第5話 【タナカ少将Ⅱ】
「ユウキ、今の人」
「ああ、あれがふゆしお艦長のアキヤマ中佐だよ」
ユウキとシオリの2人が向かったのは、先程までアキヤマ艦長がいた群指令室である。
「ご苦労だったな」
部屋に入った2人をタナカ少将が笑顔で迎え入れる。
「シオリ、体調はどうだ?」
「・・・平気」
「そうか、何せ今までの試験航行とは違い、初めての実戦だったからな、心配していたんだ」
「ところでミカミ艦長、残りのクルーはどうしてる?」
「レイナは全力で休暇を満喫していますよ、渋谷で友達に会うそうです。カナエさんは、明日には呉に戻って来ます、やはりシオリの事が気にかかるようですね」
「彼女らしいな」
「ヨロイ少尉は、父親に会いに行くと言っていました」
「父上は確かワシントン駐在ではなかったか?」
「ええ、でも今は一時的に海軍本省に戻っているそうです」
「なるほどな」
「タナカ少将、そういえば先程、ふゆしおのアキヤマ艦長をお見かけしました」
「私が呼んだんだ。アキヤマ中佐は今回の事件に納得がいってない様子だったな」
「でしょうね」
2人が話をしている間も、シオリはユウキの横にぴったりと寄り添って離れない。
その様子を見て、タナカ少将は優しく彼女に話しかける。
「シオリ、君はミカミ中尉と毎日一緒で飽きないのかい?」
「飽きない」
即答だ。
「そうかそうか、君にも自由な休暇を与えてやりたいんだが、済まんな」
「ユウキがいるから平気」
「ミカミ中尉、責任重大だな」
茶化すようなタナカ少将の言葉に、ミカミ中尉は思わず苦笑する。
「ああ、私は一向に構わんよ、君たちがくっつこうが何しようが」
「いや、それは・・・」
「もうくっついてるから平気」
「シオリ、意味分かって言ってる?」
「ワハハハ、仲が良くて大変よろしい、年寄りには目の毒だがな」
「将軍まで、全く・・・」
「そうだシオリ、これを渡さなくては・・・」
タナカ少将はそう言うと、持ち手のついた紙袋をシオリに差し出す。
「君のお母さんからの預かり物だ、君の好物と手紙が入っているそうだよ」
紙袋を受け取ったシオリの表情が、ほんのわずかに明るくなるのを、タナカ少将は見逃さない。
「お母さんは元気そうだったな、次の出航の前に連絡してあげるといい」
シオリを見つめるタナカ少将の目は慈愛に満ちて暖かい。
「うん・・・そうする」
シオリは素直に同意するのだった。




