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地球はファンタジーにアップデートしました  作者: けろりぬ
第1部:ダンジョン黎明期
27/36

第27話:家族の食卓と、走り出す開拓者たち

土曜日の夜、国分駐屯地からの送迎車両で自宅前へと送り届けられた。

玄関の引き戸に手をかけた瞬間、カチャリと内側から鍵が外れ、まるで待ち伏せていたかのように勢いよく扉が開け放たれた。


「おかえりあかね! 配信全部観てたぞ! さあ早く入れ、ミスリルと機械仕掛けのパーツを出せ!」


案の定、保護メガネを額に引っ掛け、革のエプロンをつけた兄の晃が仁王立ちしていた。

相変わらず無駄に彫りの深いイケメンフェイスだが、その琥珀色の瞳は獲物を狙う鷹のようにギラギラと輝いている。


「もう、兄ちゃん! ただいまくらい言わせてよ。」

「ただいまなんざ後だ! 画面越しに見えたあの青銀色の輝き……あれ本物のミスリルだろ!? 早く拝ませろ、俺の錬金術魂が限界突破しそうなんだよ!」


リビングへ引きずり込まれるようにして上がり込むと、私は靴を脱ぎながら、アイテムボックスから手のひら大の『ミスリル原石』と、第六層で回収した『高精度・真鍮歯車』の束をカウンターテーブルの上へと取り出した。


ドスン、と置かれた原石から放たれる青銀色の微光が、笹貫家のダイニングを淡く幻想的に照らし出す。


「う、うおおお……っ!?」

晃が息を呑み、両手をわなわなと震わせながら原石に顔を近づけた。


「比重がおかしい……! 見た目は鉄の塊なのに、魔力を通すと羽毛みたいに軽くなる……! これが神話の金属、ミスリル……! あかね、これちょっと削っていいか!? 触媒融合の実験に使っていいか!?」

「いいけど、サキの分も残しておいてね? あと赤城主任にも半分渡してあるから。」

「分かってる! コンマ一グラム単位で大事に使う! ああ、神よ、システムよ、妹よ……!」


狂喜乱舞してキッチンの即席工房へ駆け込んでいく兄の背中を見送りながら、私はふうと息を吐き出した。

新しく生えた二本の尻尾が、慣れ親しんだ我が家の空気にホッとしたように左右へ揺れる。


「あかね、おかえり。無事でよかったわ。」


台所から顔を出したのは、エプロン姿の母だった。

その手には、湯気を立てる大皿。

「お母さん、ただいま! 今日の晩ご飯なに?」

「あなたの好きな豚の角煮よ。美濃の黒泥炭でコトコト煮込んだの。お父さんももうすぐお風呂から上がるから、先に手を洗っていらっしゃい。」


---


湯気の立つ食卓には、艶やかな豚の角煮、採れたての野菜のサラダ、そして炊き立ての白米が並んでいた。

リビングのテレビでは、週末のニュース番組が霧島ダンジョン第六層の攻略映像をトップニュースとして繰り返し報じている。画面の中では、二本の尻尾を生やした私が巨大なゴーレムを水龍で拘束し、橘一尉が狙撃を決めるシーンが大写しになっていた。


「いやあ、今日も凄かったな。職場の連中もみんな『お前の娘さんは日本の英雄だ』って大騒ぎでさ。鼻が高いよ。」


缶ビールをグラスに注ぎながら、父が笑った。

普段は物静かな公務員の父だが、ここ最近の世間の熱狂には少々気圧され気味のようだった。

家族四人で囲む、いつもの夕食。

角煮の柔らかな脂の甘みが口いっぱいに広がり、ダンジョンでの極度の緊張が、温かいお味噌汁の湯気とともに胃の腑へとほどけていく。


だが、食事が半ばを過ぎた頃。

ふと、父が箸を置き、おもむろに私の方を真っ直ぐに見つめてきた。


「……あかね。」

「ん? なに、お父さん?」


その声のトーンが、先ほどまでの明るい調子から、どこか静かで重みのあるものへと変わっていた。

父の視線は、私の頭の上でピクピクと動く二つの狐耳、そして椅子の背もたれから垂れ下がる二本の黄金の尻尾へと向けられている。


「……無理は、していないか?」


ぽつりと落とされた言葉。

母もまた、手元のお茶碗を持ったまま、痛ましいほど心配そうな眼差しで私を見つめていた。


「テレビやネットじゃ、みんなお前を『霊狐の巫女』だの『奇跡の少女』だの持て囃している。国のために戦って、世界を変える資源を持ち帰ってくる立派な人間だってな。……だが、お前はまだ十六の高校生だ。ほんの一ヶ月前までは、部屋でアニメを観て、友達とカフェに行くのが一番の楽しみだった、ただの普通の女の子なんだ。」


父の眉根が、ぎゅっと寄せられる。


「配信を観るたびにな、お父さんもお母さんも、生きた心地がしないんだよ。あんな巨大な化け物に襲われて、一歩間違えれば命を落とすような場所に、お前が立っている。……本当は、怖いんじゃないのか? 大人の都合や、国の期待に押し潰されそうになって、無理をして笑顔を作っているんじゃないのか?」


父の不器用な、けれど心の底からの絞り出すような問いかけ。

隣では、母の瞳にうっすらと涙が浮かんでいた。


胸の奥が、ツンと痛んだ。

申し訳なさが込み上げてくる。

娘が化け物のような姿になり、命懸けの魔窟へ毎週のように潜っていくのだ。両親がどれほどの恐怖と不安を抱えて画面を見つめていたか、想像するだけで胸が締め付けられる。


けれど――それと同時に。

世界中が私を「無敵の進化者」として見る中で、この二人は今も変わらず、私を「守るべき一人の娘」として見てくれている。その純粋な愛情が、たまらなく温かく、嬉しかった。


私は箸を置き、両親の目をしっかりと見つめ返した。

二本の尻尾をふわりと持ち上げ、自分の胸にそっと手を当てる。


「お父さん、お母さん。心配かけて、本当にごめんなさい。」


静かに、けれど芯のある声で言葉を紡ぐ。


「最初はね、本当に怖かった。耳が生えて、尻尾が生えて、モンスターに襲われた時は、夢なら覚めてほしいって何度も思ったよ。……でもね、今は無理なんて全然してないの。」


私はふふっと小さく笑ってみせた。


「橘さんと熊倉さんがね、本当に私のことを命懸けで守ってくれるの。危ない前線には絶対に立たせないで、私の足元をずっと支えてくれる。サキも兄ちゃんも、私のために最高の装備や薬を作ってくれる。……そして何より、私はダンジョンを探検するのが、本当に楽しいの。」


「楽しい、のかい……?」

父がおずおずと尋ねる。


「うん。誰も見たことのない綺麗な薬草を見つけて、不思議な鉱石を掘り出して、地図を描いて……ゲームの世界に入り込んだみたいで、ワクワクするんだよ。それに、私が持ち帰った素材で、病気の人を救う薬ができたり、新しいエネルギーが生まれたりする。それが、すごく誇らしいの。」


私は両親の手の上に、自分の両手をそっと重ねた。


「だから、お願い。信じて見守っていてほしいな。危なくなったら、私、誰よりも足が速いから絶対にすぐ逃げるし、テレポートだって覚えたんだから! ……絶対に、怪我ひとつしないで、毎回笑顔で『ただいま』って帰ってくるから。」


私の真っ直ぐな言葉に、父はしばらく呆気に取られたように目を見張っていた。

やがて、深く、長いため息を吐き出すと、目尻をくしゃりと歪めて苦笑いを浮かべた。


「……そうか。逃げ足の速さなら、昔からお前が一番だったもんな。」

「そうよ、鬼ごっこで晃を泣かせてばかりいたものね。」

母が目元の涙を指先で拭い、くすくすと笑った。


「くそっ、昔の話を持ち出すな!」

キッチンの奥から晃の照れ隠しの怒声が飛んできて、食卓にドッと温かい笑いが広がった。


重苦しい空気は完全に吹き飛んでいた。

家族の食卓。温かいご飯と、変わらない笑顔。

この日常があるからこそ、私はあの過酷な迷宮の闇へと、何度でも勇敢に立ち向かえるのだ。


---


そして明けた、三月二十三日の月曜日。

柔らかな春の陽射しが降り注ぐ通学路を、私は軽やかな足取りで歩いていた。

美濃ダンジョン遠征による三日間の公欠、そして週末を挟み、ほぼ一週間ぶりの登校だ。


ブレザーの背中から覗くのは、以前の一本ではなく、二本に増えた黄金の尻尾。

左右にパタパタと連動して揺れる双尾は、登校する生徒たちの視線をこれでもかと集めていたが、もはやそこに怯えや恐れの気配は微塵もなかった。


「あ、笹貫さん! おはよう!」

「あかねちゃん、二本目の尻尾めっちゃふわふわだね!」

「土曜日の配信観たよ! ゴーレム倒したの超かっこよかった!」


すれ違う生徒たちが、口々に笑顔で手を振ってくれる。

私も「おはよう!」と手を振り返すと、頭の上の狐耳がぺこりとお辞儀をするように倒れた。

日常の中に、ファンタジーが当たり前のように溶け込んでいる。


ガラガラッと下駄箱で上履きに履き替え、昇降口の廊下に足を踏み入れた、その瞬間――。


ドタドタドタドタッッ!!


廊下の角の向こうから、地響きのような猛烈な足音が迫ってきた。


「あーーーかーーーねぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!」


「わっ、やっぱり来た!?」


猛スピードで突進してきたのは、丸眼鏡を光らせ、ブレザーのポケットからノギスと巻き尺を飛び出させたサキだった。

まるで獲物に飛びかかるチーターのような勢い。


「ちょっとサキ、廊下は走っちゃダメ――ぐえっ!?」


案の定、正面衝突の勢いで抱きつかれた。

そのまま廊下の壁際まで押し込まれ、サキの両腕が私の腰回りをがっしりとホールドする。


「あかねぇぇ! 見たわよ土曜日の配信! なんなのあの二本目の尻尾!? そしてあのミスリル原石!! 学校休んでた間、私どんだけ悶々としてたと思ってんのよーっ!!」

「わ、分かったから! 離してサキ、みんな見てるってば!」


周囲の生徒たちが「あ、またやってる」「仲良いよねあそこ」と生暖かい笑顔で見守っている。

私はジタバタと足をバタつかせながら、サキの耳元に囁いた。


「サキ、放課後! 放課後に美術準備室で全部見せるから! ミスリルの削り粉も、機械仕掛けの歯車も、全部アイテムボックスに入ってるから!」

「……本当ね!? 約束よ!? 嘘ついたらお耳モフモフの刑に処すからね!!」

「嘘つかないから! だから一回離れてぇ!」


ようやく解放された私は、乱れたブレザーを直しながら深く息を吐いた。

手強い。ダンジョンのモンスターより、興奮したオタク友達の方が遥かに手強かった。


---


授業をなんとか乗り切り、待ちに待った放課後のチャイムが鳴り響いた。


終業の号令が終わるや否や、私とサキはカバンを掴んで教室を飛び出し、旧校舎の奥にある『美術準備室』へと滑り込んだ。

カチャリと内側から鍵を閉める。

部屋の中央には、赤城主任から貸与された超音波工作機械に加え、先週美濃から持ち帰った『美濃黒泥炭』の耐熱炉が堂々と設置されていた。


「さあ! 出しなさいあかね! 私の新しい魂の贄(素材)たちを!!」


サキが作業台をバンッと叩いて鼻息を荒くする。

私は苦笑いしながら、アイテムボックスの空間から次々と第六層の戦利品を取り出して机の上に並べていった。


青銀色の神々しい光を放つ『ミスリル原石の欠片』。

中ボス・フォートレスゴーレムからドロップした『真祖ミスリルフレーム』。

精密無比な『高精度・真鍮歯車』の山。

そして、超硬鋼のプレート。


「……ひ、光ってる……」

サキの丸眼鏡の奥の瞳が、完全に職人のそれへと変貌した。

ピンセットでミスリルの欠片をつまみ上げ、超音波彫刻ペンの魔力刃をそっと当ててみる。


キィィィン……と澄んだ高い金属音が準備室に響いた。

刃が一切通らない。傷ひとつつかない。

なのに、サキの指先にかかる重さは、まるでプラスチックの破片を持っているかのように軽い。


「信じられない……。これが、神銀ミスリル……! 鉄の三人分の一の質量で、魔力伝導率が九十九・九パーセント……! これがあれば、あかねの次の装備、防護性能を五倍に引き上げながら、重さをゼロにできるわ!」


サキは机の上のスケッチブックを猛烈な勢いでめくり、すでに描き殴られていた何枚ものデザイン画を私に突き出してきた。


「見なさい! これが第七層――『結晶と黄砂の大峡谷』に向けた、私の新装備プランよ!」


描かれていたのは、ミスリルフレームを組み込んだ超軽量の防塵ゴーグル、そして砂嵐を切り裂いて滑空するためのミスリルワイヤー入り防風マントだった。


「第七層は視界を奪う砂嵐と、切り立った崖の連続なんでしょ? なら、このミスリルのしなりと軽さを利用したワイヤーハーネスと、砂塵を完全に遮断する偏光魔導ゴーグルが絶対に必要よ! あかねのお兄さんから貰った耐熱・耐乾燥ポーションの触媒液も手元にあるわ! 今週の放課後、全部注ぎ込んで完成させてあげる!」


「サキ……! ありがとう!」

私の二本の尻尾が、嬉しさのあまりパタパタと交差して風を巻き起こした。

最高のクラフターが背中を押してくれる。これほど心強いことはなかった。


「あ、そうそう、あかね。素材の話で興奮して忘れかけてたけど……これ、見た?」


サキがおもむろにスマートフォンを取り出し、画面をタップして私に向けてきた。

「これ?」

「国内の探索者たちの最新情報よ。あかねたちが霧島の深層で戦ってる間に、地上の世界もとんでもないスピードで動き始めてるんだから。」


画面に表示されていたのは、一般開放から一週間が経過した国内ダンジョンの総合掲示板だった。


---


【美濃・旭川】一般探索者・攻略進捗報告スレ Part.82【祝・第5層到達】


1 :名無しさん@開拓者:203X/03/23(月) 15:30:12.45 ID:FrontierNet01

日本探索者協会(JDA)公式発表、および各探索者ギルドの活動報告スレッドです。

一般開放から8日目。各地で急速に進むダンジョン攻略の最新情報を共有しましょう。


■本日までの最前線トピックス

・【美濃ダンジョン】:民間トップパーティー『暁の鉄槌』が、早くも第5層の到達・ポータル起動に成功!

・美濃第3層〜第4層の湿地帯・水没林ルートが民間探索者により完全開拓される。

・【旭川ダンジョン】:自衛隊主導の合同部隊が第4層(凍結渓谷)を突破。

・全国の登録探索者数、ついに三十万人を突破。

・ダンジョン産野菜(白蕪、ルビーベリー)が一般スーパーの特設コーナーに並び始める。


前スレ:【美濃・旭川】一般探索者・攻略進捗報告スレ Part.81

[http://to〇ho.net/frontier/81/](https://www.g〇gle.com/search?q=http://to〇ho.net/frontier/81/)


14 :名無しさん@開拓者:203X/03/23(月) 15:32:45.12 ID:MinoGachi

美濃第5層到達キタアアアアアア!!

一週間で第5層とか早すぎだろ!


28 :名無しさん@開拓者:203X/03/23(月) 15:35:10.89 ID:AkatsukiFan

『暁の鉄槌』、元自衛官の前衛タンクと元警察官のアタッカー、それに民間覚醒者のヒーラーで組んだガチ勢パーティーだからな。

第2層の大河をあかねちゃんたちが切り拓いてくれた安全ルート通って一気に突破したらしい。

先遣隊の残した足跡をしっかり踏み固めて進んでる感じ、マジで新時代の開拓者って感じで熱い。


42 :名無しさん@開拓者:203X/03/23(月) 15:37:33.45 ID:KusaTsumiPro

第5層まで行くと、落とす肉の質がさらに跳ね上がるらしいぞ。

第4層の水没林で出る『ジャイアントサーモン』の切り身、脂が乗ってて死ぬほど美味いらしい。

農家や漁師やってた人たちがジョブスキルに目覚めて、プロの採取屋として荒稼ぎしてるわ。


56 :名無しさん@開拓者:203X/03/23(月) 15:40:02.01 ID:AnzenDaiichi

でも『暁の鉄槌』のリーダーのインタビュー読んだけど、

「あかねさんの開会式での『引き返す勇気を持て』という言葉を常に胸に刻んでいる。危なくなったら即座にテントを張って撤退する規律を徹底したからこそ、無傷で第5層まで来られた」

って語っててグッときたわ。


70 :名無しさん@開拓者:203X/03/23(月) 15:42:25.78 ID:MageBoy

あかねちゃんが美濃第2層で救助したあの初心者パーティーも、

装備を見直して第1層でコツコツ薬草摘みとスライム狩りしながら、新米たちの護衛ボランティアやってるらしいぞ。

あかねちゃんの蒔いた「助け合い」の種が、ちゃんと探索者たちの間に根付いてる。


85 :名無しさん@開拓者:203X/03/23(月) 15:45:12.34 ID:KirishimaIjou

それにしても、美濃のトップがようやく第5層に到達して「快挙だ!」ってお祭り騒ぎになってるのを見ると……。

すでに第六層の廃墟都市を単独小隊で踏破してミスリル掘り出してテレポート覚えて、

来週には第七層の大峡谷に挑もうとしてる霧島のあかねちゃん小隊、改めて見るとバケモノすぎて笑うしかないんだが。


98 :名無しさん@開拓者:203X/03/23(月) 15:47:40.89 ID:KiriGachi


> > 85

> > 霧島は国内唯一の「Dランク以上限定」の地獄だからな。

> > 他所のボスクラスが雑魚として群れで湧いてくる魔窟に、十六歳の女子高生がスコップ一本(と神索敵)で挑んでる事実。

> > 次元が違いすぎて比較対象にならんのよ。

>

>


112 :名無しさん@開拓者:203X/03/23(月) 15:50:05.12 ID:NextSeventhWait

次の土曜日の霧島第七層配信、マジで楽しみだわ。

二尾に進化したあかねちゃんの勇姿、早く観たい!

サキちゃん特製の新装備も絶対お披露目されるだろ!


---


「……ふふっ、すごいね。」


スマホの画面から顔を上げ、私は自然と笑みをこぼしていた。

「何が?」サキが首を傾げる。


「みんな、ちゃんと前を向いて進んでるんだなって思って。私が美濃で伝えた言葉を、みんなが覚えててくれて、無理をしないで、助け合ってダンジョンを攻略してる。……それが、すごく嬉しいの。」


「あかね……。」

サキが眼鏡の端を押し上げ、優しく目を細めた。


「アンタの言葉には力があるのよ。だってアンタ、口先だけじゃなくて、誰よりも泥だらけになって前線を切り拓いてるんだもの。みんな、アンタの背中を見て『自分たちも頑張ろう』って思ってるのよ。」


サキは机の上のミスリルフレームを、トンと拳で叩いた。


「だからこそ、アンタは絶対に立ち止まっちゃダメ! 日本中の……ううん、世界中の開拓者たちが、アンタの進む道を道標にしてるんだから! 私が最高の装備でアンタの背中を押してあげるから、次の第七層も、思いっきり暴れてきなさい!」


「……うんっ!!」


私は力強く頷いた。

大峡谷の激しい砂嵐、切り立った断崖絶壁、そして未知のモンスター。

どんな過酷な試練が待ち受けていようと、もう迷いはない。


支えてくれる家族の温もり。

背中を預け合える橘さんと熊倉さん。

魂を込めて装備を仕立ててくれるサキと、最高の薬を調合してくれる晃。

そして、私の背中を追いかけて歩みを進める、何十万人もの開拓者たち。


夕暮れの美術準備室。

窓から差し込む茜色の光の中、新しく生えた二本の黄金の尻尾を誇らしげに揺らしながら、私の心は次の土曜日――未知なる『第七層・結晶峡谷』の空へと、高く羽ばたいていた。


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