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転生したら美少女になっていたアラフィフ窓際オッサンリーマンが男子禁制ギルドを作ってハーレム気分のまま救世主になる!  作者: 黒井圭
第2章~キャリオ(1)ペピン周辺~

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(33)オレは教徒を泳がせる

 まず優先すべきは不明冒険者の捜索という点は全員一致していた。

 例え依頼主が何と言おうとそれは変わらない。

 

 しかし魔鉱石採掘の情報については意見が分かれた。

 そもそも、どんな情報が必要とされているのかがよくわからない。

 もちろん採掘可能な場所が見つかればそれが一番いいのはわかっている。

 

 だが、現実問題としてこの広いカカ山一帯をくまなく探して歩くというのは困難なのだ。

 もとより依頼に費やす期間は3日までと決まっている。


「3日探して何もなければそれはそれでひとつの成果ではあるわ」


 エリザベスが投げやりに言う。

 ワンさんへの不満がまだ消化しきれていないらしい。

 

「それってつまりカカ山には魔鉱石採掘場所はないっていうことになるわけ?」

「いや、そうは言い切れない」


 ジュリア、もう少し考えてしゃべろう。


「以前ここは石を産出していたんです。カカ石と言ってグルドでは高値で取引されていました。ただ、急激に山を削ったせいで岩崩れが起きて作業員の人達が何人も犠牲になって……それで石を採るのは禁止になったんです」


 地元のピンピンが教えてくれた事が何かヒントになるかもしれない。

 

「それっていつ頃の話なの」

「すみません師匠、私もそこまでは……。ただ私が生まれる前なので少なくとも17年以上前です」

「それならとりあえずその石切り場のあった所へ行ってみてはどうかしら」

「それいいかも! さすがエリザベス」

「私もリズ様の意見に賛成です」


 エリザベスの提案にジュリアとマリュウが賛同した。

 

 旧石切り場か……岩崩れとやらが心配だがひとつの候補としてはアリだな。


「ロビィはどう思う?」


 ずっと静かだったロビィに意見を求めると、それまで目を閉じて聞いていたロビィがやっと目を開けた。


「石切り場があったのはどの辺かわかりますか、ピンピン」

「正確な場所まではわかりませんがかなり上の方です。石を搬出していた道があるはずですからそれを辿れば見つかると思います」

「ではミト村はどの辺りかわかりますか」

「ミト村ですか……。確かカカ山の中腹にあるという話でしたが」

「では石切り場よりは近いわけですね」

「はい、たぶん」

「それなら私はまずミト村の様子を確認してから石切り場へ向かう事を提案します」


 ミト村と聞いて一同が少し緊張したのが感じられた。

 さっき下山させた3人の話では全滅したという事だから、今どういう状況になっているのか。

 おそらくそれを各々それぞれに想像してしまったのではないだろうか。

 

 そういうオレもイヤな光景を思い描いてしまったクチだ。

 だが、万が一生存者がいないとも限らない。

 それに何か手掛かりや情報が得られるかもしれない。

 

「オレもロビィの案がいいと思う」

「じゃあ私も!」


 おい、ジュリアw


「私もロビーナさんに賛成です」

「そうね、確かにロビーナの案の方がいいわ」

「リズ様がそう仰るなら私も」


 というわけで全員一致。


「それともうひとつ提案があるんだが」

「なんですか師匠」

「言ってみてアスカ」

「ミト村と石切り場へ行くのは決定として、オレとしては亜人たちの拠点も調べたい」


 今後のために少しでも亜人を減らしておきたいのもあるが、あの組織だった動きがどうしても気になる。

 全てラドルガがやった事とは到底思えないのだ。


「いいんじゃない。私は賛成」

「私も師匠に賛成です。カカ山の亜人は根絶したいです!」


 いやピンピン、根絶はちょっと難しいんじゃないかなぁ。


「となるとまた戦闘は避けられないわね」

「リズ様、先程の戦闘でだいぶマグを消費されたのでは?」

「ええ。でもまだ魔鉱石は橙色だから大丈夫よ」

「そういう意味ではアスカの方が深刻ですね。そうでしょうアスカ?」


 相変わらずロビィは鋭いなぁ。


「ははは。オレの魔鉱石はもうほぼ白だな。あと一回出来るか出来ないか」

「では念のためこれを持っていて下さい」


 ロビィが魔鉱石の指輪を差し出す。


「ありがとう、ロビィ」


 ありがたく受け取って右手の薬指に嵌める。

 自分のはマグが蓄積されるまで巾着の中にしまっておこう。


「師匠は魔法の使用頻度が高すぎる気がします。体に負担になりませんか?」

「そうよ! 私もずっとそう思ってた。アスカはもっと私たちを頼って任せるべきよ」


 弟子には心配され、ジュリアにも叱責されてしまった。

 身に覚えがある事なので反論出来ないのが辛い。


「わかった。なるべくそうする。ありがとうピンピン、ジュリア」


 だが実際そうするかどうかは状況次第だ。

 

「そう言えば私たちが探している冒険者の名前って誰か覚えてる?」


 ジュリア、きみは全く覚える気がなかっただろ。

 まぁオレも全く同じなわけだがw


「ワンさんが言ってた4人なら私が覚えています」


 マリュウの言葉にみんながほっとした表情を見せた。

 おやおや、どうやらマリュウ以外全員覚えてなかったらしい。

 

◆捜索対象者

――――――――――――――――――

 クロウ・チョリス 男 (赤札)

 シン・ミツルギ 男 (赤札)

 ニール・フォックス 男 (黄札)

 フェリス・ウォーロック 女 (白札)

――――――――――――――――――


 階位まで覚えてるなんて、マリュウの記憶力すげぇ!

 ますます有能メイドだな。

 

 しかし一番上でも赤札2人か……亜人と遭遇してたらかなり絶望的だな。


 いや、オレたちも赤札だけどさ。


「師匠、見つかると思いますか」

「え、なに? 冒険者のこと」

「そうです。確かもう8日も経ってるって言ってましたし」

「まぁ常識的には厳しいな」

「別に生きて見つける必要はないのよ。遺留品だけでも持ち帰れれば依頼は達成できるわ」

「ちょっとエリザベス!」


 エリザベスの発言は極めて客観的なものだしオレも同感だが、わざわざ口に出すのはなぁ。

 ジュリアが窘(たしな)めてくれて良かった。

 だがほとんど同じような事を出発前に言ってたのは誰だったかな。

 

「確か1人救出につき銀貨10枚の追加報酬があったはずです。生きててもらいましょう」


 実に、実にロビィらしい発言どうもありがとう。


「それって私たち1人1人に10枚ずつなの? それとも10枚をみんなで分けるの?」

「それぞれに10枚ずつよ。手続きの時に確認したわ」

「さっすがエリザベス!」


 窘めたり誉めたり忙しいなジュリアも。

 そしてエリザベスの言葉を聞いてロビィがにんまりと笑ったのをオレは見逃さない。

 だいぶモチベーションアップになったらしい。


「それじゃ、そろそろ出発しましょ」

「ちょっと待ってください!」


 ジュリアの出発の合図にマリュウが待ったをかける。


「マリュウ、どうしたの」


 エリザベスが尋ねると、マリュウは何かを伺うように少し沈黙した後口を開いた。


「何かいます」

「え、どこに?」

「しっ!」


 つい大きな声を出してしまったら、マリュウとエリザベス2人同時に口に人差し指を当ててこちらを向いた。

 わかった、わかったからそんなに睨まないで。


 ロビィも気配に気が付いた様子で、マリュウの隣に移動して何か話している。


「みなさん、ここで少々お待ちください。くれぐれもお静かに願います」


 マリュウから小声で指示があったので、大人しく待つ。

 ジュリアやピンピンもなんだろうという表情で首を傾げている。


 マリュウとロビィが姿勢を低くしたまま前へ出る。


 シュルルルルル――。

 

 マリュウがいきなり円月輪を2つ放った。

 

 え!?

 敵なの?

 

 一気に緊張がMAX近くまで高まる。

 

「うわっ!」

「待ってくれ! 我々は怪しい者じゃない!」


 男2人の声がした。

 いやいや、充分怪しい者じゃないか。

 何故こんな所で隠れている。

 

 円月輪がマリュウの手の中に戻ると、草むらから4本の手が上がった。

 降参のサインのつもりなのだろうか。


「ゆっくり立ちなさい」


 エリザベスが厳しい口調で告げると、ゆっくりと人影が立ち上がる。

 

 !!??

 

 シャイア教徒だ。

 あの紫色の全身ローブ……頭巾外套はヤツらに間違いない。

 

「両手を上げたまま、ゆっくりこちらへ来なさい。不審な行動をとったら命の保証はしません」


 おいおいエリザベス、幾らなんでもいきなり殺すのはマズイだろ。

 ジュリアやピンピンもびっくりしてエリザベスの方を二度見してるよ。


 って、ちょっとロビィ!

 いつの間にか弓に矢を番(つが)えてるじゃないか!

 ほんと容赦ねぇなオイ。


「わかった。わかったからそこの弓を収めてくれ」

「……ロビーナ」


 エリザベスが静かに一声かけるとロビィは飄々とした様子で矢を収める。

 一方、マリュウの円月輪はいつでも放てる状態でスタンバイ。


 抜かりないわ~。

 怖いわ~。


 ゆっくりとこちらへ近づいて来るシャイア教徒2人。

 フードのせいで顔がよく見えない。

 というか、わざと少し俯き加減にしていると思われる。

 

 この後に及んで些細な抵抗でもしているつもりか。


「よし、そこで止まれ!」


 エリザベスの言葉にびくっと停止する2人。

 エリザベスとの距離約5mといった所か。


「このまま私が聞いても?」


 エリザベスがこちらの方を向いて聞いて来る。

 ジュリアの方を見ると頷いているので、オレもエリザベスへ頷いて見せる。


 この短い時間のうちにマリュウが左手、ロビィが右手に回り込んで2人のやや後方の辺りまで移動する。


 ――エリザベスの誰何が始まった。


「まずは名前と所属を言いなさい」

「シャイア教団ペピン支部所属、ラザロフだ」

「同じくシャイア教団ペピン支部所属のバルナーロ」


 素直に答えたが、残念ながら正しい情報か否か判断できない。

 まぁウソにしてはやたらと流暢に出てきたから本当の可能性の方が高いだろう。


「ここで何をしていた」

「亜人に遭遇したので隠れていたんだ。すごい大軍だった」


 ラザロフと名乗った男の方が答える。


「亜人はもう倒した。なのに何故隠れていた」

「出て行くのが怖かったんだ」

「亜人も恐ろしいが、亜人を簡単に倒したあんたらはもっと恐ろしい」


 今度はバルナーロという男も口を開いた。

 おそろしい、か。

 確かにある意味正しいとも言える。


「それで我々が立ち去るのを待っていたのか」

「そうだ」

「わかってくれ、他意はなかったんだ」


 はいそうですか、とすぐに納得は出来ないなぁ。


「カカ山に何の用があって入ったのか」

「ふ、布教だ」

「そうだ、この先の村に布教のために来ていたんだ」

「なら今からその村へ案内してもらう」

「村へ? いや、今から行っても……」


 ラザロフという男は何か言いかけたが急に押し黙る。

 バルナーロが俯いたままラザロフの方を向いて何か言ったようだが聞こえなかった。

 但しあくまでオレには、だ。

 我らがデビルイヤーにはどうだったかな。


 小声で近くのピンピンを呼ぶ。

 

「ピンピン」

「なんですか師匠」

「ちょっとマリュウさんと交替してくれないか」

「わかりました」

「マリュウさんにはこっちへ来るように伝えてくれ」

「はい」


 素直な子ピンピンは言われた通りに左サイドのマリュウの所へ駆けて行き、入れ替わりにマリュウが戻って来る。

 ピンピンが駈け出した時、シャイア教徒2人がビクッとしたのは可笑しかった。

 後ろ暗い事があると疑心暗鬼になるよなぁ、わかるわかる。

 

 マリュウが戻ったので一緒にエリザベスのすぐ後ろへ移動すると、シャイア教徒どもには聞こえないよう小声で話す。

 まさかあの2人のどちらかが地獄耳ってことはないだろう。


「マリュウさんがさっきのバルナーロの話聞いてたと思うんだけど」

「そうなの? マリュウ」

「はい、聞こえました。余計な事を言うな馬鹿、と言ってました」

「するとあの2人はもう村の状態を知っている、という事ね」


 マリュウとほぼ同時に頷く。

 さすがエリザベス、察しが良くて助かる。


「となるとさっきの布教云々も……ふふっ。わかったわ。ありがとうマリュウ、アスカ」


 そう言うとエリザベスは再び2人の方へ向き直り、誰何を再開した。


「もう一度聞くわ。村へ案内してくれるの、くれないの」


 ラザロフがバルナーロと何か相談している。

 あらら、全部マリュウに聞こえてるよ~(たぶん)。

 

「出来ればこのまま下山したい。この辺りはあと少しで暗くなってくるんだ。そうなったら足元が見えなくなる」


 悪くない答えだ。

 だが、エリザベスはきっと許してくれないだろう。


「それなら尚の事、村へ行った方が安全でしょう」

「いや、我々は亜人の件を支部に報告しないといけないんだ。だから早く戻らないと」


 今度はバルナーロの方が早口で答える。

 

 エリザベスの顔がキッと強張る。

 あ~あ、怒らせちゃった。


「布教のためにこの山へ来たんじゃなかったの」

「それはそうなんだが、事情が変わったんだ」

「そうだ、こんな大事件があったんだ。まずは報告しないと」

「あなたたち2人だけで下山するつもり」

「え、あ、ああ。そうするつもりだ」

「行かせてくれるのか」

「まだこの辺に亜人がいるかもしれないわよ。それでも行くの」


 また相談タイムに突入するかと思いきや、意外なほどの即答が返ってくる。


「もちろんだ」

「我々も多少は訓練している。自分の身は自分で守れる」


 あれ~、さっき亜人が恐ろしくて隠れてたって言ってた人と同じ人かな~。

 

 ふと2人の胸元に目が行く。

 光の加減か、何かが光ったような気がしたのだ。

 

 あれは見覚えがあるぞ。 

 山賊の頭、グルックが持ってたのと似たような形の笛だ。

 

 まさか、あの笛で――――。

 

 チラッと右サイドのロビィに目をやると、ナイスタイミングで視線が合う。

 胸に手をやると、頷くロビィ。

 

 続いてジュリアにも同じ仕草で伝えると、驚いた顔の後真剣な表情に戻って頷くジュリア。

 

 ピンピンの方を見ると、今のオレたちのやりとりを見てたらしく頷いて見せた。

 

「あの、もう行っていいか。本当にもうすぐ暗くなるんだ」


 ラザロフが不安そうにエリザベスに聞く。

 エリザベスは不敵な笑みを浮かべて、どことなく楽しそうな口調で告げる。


「あなたたちが本当の事を言ったらね」

「なッ……!!」


 一瞬の沈黙。

 雄弁な沈黙。


「信じてくれ。全部本当の事だ。ウソは言ってない!」

「そうだ! だから行かせてくれ!」


 2人で懇願し出した。

 あまり必死すぎると逆にウソっぽくなるぞ。


 とは言え、このままだらだらやりとりを続けても埒が明かなそうだ。


「もういいだろ、エリザベス」


 ちょっとしたお楽しみを邪魔された不愉快なお嬢様が振り向く。

 

 ――本気?

 口には出さないがそう言ってる顔だ。


「どういう事かしら」

「あの2人の言う事ももっともだよ。それに一緒に連れてったらワンさんたちを追い返した意味がなくなるだろ」

「……それもそうね。あなたの言う通りだわ」


 聡明なるエリザベス。

 頼むからオレの意図も察してくれよ。


「みんなもいいだろ。もう解放してやっても」


 ピンピンとロビィにも聞こえるように、少し声を張る。


「師匠がそこまで言うなら私は構いません」

「殺さないのであれば仕方ありません」


 ピンピンはともかく、ロビィは物騒すぎる。


「アスカの判断に任せるわ」


 さすが盟友ジュリア。よくわかっていらっしゃる。


「私はリズ様に従います」

「という事なんだけど、どうする」


 そう言ってエリザベスにバトンを預ける。

 暫くじっと互いの目の奥を探り合う。

 

 やがてエリザベスはシャイア教徒の方に向き直ると、やや口調を軟化させて言った。

 

「今からすぐ下山するのね」

「はい。すぐに」

「寄り道せずに?」

「まっすぐペピンへ戻ります」

「そう。ならいいわ」

「え、いいというのは、我々が行ってもいいという事ですか」

「それ以外に何かあるかしら」

「いえ。あ、ありがとうございます」

「では我々はこれで失礼させていただきます」


 突然解放される事になって動転したのか、しゃべり方まで変わってるぞ。

 エリザベスの気が変わらないうちにと、バタバタと慌てて立ち去る2人。

 脱兎の如く、という表現がピッタリだ。


 ふぅ、と大きく溜息をつくエリザベス。


「お疲れ様」

「本当に疲れたわ。あなたに任せれば良かった」

「いやいや、なかなか面白かったよ」

「アスカって時々意地悪な事を言うのね」


 エリザベスが全く面白くなさそうに言うと、ジュリアが我が意を得たりとばかりに同意する。


「そうなのよ! エリザベスもそう思うでしょ!」

「思うわ」

「でしょでしょ!」


 なんだその謎の同盟は。

 この2人が仲良くイチャコラしてるのは新鮮で微笑ましいが。


「師匠、行かせて良かったんですか」


 ピンピンがこちらへ戻って来た。


「いいのいいの。まだ終わりじゃないから」

「えっ!?」


 ははは、だんだんピンピンにも伝染してきたな。その口癖。


「ロビィ! マリュウさんもちょっと」


 2人を手招きして呼び寄せる。

 もう6人ほぼ固まってるようなものなのでみんなに聞こえてる前提で言う。


「あの2人を尾行して欲しいんだけど」

「一緒に山を降りろという事ですか?」


 マリュウが馬鹿正直に聞いて来る。そんなわけないじゃん。


「いや、十中八九下山しないと思う。だからどこへ行くか知りたい」

「確かにこの山の中を気付かれずに尾行するなら私とマリュウが適任です」


 ロビィとマリュウがお互いにアイコンタクトして頷き合っている。

 おお、今日はいろんな組み合わせのコラボが見られてオレはなんだか嬉しい!


「わかりました。それで、どこまで尾行すればよいのでしょうか」

「だいたいでいいよ。判断は2人に任せる」

「わかりました。では早速行きましょうマリュウ」

「その前にリズ様。少しの間お傍を離れますが、よろしいですか」

「ええ、大丈夫よ。それより気を付けて」

「はい。ありがとうございます」


 あっという間に視界から消える2人。

 

 いや全く、山中の隠密行動においてあの2人に優る人物がそうそういるとは思えない。

 必ずや期待に応えてくれるだろう。


「アスカ。あなた、最初からここまで考えていたの」

「いや、まさか。途中で思い付いただけだよ」

「それにしても……ジュリア、さっきのは訂正するわ。アスカのは意地悪じゃなく悪知恵ね」

「それうまい、エリザベス」

「うまくねーし。なんだよ人の事使って遊ぶな」

「師匠はいつも私たちよりも一歩先を見て考えているんです」

「お、いいぞピンピン。もっとオレを誉めてくれ」

「ダメよピンピン。アスカってばすぐ調子に乗るんだから」


 一同爆笑。

 いや、オレを除いた3人が、だった。


「エリザベスにひとつ聞きたいんだけど」

「どうぞ」

「マリュウさんってどれくらい地獄耳なの」

「地獄耳……?」

「あれ? 言わない? 地獄耳って」


 マジか、こっちの世界で地獄耳って何て言うの?

 デビルイヤーはさすがにないだろうと思ったけど、地獄耳までも通用しないとは!


 そこへジュリアが奇跡のフォロー。

 

「アスカ、もしかしてそれ遠耳(とおみみ)のこと?」

「マリュウさんって遠耳なんですか」

「え、ピンピン気付かなかった?」

「師匠はいつから気付いてたんですか」

「いや、結構前。まだドルクが出る前」

「あ! もしかしてあの時!? 私がアスカに質問した……」

「そうそうその時」

「質問ってどんな質問だったのジュリア」

「あはははは、それはちょっと秘密。ごめんねピンピン」

「えっ、ずるい! 教えてくれたっていいじゃないそれくらい!」

「あははは、それはちょっと無理かなぁ」

「師匠! 教えてください!」

「いやぁオレからはちょっと。ジュリアに聞いて」

「ジュリア~!」


 いつものやりとりだなぁと思いつつ、一瞬エリザベスの方を見たら額を押さえてた……。


「ごめんエリザベス。うるさかった?」

「ううん、いいの。あまり賑やかなのに慣れていなくて」

「え、なになにエリザベスどうしたの? 頭が痛いの?」

「大丈夫。なんでもない」

「本当に大丈夫ですか、エリザベスさん。顔色が悪いようですけど」

「心配してくれてありがとう、ピンピン。でも大丈夫だから」


 代わる代わる浴びせられる質問に答えながらますます憂鬱な色が濃くなっていくエリザベスの表情。


「あの、それでさっきの質問の答えなんだけど」

「ああ、マリュウの遠耳のこと? それなら生まれた時からよ」

「ええっ!!」

「もしかして天賦戦技!?」


 ジュリアの言葉に頷くエリザベス。

 

 天賦戦技――生まれつき備わった才能。

 戦技という言葉から戦闘に直接活かせる技的なものをつい連想してしまうが、要は特殊スキルって事だよな。

 

 初めてその保持者に出会ったという事になる。

 遠耳の持ち主、マリュウ。


 って、あれ? なんかおかしい。


「エリザベス! オレが聞いたのは遠耳が使える距離なんだけど」

「あ……ごめんなさい。勘違いしたわ。時々やるのよね、私」

「うん、知ってる」

「どうしてアスカが知ってるの?」

「だって、もう何回か見たし」

「いつ!?」

「ホラ、依頼の魔物討伐報酬の時とか」

「あ……あれはその……そ、そうね」


 顔が真っ赤だぞエリザベス。

 

「で、距離は?」

「……詳しくは私もわからないわ。でもかなり遠くまで聞こえるみたい。直接マリュウに聞いてみたら」

「そっか、じゃあそうする」


 アッサリ引き下がったら、それはそれで何か納得がいかない様子のエリザベス。


「あのね、エリザベス」


 またもジュリアが横入りしてエリザベスに密着モード。


「なに? ちょっと近すぎるわよジュリア」

「まぁまぁいいから! それでね、エリザベスの名前の事なんだけど」

「私の名前がどうかしたの?」

「ちょっと長くて呼びにくいのよね。アスカもそう思うでしょ」

「え? まぁそう言われるとそんな気もするけど」

「ピンピンは?」

「私は特に」

「ほら、みんなもそう言ってる事だし……」

「言ってねーだろ!」

「だからマリュウみたいにリズって呼んでもいい?」


 全く人の話を聞かずに突っ走るジュリア。

 だが、その提案はかなりナイスだ。

 オレも実はマリュウの呼び方ちょっと真似したいと思ってたところだ。


「賛成!」

「師匠がそうするなら私も」

「ちょっとあなたたち何を勝手な事を……」

「いいでしょ、ねぇリズ!」

「なッ……」


 あまりに唐突な事に言葉を失ったか。

 そしてまたしても顔面真っ赤っ赤のエリザベ……もといリズ。


「リズ!」

「リズさん!」


 オレとピンピンが追い打ちをかける。

 ナイスコンビネーションだ。


「か、勝手にすればいいわ。私は知らないから」


 出たツンデレ!

 そして用もないのにテケテケとオレたちから距離を取ってマリュウの行った方向を見るフリをするリズ、可愛い。


「じゃあ決まりね! リズ!」

「よろしくリズ!」

「よろしくお願いします。リズさん」


 何故かリズの方を見ずに3人で顔を見合わせてほくそ笑む。

 悪い仲間だなぁ。

 

 でも首謀者はジュリアだからな、オレじゃないぞ。



*****



 小一時間ほどで尾行から戻ったロビィとマリュウ。

 

「お帰りロビィ」

「マリュウ、お疲れ様」


 みんなが思い思いに言葉をかける。


「で、どうだった?」

「やはりアスカの思った通りでした」

「すぐに下山するなど全くの出鱈目。ヤツらは山の上の方へ向かいました」


 マリュウの言葉にリズ、ジュリア、ピンピンの3人は驚きの表情を浮かべていた。

 まぁ事前に聞かされていてもいざその事実を突きつけられるとね。


「それで?」

「最初にドルクが出てきた場所の少し上の方で仲間と合流しました」

「仲間は何人?」

「2人です。マリュウが会話を聞いたそうです」

「はい。遅かったな、どうしたんだ。全滅だ。それはそうだろう、相手はラドルガなんだから。いや、亜人たちが全滅したんだ。なんだと。冗談はよせ。冗談なんかじゃない。ウソだと思うなら四合目の囲みへ行ってみろ。死体の山だぞ。まさかそんな馬鹿な。オレたちだってまだ信じられん。あのラドルガがやられるなんて。しかもドルガの軍勢はたった2人で全滅させられたんだぞ。なんだと。ありえん。そんなのは到底信じられない。とにかくすぐに報告だ。ヤツらがこっちへ来るかもしれない。わかった、行こう。以上です」


 す、すげぇなマリュウの人間ボイスレコーダー。

 遠耳ってそんなすごい記憶能力まで漏れなくついて来る感じなの?


「どう? ご期待通りの成果は得られたのかしら」


 リズが得意気且つ挑発するような視線でオレに聞いて来る。


「ああ。あの亜人たちについてはシャイア教徒が陰で糸を引いていたって事で間違いなさそうだ」

「あの笛を使ったのでしょうか、師匠」

「たぶん。2人とも後生大事そうに胸にぶら下げてたし」

「隠す余裕もなかったって事なんだろうけど」


 呆れたような口調でジュリアが言った。


「例の2人には匂いを付けておいたので、まだ当分の間は後を追う事ができます」


 ロビィが得意気に言うとマリュウも頷いて見せた。

 へぇ、ロビィの単独行動かと思ったけどマリュウとも情報共有したのか。

 なかなかいい兆候だ。


「ロビィ、匂いってどういう事?」

「人間の鼻ではわからないかもしれませんが、私なら確実に嗅ぎ分けられる香料の事です」

「私も試しに嗅いでみたのですが、全然臭いませんでした」

「マリュウでもわからないならあの2人には永遠にわからないでしょうね」


 だな。

 

「それじゃジュリア」

「あ、うん。わかった。みんな! 行くわよ!」


 宣言するなり、先にとっとと歩きだすジュリア。

 オレも後に続く。

 すぐにピンピンも続く。

 

 ロビィもついて来る。

 

 マリュウがリズの方を見て、こちらを見て、またリズを見て迷っている。

 そんなマリュウを見て微笑みながらリズも歩きはじめる。


「早く! 置いてくわよリズ!」

「エッ?」

「リズさん、行きましょう」

「エッ??」

「ぼーっとしてんじゃねぇぞリズ」

「エッ???」


 ちなみに間でいちいち驚いているのはマリュウだ。

 あまりに突然の事に頭がおいつかないのか、もはや何かの病気のようにキョロキョロ落ち着きがない。

 

 ひとりだけ取り残されてもまだその場を動けない。


「行きましょう、マリュウ」

「はい、リズ様。エッ?」


 いや、それは自分で言ったんだろうが。

 完全におかしくなってるじゃねぇかw


 ようやく小走りにリズに追いついて何事か質問している様子のマリュウ。

 しかしリズは面倒くさそうに頭を振って答える気はない模様。

 

 ダメだよリズ。

 それじゃマリュウはいつまで経っても落ち着かないよ。

読んでいただきありがとうございます。

一回分のテキスト量を減らすと昨日言ったばかりなのにまた長くなってしまいました。

さすがにこの回を分割するとダレるかなぁと思ったので書ききりました。

ここから新展開というか新たな要素が加わっていきます。

引き続き応援よろしくお願いします。

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