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(32)オレは仲間を追い出す

 幸い人質となっていた3人は大きな怪我もなく無事だった。

 ただ精神的には多大なダメージを受けており、急性ストレス障害のような状態になっていた。


 かろうじて聞き出せたのはミト村の住人である事。

 ミト村は既に全滅しているらしい事。

 襲ったのは先程のラドルガたちである事。


 この3点のみで、それ以上何か聞き出すのは難しかった。

 

 なにしろ名前すら言えない状態なのだ。

 こちらの質問に首を縦に振るか横に振るかぐらいの反応しかできない。

 

 エリザベスはもっと情報を聞き出すべきだと主張したが、他のみんなの反対にあって渋々諦めた。

 その間マリュウは無言だったが、案の定申し訳なさそうな雰囲気を醸し出していた。


 一旦落ちつこうとなった時、エリザベスが珍しくワンさんに話しかけた。

 

「ワンさん、ちょっといいかしら」

「はい、なんでしょう」

「あれだけの数のドルクを倒しても討伐報酬の対象にならないのは如何なものかしら」

「仰る事はよくわかります。ただ私の方ではなんとも……」

「ワンさんは冒険者組合の所属なのでしょう?」

「ええ、まぁ一応……」

「それなら組合側へ口利きをしていただく事も出来るのではないですか」

「そ、それは……」


 困り果てているワンさんにチャンさんが助け舟を出す。


「無茶言うなよお嬢ちゃん。こちとら単なる雇われ冒険者なんだ。下手な事してクビにでもなったら責任取ってくれるのかい」

「そんな義理はないわね」


 うわ、バッサリかよ。

 身も蓋もないな。

 

「おい、チャン。お前もこの中じゃ年長者なんだからもう少し口の聞き方ってものをだな」

「なんだよウー。お前はどっちの味方なんだよ」

「どっちもこっちも、ワシらはみんな味方だろうに」

「いいんだ。ウー、チャン。ペピンに戻ったら私の方から組合に聞いてみるから」

「是非そうしてくださいな」


 せっかくワンさんが引き受けて場を納めようとしてくれたのに、礼もなしか。

 エリザベスってばどこまでお嬢様育ちなんだ。

 

 すると、横からスタスタとマリュウがやって来てワンウーチャンに一礼する。


「リズ様の願いをきいていただき、ありがとうございます」

「あ、いや、別にいいんですよ。申し出が通れば私たちも報酬がもらえますから」


 マリュウの従者根性も筋金入りだな。

 

 そしてワンウーチャンもドルク討伐分が無報酬となると、ここまでほぼノーカウントだろうから気持ちはわかる。


「ワンよ、お前さんはドルガを1体倒したからまだいいが、ワシらは……」

「そうだそうだ! ドルクの分がタダ働きならオレとウーだけ報酬ナシなんだぞ!」

「いや、あれはピンピン様のおこぼれに預かっただけだからなぁ」

「そんな事ないわ、ワンさん。私がちゃんと止めを刺せなかったのが悪いんだから」

「相変わらずピンピン様はお優しい」

「オレにもその優しさを分けてくれぇ~」

「もう黙れ、チャン!」


 最後はウーさんの一喝で無駄話終了。

 

 なるほど。ワンさんは1体倒したのか。

 腐っても青札だな(失礼)。


◆ここまでの戦果(後日の自己申告より)

――――――――――――――――――

オレ:ラドルガ×1、ドルガ×4

ピンピン:ドルガ×6

ジュリア:ドルガ×15

ロビィ:ドルガ×12

エリザベス:ドルガ×7

マリュウ:ドルガ×6

ワン:ドルガ×1

ウー:-

チャン:-

※ドルクはノーカウント

――――――――――――――――――



 落ち着いたところで今後の方針について話し合った。


「まだ捜索を続ける必要はあるのかしら」

「エリザベスさん、それはどういう意味ですか」


 ワンが怪訝な表情で尋ねる。


「これだけの敵がいたのよ。並の冒険者なら命が幾つあっても足りないわ」

「それはそうですが、まだ何の手掛かりも掴めていませんし……」

「手掛かりって冒険者の方? それとも魔鉱石の方?」


 鋭いツッコミを入れたのはもちろんジュリアだ。

 

「それは……その……両方、です」

「その仰り様だと仮に冒険者を発見したとしても、魔鉱石の情報を掴まない限り戻れないという風に聞こえるわね」


 確かにエリザベスの言う通り。

 オレも今そう思った。


「ワンさん、ここは正直に話した方がいいよ」


 あまりワンさんを困らせても申し訳ないのでしゃべりやすくしてやろう。


「アスカさん……。そうですね、私もまさかこんな事態になるとは思ってなかったので」

「そんな言い訳は必要ないわ。本題を話して」


 本当に容赦ないんだから、エリザベスってば。


「は、はい。実は今回の依頼は表向きはペピン冒険者組合が依頼主という事になっていますが、実際にはユミロフ司教様が本当の依頼主なのです」

「ユミロフ司教? 誰それ」

「まさか、シャイア教の!?」


 どちらも疑問形だが、ジュリアの質問にピンピンが答えた形になってしまっている。

 ワンさんがピンピンにゆっくり頷いて続ける。


「ユミロフ司教様はシャイア教のキャリオ全体を束ねていらっしゃるお方で、大変優れた人物として知られています」

「ワン、あんたはそのユミロフ司教って人に会った事があるのか」

「実は昨夜、ペピンの冒険者組合に呼ばれてそこで……」


 ウーに聞かれて気まずそうに答えるワン。


「なんじゃ、ワシらに黙ってこっそりそんな事をしてたのか」

「ちょっと用事が、とか言って出て行ったアレか!? 見損なったぞワン!」

「いや、違うんだ。組合の方からくれぐれも内密にと念を押されて……」

「内密じゃと!? ワシらは仲間じゃなかったのか」

「そうだそうだ! 裏切りだ!」


 なんだよこんな所で内輪揉めしてる場合じゃないだろ。


「ちょっと落ち着いて。ワンさんの話を聞こう」

「師匠の言う通りよ、ウーさんチャンさん。お願い!」


 ピンピンに言われるとさすがに黙らざるをえない2人。


「それで?」


 エリザベスが急かす。


「はい。組合に呼ばれて行くと会議室に通されまして、そこに組合長とユミロフ司教がおられたのです。内々の話だから決して口外しないようにと言われて、今回の依頼についての背景を説明されました」


 ワンさんの説明を簡単にまとめるとこうだ。

 

 カカ山へ魔鉱石採掘のために入山して行方不明になっている人たちについて、ユミロフ司教の方でも心を痛めていたので何らかの援助を検討していたらしい。

 旧知の間柄である組合長とたまたまそういう話になった時に、ではそういう依頼を教会の方から出してはどうかと提案されたのだが、様々な方面から寄付を受けている教会が冒険者に依頼を出したとなると何かと波風が立つかもしれないので、そこは組合の方が主体になって欲しいという事でまとまったのが今回の依頼なのだそうだ。


 但し、依頼の表現は不明冒険者の捜索という形にしておくが、教会の資金不足解消のために魔鉱石採掘に関する情報はどうしても入手したいという要望があり、冒険者救出の方が例えダメだったとしても魔鉱石の方は絶対に結果を出してくるようにと何度も念を押されたらしい。

 魔物や亜人と戦わなくても、その情報さえあれば充分な報酬は保証すると言われたと。

 

 だいたい話は見えた。


「なるほど、それで帰るのを渋っていたわけか」

「面目ございません」


 いや、別にオレはいいんだけどね。

 よくないのは主に――。


「不愉快だわ」

「リズ様……」

「いいえ、マリュウ。言わせてもらうわ」


 エリザベスが心底忌々しいといった表情でワンさんを見下して言った。


「あなたは最初から魔鉱石の情報の方が重要だと知りながら、私たちには隠していたのね」

「はい。結果的にはそういう事になります」

「結果的? 結果じゃなくて最初からでしょう」

「はい……最初から、です」

「あなたたちが積極的に戦闘に参加しなかったのも、討伐報酬より情報への対価の方が高価なのを知ってたからなのね」

「いえ、そんな! 決してそのようなつもりでは……」

「ワシらは知らなかったんじゃ」

「そうだ! くだらねぇ因縁つけんじゃねぇぞコノヤロー」


 積極的に戦闘に云々の行で身に憶えのある2人が自分の事まで言われたと思って反論する。

 

「ちょっとエリザベス、よしなさいよ」


 見兼ねたジュリアが窘める。


 エリザベスも口が過ぎた事を認めたのか、ふぅとひとつ息を吐いてから続けた。


「とにかく私はもうこの人たちを信用する事はできないわ」

「エリザベスさん! ワンさんも悪かったと認めているんですから、どうか許してあげて」


 ピンピンが許しを乞う。


「罪を許すのは神様の仕事であって、私の仕事じゃないわ」

「リズ様ッ」


 マリュウがさすがに今度はキツめに声をかける。

 女中に叱られるお転婆お嬢様だな。


 だが、実はオレもエリザベスに同感だ。

 まぁ大人の事情ってヤツなのはわかるが、結局は組合長と司教とかいう連中の方に与して、オレたちを騙していた事に変わりはない。

 普通の仕事とかなら許容範囲内でも、命を落とす可能性もある依頼を一緒に遂行するに当たってはダメだ。

 

 仲間に対する重大な背信行為。

 それは紛れもない事実なのだから。


 それにオレはテレビや映画などでよくある、悪い事をしたけど実はいい人でした的な設定が大嫌いでな。

 特に、改心した後本人も周囲も何事もなかったかのように和解して大団円なんてのには虫唾が奔るクチだ。

 罪を憎んで人を憎まず? はぁ!? ですよ。

 従って心の底から何の迷いもなくエリザベスに一票。

 

 ふとピンピンの視線を感じて我に返る。

 残念だが弟子よ、お前の師匠はエリザベスと同意見だ。

 力にはなれない、許せ。

 

 とは言え、ここでわざわざエリザベスに賛意を示して周囲の顰蹙を買うのもちょっとなぁ。

 そういう大人のズルさってあるでしょ、うん。


 だが――。


「なんだよ、ちょっとぐらい強いからっていい気になりやがって」


 チャンさんが思わず口にしてしまった言葉が、オレの逆鱗に触れた。

 方針変更だ。


「そういうのは少しくらい役に立ってから言えよ」

「なにッ!?」

「師匠?」


 チャンさんにピンピンのみならず、エリザベスまでもが驚いてこちらを見た。


「足手まといが偉そうな事を言うな」

「あ、足でまといだと? そ、そんな事……」


 怒りのあまりしどろもどろになるチャンさん。

 オレもマズイなと思いつつも、口が止まらない……。


「あんたらのせいでこっちの動きに制限が加わるんだよ。正直もう帰ってくれないか」

「な、なな……お、おい、ウー。こんな事言われてるぞ」

「…………」

「アスカさん、それは幾らなんでも言い過ぎでは」


 ワンさんが仲裁に入ろうとする。

 が、当の本人もその対象になっていると気が付いていないのが痛い。


「そうです、師匠! 撤回してください!」

「断る」


 ピンピンまで敵に回してしまう、か……。

 だが仕方ない。


「私もアスカの意見に賛成ね。ご年配のみなさんはあの子たちを連れて先に帰った方がいいわ」


 帰るべき村を失った3人を指差してエリザベスが言う。


「確かにあの3人は早く安全な所へ連れて行ってあげた方がいいわ」

「同感です。そしてその役目はワンウーチャンの皆さんが適任です」


 ここでジュリアとロビィが揃って口を開いた。

 あれ、もしかしてオレの意図が伝わってる感じ?

 なんかめっちゃ嬉しいんですけど。


「そんな……ジュリア、ロビーナさん」


 ピンピンがみんなに裏切られた気分で絶望している。

 そうじゃないんだよ。


「そ、それではウーとチャンに3人をラシークまで送ってもらうという事で」

「いや、ワンさんも一緒に行くんだ」

「ですが、そうなると依頼の方が……」

「行方不明の冒険者を探せばいいんだろ。あと魔鉱石採掘場の情報だっけ? いいよ、調べていくから」

「私はこの捜索隊の指揮を任されているので……」

「だからもういいって。指揮は誰か代わりの人がやるから。それにまだこの辺に魔物や亜人がいるかもしれないんだ。2人だけじゃ不安だろ」

「そ、それはそうですが……」

「だからワンさんはラシークで他の2人と待っててくれ。帰りに必ず寄るから」

「……まぁ、そういう事なら仕方ないですね」


 ようやくワンさんが納得してくれた。

 自分たちだけ先におめおめとペピンに帰るわけではなく、ラシークで合流して一緒に戻れば組合側には申し訳が立つ。

 ワンウーチャンの面子もなんとか保たれる、というわけだ。

 

「ピンピン様、残念ながらこの先お供は出来なくなりますが、どうか無理はなさらぬようくれぐれもお気をつけください」

「わかってるわよ、ワンさん。みんなも気を付けてね」

「ピンピン様~ッ!」


 ウーさんチャンさんもピンピンの傍に駆け寄って別れを惜しむ。

 ドサクサに抱き付こうとしたらオレが割って入るつもりでいたが、さすがにそこまでは心配いらなかったようだ。


 ピンピンと両手で堅く握手を交わして村人の方へ行くワンウーチャン。

 村人も山を降りると聞いて少し安心した様子だ。

 

 6人が頭を下げながら下山していく。

 ようやくこれで安心して捜索に専念できる。

 

「アスカ、お疲れ様」

「お役目御苦労様でした」


 ジュリアとロビィが微笑みながら近寄って来た。


「わかってくれて良かったよ。援護ありがとう」

「どういたしまして」


 礼を言うとジュリアに抱きつかれた。

 あ、また戦闘後のアレの時間ですか?

 いや、ちょっと今回はエリザベスとかマリュウとかもいるんでさすがにやめて。


「師匠、もしかしてさっきのわざとなんですか?」


 ピンピンが驚いた顔で聞いて来るので、ジュリアを横に押し退けながら答える。


「うん、まぁね」

「あんな風にでも言わないとあの3人、ピンピンの傍から離れそうになかったでしょ」


 ジュリアもちゃんとわかっててピンピンをフォローしてくれる。

 でもだからってまた抱き付いてくるのはやめて。


「そうだったんですね。すみません師匠! 私何にも知らないで……」

「いいって、ピンピン。気にしないで」

「ありがとうございます。本当に……ありがとうございます」


 最後にはちょっと涙ぐんでたピンピン。

 やっぱりあの3人の事は心配してたんだろう。

 まぁわかるよ、それは。

 だからこそ、ここで帰ってもらわないといけなかったんだし。


「アスカだけじゃなく、みんなグルだったってわけね」


 エリザベスがやや呆れたように言うとジュリアが即レス。


「え!? エリザベスもアスカに協力してたんでしょ?」


 なるほど、ジュリアにはそう見えてたというわけか。


「別に私は思った事を言っただけよ」


 そうでしょうとも、ええ。

 エリザベスはそういう人だとよくわかりました。


 だがジュリアは諦め悪くマリュウにも食い付く。


「マリュウは?」

「いいえ、私も存じあげませんでした」


 玉砕。

 

「あははは……」


 そしてピンピンが涙の気配なぞどこ吹く風で乾いた笑いを溢す。


「6人になりましたね。これからどうしますか」


 ロビィの言葉でみんなが現実に戻る。

 そうだ、これからどうするかだ。

 

 それを決めなければならない。

読んでいただきありがとうございます。

今回から意識して一回分のテキスト量を減らしてます。

ちょっと今まで詰め込みすぎて長くなってしまってて、書くのも辛いですが読む方も大変だろうなと思っていたので。

この分量で更新頻度を上げていこうと思います。

引き続き応援よろしくお願いします。

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