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第36話:弾丸遠征と、工房の夜更け

霧島第一ダンジョン第7層の最奥、竜骨の化石が剥き出しになった危険地帯。

私たちの目の前で、金剛石の光を纏った熊倉二曹の拳が赤茶けた岩盤へと叩きつけられた。


ドガァァァァンッ!!


凄まじい衝撃波が峡谷を揺らし、通常のピッケルでは歯が立たなかった硬質な岩盤が、まるで豆腐のようにバリバリと砕け散った。

その砕けた岩の破片の中から、月光のように冷たく、それでいて邪悪な魔素を綺麗に弾き返す半透明の銀色の鉱石――『破邪の霊銀石』の塊がゴロリと姿を現した。


【万象識別】!


『名称』:破邪の霊銀石(はじゃのれいぎんせき)

『品質』:極上(A+ランク)

『特性』:強力な魔素中和、呪詛・状態異常耐性の強制付与、対スタンピード結界用触媒


「採掘成功です! 素晴らしい純度!」

私が駆け寄り、崩れ落ちた霊銀石の塊を次々とアイテムボックスへ回収していく。サキが設計した要塞の金属基盤を補強するには、この霊銀石の持つ魔素中和能力が絶対不可欠だった。


「よし、第七層の鉱石はこれで目標数コンプリートだな!」

熊倉二曹が汗を拭いながら豪快に笑う。

「次ですね……『万病治しの黄金桃』。幸い、第八層の安全エリアまで降りれば、すぐに採取できます!」

橘一尉が青銀色の神眼で周囲の気配を完璧に遮断しながら告げた。


私たちは第七層のポータルを駆け抜け、あの潮の香りと美しい白砂の広がる第八層の安全エリアへと瞬時に移動した。

先週の漁業解禁発表以来、多くの漁業関係者や自衛隊の設営部隊が頻繁に出入りしているはずのその砂浜の奥、潮風の届かない珊瑚礁の隙間に、黄金色の輝きを放つ小さな果樹園がひっそりと佇んでいた。


枝の先端に鈴なりに実っているのは、太陽の光をそのまま固めたような、美しい黄色の桃――『万病治しの黄金桃』。

触れるだけで、周囲の空気が甘く爽やかな香りで満たされていく。


『パッシブスキル:【万象解体】適用。』

『『万病治しの黄金桃』、一切の傷をつけずに全数収穫完了。』


「よし、霧島での採取タスク、完全完了です!」

私はアイテムボックスの収納状況を確認し、満面の笑みで二本の黄金の尻尾をピーンと立てた。

「美濃へ戻りましょう! スタンピード発生まで、まだ時間はあります!」


---


その日の夕方。

私たちが霧島から美濃ダンジョンの中央駐屯地へと戻ると、そこには見覚えのある顔が待ち構えていた。


「遅せぇぞあかね! 何日待たせる気だ!」

特設の野戦工房のテントの脇で、保護メガネを額に引っ掛けた兄・晃が、腕を組んで仁王立ちしていた。

その傍らでは、すでに出張用の製錬炉を組み立て終えていたサキが、工具を手にしてパタパタと走り回っている。


「兄ちゃん!? なんで鹿児島から岐阜まで来てるの!?」

「当たり前だろ! 日本中がスタンピードの危機だってのに、妹が命懸けで集めてくる特級素材の第一処理を、他の奴に任せられるかよ!」

晃は鼻息を荒くしながら、私のアイテムボックスから『破邪の霊銀石』と『万病治しの黄金桃』を次々と引っ張り出した。

「ほら、さっさ寄越せ! サキと一緒にこの霊銀石をミスリルと合金化させて、美濃第5層の要塞壁に組み込む超強化結界鋲を秒速で打ち出すぞ!」


「晃のお兄さん、ナイスタイミングよ! 私も美濃の第2層で採れた魔除けの霊鉄鉱の加工が終わったところだから、今からそっちとクロスオーバーさせて一気に『対呪詛複合装甲板』をプレス成型するわ!」

サキと晃の天才的なクラフターコンビが、火花を散らすようなスピードで作業の打ち合わせを始める。


「あかねさん、お疲れ様です。」

赤城燈主任が白衣を翻しながらコーヒーの入った紙コップを差し出してきた。

「サキちゃんと晃君のコンビネーション、想像以上の爆速よ。……でも、あかねちゃん。まだ仕事は終わってないわ。もう一つの重要素材を採りに行ってもらう必要があるの。」


「もう一つの……?」

「ええ。防衛陣地の補強には敵の侵入を防ぐ金属と解毒の果実だけじゃ足りないのよ。スタンピードで押し寄せる上位種モンスターの群れを一時的に無力化し、行動を縛るための『モンスターを強制的に状態異常(麻痺・混乱)に陥せる特殊素材』が必要なの。……場所は、美濃ダンジョン最奥の未踏エリア――『霧の迷宮・白銀の谷』よ。」


白銀の谷。

美濃ダンジョンの奥地に存在することはJDAの測量データで確認されていたが、これまで誰も足を踏み入れたことのない、完全な未踏の領域。

情報が圧倒的に不足している危険地帯だ。


「わかりました! 私たちが行って、確実に採ってきます!」

私は一瞬の迷いもなく頷いた。

「頼んだわよ、あかねちゃん。一刻を争うわ。」


---


美濃ダンジョン第5層からさらに奥、一般探索者の立ち入りが固く禁じられた未踏区域の境界線。

私たちは、誰も歩いたことのない霧深い原生林の入口へと足を踏み入れていた。


「……周囲の魔素濃度が、これまでの層とは明らかに違いますね。」

橘一尉が小銃を構え、青銀色の神眼で前方の濃霧を睨みつける。

「視界は五メートル先も見えません。だが……私に任せてください!」


私は二本の黄金の尻尾をふわりと広げ、地中深くに走る地脈の波形を脳内で立体化させた。

【地脈統御】および【双尾の霊脈】の完全展開!


「お任せください! 霧の向こうの地形、そしてお目当ての素材の生息地……すべて私の脳内で完全にマッピングされています!」


私の頭の中には、霧に閉ざされた未踏の谷の全貌が、鮮やかな三次元の地図として描き出されていた。

崖の傾斜、隠された沼地の位置、そして私たちが探している特殊な植物の生息座標。


「こっちです! 危険な落とし穴の沼を避けて、右側の岩棚のルートを進みます!」


私の完璧な先導により、私たちは未知の迷宮であるはずの『白銀の谷』を、まるで何年も通い慣れた散歩道のようにスイスイと進んでいった。

一般の探索者であれば情報不足で数日は足止めを食らうであろう未踏の深部。

しかし、私のマッピング技能と圧倒的な索敵能力の前には、霧も障害物も全く意味を持たなかった。


そして、谷の最奥――ひときわ濃い霧が渦巻く崖の根元に、それは群生していた。


『名称』:痺れ胞子の白銀茸(しびれほうしのしろがねだけ)

『品質』:極上(Aランク)

『特性』:強力な神経毒胞子を大気中に散布。接触したモンスターの運動神経を完全に麻痺させ、数分間行動不能に陥れる。防衛戦においてトラップ罠の最上級触媒となる。


「これです……! 燈主任が言っていた、モンスターを状態異常にできる特殊キノコ!」

私は細心の注意を払いながら、胞子が外に漏れない特殊な密閉ガラス管へと白銀茸を次々と収穫していった。

さらに、その傍らに自生していた、幻覚毒を持つ『惑わしの青い蔦』も併せて回収する。


「よし、これで防衛戦に必要なすべての必須素材が揃いました!」

私が振り返ると、熊倉二曹が豪快に笑って私の頭をポンと叩いた。

「がはは! お嬢さんの完璧なマッピングのおかげで、迷う暇すらなかったぜ! さあ、美濃の拠点に戻って、みんなにこの戦利品を叩きつけてやろうじゃねえか!」


---


私たちが白銀の谷から美濃駐屯地へと帰還したその頃。

地上のインターネット空間、国内の総合掲示板群は、まさに「全国民が一体となった総力戦のドキュメント」として、すさまじい熱狂と情報共有のハブと化していた。


スレッドのタイトルは、もはや単なる「応援スレ」ではなく、政府やJDAの公式発表を凌ぐほどのリアルタイム・インフラ情報掲示板としての様相を呈していた。


---


【美濃スタンピード】素材調達・防衛戦構築 総合インフラ情報スレ Part.5


1 :名無しさん@全日本開拓中:203X/04/11(土) 20:12:45.12 ID:Infranet05

美濃スタンピード発生(4/16午前11時)まで、残り約50時間。

現在のネット掲示板は、全国の探索者ギルド、採集者、錬金術師たちから寄せられた「美濃防衛要塞の構築進捗」および「あかねちゃん小隊の未踏区域マッピング」のリアルタイム情報を集約するインフラ情報板として機能しています。


■【第5層・要塞化の進捗状況】

・サキちゃん&晃兄ちゃんの天才クラフターコンビが駐屯地で夜を徹した特製工房を稼働中。

・霧島第7層からあかねちゃんが持ち帰った『破邪の霊銀石』と美濃の霊鉄鉱を融合した【対呪詛複合装甲板】のプレス成型が完了! 第5層安全エリアの要塞壁へのボルトオン作業が爆速で進行中。

・第8層の『万病治しの黄金桃』を活用した、特製の即効性ハイパー回復ポーションの量産体制が構築完了。


■【あかねちゃん小隊の動向】

・美濃ダンジョン最奥の未踏エリア『白銀の谷』へ突入。

・情報ゼロの未知の領域だったが、あかねちゃんの二尾による超絶マッピング技能により、数分で完全攻略。

・モンスターを強制麻痺させる『痺れ胞子の白銀茸』の大量確保に成功し、現在美濃拠点へ帰還中。


前スレ:【美濃スタンピード】防衛戦対策・リアルタイム総合スレ Part.4

[http://to〇ho.net/dan/04/](https://www.g〇gle.com/search?q=http://to〇ho.net/dan/04/)


14 :名無しさん@インフラ担当:203X/04/11(土) 20:15:10.34 ID:CraftOtaku

スレ立て乙。

今の掲示板、完全に「日本全国のクラフターたちのログ」になってて草生える。

北関東の採掘班が霊鉄鉱をトラックで陸送し、九州の漁師たちが第八層の海の幸で遠征軍の胃袋を支え、関西の錬金術ギルドがポーションの瓶をひたすら煮沸消毒してる。

国境もギルドも関係なく、全員があかねちゃんの背中を追って動いてる感じがヤバい。


28 :名無しさん@インフラ担当:203X/04/11(土) 20:18:33.45 ID:SakiBrosLove

てかさ、工房のライブカメラ見たか?

晃兄ちゃんが血走った目でミスリルのボルトを溶接して、その横でサキちゃんが冷静に魔導回路のハンダ付けしてるの、完全にアニメの最終回前のワンシーンなんよ。

あの二人の職人魂が、美濃の要塞をマジで「要塞」に仕立て上げていってる。


45 :名無しさん@インフラ担当:203X/04/11(土) 20:21:05.12 ID:MappingGod

それより、あかねちゃんが未踏の「白銀の谷」を秒速でマッピングしてきた件な。

情報ゼロの危険地帯だぞ!? 普通なら斥候部隊が二週間かけて命懸けで測量するレベルの場所だぞ!?

それを「あかねちゃんの頭の中に三次元マップが完成しました」の一言で片付けるの、チートすぎて笑うしかない。

マッピング完了した瞬間に、自衛隊の戦術AIがそのマップを即座に受信して、自動防衛砲台の射線計算をアップデートし始めたの美しすぎた。


63 :名無しさん@インフラ担当:203X/04/11(土) 20:24:40.89 ID:AnshinKaigi02

これで、

・防御陣地の金属補強(霊銀石)完了

・状態異常対策(蜜林檎&黄金桃)完了

・迎撃用トラップ素材(白銀茸)完了

あとは、防衛戦本番を待つだけか……?


81 :名無しさん@インフラ担当:203X/04/11(土) 20:27:12.34 ID:Realist03

いや、まだだ。

忘れてるかもしれないが、今回のイベントのタイトルは【ダンジョンカーニバル(領域変異事象)】だぞ。

防衛戦の最中、あるいはボス前になんらかの「予測不能のトラブル(第5段階)」が必ず起きる設計になってる。

サキちゃんたちの要塞がどれだけガチガチでも、ゲームのシステム側が想定外のカウンターを仕掛けてくる可能性が高い。


99 :名無しさん@インフラ担当:203X/04/11(土) 20:30:00.01 ID:MikoGamiFan

不穏なこと言うなよ……!

でも、あかねちゃんには宇迦之御霊神から授かった【破邪の神楽鈴】があるし、種族進化した熊倉さん【金剛の巨神】と橘さん【風天の戦巫女】がいる!

どんなトラブルが起きようが、この最強の特務小隊なら絶対に乗り越えられるはずだ!


115 :名無しさん@インフラ担当:203X/04/11(土) 20:32:45.67 ID:KagoshimaCheer

残り時間、あと約50時間。

夜を徹したクラフターたちの作業も大詰めに入ってる。

みんな、体調に気をつけて本番を迎えてくれ!

あかねちゃん小隊、本当にお疲れ様! 拠点での束の間の休息をしっかり取ってくれよ!!


---


夜更けの美濃駐屯地・特設野戦工房。

オレンジ色のナトリウムランプが照らすテントの中では、今この瞬間も、晃とサキが額に汗を浮かべながら最後の魔導回路の調整に没頭していた。


「よし、これで対呪詛複合装甲板の制御中枢は完璧だ! あかね、持ってきた白銀茸をその調合槽にぶち込め!」

「はーい! 特製痺れトラップ液、一丁上がり!」


私がアイテムボックスから白銀茸を正確な分量で投入すると、サキが素早く魔導バルブを締めて気密を保った。

「これで、第5層の要塞通路に仕掛ける自動散布トラップの弾薬が全部揃ったわ。……ふう、これで一区切りね。」


サキは工具をガチャリと机に置き、その場でグッと大きく伸びをした。

隣で兄の晃も、全身ススまみれの顔で「終わった……」と床にペタンと座り込む。

「いやぁ、妹よ。お前が採ってきたあの霊銀石、分子構造が美しすぎて磨いてるだけで飯が食えたわ……。」


「お疲れ様、兄ちゃん、サキ!」

私は二人に、第八層の安全エリアで採ってきた冷たい『黄金の雫葡萄』の房を差し出した。

「これ食べて、少し休んでね。防衛戦の本番は、ここからなんだから。」


葡萄を一口食べたサキと晃が、あまりの美味しさに目を丸くして頬を緩める。

テントの外に出ると、美濃駐屯地の上空には満天の星空が広がっていた。

そのはるか地下、第5層の安全エリアには、日本中の探索者たちと自衛隊の汗と絆が詰まった「鉄壁の要塞」が、ひっそりと、しかし力強く完成の時を迎えていた。


空中に浮かぶ真紅のデジタルタイマー。

『49:15:30』――。


残り約五十時間。

静まり返った夜の帳の向こうで、世界の命運を賭けた大いなる開戦の足音が、確実に近づいてきていた。


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