにしておこう。


「あ、そうだリズ! リズとマリュウってどこの出身なの?」


 ジュリアが思い出したように2人の出身を聞く。

 確かロビィの話ではアスリーデ王国で見かけたんだっけ。


「私とマリュウはアスリーデの生まれよ。ジュリアはどこなの?」

「私はトット村。隣のゴルテリアの南にある小さな村よ、知らないでしょうけど」

「トット村なら知ってるわ」

「えっ、そうなの? どうして?」

「だって、英雄トットナムの出身地じゃない。誰だって知ってるわよ」

「トットナムならボクも知ってます! 17年前のアスリーデ戦役の英雄ですよね! ジュリアさんと同じ出身だったなんて、羨ましいです!」


 思わぬ所から自分の方へ飛び火して困った表情のジュリア。

 アスリーデの人なら確かにその話になる可能性はあった。

 ミスったな、ジュリア。

 これは例の話を回避するのは難しそうだぞ……。


「そ、そうなんだ。へぇ~」

「ちょっとジュリア! トット村の出身なのにトットナムを知らないなんて有り得ないわ! どうなっているの?」

「あのさリズ。トット村の人達はあまりトットナムの話はしないみたいなんだ。理由はわからないんだけど」

「そうなの? 村出身の英雄なのにどうして?」

「そこは色々と事情があるんじゃないかな」

「どんな事情なのよ。アスカもトット村出身なの?」

「いや、オレは違うけど」

「じゃあどこなの」

「……あまり言いたくないんだ。ごめん」


 オレも間違えて自分の方へ飛び火させた揚句、最後は思い切り場を白けさせてしまった。


「アスカにはアスカの事情があるのよ。無理に詮索するのはやめよ、ね」


 助けたジュリアに助けられるの図。

 だが一度白けた空気はなかなか戻るのが難しい。


「あの、ボクの出身は隣のゴルテリアにあるリト村って言います。ウルズスラの近くでトット村の北の方……になるのかな」

「あら、シンもゴルテリア出身だったの? 奇遇ね」

「奇遇っていうか、最初に見かけたのもウルズスラだし、割とみんな近場だよね」


 ジュリアが乗っかったのでオレも便乗。


「そうですね! むしろピンピンさんがわざわざウルズスラまで来てくれてた事が奇遇っていうか、奇跡みたいなもので」

「奇跡は大袈裟よ、シン。毎年行ってたんだもの」

「あ、そうでしたね。あはははは」


 シンはシンなりに場の雰囲気を変えようと努力してくれたらしい。

 そしてその努力は少しは報われたようだ。


 その後も他愛のない話が食事が終わっても続いた――。



 そんな中、ロビィだけは少し離れた位置にひとり腰掛けたまま一貫して沈黙を守っていた。

 視線は足元に落としつつ、そこは見ていない。

 

 みんな食事の最中からロビィの様子に気付きつつも、触れずにそっとして置いた。


 事情のよくわからないシンも、空気を呼んでロビィの事はスルー。

 いいぞ、シン。上出来だ。


 だが、いざもう寝ようという段になってこのシンがトチ狂った。


「あの、アスカさんって恋人とかいるんですか?」

「はい?」


 何を言っておるのだ、この草食系の皮を被った肉食男が!


「残念でした! アスカの恋人は私で~す!」


 横からジュリアが抱き付いてくる。

 いつもの光景なのだが、シンには新鮮かつ鮮烈な場面だったらしい。

 思わず目を見張り頬を赤らめるシン。

 だが視線は外さない。むしろ釘付け。


「何言ってるのよジュリア。ヘンな事吹き込まないで!」


 何故かピンピンが怒る。

 まぁ弟子として師匠を風評被害から守ってくれているのだろう。


 背中に熱い視線を感じて思わず振り向くとマリュウが視線を逸らす。

 

 あのさ、わざわざ言う事はないと思ってたけど、あの上りの途中で言ったのは冗談だからね?

 わかってるよね? ね?

 敢えて蒸し返さないけれども。

 

「アスカさん! ボクと……ボクと付き合ってくださいッ!!」


 オイ!

 シンお前、人の話聞いてねーのかよ!!

予定していた流れと大分違った方向に行ってしまって自分でも驚いています。

この後、元に戻すのが大変な気がしてやや暗澹としています。

引き続き応援の方、よろしくお願いします。

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