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転生したら美少女になっていたアラフィフ窓際オッサンリーマンが男子禁制ギルドを作ってハーレム気分のまま救世主になる!  作者: 黒井圭
第2章~キャリオ(1)ペピン周辺~

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(36)オレは月夜に歌う

 突然の告白劇はジュリアとピンピン2人がかりのバイオレンスによってあっけなく終幕を迎えた。

 

 だいぶ手加減はされていたものの、ぼこぼこに殴られてシンは気絶。 

 せめて良い夢を。



 早朝に出発する事になったので、みんな早めに寝る態勢に入った。

 ジュリアがオレの左、ピンピンが右で寝ている。

 

 実は今の位置の落ち着くまでにひと悶着あった。

 

 ジュリアがオレの方へ近づくとピンピンも負けずに近付き、結果オレを真ん中にして3人が密着するというのを3回も繰り返しやがったので、いい加減キレたオレが地面に線を引いてここから近づくなと一喝。

 

 オレもすぐ横になって寝ようとしたのだが、2人が背中を向けて寝たままジリジリと距離を詰めようとするので再度きつく言い含めたのだった。

 

 いつまたジリジリが始まるかとしばらくは気が気ではなかったのだが、そのうち左右両方からすーすーと寝息が聞こえてきてようやくオレも落ち着いて寝られる心境に。

 


 夜の間の見張りについては、ロビィとマリュウが自分がやると言ってお互い譲らず揉めに揉めていたが、結局マリュウが引き下がる形でロビィが担当する事になった。

 

 こういう自然の中ではロビィの方が安心して任せられるし、マリュウは日中パニくってた事もあってゆっくり睡眠とってほしいからこれで良かったと思う。

 

 本当に長い一日だった――――。



*****



 静かに肩を揺すられて目が覚めた。


 誰――――ロビィ?


 一瞬で目が覚めた。

 スッキリハッキリ覚醒。


 何かあったのか聞こうとしたらロビィが口に指を当てた。

 しゃべるな、という事らしい。


 一緒に来るよう合図で伝えてくるので、隣のピンピンやジュリアを起こさないよう静かに立ち上がり、なるべく音を立てないように細心の注意を払ってみんなが寝ている場所を離れる。


 10m程移動してから少しだけ速度を上げる。


 ロビィはひと言も発さずに前を歩く。

 食事の時のような人を寄せ付けないオーラは今はもうない……ように見える。


 そもそも今はロビィの方から誘われたのだ。

 どうしたんだろう。

 どこへ行くんだろう。


 見張り中に何かあったものだとばかり思っていたが、緊急事態ではないらしい。

 もうかれこれ10分は歩き続けている。


 こんなに離れる必要ある?

 あ、もしかしてマリュウ対策なのだろうか。

 それならこの距離でもまだ安心できないな、うん。

 

 離れる時、チラッと見た感じ寝てるように見えたけど、何しろあのマリュウだからな。

 可聴距離が未知数なだけに、念には念を入れておいて間違いはない。



 やがて林が途切れ、ゴツゴツした岩肌が正面に現れた。

 ほぼ垂直の切り立った崖だ。


 「ここを登ります。ついて来られますか」


 ロビィがやっと口を開いたと思ったらそんな事か。

 なめてもらっては困る。

 それくらい朝飯前だ。

 うん、今何時か知らないけど確実に朝飯前ではあるよね。


 「もちろん」


 そう言うとロビィは小さく頷いて背を向け、音もなく跳び上がって崖をぴょんぴょん上っていった。

 登るって、そういう事か……。

 てっきりロッククライミング的なものを想像していたので意表をつかれた。

 

 気を取り直してすぐにオレも後を追う。



 ほぼ垂直の崖と言っても、断面が綺麗に水平な訳ではない。

 不規則にある凹凸を足場にしながら、淀みない動きでリズミカルに駆け上がるのだ。


 150mほど登った所に一畳ほどの広さの段差があった。

 ロッククライミングならビバークするのにちょうどいいくらいのスペース。

 

 先に到着したロビィがそこで止まり、オレを待つ。


 ほんの少し遅れてオレもそこへ到着。


 何も言わずに足を崖の下に投げ出して腰掛けるロビィ。

 オレも同じように座る。


「月が綺麗な夜ですね」


 世間話でもするような自然さでロビィが口を開いた。

 落ち着いたクリアな声。

 

 初めて会った時、不審者として弓で狙われながら誰何された時でさえ心地よく感じたこの声。


 まだそんなに長い時間は経っていないにも関わらず、懐かしく思い出す。 

 

「そうだね」


 満月でこそなかったが、空気が澄んでいるのか見事な月夜だった。


「もし満月だったら亜人との戦いはもっと過酷だったはずです。幸運でした」

「そうなんだ。助かった」


 月の満ち引きで亜人の強さが変わるの?

 全然知らなかった。


 そういう森の民の知識、もっと色々教えて欲しいのになぁ。

 

「今日はごめん」

「どうして謝るのですか」

「いや、ロビィがオレのために色々忠告してくれたのに、結局魔法使いまくったし……」

「気にする必要はありません。アスカのおかげでみんな無事だったのです」


 そう言われるとこれ以上何も言えない。


 とりあえず今日の戦い繋がりで話を振ってみる。


「ラドルガってみんなあんな風に火を使うの」

「いいえ。あの個体はたまたま何らかの方法で火属性を獲得していただけです」

「何らかの方法って、もしかしてシャイア教が関係しているのかな」

「それはわかりません。ですが確認はするべきでしょう」

「うん、そうだね」


 またしばし沈黙。


「火属性がなかったらもっと楽に倒せてたかな」

「アスカなら」

「オレじゃなかったら?」

「出会ったら逃げるしか選択肢がない。ラドルガは本来ならそういう相手なのです」

「でも、ジュリアやリズやマリュウさんなら倒せるんじゃないかな」

「それでも無傷では済みません」


 果たしてそうだろうか。

 まだオレたちの知らない力をあの3人なら発揮した可能性もあるんじゃないか。


「それじゃ、ロビィは?」

「パルティナムの矢を受けても倒れませんでしたから。倒すのは難しかったと思います」

「そっか。でもロビィなら結局何とかしちゃったように思うけど」

「どうしてですか」

「もしオレたちがいなかったら、もっと違う戦い方をしたんでしょ」

「……そうかもしれないし、そうでないかもしれません」


 出た! ロビィらしい言い回し。


 だが、再び沈黙が訪れる。


 今ここで聞いていいものかどうか迷う。

 ミト村での事。


 だが、ロビィが気を悪くしてしまうんじゃないかと思うと怖くて聞けない。


「私の方こそ、謝らなければいけません」

「え、ロビィが?」

「今日は少し取り乱してしまいました。みなさんにも気を使わせてしまって、迷惑をかけました」


 意外な展開。

 まさかロビィの方からその話に持っていくとは。


「良かったら、話してくれないかな」


 せっかくこういう機会をもらったんだから今聞かずにいつ聞くんだ。


「パイリンの像は森の民の間でもお守りとして馴染みの深いものです」


 いきなり話し始めたのでこちらも姿勢を正して聞く。


「パイリンの像を村の入り口に備えているのを見て直感しました。ミト村の中に森の民がいたのだと」

「え、森の民って人間の村に住んだりするものなの」

「必要な時には。あるいは、森の民の生活を捨てた仲間だったのかもしれません」


 なるほど、元森の民というわけか。

 それなら納得だ。

 森の民の生活自体は捨てたが、森の民としての信仰心や風習はそのまま残ったと。


「それを確認するために村の奥を探しました」


 そう、確かに奥の方に行ってた。

 でも探したって何を?


「そうして見つけたのです。村にほど近い場所にあった目印を……」


 目印?

 ああ! あの連絡を取るための木ってヤツか。


「つい最近入れたと思われる皮紙が残っていました。村の近況を森の民に報告する内容でした」

「じゃあやっぱり森の民がミト村に住んでいたってことなの」

「わかりません。ただ、定期的にあそこで連絡を受け取っていた者が森の民の中にいるはずです。それを確認する必要があります」


 え!?

 それってまさか……。


「一刻も早く、ミト村で起きた事を森の民に伝える必要があります。そして兄様(にいさま)……兄の判断を仰がねばなりません」

「それじゃロビィは……」


 オレの言葉を遮るようにロビィが続ける。


「ですが、シャイア教徒を見逃す事も出来ません。彼らが何を企んでいるのか、実際に何をしたのか」

「ロビィは森の民の所へ戻るの?」


 ロビィの話が途切れた隙間に質問を捻じ込む。

 話の途中で悪いんだけど、これだけはどうしても聞かずにはいられない!


「――はい」


 そんな!


 ロビィが行ってしまう。

 オレたちの元からいなくなってしまう。

 

 オレは……ジュリアは……森のジュリアスはどうするんだよ!


 自分勝手な言い草だとわかっているから口には出せない。

 だけど、こんな突然……。

 

 幾ら何でも急過ぎるじゃないか!


 オレの気持ちが落ち着くのを待つように、ちょっと長めのインターバルが入る。


「夜が明けたらシャイア教徒を追います。そして一連の出来事の真相を聞き出します。それを持って森の民のところへ戻ります」


 感情を交えず淡々と語るロビィ。

 

 でも知ってるよ、ロビィ。

 こういう話し方をする時のロビィが本当はどんな気持ちか。


 オレは理解した。理解しなきゃならない。

 ロビィの担った役目について。

 その重さ、意味について。


 だからここでロビィを責めたり、引き止めるような事は絶対に言わない。

 言えるわけがない。


「わかったよ、ロビィ」

「アスカ……」


 初めてこちらに顔を向けるロビィ。 

 安堵したような目をしている。

 

 なんだよ、そんなにオレって信用なかったのかよ。


「オレたちの事なら大丈夫だから」

「……ありがとうございます」


 ようやくロビィらしい笑顔が戻った。


 そっか、この事を伝えるためにオレをここまで連れて来たのか。

 ジュリアも一緒だと質問攻撃が続きそうだもんな。

 

 いや、ジュリアもこんな時は意外と素直に聞き入れてくれるのかも。


「ジュリアにこの事は?」

「後で私から話します」

「そっか。もしゴネられたらオレも呼んで」

「はい。その時は助けてもらう事にします」


 なんとなく、そうはならないような気がしている。

 

「あ、ロビィ」


 声のトーンを落として小声で聞く。

 

「なんですか」

「マリュウは大丈夫かな」


 万が一ここでの話を聞かれていた場合、先に向こうでヘンな感じに伝わっちゃうのは困る。


「おそらく大丈夫と思います。マリュウには申し訳ないのですが、彼女が眠る前に飲んだ水に少し薬を混ぜておきました」

「え!?」

「ただの睡眠薬ですし、極めて少量ですから問題はありません」


 なんだびっくりした。

 いきなり薬を盛ったなんて告白されたから焦ったわ。


 しかし抜かりない性格だな、ロビィ。

 みんなが寝る前から計画的に立ちまわっていたのかよ。


「でも念のため小声で話そう」

「アスカがそうしたいなら別に構いません」


 こんな解放的な場所なのにひそひそ話だなんて、ものすごく秘密めいていてワクワクするじゃないか。


「ルネ湖での事を覚えていますか」

「忘れるわけないだろ」

「人間と水浴びをしたのはあれが初めてでした」


 え、そうなんだ?

 なんかごめん、ありがとう。


 あの時は病み上がりだったのと、突然の全裸交流とでテンパってしまった所へ、エルフ発言を問い詰められて思わず本当の事を話してしまったんだよなぁ。

 

 オレがこの世界の人間じゃない事を他人に打ち明けたのは後にも先にもあの時だけ、つまり本当のオレを知るのはロビィだけなのだ。


「オレも、本当の事を話したのはロビィが初めてだった……」

「その話、今また聞いてもいいですか」


 ロビィがこんな風に何かを乞うのは珍しい事だ。

 それにもう話しちゃってる相手に今更出し惜しみする必要もないだろう。


「うん、いいよ」


 するとロビィはまた正面を向き、なんでもない世間話でもするように話し始めた。


「アスカのいた世界というのは素晴らしい所でしたか」

「いやぁ、どうだろう」


 素晴らしい、というのが具体的にどんな事を指しているかにもよる。

 ただ、少なくともオレにとってあの世界は、生きる目的も意味も見出せない、毎日辛いだけの場所だった。

 

 そのまま言葉にしてロビィに言ってみた。

 これじゃまるで悩み相談だな。


「長く生きていると色々な事があります」

「そうだね。ロビィも毎日辛くて堪らない時ってあったの?」

「はい」

「えっ!? マジ?」

「兄にも家族にも誰にも会わずに5年ほど閉じこもっていました」

「5年も? ロビィが引きこもりに?」


 到底信じられない。


「もう昔の話です」


 笑って言うロビィ。


「自分を取り巻く環境も、周囲の者たちもやがて変わっていきます。そして自分も変われます」

「そうだね。今まさにオレもそれを体験してるよ」


 ロビィがオレを見て微笑みながら頷く。


「そしてロビィに出会えた。ジュリアやピンピンに出会えた」

「私もアスカと出会えた事を嬉しく思います。人間とこの様に接して話をして絆を結べるのだと知る事が出来ました」


 また正面、あるいは月を見ながらロビィが話を続ける。


「アスカやジュリアと出会ってから毎日が驚きと発見の連続でした。この大切な日々の記憶を私は決して忘れないでしょう」


 ロビィ……。


「嬉しいけど、なんだか寂しいよロビィ」

「私もです。このような感情も知る事が出来ました」


 嗚呼、ロビィよ。


「アスカはやがてまた元の世界に戻る時が来るでしょう」

「え!? そうなの? ホントに戻れるの?」

「戻りたいですか」

「え、いやぁ、今は正直全然戻りたいと思わないなぁ」

「ですが、いつかはその体を本来の持ち主に返さなければならないと私は思います」

「あ……うん。そうだね……それはオレもどこかでずっと考えてた」


 アスカ、いや名も知らぬこの少女に対する罪悪感。

 それにしても、本来の人格というか意識はどこへ行ってしまったのだろうか。


「本来の持ち主の事が気になりますか?」

「うん、やっぱり申し訳ないと思うし」

「それもいつかわかる時が来ると思います」

「そう……かな」

「アスカが旅を、冒険を続ける限りはきっと」


 旅――冒険――か。


「じゃあ続けるよ。絶対にやめない!」

「だからアスカ……どうか自分を大切にしてください。本来の持ち主のためにも」

「……うん、ありがとうロビィ」


 ロビィなりのオレへのはなむけの言葉だったのだろうか。

 オレはロビィへ何を言ってやれるのだろう……。


「それと、アスカの背中の痣の事ですが……」


 ん? なんで突然その話?


「ああ、あれね。元々あったみたいなんだよね。オレのせいじゃないよ! たぶんだけど……」

「出来るだけ注意深く観察していてください」

「へ? なんで?」

「おそらく月日が経つにつれて次第に痣が大きくなり、形も変わっていくはずです」

「そうなの? っていうかこの痣ってなんなの? 知ってるなら教えてよ」

「すみません。それを話すのはまだ少し先になります」

「先って……でも良かった。その時にはまたロビィに会えるんだよね」

「はい。私が生きている限り必ず約束は守ります」

「じゃあ絶対死なないでよ、ロビィ!」

「はい、約束です。アスカも絶対に死なないでください」

「うん、約束する!」


 ちょっとアレな会話になったような気もするが、誰も聞いてないしノープロブレム。


「それじゃロビィ、小指出して」


 座りながらロビィと向きあう。


「小指……こう、ですか?」


 オレの右手を見て同じように右手を出して来るロビィ。

 もちろん小指だけピーン。


「そうそう。じゃ、黙って見てて」


 小指を絡めて歌いながら指切りをする。

 腕を上下に動かされている間のロビィの不思議そうな、それでいて恥ずかしそうな表情に密かに萌えたのは内緒だ。


 最後に指切ったで勢いよく指をほどくと、驚いた顔をするロビィ。


「アスカ、今のは?」

「約束のおまじないだよ。オレのいた世界ではみんな知ってる風習なんだ」


 ちょっと違うけどウソではない。


「そうなのですか。不思議な……でも楽しい風習ですね」

「でも針千本っていうのはあくまで例えであって、本当に呑ませる訳じゃないからね」

「針……千本? 今の歌はそういう意味だったのですか」


 あれ?

 なんか話が噛み合ってない。


「アスカの世界の言葉だったので意味まではわかりませんでした」


 なんだと!?


「え、オレ今、オレの世界の言葉で歌ってたの?」

「はい。私にはわからない言語でしたのでおそらくそうなのではないかと」


 歌を歌っている時は言語翻訳機能が働かないのか?

 なぜ?

 

 強いて理由を考えるとするなら、メロディーに合わせて言葉を乗せる必要があるから翻訳するとおかしな事になる、とかか?


 確認する方法は、ある!

 

「ゆびきりげんまん」


 普通のイントネーションで言葉にしてみる。

 ロビィが???な顔をしている。


「今、オレの言った事わかる?」

「ゆびきりげんまん、と聞こえました。意味はわかりませんが」

「それじゃ、これは?」


 と言って次は節をつけて歌ってみる。


「ゆーびきーりげんまんうーそーつーいたーらはーりせーんぼんのーます」


 ?????な顔のロビィ。


「今のは何て聞こえた?」

「わかりません。アスカの世界の言葉ではないのですか」


 やっぱりか!!

 なんという事だ、これは全く考えた事もなかった。

 いや、だから何だって話ではあるのだが。


 だがこの事実については知っておいた方がいいだろう。

 何かの役に立つか、又は何かの災いの元になるかはわからないが。



 突然、ロビィが何か歌いだした。

 

 なるほど、全然言葉がわからない。

 メロディーはちゃんと聞きとれるが、言葉が言葉ではなく何かの音としてしか耳に入ってこない。

 何度も聞けばそのまま耳コピで覚えられるかもしれないが、初見では無理ゲーだ。

 

 それにしても何と言う歌声だ。

 美しい。

 心が洗われるような、透明感のある伸びやかで艶やかな声。

 不思議な節回しだが、どこか懐かしいようなメロディー。

 

 思わず時間を忘れて聴き惚れてしまった。


 ロビィの歌が終わったようなので拍手をして最大限の賛辞を伝える。


「今のは森の民に古くから伝わる子守唄です。私も小さい頃、母にこの歌を歌ってもらいました」

「へぇ~、よく眠れそう」


 言ってしまってから、なんだか失礼な感想だと気が付いたが後の祭り。


「アスカも何か歌ってください」

「え!? オレ? オレはちょっと……」

「さっきは約束の歌を歌ってくれたではないですか。もっとアスカの歌が聞きたいです」


 ええい、ロビィの頼みとあらばオレの羞恥心程度何という事はあるまい!

 ほぼアニソンしかカラオケレパートリーにないオレだが、ちょうどこんなシチュエーションに合う歌が頭に浮かんでしまった。

 さすがオレ。伊達にアニソン歴40年超選手やってないぜ。


「じゃあ、下手だけど」


 こんな時でも先に言い訳せずにはおれない自分が情けない。

 ロビィのwktkした顔を見ると、ちょっとくじけそうになるがええいままよ!

 

 星屑のシャンデリアを歌った。

 チャゲアスじゃないよ。

 ついでに山崎エリイでもないよ。

 愛少女ポリアンナ物語の挿入歌、シンガーは堀江美都子。

 作詞作曲編曲小坂明子の神曲だ。


 パチパチと拍手まで可愛いロビィ。


「アスカは歌が上手ですね。それにその歌もとても素敵な歌です。どういう意味の歌なのですか」

「え、意味?」


 仕方なく、節をつけずに歌詞を朗読して聞かせる。


 最後まで説明し終えると、ロビィの目に光るものが……。

 え、あれ?


「ありがとうございます、アスカ」


 ものすごく感激してくれている様子。

 だが、ちょっと待て。

 あの歌詞をあのまんま受け取られてしまうとちょっとナニがアレでこっちまでブチ恥ずかしいぞ。


「ひとつだけ、質問があります」

「はいなんでしょう」


 敬語になってしまったじゃないか。


「エイガというのはどういう意味なのですか」

「ああ、映画ね。それは……そうだなぁ、動く絵というか、あー写真もこの世界じゃないみたいだし、つまりそのなんだ、芝居ってあるよね、お芝居。劇みたいな」

「はい、芝居や劇は人間の娯楽にありますね」

「その芝居や劇なんかを、その場に出演者がいなくても見られるように、映像というかまぁ夢みたいな、いつでも自由に見られる夢みたいに記録する事ができるんだ。劇場に大勢の人が集まってその記録した夢、芝居や劇なんかを見るのが映画だ」


 全然説明になってないといか、我ながら支離滅裂だと思うが、かろうじてロビィには伝わったらしい。


「アスカの世界はどうやらこことは大きく異なる文明を持っているのですね。それでアスカも……」

「え、オレがなに?」

「……いえ、なんでもありません」

「なんだよロビィ、気になるよ」

「私たちが考えもしない不思議な技や魔法を操れるのはそうした背景から来ているのかと納得したのです」

「あ、そう……そうなのかな?」


 言われて見るとそうかもしれないなぁ。

 

「もっと歌ってください、アスカ」

「えっ?」

「アスカの歌がもっと聞きたいです」

「でも内容がわからないんじゃ……」

「いいのです! アスカの歌を聞かせてください」


 ロビィがお願い星人になってしまった。

 全く引く様子は感じられない。

 

 本当はロビィにもうひとつだけ聞きたい事があった。

 でも、今はそれを聞いても仕方ないし、なんかもうどうでもいいって気分でもあるのでやめとく。

 

 さ、しょうがない。

 久々にオレのアニソン魂に火が点いちゃうぞ。

 

 星空のバラード、真夏竜。

 子門真人のカバーの方じゃないよ。

 男性曲でもそれなりになんとか歌えた。

 

 星空の街を歩こう、尾崎紀世彦。

 星空のメッセージ、串田アキラ。

 ん、正直この2曲はアスカの声では厳しいと思った。


 え、まだ歌うの?

 ロビィが輝く瞳でじっと見つめてくる。

 か、かわいい……。


 あれ、そう言えばマリュウに聞こえないように小声で話してたはずなのに、いつの間にかめちゃめちゃマジに歌っちゃってるし何やってるんだオレ?

 

「まだ歌うの?」

「お願いします」

「そろそろ明るくなってくる頃じゃないのかなぁ」

「お願いします! あと一曲だけ!」


 くっそー、じゃあとっておきを歌っちゃうぞ。

 中井繁敏時代は人前で歌った事はないけど、今のアスカ声ならイケる!

 

 SAYONARA、メアリー・マッグレガー。

 かおりくみこの日本語バージョンじゃないよ。

 

 ゆっくりと、自分自身噛みしめるように、あの夕陽に向かって歌うように(真夜中だけれども)歌っていたら、ロビィがそっと手を重ねてきた。

 

 ウッ……。

 もう泣いちゃう、オレ。

 我慢できない。

 

 一瞬だけ喉を詰まらせてしまったが、頑張って歌った。

 最後のスキャットまで万全に、歌い切った。

 

 勝手に涙が頬を伝ってきたので恥ずかしくて正面を向いたまま動けないオレ。

 

 ロビィが横からそっと腕を回してくると、優しく抱きしめてくれた。


「ありがとう、アスカ」


 もうオレには返す言葉がなかった――――。 

今回は少し前後の流れと切り離したプチエピソード的な内容にしようと思ったのですが、ちょっと違った形になってしまいました。

でも、この話を書き始めた時に描きたかったシーンのひとつです。

あ、評価を付けてくださった方、本当にありがとうございます。

引き続き応援よろしくお願いします。

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