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(34)オレは冒険者を発見する

 ロビィとジュリアが先頭。

 次いでオレとピンピン。

 少し離れてリズとマリュウが最後尾。


 マリュウはまだパニック障害発生中なのか、無駄に何度もオレたちとリズを見比べながらついて来ている。


「うわ、すごい! なにこれ」


 ジュリアが立ち止まって驚きの声を上げる。


「まさか、師匠がやったんですか」


 隣のピンピンもマジマジとこっちを見詰める。

 

 例のドルクどもを足止めした地割れの場所に来たのだ。

 どうしてドルクがここを通過できたのか、ようやくわかった。


 オレが口を開くより先にロビィが解説を始める。


「アスカの土属性魔法です。強大な力ですがこの通り、橋をかければ渡れます」

「まさかこの橋をドルクが架けたなんて言わないわよね」

「リズ様、これはあのシャイア教徒の仕業と思われます」

「やっぱりあの人たち……許せない!」

「土魔法まで使えるなんて……もう!」


 若干1名感想がズレている人がいるがスルーしておこう。


 つまりドルクたちを笛で誘導していたシャイア教徒がこの橋を地割れに架けたというわけだ。

 おそらく木を倒したり実際に渡したのはドルクで、あの連中は主に指示出しと木を紐で括る部分などを手伝ったのだろう。

 蓋を開けて見ればなんてことのないカラクリだな。

 

 だが、短時間にこれだけの橋を作った事には驚きを禁じ得ない。

 その生産力というか単純な労働力としてのドルクの価値を見た思いがした。


 アレですよ、外国から安い労働力を云々的な。

 ちょっと昔風に言うなら安くて強い労働力としての奴隷とか。

 あ、こっちの世界じゃまだ奴隷制度的なのが現役なんだったっけ。

 あの売られてった2人の女の子、今頃どうしてるかな。


「師匠ッ!!」


 ピンピンが耳元で大声を出したので現実に戻る。


「あんなすごい魔法まで使って! ダメです! もう師匠は魔法禁止です!」

「はい?」

「そうよ! もっと言ってやってピンピン」


 アスカが嫉妬混じりの微笑でオレたちを見ている。


「禁止って言われても」

「禁止は禁止です!」

「いやぁ……」


 チラリとロビィの方を見ると、すーっと醒めた目で完全な傍観者。


 森のジュリアスの面々は完全にピンピン側についてしまっているようだ。

 うわぁ、どうしたものか。


「アスカさんは土属性の魔法まで使いこなせるのですね。それに比べて私は……」

「何を言ってるのマリュウ。あなたらしくないわよ」

「ですがリズ様……」


 面倒臭くなりそうな所を救ったのはロビィ。


「マリュウは闇属性の魔法が使えます。それは充分称賛に値する事です」

「ロビーナさん……ありがとうございます」

「そうよマリュウ。自分と他人(ひと)を比べるなんて貧しい行為はやめて頂戴」

「申し訳ございません、リズ様」


 少しだけ優しい口調で諭すリズと、心底反省している風のマリュウ。


「そうだよマリュウさん、リズの言う通り」


 ビクゥッ! となるマリュウ。

 

 しまった!

 今は逆効果だったか。

 失敗した……。


 めっちゃリズが睨んでる……ごめんなさい。

 

 ややへこんでるところへジュリアが追い討ちをかけてくる。


「ねぇアスカ。この地割れって元に戻せないの」

「え? ああ、うん。それはちょっと無理かなぁ」

「ふぅん、なんだかちょっと迷惑な魔法ね。お願いだから使い処はよく考えてよね」

「う、うん」


 なんでオレ叱られてるの?

 なんか悪いことしたっけ。


「大丈夫よ。もう師匠は魔法禁止だから」

「ふふっ、そうね。じゃあピンピンはアスカが無断で魔法を使わないよう見張り役ね」

「うん、わかった」


 おいおい、勝手に決めるなよ。

 魔法禁止とか見張りとかマジで言ってんの?


 おいちゃん、本格的にスネたらもう意地でも魔法使ってやんないよ?

 それでもいいの?


 だが、魔鉱石の指輪を取り上げない所を見ると、絶対禁止という程の縛りでもないらしい。

 うん、そういう事ならまぁいいかな。

 禁止されてる体でこっちも合わせるし。



*****



「ここで仲間と合流していました」


 ロビィが立ち止まった場所は、オレたちが最初にドルクに追われる事になった場所より15分ほど登った所だった。

 

 上に向かって左側がやや広いスペースになっている。

 後からやって来たドルクどもはこの辺に待機していたのだ。

 ヤツらの足跡がその辺に無数に残っている。


「仲間のシャイア教徒は上の方から降りてきたの? それともここで待っていたの?」


 ジュリアがロビィに尋ねると、通常運転に戻ったマリュウが答える。


「待っていたのだと思います。あの2人が近付く前からここに人の気配がありましたから」

「だから遅かったな、なわけね」


 納得するジュリア。

 

「ロビィ、匂いの方は大丈夫?」

「はい。問題ありません」


 くんくん、くんくん。

 ダメだ、全然臭わない……。

 

 オレの様子を見てピンピンやジュリアまでくんくんしている。

 

 さすがにリズやマリュウまでやる気配はない。

 まぁそれが普通だ。

 逆に呆れたような目で見ている。

 だがそれはそれでいい――ような気がするw

 


 そこから更に1時間ほど登ったところで道が分かれていた。

 立て札がないのでどっちへ行けばいいのかわからない。


「右が山頂へ向かう道、左はおそらくミト村へ続いています」

「ロビーナさん、どうしてわかるんですか」

「それは山の民だからよ、たぶん」

「適当すぎるだろジュリア」


 だが、何の迷いもなく左へ進路を取るロビィを見ているとジュリアが言う事も正しいのではないかと思えてくる不思議。


「ああ、そうか!」


 思わず手を叩いて立ち止まってしまった。


「突然どうしたのよアスカ」

「びっくりさせないで下さい、師匠!」


 2人が詰問してくるがお構いなしにロビィに答え合わせだ。


「匂いだろ、ロビィ」

「当たりです、アスカ」

「なるほど、そういう事だったのね」

「私も気が付きませんでした」


 リズとマリュウも察した模様。

 

 シャイア教徒たちが行った方角はロビィには匂いでわかる。

 連中は山の上の方へ向かったと判断したのだろう。

 だから匂いのない方がミト村だと。


「そんなのわからないわよ。シャイア教徒が村へ行ったかもしれないじゃない」

「ジュリア、それはちょっと無理があるわ。あの時あんなにイヤがってたじゃない」


 ピンピンに指摘されてはジュリアも認めざるをえない。

 

 確かに、リズに尋問されてヤツらは村へ行くのを拒否した。

 あの様子だと村を全滅させた事への罪悪感もあるような気がする。

 もしかすると、二度と行きたくない場所ぐらいの気持ちなのかもしれない。


「でもロビーナ、やっぱり先に村へ立ち寄るのね」

「はい。村を確認するなら少しでも早い方がいいと思います」

「そうね、もし生きている人がいたら大変だもの」


 エリザベスの疑問は別に異を唱える風ではなく、確認のためといった感じだった。

 が、ジュリアの一言はみんなを違う意味で緊張させた。


 しばらくの間、無言の行程が続く。



 やがて、集落が見えてきた。

 否、つい最近まで集落だったもの――だ。


 ジュリアの言葉が現実にならないのは村へ入る前から何となく感じ取れてしまった。

 この有り様で生きている人間がいるとは思えない。

 

 凄惨な、あまりに凄惨な現場。

 オレたち6人は村の入り口を入ってすぐの所でただ立ち竦むしかなかった……。


 住居と思われる木造の建物は軒並み破壊され倒壊している。

 これでは雨宿りも不可能だろう。

 

 その住居の瓦礫の中と言わず上と言わず、そして住居の外のあちらこちらにまで散乱する部分遺体の量たるや――。

 

 あちこちに飛び散っている大量の血。

 そして肉片。

 

 ギリッと歯を噛みしめる音がした。

 リズの方からだ。

 マリュウも沈痛な面持ちで微動だにしない。

 

「こんなこと……」


 思わず口にしてしまったのはジュリア。

 何も言わず涙を溢すピンピン。

 

 無表情にしていたロビィがすたすたと先へ行く。


「ロビィ?」


 思わず声を掛けると、ロビィが振り返ってじっとこちらを見据える。

 オレも頷いてロビィの方へ歩き出す。


 他のみんなもようやく動き出した。

 そうだ、みんなで手分けして探すんだ。

 

 探すって何を?

 

 生存者?

 手掛かり?

 

 ――わからない。

 

 とにかく動いていないとおかしくなりそうだった。

 

 圧倒的なドス黒い何かがぐるぐると渦を巻いてすぐに頭が一杯になりそうだ。

 抑えようとしてもどんどん圧力を増していって、心や意識を押し潰してしまいそうになる。

 

 引き千切られた腕が落ちている。

 噛み千切られた足を、踏まないよう避ける。

 

 少し先に首から上の頭が転がっている。

 こちらを向いているのが頭の後ろ側で良かった。

 

 倒壊した瓦礫の中から小さな手が出ている。

 助けを求めているようにも見えるが、虚しく天を掴むように指が曲がったまま動く気配はない。

 

 ダメだとわかっていても瓦礫を除けて助け出してあげるべきだろうか。

 千切れて転がっている身体をひとつに集めてあげるべきだろうか。

 そうだ、埋葬。せめて丁重に葬ってやることはできないだろうか。

 

 遺体の多くは原型を留めていないが、比較的損傷の少ないものは年配の男性のものだった。

 次いで年配女性と中年男性。

 若い遺体や幼子の遺体はほとんど見当たらず、かろうじてそれらしき骨が落ちているという状態。

 

 村の住民の年齢別男女構成など知る由もないが、ここまで偏っているとは思えない。

 

 遺体がないのは食われたからだ。

 実際ほとんどの部分遺体にその形跡が残されていた。

 

 何より、まだ血は乾ききっておらず、それほど腐臭もひどくはない。

 惨劇があってから丸一日は経過していないように思える。

 

 くそッ!

 

 もっと早くここに来ていれば……。

 早く?

 早くっていつだ?

 亜人たちより前か?

 そんなの無理だ。


 どうにもならなかった。

 どうしようもなかったんだ、オレたちには。

 

 だからせめて、こんな事をしたヤツらにキッチリ責任は取らせる。

 絶対にだ。

 

 そして二度とこんな事が起きないよう、出来る限りの事する。

 

 この現実を目の前にして、そう思わないようなヤツがいたらそいつは人間じゃない。

 

 自分に力があるとかないとかじゃない。

 やるんだ。



 いつの間にか村の中央付近にみんなが集まってきた。

 打ち合わせていたわけではない。

 

 どの顔も悲痛な表情。

 オレも、もはや自分が何をどう思い感じているのかわからなくなっている。

 

 誰もひと言も発しない。

 

「確かこの村の人口は100人にも満たないという話でしたが……」


 ロビィが静かに話し始める。


「それにしても少ないですね」


 誰からも返事はない。


「亜人はただ村を襲ったのでしょうか。何か目的があったのでしょうか」


 もはやロビィの独白コーナーだ。


「シャイア教はこれにどう関わっているのでしょうか」

「絶対に許せないッ!」


 ダンッと足を踏み鳴らしてピンピンが叫ぶ。


「許せないとは亜人をですか、シャイア教をですか」


 ロビィが冷静に聞き返すが、ピンピンもそれには答えられない。

 ただ怒りに身を震わせている。

 

「どうしてあの3人だけが人質として生かされたのかしら」


 リズが話題を変えるように呟く。

 みんながハッとした表情、そう言えばそうだという表情に変わる。


「確かにそれは疑問が残る点です。ただ、亜人が考えた事とは思いません」

「どうしてそう思うの、ロビーナ」

「唯一知性のありそうなラドルガがあの様な性格でした。それに人質は木に縛り付けられていました」

 

 そうか!

 ドルクの渡った橋の木を縛ったのがシャイア教徒だとすると、人質を縛りつけたのも当然――。


「くそったれが」


 思わず声に出してしまった。

 ピンピンとジュリア、リズまで物凄い顔でこっちを見る。

 汚い言葉ですまん。

 でも、言葉を選んでる余裕が今のオレにはない。


「そうなると村を襲わせたのにもシャイア教徒が関与していると見ていいわね」

「そう考えるのが自然です」


 エリザベスとロビィ。

 2人ともよくこの状況で冷静に考えていられるな。


「リズ様。では依頼の件も何か関係しているのでしょうか」

「そうね。確かユミロフ司教と言ったかしら。同じシャイア教関係者だもの、無関係とは思えないわ」

「まさか! 私たちが来るのを知っていたから、そのために人質を用意してたって言うの」


 ジュリアもやっと口を開いた。

 

「あの人質にそれ以外の利用価値があるとは思えないわ」

「むしろ私たちが出発する事が決まるのを待って、襲撃したと考えた方がいいでしょう」


 リズとロビィのやりとりでオレも理解した。


 あの依頼、ユミロフ司教は最初からオレたちを生かしておくつもりはなかったのだ。

 魔鉱石の情報収集に拘ったのは、ちょっとやそっとでは戻らないようにするため。

 亜人との戦闘においても、万が一の時のために人質を用意した。

 そのために村を襲わせた。

 もちろん、亜人どもにガス抜きをさせる意図もあったに違いない。

 

 あるいは他にも村を襲わせる理由があった可能性もある。

 だが、大筋では当たらずと言えども遠からずではないだろうか。

 

「そんな……なんてひどい事をッ!」


 そう言って再び地面を蹴りつけるピンピン。


「だが証拠がない」


 一応冷静に客観的に言ったつもりなのだが、全員から一斉に睨まれた。


「何が証拠よ、そんなもの!」


 ジュリアがムキになって絡んでくる。


「証拠もなく人を裁くのはマズイだろ」

「人間の社会ではそうなのですか?」

「え、森の民は違うの?」

「罪の有無は神が、あるいは王が決める事です」


 なんと!

 そんな便利な社会だったとは。

 いっそその方がシンプルでいいと思うよ、オレも。


「罪を認めさせれば問題ないわ」


 リズが物凄い事を言い出した。

 本人たちに認めさせるっていうのか?

 まさか脅して、じゃないよな。


「リズ様の言う通りです」

「そうね、それなら問題ないわ」

「私も賛成」


 マリュウ、ジュリア、ピンピン、お前たちと来たら……。


 だがこうしてみんなと話しているとだんだん前向きな気持ちが沸いて来る。

 少なくともオレたちには出来る事が、やらなきゃならない事がある。


 突然マリュウがしっと指を口に当て、ロビィがサッと木の上に飛び乗った。

 

「みなさん、お静かに。姿勢を低くしてください」


 そして暫くの間、息苦しいような沈黙。


 ロビィが木から飛び降り、オレたちの元へ戻って来た。

 マリュウも立ち上がる。


「もう大丈夫です」

「説明して、マリュウ」

「はい、リズ様。何者かが私たちを監視していたようです」

「監視ですって!? まさかシャイア教?」

「おそらく。但し、あの2人とは別人です」


 なるほど、ロビィは匂いでわかるそうだからな。


「敵は1人でしたので会話などの情報は聞けませんでした。申し訳ございません」

「マリュウが謝る必要はないわ。それで、もう行ってしまったの?」

「はい。もうこの辺りに気配は感じられません」

「あの三叉路にもう1人いました」


 ロビィ、そんな遠くまで見えたのか。

 さすが森の民の視力は伊達じゃない。

 

 ロビィの視力とマリュウの耳が揃っているという幸運に感謝。


「監視していた者はそのまま上へ戻り、待っていた者は山を下りていったようです」

「もしかして、私たちが村へ行く事をあの2人が仲間に報告したからじゃ……」

「まず間違いなくそうでしょうね」


 ジュリアの言葉をリズが肯定する。

 

「我々の偵察に来たって事ですか!?」

「まぁ少し落ち着こう、ピンピン」

「すみません師匠。つい……」


 そしてまたも突然ひらめいた。

 今朝のあのシャイア教徒の姿。

 もし、ここから駆け通しで下山しペピンへ向かったらあんな感じにヘトヘトになるのでは?

 

 試しにみんなに聞いてみるとほぼ完全に同意を得られた。

 

 だとすると、それがこの村襲撃に関する報告だった可能性は高い。

 例えば、無事人質の確保に成功した、的な。


「これで益々シャイア教黒幕説が有力になったわね」

「それじゃ、もう依頼の事は忘れてシャイア教を追うって事でいい?」


 エリザベスの言葉に続けてジュリアがみんなに確認する。

 

 依頼主が主犯の可能性もある以上、当然だ。

 例え無事にペピンへ戻った所で今更報酬を受け取る事など出来ない。

 むしろ、戻ったらそこから教団施設へ殴り込みに行くまである。


 あ、ラシークで待ってるワンウーチャンには申し訳ない事になるな。

 真相を知るのはもう少し先だけど、先に謝っておこう。

 ごめん。


「もちろん。ですよね、師匠!」

「ああ」

「異論はないわ」

「私もです」

「決まりですね、ジュリア」

「ええ、ロビィ。シャイア教徒を追いましょう!」


 先程までの沈んだ空気が少しは払拭されたようだ。


 村を出る前にもう一度振り向く。

 このままにして行くのがあまりに忍びない……。


「本当は埋葬してあげなきゃいけないんだろうけど……」

「そうですね。シャイア教徒を倒したらその帰りにでも」

「そうねピンピン。みんなで埋葬してあげましょう」


 リズとマリュウが目を閉じ、胸に手を当てて頭を垂れている。

 ジュリアとピンピンもそれに倣う。

 

 オレは両手を合わせて祈る。

 

 どうか安らかに眠ってください。

 オレたちが無念を晴らします。

 

「これ、なにかしら?」


 ジュリアの声がしたので振り向くと、木彫りの像のようなものを持っていた。

 

 ぱっと見、馬とか鹿などの四足歩行の動物っぽい。?

 いや、もっと魔物に近い感じもする。

 麒麟とかキメラとか?


「どこにあったの、それ」

「この木の下に落ちていたのよ。来る時は気が付かなかったんだけど」

「こっちにもあります!」


 ピンピンがちょうど入り口を挟んで反対側にもあった同じような木の下から像を拾い上げた。

 

 この2つの木、無造作に立ててあるだけだが門の代わりのようなものだったのかもしれない。

 ちょうど木の上に、像を立てていたような穴がある。

 この木の上に飾ってあったものが落ちたのだろう。

 

 なんかどこかで見たような……子供の頃?

 確か……そう! あれは――――ドドンゴだ!!。

 

「それはパイリンです……」


 ロビィが心底驚いたという顔をして呟く。

 ロビィのこんな表情は珍しい。


 パイリンってなんだ?

 オレと同じ疑問をジュリアがぶつける。


「パイリンって?」

「神聖なる山の神です」


 いや、どこからどう見てもドドンゴだ。

 正直に言うとそんなに鮮明に憶えているわけではないが、もう一度そう思ったらドドンゴにしか見えない。


「神? 魔物じゃなくて?」

「魔物などではありませんッ!」


 ジュリアの魔物という発言に思わず声を荒げるロビィ。

 やはりいつものロビィじゃない。

 こんなに怒気を露わにするなんて。

 

 でもどう見ても魔物だ。

 いや、ドドンゴは怪獣だけれども。


「パイリンは私たち森の民の間では山を守る神として崇められているのです」

「ごめんなさいロビィ。知らなかったの……」


 ジュリアがしょんぼりしている。

 そりゃそうだ。

 あんな風にロビィに怒られたらオレだって相当へこむよ。


「もういいのです。しかし、ここにパイリンの像を飾っていたという事は、魔除けの意味もあったのかもしれません」

「効果はなかったようだけれど」


 リズが突っ込む。

 そこ! ダメダメ!!

 

 だがロビィは言い返す事もなく、先程よりも深い悲嘆に暮れた様子で完全に沈黙してしまった。


 ロビィが動かなくなったのでみんなも動くに動けず、暫く微妙な空気に……。

 

 すると、動かないロビィの全身から異様な雰囲気が漂ってきた。

 これは――怒り。

 それも憤怒に近い激しい怒りだ。

 

 一体どうしたと言うのか。


 みんなが驚いて見守る中、ロビィは急に顔を上げるとキョロキョロと周囲を見渡す。

 

 そして突然村の奥へ走りだした。


「おい! ロビィ!」

「待って! どこへ行くの」

「ロビーナさん!」


 オレたちの声など全く耳に入っていない様子で、そのまま見えなくなってしまった。


 残されたオレたちはどうしていいかわからず困惑。


「どうする?」

「追いかける?」

「誰が」

「アスカが」

「なんでオレだよ、ジュリアが行けよ」

「だってあんなロビィ初めて見た……」

「少し待ちましょう」

「私は出来るだけ音で追ってみます」


 待つ事3分……5分……まだ?


「こちらへ戻って来るようです」


 マリュウの言葉にみんながほっとした。

 

 その言葉通り、間もなくロビィが姿を見せた。

 さっきまでの荒々しい怒気とは違う、もっと静かで深い怒りを纏っているような気配。

 

 やはり怖くて誰も話しかけられない。


「すみませんでした。ちょっと確認したい事があったので。もう大丈夫です、行きましょう」


 ロビィが淡々と話すが、やはり誰も返事が出来ない。


「どうしました? 早く行きましょう」


 先に進んだものの、誰もついてこないのを不審に思って振り向くロビィ。


「そ、そうね。行きましょう」


 ジュリアが勇気を振り絞る。


「ああ」


 オレはそう答えるので精一杯。

 

 みんなも移動を開始した。

 ジュリアとピンピンはパイリンの像を片方の木の下にそっと立てかけて行く。

 

 せっかく前向きになりかけてたのに再びお通夜状態に突入だ。


 さすがに雰囲気を変えようとジュリアとピンピンが色々と話を振る努力をするも、なかなか続かず。

 言葉を交わしながらも先頭を歩くロビィの方をチラッと見ては、また言葉少なくなるという繰り返し。


 例の分岐点を通過し、右の道の方に入っても状況は相変わらずだった。


 つつとリズが隣へ並ぶと小声で話しかけて来た。


「ロビーナって、怒るとあんな感じなの?」

「いや。そもそもあそこまで怒ったのを見たのは初めてだし」

「そうなの? それじゃ扱いに困るのも道理ね」

「なんとかしてよ、リズ」

「無茶言わないでよ。アスカこそ何とかして。息苦しくて堪らないわ」

「まぁそうだよね、はぁ……」


 頭を振り振り、マリュウの隣に戻るリズ。

 当然今の会話はマリュウには筒抜けだろう。

 

 ロビィが地獄耳じゃなくて良かった。


 うわっ!

 

 突然ロビィが立ち止まった。

 まさか今の話、聞こえてたのか?

 

 いや、違う。

 何か周囲を伺っている様子。

 マリュウの方を見ると、彼女も耳を凝らしているようだ。

 

「人の声が聞こえます! 10時の方向です」


 マリュウの言葉が終わらないうちにロビィが動き出す。

 オレも後を追う。

 

 超足!


 むしろ追い抜いて先に行ってやる。

 

 だが、オレには森の民の目もなければマリュウの地獄耳もないのだった。

 このカカ山の立ち並ぶ木々と広がる藪の中、人を見つけるのは容易ではない。


 みんなもやや広がりながらこちらへ移動している。


 隙間が広がらないように、ある程度等間隔になるようジュリアとロビィ、ピンピンに合図を送る。


「なるべく等間隔で移動しよう」


 普通に声に出しただけだが、マリュウには聞こえるはず。

 そうすればリズにも伝わるだろう。


 だが、行けども行けども人の姿はない。

 念のため声の主がシャイア教徒だった場合の可能性も考慮しているが、どっちにしろ見当たらない。


 マリュウの地獄耳、どれくらい先の声を拾ったっていうんだ?

 どうせなら距離まで判ったらいいのに。

 愚痴りたくなる気持ちを堪えて探す。

 

「あ、通り過ぎてます! 戻ってください。7時の方向です」


 再びマリュウの声。

 マジか?

 どこにもいなかったのに通り過ぎてるってどういう事だ?

 

 とにかく戻ろう。

 

 超足!

 

 猛スピードで後ろにいたピンピンを追い越し、マリュウとリズを追い越し、元の場所から半分くらいの所まで来た時、オレにも聞こえた!

 

「……すけて……だれか……」


 うぉっと!

 急ブレーキをかけて止まる。

 

 確か、右手ちょい後ろの方……。

 ゆっくり歩きながら周囲をくまなく探す。

 

 まだこちらから声をかけるのはリスクがあるので止めておく。


「たすけてください……だれか、たすけて」


 また聞こえた。はっきりと聞こえた。

 確かに人の声だ。若い男。

 弱弱しいが、死にかけているような感じではない。


「誰かいるのか!? 返事をしろ!」


 もう大丈夫だろうと判断したので声をかける。

 みんなにもオレの声が聞こえたらしく、こちらの方へ移動してくるのが見える。


「ああッ! ここです! 穴に落ちたんです! 助けてください!」


 思いのほか大きな力強い声が返ってきて驚いた。

 しかもすぐ近くだぞ?

 

 穴? 穴だって?

 

 地面に注目しながら探す。

 

 ――あった!!

 

「こっちだ!」


 みんなに声をかけて、自分も穴の場所へ移動する。


「心配ない。もう大丈夫だ」


 穴を覗き込みながら声をかける。

 が、相当深いのか人の姿は見えない。

 

 一瞬罠という考えも頭をよぎったが、ここまで来て躊躇してもしょうがない!

 

「ありがとうございます! この穴、結構深いんです。何か紐のようなものはありませんか」


 随分と冷静だな。

 紐を垂らした瞬間引きこまれて、なんていうオチはやめてくれよ。

 

「ピンピン! 確か紐持ってたよな」

「はい師匠。今行きます」


 こちらへ走るピンピンに声をかけるとダッシュで来てくれた。


「これを」

「ありがと」


 紐の先端を丸く輪っかにして括り、穴へ垂らす。


「今紐を下ろす。輪の中に体を入れて、用意が出来たら声をかけてくれ」

「わかりました。あ! 来ました。これですね」


 みんなも穴の周りへ到着。


「なにこの穴」

「こんな所にいたのね」

「さて、何が出てくるか楽しみね」

「準備出来ました。お願いします!」


 男が穴の中から叫ぶ。

 

 紐を引く。

 ピンピンも手伝ってくれた。

 すぐにジュリアも紐に手を伸ばす。

 

「ひ、光が見えます! もうすぐです!」


 こっちからはまだ見えないけどね。

 と思ったら、何か出てきた。

 

 若い男だ。

 ん?

 なんかどこかで見たことがあるような……。

 

「ありがとうございま……えっ!? アスカさん!?」

「え!? 誰?」

「ああ、すみません。ボクの事なんて覚えてないですよね。ってああッ! ピンピンさんまで!」


 なんと、オレだけじゃなくピンピンまで知り合い?

 いや、オレは知り合いじゃないけど。

 

 なんなんだコイツは――――。

あれ、おかしいな。

テキスト量減らすって話はどうなったんだっけ?

そんな疑問が今頭の中に渦巻いていますが、引き続き応援よろしくお願いします。

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