第3話:即死ゲーの理(ことわり)と、未知への第一歩
霧島第一ダンジョンのゲート前、仮設プレハブの研究本部屋根を、霧島連山特有の冷たい山風がガタガタと揺らしていた。
外には自衛隊の大型車両とサーチライトが並び、不気味に青白く発光する空間の裂け目――ダンジョンゲートを昼間のように照らし出している。
突入を目前に控え、私はプレハブの一角で折りたたみパイプ椅子に浅く腰掛けていた。背もたれに尻尾が挟まらないように、すっかり身についた斜め座りだ。
「……はぁ。」
ため息とともに、私はもう一度、自分の目の前に浮かび上がらせた半透明のステータスウィンドウを凝視した。
『名前』:笹貫あかね
『年齢』:16歳(高校一年生)
『種族』:霊狐(一尾)
『レベル』:1
『MP』:200 / 200
『スキル』:地脈感応、気配遮断、環境適応、万象識別、妖術、結界、万象解体
『称号』:始まりの5人、九尾仙人の後継者
何度見ても、胃のあたりがキュッと縮こまるような違和感がある。
その違和感の正体について、さっき車を降りた直後、兄から追加で送りつけられてきたメッセージアプリの長文が、あまりにも的確に言語化してくれていた。
スマートフォンの画面をスクロールする。
兄のチャット画面は、もはや怪文書の域に達していた。
『あかね、緊急だ。さっきお前が送ってきたステータス画面のスクショ、何度も拡大して穴が開くほど見た。……お前、気づいてるか? 一番ヤバい欠落に。』
『”HPの項目が存在しない。”』
『ゲームなら、HPが1でも残っていれば手足が吹き飛ぼうがピンピンして走り回れる。だが、このクソ仕様の現実は違う。ステータスにHPがないってことはどういうことか分かるか?』
『「当たり所が悪ければ一撃で死ぬ」ってことだ。』
『銃弾が頭をかすめれば脳震盪を起こすし、モンスターの牙が首の頸動脈を裂けば数分で失血死する。骨が折れれば走れなくなるし、内臓が破裂すればショック死する。ゲームのような「HPバーが削れるだけの安全な被弾」なんて概念は、最初から地球に実装されてない。これ、完全なハードコア即死ゲーだぞ。』
画面越しに兄の青ざめた顔が目に浮かぶようだった。
普段は能天気なアニオタのくせに、こういう「システムの仕様の穴」を見つけ出す時の嗅覚だけは異常に鋭い。
『だから絶対に調子に乗るな。お前のMP200は、並の覚醒者(せいぜい15〜20前後)から見ればチート級のバケモノ数値だ。だが防御力や生命力に関しては、ただの16歳の女子高生の肉体そのものだと思え。自衛隊の熊倉さんって大男の後ろから一歩も出るな。爪先ですら壁から出すな。わかったな、絶対死ぬなよ。』
「……言われなくても、前に出る度胸なんてないよ。」
私は小さく呟いてスマホをポケットにしまった。
兄の言う通りだ。私には、映画のヒーローのように敵の攻撃を耐え忍ぶ頑強さはない。かすり傷一つが命取りになり得る世界。
だからこそ、私に与えられたスキル群――敵に気づかれないための【気配遮断】、周囲の危険を前もって察知する【地脈感応】、そして攻撃を遮断する【結界】――この三つが生命線になるのだ。
「あかねさん、装備の最終確認です。」
プレハブの引き戸が開き、橘一尉が入ってきた。
先ほどまでの迷彩服の上から、プレートキャリア(防弾ベスト)を装着し、太ももにはサイドアームの拳銃、背中には最新鋭の89式小銃をコンパクトに切り詰めたカービン仕様を背負っている。髪をきっちりと後ろでまとめ、その表情は完全に戦場へ臨む軍人のものだ。
続いて、床を軋ませながら熊倉二曹が入ってきた。
その威容に、私は思わず息を呑んだ。
熊倉二曹の両手には、暴徒鎮圧用を遥かに超える分厚さの、黒塗りの防弾・防刃タワーシールド。背中にはドラムマガジンを装着した大型のオートマチック・ショットガン。全身を覆う重厚なタクティカルギアと相まって、もはや人間というよりは動く要塞である。
「お待たせ、お嬢さん。頑丈な壁役のお出ましだぜ。」
熊倉二曹がニカッと白い歯を見せる。
その太い腕と巨大な盾を見ていると、兄の「熊倉さんの後ろから一歩も出るな。」という忠告がいかに正しいかを実感する。
「お二人とも、すごく重装備ですね……。」
「相手が未知の生物である以上、過剰すぎるということはありません。」
橘一尉が私の前に膝をつき、視線を同じ高さに合わせた。
「突入前の最終ブリーフィングを行います。今回の任務目的は二つ。第一に、第一層の構造確認および安全マッピング。第二に、出現するモンスターの生態確認と、現代火器の有効性の検証です。無理な深度への進行は一切行いません。少しでも危険を感じたら、あかねさんの判断で即座に撤退します。」
「私の判断で、ですか?」
「ええ。この中で、最も魔素に対する感知能力が高く、ダンジョンの異常を察知できるのはあかねさんです。隊の生死を分ける斥候の判断を、私たちは全面的に信頼します。」
凛とした真っ直ぐな瞳。
背負わされた責任の重さに、私の狐耳がピクリと緊張で跳ねた。けれど、同時に不思議な高揚感が胸を満たしていく。
頼りにされている。私のこのオタク知識と、変化してしまった身体が、誰かの役に立とうとしている。
「……了解しました。索敵とナビゲートは、絶対にミスしません。」
「頼もしいですね。では、参りましょう。」
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プレハブを出て、サーチライトが照らす広場を横切る。
冷え切った夜気の中、十数人の自衛隊員たちが敬礼で見送る中を通り抜け、私たちは空間の裂け目――ダンジョンゲートの直前に立った。
間近で見ると、それは空間に開いた巨大な傷口のようだった。
縁が青紫色にチリチリと細かく放電しており、覗き込むと、外界の光とは全く異なる、エメラルドグリーンと淡い藍色が混ざり合ったような燐光が奥へと続いている。
ゴオオオォォ……という、地球の奥底から響くような重低音。
私の耳が、電磁波のような微弱な音を捉える。
「熊倉二曹、先頭。あかねさんを中央に挟み、私が殿を務めます。……突入!」
橘一尉の号令とともに、熊倉二曹が巨大な盾を構えて裂け目へと足を踏み入れた。
続いて、私。
境界線を跨いだ瞬間――。
フッ、と重力が一瞬だけふわりと浮き上がるような浮遊感に襲われた。
耳の奥でポコンと気圧が変わる音がして、次の瞬間には、肺に流れ込んでくる空気の質が劇的に変化していた。
「っ……!」
冷たい。だが、ただの冬の寒さではない。
湿り気を帯びた空気の中に、甘い花の蜜と、削りたての鉛筆のような鉱物の匂い、そして肌をチクチクと刺激する微弱な静電気が満ちている。
外界の車の音も、ヘリの爆音も、隊員たちの足音も、ゲートをくぐった瞬間に完全に遮断されていた。完全なる静寂。
「全員、異常はないか?」
橘一尉の引き締まった声が洞窟内に低く反響する。
「問題なしっす。……おいおい、外とはまるで別世界だな。」
熊倉二曹が首を回しながら呟いた。
私たちは幅十メートル、高さ五メートルほどの広大な天然洞窟の中に立っていた。
人工的な照明など一つもないのに、暗闇ではない。洞窟のゴツゴツとした岩壁のあちこちに、淡く青緑色に発光する結晶質の岩や、発光する苔が群生しており、幻想的な薄明かりを作り出しているのだ。
ファンタジー映画のセットでも、VRゲームの仮想空間でもない。
ひんやりとした湿度が頬を撫で、足元の濡れた土を踏みしめる感触がある。本物の、異世界。
私のオタク心が、恐怖を置き去りにして猛烈に沸き立った。
「すごい……本当に、ダンジョンだ……!」
「あかねさん、体調に異変はありませんか? 魔素の濃度は外界の約五倍を計測しています。」
「平気です。むしろ……すごく呼吸がしやすいです。」
嘘ではなかった。
私の肺を満たす空気は、体内の霊核を心地よく刺激し、指先まで澄んだエネルギーが巡っていくのがわかる。これがおそらく【環境適応】の力なのだ。
私はしゃがみ込み、足元に生えている淡く青白く光る苔に手を伸ばした。
指先が触れた瞬間、胸の奥で魔力がカチリと音を立てて噛み合う感覚があった。
(【万象識別】……オープン!)
心の中で強く念じた瞬間、視界の隅に、まるでゲームのポップアップウィンドウのように、半透明の文字が鮮明に浮かび上がった。
『名称』:月光苔
『品質』:通常(Dランク)
『特性』:弱発光、弱魔素吸収、軽度止血作用
『詳細』:ダンジョン第1層の湿潤な岩肌に自生する基礎的な霊草。乾燥させて粉末にし、清浄な水で練ることで、軽度の切り傷や擦り傷を瞬時に塞ぐ外用軟膏の主原料となる。
「……出た。本当に出た!」
思わず歓声を上げそうになり、慌てて手で口を押さえた。
ただの「鑑定」ではない。兄の言っていた通り、その素材が何に使えて、どう加工すればいいかという『レシピのヒント』まで脳内に直接流れ込んでくる。
「どうしました、あかねさん?」
「橘さん、これ! この光ってる苔、持って帰れますか!? すり潰して軟膏にすると、傷薬になるみたいなんです!」
私が目を輝かせてリュックから園芸用スコップとチャック付き保存袋を取り出すと、背後で見張っていた橘一尉と熊倉二曹が、ポカンとした顔で顔を見合わせた。
「お、おいおい……突入して三十秒で薬草採取始めるやつがあるかよ。」
「あかねさん、ここは敵地です。もう少し警戒を――」
「あ、大丈夫です。今、索敵してますから。」
私はスコップで丁寧に苔を根元からこそぎ落としながら、頭の上の狐耳をピクピクと動かした。
同時に、意識を足の裏から大地の奥深くへと沈めていく。
【地脈感応】。
視界が二重になるような感覚。
物理的な洞窟の光景の上に、網の目のように張り巡らされた青い魔素の脈動――レイラインが、立体的なワイヤーフレームのように脳内に展開される。
どこに空洞があり、どこに分かれ道があり、どこに脆い岩盤があるのかが、手に取るように把握できる。まるで、自分がこの洞窟そのものになったかのような感覚だ。
そして――。
トクン、トクンと、規則正しい振動が地脈を伝って私の耳朶を打った。
心臓の鼓動。それも、人間のものではない、小刻みで獰猛な脈動。
「……橘さん、熊倉さん、」
私は保存袋のチャックを閉め、スッと立ち上がった。
声のトーンを落とし、二人に視線を送る。
「来ます。この先の曲がり角、約三十メートル先。小型の生体反応が三つ。……結構なスピードで、こっちに向かって移動してます。」
二人の空気が一瞬でプロのそれへと切り替わった。
橘一尉が小銃を構え、セーフティを親指で解除する金属音がカチリと響く。
熊倉二曹がタワーシールドをドンと地面に突き立て、低く腰を落とした。
「初陣だ。お嬢さん、俺の後ろに隠れてな。」
私は頷き、熊倉二曹の背中の影に身を潜めながら、さらに深くスキルを発動させた。
【気配遮断】。
自身の体温、呼吸音、そして魔力の波長が、すうっと周囲の冷たい空気と岩肌の中に溶け込んでいく。
姿は見えているはずなのに、まるでそこに誰もいないかのような錯覚。橘一尉が驚いたように一瞬私を振り返ったが、すぐに前方の暗闇へと銃口を戻した。
カサカサ、ピチャリ。
濡れた岩を爪で引っ掻くような、不快な足音が暗闇の奥から近づいてくる。
発光苔の青白い光に照らし出されて、その曲がり角から姿を現したのは――。
「……ッ!」
私の喉が小さく鳴った。
ウサギだ。
だが、動物園で見かけるような愛らしい生き物では断じてない。
中型犬ほどもある筋骨隆々とした体躯。赤く血走った瞳。純白の毛並みは所々泥に汚れ、そして何より――その額の中央から、三十センチ以上もある、螺旋状にねじれた禍々しい漆黒の角が生えていた。
(【万象識別】!)
すかさず視界に情報を呼び出す。
『種族』:ホーンラビット(変異種)
『危険度』:Fランク(初級)
『特性』:突進攻撃、俊敏
『弱点』:眉間、および突進直後の方向転換時の足元
『ドロップ傾向』:変異ウサギの角、上質な毛皮、極小魔石
三頭の角ウサギが、洞窟内に立ち込める私たち人間の匂いに気づき、鼻をヒクつかせた。
グルルル……と、草食動物とは思えない低い威嚇音を喉から漏らす。
そして、その脚力が岩盤を爆発的に蹴り飛ばした。
速い!
風を切り裂くような速度で、黒い角を槍のように突き出し、一直線に熊倉二曹のシールドへと突進してくる。
「かかってきやがれッ!!」
熊倉二曹の怒号が洞窟を揺るがした。
ガッッッッアアアアン!!
重金属同士が激突したような、凄まじい衝撃音が響き渡り、シールドの表面から激しい火花が散る。
一頭目の突進を、熊倉二曹はミリ単位も後退することなく、その強靭な肉体と技術で完全に受け止めていた。
だが、残る二頭がシールドを回り込み、左右から熊倉二曹の死角へと跳躍する。
鋭利な角が、熊倉二曹の無防備な脇腹へと迫る――!
「させない!」
橘一尉の小銃が火を噴いた。
タタンッ! タタンッ!
無駄のない二点バースト。正確無比な射撃が、空中で跳んだ一頭の胴体に吸い込まれる。
肉を穿つ鈍い音。だが――。
「チッ、毛皮が硬い……!」
橘一尉が舌打ちした。
弾丸は命中したものの、分厚い魔素を帯びた筋肉に阻まれ、致命傷には至っていない。弾かれたウサギは地面を転がりながらも、すぐに体勢を立て直して再び牙を剥いた。
そして、もう一頭が低い体勢から、橘一尉の足元を狙って再び突進の予備動作に入る。
距離はわずか五メートル。銃を撃ち直すよりも、相手の跳躍の方が速い。
(まずい……当たったら死ぬ!)
兄の言葉が脳裏をよぎった。
HPのない世界。あんな角で突き刺されたら、防弾スーツの上からでも内臓が破裂する。
守られているだけじゃダメだ。私が、この人たちの隙を埋めなきゃいけない!
「妖術――【狐火】!」
私は咄嗟に右手を突き出し、体内のMPを練り上げた。
ポンッ、と小気味よい音とともに、私の指先から青白い親指大の火の玉が撃ち出された。
ダメージを与えるための炎ではない。私のステータス、そしてオタクとしての知識が弾き出した、最適な妨害術式。
狐火は突進しようとしたウサギの眼前、わずか十センチの空間で、閃光弾のようにパァンと激しく炸裂した。
キィッ!?
突然の強烈な光と熱に視界を奪われ、角ウサギが悲鳴を上げて前足を止める。
完全な隙。
「熊倉さん、右! 橘さん、足元が滑ります!」
私は叫びながら、さらに大地へ魔力を流し込んだ。
【地脈感応】で把握していた、ウサギたちの足元の岩盤。湿り気を含んだ土壌の性質を、【風水士】の魔力で一瞬だけ組み替える。
泥濘化。
ズブブッ!
岩の隙間にあったわずかな土が、底なしのヘドロのようにドロドロに液状化した。
目眩ましから回復して踏み込もうとした二頭のウサギの足が、ズブりと泥の中に深く沈み込む。
ギチッ、ギィイイッ!?
自慢の俊敏性を完全に奪われ、もがくモンスターたち。
その無防備に晒された頭部へ、影が覆いかぶさった。
「ナイスだ、お嬢さんッ!!」
熊倉二曹がシールドを払いのけ、右手に構えた大型ショットガンの銃口を、泥に足を取られたウサギの眉間へとゼロ距離で突きつけた。
ドォォォォンッ!!
洞窟を震わせる轟音とともに、12ゲージのスラッグ弾が炸裂する。
至近距離からの圧倒的な運動エネルギーが、魔素の装甲ごとウサギの頭部を完全に撃ち抜いた。
間髪を入れず、橘一尉の小銃が残る二頭の眉間――私が指定した唯一の弱点へと、吸い込まれるように正確な連射を叩き込む。
タアンッ! タアンッ!
硬直したウサギたちの身体がビクンと跳ね、そのまま力を失って泥の中に崩れ落ちた。
「……ふぅ。」
硝煙の匂いが立ち込める中、橘一尉が残弾を確認しながら息を吐いた。
熊倉二曹がショットガンを下ろし、信じられないものを見るような目で私を振り返る。
「おいおい……マジかよ。足止めに目眩まし、おまけに弱点の指示出しまで完璧じゃねえか。初陣の女子高生どころか、ベテランの特殊部隊員と組んでる気分だったぜ。」
「あかねさん、見事な支援でした。貴女がいなければ、私の脚に被弾していた可能性があります。感謝します。」
二人の賞賛に、私はへなへなと座り込みそうになる膝を必死に踏ん張った。
心臓が早鐘のように打っている。手汗でスコップの柄が滑りそうだ。
怖かった。本当に、一歩間違えれば誰かが死んでいた。
でも――勝てた。私のサポートで、二人を無傷で守りきれたのだ。
「あ、あの……モンスターの死体は……?」
私が恐る恐る目を向けると、泥の上に倒れていた三頭の角ウサギの身体が、淡い光の粒子となってフワリと宙に浮き上がり始めていた。
血も内臓も散乱しない。
傷口から漏れ出た光が全身を包み込み、まるで夜空の蛍のように、サラサラと空間に溶けて消えていく。
兄の言っていた「魔素への還元」だ。
そして、光の粒子が完全に消え去ったその足元に、コロン、と乾いた音を立てて何かが転がり落ちた。
「……残ったな。」
熊倉二曹が近づき、地面を見下ろす。
そこには、漆黒の美しい一本の角。
濡れたような光沢を放つ、真っ白で上質な毛皮が一枚。
そして、親指の爪ほどの大きさの、淡く紫に輝くガラス玉のような結晶――魔石が、それぞれ三つずつ、綺麗に並んで残されていた。
「三頭とも、全てドロップしています……!」
橘一尉が目を見張った。
「事前シミュレーションでは、ドロップの発生率は二割から三割程度と予測されていました。それが三頭中三頭……しかも、角と毛皮の双方が欠損なく完全な状態で残っているなんて。」
私のステータスウィンドウが、頭の奥で小さく鳴動した。
『パッシブスキル:【万象解体】の効果が適用されました。』
『ドロップ率補正:+30%(確定ドロップ判定成功)』
『素材品質:良質(C+ランク)へ昇格。』
「……私のスキルのおかげ、みたいです。」
私が控えめに言うと、熊倉二曹が頭を抱えて唸り声を上げた。
「おいおいおい、索敵ができて、足止めができて、オマケに倒した獲物から最高級の素材を確定で毟り取れるってか? なんだその歩く資源採取チートは……。防衛省の研究員どもが見たら嬉し泣きで気絶するぞ」
「ふふっ」
緊張が解けたのか、私の口元から自然と笑みがこぼれた。
しゃがみ込み、まだ温かみの残る漆黒の角をそっと拾い上げる。ずっしりとした重みと、滑らかな手触り。
未知の素材。ファンタジーの結晶。
この角を使えば、どんな道具が作れるだろう。サキに見せたらどんな顔をするだろう。兄はきっと、羨ましさのあまり悶絶するに違いない。
「橘さん、熊倉さん、」
私は拾い上げた魔石と角を大切にリュックのポケットにしまい、立ち上がって洞窟の奥――さらに深く続く青白い闇を見据えた。
「まだMPは180以上残ってます。……次のエリア、行ってみませんか? きっと、もっと面白いものが採れますよ。」
ピンと立った私の狐耳が、大地の奥から響く未知の足音を、確かに捉えていた。




