第1話:朝食、覚醒、そして世界は書き換わる
AIで小説を書いてみました。
全面的(だいたい6割強)に使用しています。
失踪しないよ・・・たぶん・・・
二〇三〇年代、二月一日。
鹿児島特有の湿り気を含んだ冬の冷気が、アルミサッシの隙間からかすかに流れ込んでいた。
鹿児島市内の住宅街。築二十年ほどの一軒家のダイニングテーブルには、炊きたての白米と麦味噌の味噌汁、焼き鮭、そして甘い醤油が香る小鉢が並んでいる。
「あーちゃん、ぼーっとしてないで早く食べなさい。冷めちゃうわよ。」
母のお玉を置く音で、私は箸を動かした。高校一年生。自分で言うのもなんだけど、特筆すべき才能も際立った美点もない、ごく平凡なオタク女子高生だ。強いて言えば、深夜アニメの実況と、ファンタジー系RPGの設定資料集を読み込むこと、それから休日に錦江湾の向こうにそびえる桜島を眺めながら、未知の生態系を空想することくらいが趣味だった。
向かいの席では、無駄に整った顔立ちの兄が、手元のスマートフォンで深夜アニメの放送時間を確認しながら味噌汁をすすっている。顔だけはモデル並みなのに、中身は筋金入りのオタクだ。
「兄ちゃん、行儀悪い。スマホ置いて食べなよ。」
「うるさいな、今週の作画監督が誰か確認してんだよ。あかねこそ、昨日の新アニメの伏線考察読んだか? あれさ――」
その時だった。
『――地球はこれより、ファンタジーにアップデートしました。』
低く、しかし頭蓋骨の内側に直接鐘を打ち鳴らしたような、性別も年齢も判別できない声が脳内に響き渡った。
リビングの空気が凍りつく。
テレビの前の母が固まり、父が新聞を落とし、兄のスマホが床の上に滑り落ちた。
「……え?」
「おい、あかね……今の、聞こえたか?」
兄が青ざめた顔で私を見る。聞き間違いでも幻聴でもない。外の道路からも、通行人が立ち止まってざわめく声や、車のクラクションが響いてくる。世界中のあらゆる生き物に、等しくそのアナウンスが届いたのだと本能で理解できた。
直後、朝のニュース番組を流していた液晶テレビの画面が、激しいノイズと共に唐突に切り替わった。
画面の中央に映し出されたのは、首相官邸の記者会見場。
登壇したのは内閣総理大臣だった。ネクタイはわずかに曲がり、額には脂汗が滲んでいる。
『国民の皆様、冷静に聞いていただきたい。先ほど、全国民……いえ、全人類に向けて発せられた謎の音声は、紛れもない現実です』
会見場にフラッシュの嵐が焚かれる。
『宮内庁および関係機関が極秘裏に管理保管してきた、三種の神器の一つ――八咫鏡。今朝未明、その鏡面に前例のない光の文字が浮かび上がり、近未来の情景が映し出されました。予言された時刻は午前七時三分。まさに、先ほどのアナウンスの瞬間です。』
テレビの前の家族全員が息を呑んだ。八咫鏡。神話の遺物が、なぜ現代の政府会見で語られているのか。
『鏡が示した予言によれば、日本国内の三箇所――北海道旭川市、岐阜県美濃市、そして鹿児島県霧島市の人里離れた山中に、空間の亀裂……いわゆる「ダンジョン」が出現します。現在、自衛隊および警察を直ちに現地へ――』
総理大臣の言葉が、私の耳から遠のいた。
いきなり、天井を突き破るかのように、私の頭上だけに眩い白銀のスポットライトが降り注いだのだ。
「えっ……なに、これ!?」
「あかね!?」
父と母が悲鳴を上げて立ち上がる。
光は温かく、同時に途方もない奔流となって私の全身を巡り始めた。骨の軋むような感覚と、視界が急速にクリアになっていく異様な全能感。
再び、あの無機質なシステム音声が、今度は私だけの鼓膜を揺らした。
『――個体識別:アカネ・ササヌキ。環境適応係数、基準値を突破。あなたは選ばれました。種族進化を開始します。』
「ぎゃああああっ!? あかねが光ってる! 光合成!? いや進化!? どっち!?」
「あなた、ブレーカー!? 違う、これ光が天井から降って――」
パニックに陥る両親の叫び声の中、私の身体に劇的な変化が訪れていた。
耳の奥がカッと熱くなったかと思うと、頭頂部の左右から、ふさふさとした柔らかい毛に覆われた三角形の耳がにゅっと生え出た。さらに腰のあたりに猛烈な違和感を覚え、スカートの裾を押し上げるようにして、白みがかった黄金色の尻尾が勢いよく飛び出す。
光がふっと収まった。
リビングに静寂が戻る。
私の頭には、ピクピクと音を拾って動く狐の耳。背後には、ゆらゆらと揺れる立派な一本の尻尾。
全身に満ち満ちる力は、明らかにこれまでの自分の体とは違っていた。遠くの国道を走る車のタイヤの摩擦音、庭の木にとまった野鳥の羽ばたき、それどころか、遠く桜島の方角から立ち上る見えない大地の脈動のようなものまで、肌で感じ取れてしまう。
「……うそ、でしょ……?」
自分の手を見つめて呟いた私の声は、以前よりもどこか鈴を転がしたように澄んでいた。
両親が言葉を失ってへたり込む中、床から跳び起きた兄が、血走った目で私の目の前まで距離を詰めてきた。
「キ、キツネ……!? 和風霊狐系獣耳美少女化……!? なんで!? なんでお前が!? そこは普通、毎日アニメ見て設定考察してる俺の役目だろ!!」
「兄ちゃん近い! 叫ばないで、耳がめっちゃ響くの!」
「うわ動いた! 耳ピクってした! 毛並みどうなってんだこれ、触らせろ!」
「やめて!引っ張らないで、痛い!」
シリアスな世界の変革は、兄のオタク特有の限界化によって一瞬で日常のコントへと引きずり戻された。
だが、その平穏も長くは続かなかった。
ピンポーン。
玄関のインターホンが、澄ました電子音を鳴らした。
テレビの中では、まだ総理大臣が震える声で会見を続けている最中だ。
「……こんな朝早くに、誰?」
母がおそるおそる玄関へ向かおうとした瞬間、インターホンのスピーカーから、よく通る凛とした女性の声が響いた。
『突然の訪問をご容赦願います。陸上自衛隊です。笹貫あかねさん、およびご家族の皆様に危害を加える意図は一切ありません。どうか扉を開けていただけますでしょうか?』
家族全員が固まった。
父が警戒しながらドアチェーンをかけたまま玄関を開けると、そこには迷彩服を着た男女の自衛隊員が立っていた。
一人は、ショートカットの髪に切れ長の瞳が印象的な、凛々しい女性隊員。背筋が鉄の棒のように伸びており、二十代後半ほどに見える。
もう一人は、同じく二十代後半だろうが、とにかく圧倒的な威圧感を放つ巨漢の男性隊員だ。熊のように盛り上がった肩幅と分厚い胸板、浅黒い肌に刻まれた太い眉。二人とも物々しい装備を身につけているが、帯刀や銃器の類は露出させていなかった。
「……自衛隊の方が、何の用です?」
父の声が震えている。女性隊員は胸元から身分証を提示し、深く一礼した。
「陸上自衛隊・西部方面隊直属特務班の橘一尉です。こちらは同班の熊倉二曹。突然の無礼をお許しください。ですが、事態は一分一秒を争います。」
「俺たちの目的は一つっす。」
熊倉と呼ばれた大男が、見た目とは裏腹にどこか人懐っこい、だが低い野太い声で言った。視線は、父の背後からおそるおそる顔を出した私へと注がれている。
「八咫鏡の宣託通りだ。……お嬢さん、あんたが世界で五人しかいない『進化者』だな。」
「八咫鏡……って、予言されてたんですか?」
私が思わず問いかけると、橘一尉が驚きもせず、真摯な眼差しで頷いた。
「ええ。鏡に映ったのは霧島のダンジョン出現だけではありません。『鹿児島市内のこの座標において、最初の覚醒者が現れる』と、番地まで正確に予言されていました。私たちは午前六時から近隣で待機していたのです。」
玄関先になだれ込んできた兄が、私の前に立ちはだかって早口でまくし立てた。
「待ってください! あかねを連れて行って人体実験でもする気ですか!? そんなの絶対許しませんからね! 大体、妹は見ての通りか弱い女子高生で――」
「落ち着いてください、お兄さん。」
橘一尉は兄の剣幕を冷静に受け流し、視線を私へと戻した。
「実験など絶対にさせません。彼女は国の、いいえ、人類の極めて重要な存在です。急激な肉体変化による内臓や神経への異常がないか、国分駐屯地の医療設備でメディカルチェックを受けていただきたいのです。安全が確認されれば、本日中にはご自宅へお送りします。……信じていただけないでしょうか?」
その瞳には、嘘や誤魔化しは微塵も感じられなかった。
何より、私の新しく手に入れた鋭敏な感覚が告げていた。この二人は、私に対して害意や恐怖ではなく、純粋な敬意と保護の意志を向けている、と。
「……わかりました。行きます。」
「あかね!?」
「大丈夫だよお母さん。自分の体の中で何が起きてるのか、私自身も知りたいし。」
こうして私は、物々しい自衛隊の車両に揺られ、駐屯地へと向かうことになったのだった。
駐屯地での検査は、驚くほど丁重だった。
血液検査、心電図、最新の魔素スキャンと呼ばれる装置による測定。結果として、私の身体には何の毒性も異常もなく、むしろ極めて清浄で強大なエネルギー循環が構築されていることが判明した。
そして、検査室の会議室で、橘一尉と熊倉二曹から世界情勢の説明を受けた。
「現在、全世界で確認されている『種族進化者』は、あなたを含めてたったの五人です。」
プロジェクターに世界地図が投影される。北欧、北米、中東、南米、そして日本。
「他の四人は、巨人の膂力を得た者や、天候を操る精霊種など、いずれも単独で一個大隊を壊滅させかねない攻撃特化の進化を遂げています。……ですが、あかねさん。あなたのステータス解析結果は、彼らとは全く異なっていました。」
手渡された紙の書類を見て、私は思わず目を丸くした。
種族:霊狐
ジョブ:【風水士】
特性:地脈感応、気配遮断、環境適応、万象識別
「風水士……」
「いわゆる、環境干渉と索敵、支援に特化したサポート職です。前線で派手に暴れるタイプではありません。しかし――」
熊倉二曹が、分厚い両手を机の上に置いて身を乗り出した。
「ダンジョン調査においては、世界中のどの攻撃特化野郎よりも、あんたの能力が必要なんだ。」
「霧島ダンジョンのことですか?」
「そうだ。現在、霧島の現場には立ち入り規制を敷いているが、内部から漏れ出る未知の魔素のせいで、未覚醒の隊員たちは近づくだけで酷い目眩と吐き気に襲われている。機械のドローンも電磁障害で即座に墜落した。現代火器が通じるかも分からない暗闇に、人間を無防備に放り込むわけにはいかん。」
橘一尉が、静かに頭を下げた。自衛隊の幹部が、まだ十六歳の女子高生に対して、深々と頭を下げている。
「あかねさんの種族特性なら、瘴気を無効化し、内部の構造や罠、魔物の気配を事前に察知できるはずです。どうか……私たちの霧島ダンジョン先行調査に、索敵役として同行していただけないでしょうか。もちろん、戦闘は私と熊倉が全力であなたを守ります。決して前線には立たせません。」
私は自分の手を見つめた。
恐怖が全くないと言えば嘘になる。けれど、それ以上に私のオタクとしての知的好奇心が、胸の奥で猛烈に跳ねていた。
ファンタジーに書き換わった地球。未知の植物、見たこともない鉱石、解き明かされていない魔法の生態系。
誰よりも早く、その『未知の世界』を自分の目で見て、触れて、記録できるとしたら。
「……条件があります」
「何でしょう。可能な限り受け入れます。」
「私、戦うのは苦手です。だから討伐は橘さんと熊倉さんにお任せします。その代わり、ダンジョンの中にある植物や鉱石の採取、それとマッピングを私のペースでやらせてください。安全は私が絶対に保証しますから。」
二人は一瞬きょとんとした後、熊倉が豪快に破顔した。
「ははっ! こいつはたまげた。命懸けの調査だってのに、採取旅行のつもりかよ。気に入ったぜ、お嬢さん!」
「合意と受け取ってよろしいですね。あかねさんの安全は、この橘が命に代えても保障します。」
こうして、私の「ダンジョン探索協力」の契約はあっさりと結ばれた。
翌日。
駐屯地での検査と手続きを終えた私は、何事もなかったかのように高校へと登校した。
もちろん、制服のスカートの後ろには尻尾を通すための穴を母に開けてもらい、ブレザーの襟元からはふさふさの白い毛先が覗いている。頭の狐耳を隠すための帽子は校則違反以前に耳が圧迫されて痛かったので、諦めてそのまま晒すことにした。
教室の引き戸をガラガラと開けた瞬間。
ガタタッ、と椅子を引く音が教室のあちこちで響き、喧騒が一瞬にして静まり返った。
三十数人のクラスメイトの視線が、一斉に私の頭と腰元に突き刺さる。
「……あ、おはよう……みんな。」
私の引きつった挨拶に、誰も返答できない。
昨日から世界中のニュースで「地球のアップデート」と「世界に五人の進化者」の話題で持ちきりだった。だが、まさかそのうちの一人が、昨日まで地味に教室の隅でラノベを読んでいた笹貫あかねだとは誰も信じられないのだろう。
「コスプレ……? いや、昨日テレビで言ってた……。」
「耳、動いてない……? 本物……?」
引き気味にざわつく空気を切り裂いて、最前列の席から猛然とダッシュしてきた影があった。
「あーーかーーねぇぇーーーっっ!!」
ド派手な音を立てて私の両肩を掴んだのは、オタク友達のサキだった。丸眼鏡の奥の目を限界まで見開き、鼻息荒く私の耳を見上げている。
「ちょっと待ってアンタそれマジ!? マジのマジ!? 昨日のニュースで『日本国内で未成年一名の進化を確認』って言ってたの、アンタだったの!? 触っていい!? ていうか触るね!?」
「わっ、ちょっとサキ、待っ――」
サキの手が容赦なく頭上の狐耳の付け根をモフった瞬間、ビクンと背筋に電撃のような快感が走った。
「ひゃんっ!?」
「うわあああ本物だぁぁぁ!! 根元ちょっとあったかい! 毛並みシルクかよ!!」
私の情けない悲鳴を聞いて、教室の空気が一気に爆発した。
「えっ、マジで本物なの!?」
「あかねちゃん、触らせて!」
「どうやって進化したの!? 痛かった!?」
「写メ撮っていい!? インシュタ載せていい!?」
一瞬にして机の周りをクラスメイトたちに取り囲まれ、揉みくちゃにされかけた、その時。
バァン! と勢いよく教室の扉が開いた。
「全員、席に着けッ!!」
怒鳴り込んできたのは、息を切らし、端末を抱えた担任の教師だった。ただならぬ気迫に、生徒たちが蜘蛛の子を散らすように自分の席へ戻る。
担任は教壇に立つと、震える手で電子黒板を起動した。
「朝のホームルームの前に、文部科学省および防衛省から、全国の学校へ緊急通達があった。……笹貫、お前が注目されるのは無理もないが、今は全員が当事者だ。画面を見ろ。」
黒板に映し出されたのは、公式のガイドライン映像だった。
威厳あるナレーションが、淡々と信じがたい事実を告げていく。
『――全国民へ通達。地球のアップデートに伴い、全人類にステータスおよび初期ジョブが付与されました。各自、胸の中央に意識を集中し、「ステータス・オープン」と強く念じてください。』
教室中が静まり返る。
隣の席の男子が、恐る恐る胸に手を当てて呟いた。
「……す、ステータス・オープン。」
ポーン、と澄んだ電子音が教室に響いた。
男子生徒の目の前の空間に、淡い青色に輝く半透明のウィンドウが浮かび上がったのだ。
「うわっ……出た!? 出たぞ、おい!!」
「私も出た! 【見習い薬草師】……? なにこれ!」
「俺、【木こり】なんだけど! なんでだよ、せめて剣士とか魔法使いにしてくれよ!」
「キャーッ! 私、魔力ゼロなんだけど!」
歓声、悲鳴、どよめき。
教室中のあちこちで青い光の板が展開され、生徒たちが自分の数値に一喜一憂し始める。
その光景を見て、私は確信した。
もう、昨日までの世界には戻らないのだ。八咫鏡の予言も、ダンジョンも、この耳も、全部が紛れもない現実なのだと。
担任が黒板を強く叩いた。
「静かにしろ! 浮かれるな! 続きがある!」
ナレーションが、厳格なトーンで締めくくりの指示を読み上げる。
『……現在、北海道旭川市、岐阜県美濃市、鹿児島県霧島市に出現した三つのダンジョンは、防衛省および警察庁により周辺十キロメートルが完全に封鎖・隔離されています。内部の危険度が確認されるまで、一般市民の立ち入りは法律により固く禁じられます。違反者には厳罰が科されますので――』
隔離。立ち入り禁止。
クラスメイトたちが「やっぱり危ないんだ。」「ダンジョンなんて行けるわけないよな。」と囁き合う中、私のスマートフォンが制服のポケットの中で小さく震えた。
机の下で画面を確認する。
橘一尉からのメッセージだった。
『笹貫さん。放課後、校門前へ迎えの車両を回します。明日の未明、霧島ダンジョン第一層への先行潜入調査を実施します。準備をお願いします。』
私は画面を消し、机の中に手を突っ込んで、昨晩こっそりリュックに詰め込んでおいた自作の採取道具――園芸用の小型スコップ、チャック付き保存袋、そして白紙のスケッチブックの感触を確かめた。
誰も入れない、未知の領域。
世界で五人しかいない、霊狐の感覚と、自衛隊の最強の盾を背負って、私は明日、ファンタジーの最前線へと足を踏み入れる。
頭の上の狐耳が、期待に震えるようにピクリと揺れた。




