ざまぁ9
ざまぁ、勇者。
ポンと渡された革袋。
その軽さに戸惑う。
「……」
「……どういう、こと?」
「意味がわからないわ。アーティアも帰ってこないし…え?」
戸惑っているのは、勇者と聖女と賢者。
目の前の王都ギルド職員が用は終わったと踵を返す。
「…まってくれ」
引き止めたのは勇者サリエル。
「いくらなんでもこれはないだろっ今までと倍違うっ、たかが女一人いなくなっただけで」
「そのたかが、女一人守れない人がよく勇者などと言えますね」
立ち止まったギルド職員の冷たい声がつきささる。
「神に選ばれた勇者様になんて口のきき方ですか。私達は…」
「だったらこんなところでチンタラしてないで、大神殿の方に行けばいいんじゃないですかねぇ。我が国所属の勇者御一行様?」
賢者の言葉にも、揺るがない。それどころかさっさと行けとばかりに手を振られる。
「そりゃあね、あなた方が選ばれた時は私達も歓喜しましたよ。
でも、旅立ってから何年立ちました?
ダンジョンいくつ攻略しました?
その内王国内のダンジョンいくつ攻略しました?」
「そんなん、……数えてられるかっ!とにかく俺たちは、たくさんのダンジョンを攻略してきた。これからも勇者として攻略していかなきゃいけないつーのにこれはなんだ?お前がネコババしてんだろ」
段々と興奮してきたのか口調が荒くなったギルド職員に、勇者が怒鳴り返したが、鼻で笑い返された。
「貴方、私達の功績、知らない?
たくさん攻略した。その分、計算されてない」
「そうよ、いくらなんでもこの量はないでしょう?ここ最近段々と減らされて…」
聖女と賢者と援護とばかりに口を挟む。
が。
「いいえ?何を勘違いなされているのか知りませんが、最初から、王国からの援助金は今渡しました額と同じです。
それに、功績と呼べるほどダンジョン攻略をしているならどうしてダンジョンスクロールや、帰還石の事を知らなかったのでしょう?」
ギルド職員がにっこりと嘲笑った。
それに口を挟めるほど勇者一行は頭が周らなかった。
*******
義姉に置物と評された兄が
人間に戻った。
「あー…どうする?」
違った。ポンコツになっただけだ。
内心でひどいことを思っていればまた置物に変わってしまう。
気持ちはわかるが、今置物になってしまうのはとても困る。
この目の前にいるポンコツ兼置物の兄が、たったの5年で領地を盛り返したとは信じがたい。
おまけに、勇者宛に寄付までしていたとは。
「そりゃあ、お前のためだからな」
「そーよー。ダリアちゃんの為におねーちゃんたち頑張ったんだから」
勇者と共に旅立つ前に一度だけ顔合わせした義姉が兄の隣で誇らしげに笑った。
「でも、そのお金全部ダリアちゃんに一銭も行かなかったなんて思いもしなかったわ。だってダリアちゃんあの中で一番身分高いのに」
没落したとはいえ、貴族。
神に選ばれたメンバーの中でたった一人の貴族位だった。
「お義姉様。兄を支えてくださって本当にありがとうございます。旅に出た私の事まで気にかけていただき…不甲斐ない私で申し訳ありませんでした」
「ダ、ダリアちゃんが気に悩むことじゃないわよ。悪いのは教会と、国王さま?よね」
勇者一行宛の寄付金は王宮宛に送っていたという。だが、勇者の意向で国境付近で活動をしていたダリアたちが毎回援助金を受け取るために王宮までくるのは無駄でしかない。その為冒険者ギルドに支給業務を頼んでいたのだ。
冒険者ギルド。
あの苦労は大変だったと今思い返してもそう思う。
最初は頑張ってメンバー全員に役割を降っていた。
冒険者ギルドで受けられる「初心者講習」
そこで学んだ知識、ダンジョン情報の集め方、サバイバル技術、ダンジョン攻略のための知識、モノの相場。などなど。
勇者一行の、メンバーは誰一人としてこの講習を受けておらず、頂いたお金は湯水のように使う。
最初は遠慮がちだった素朴な少年が変わったのはいつからだったろうか。
いや、最初の頃からその片鱗はあった。
それが周りに感化され、増幅したもちろん悪い方へと。
それを諌める立場であった聖女は、モノ知らずの上、ただ迎合するだけ。
身を呈して守る剣聖は守られる快感に酔いしれ、振るうべき剣をすて、貴族の使うような実用性のない装飾ばかりの剣を、持つようになった。
賢者は最初から権力に溺れる事が目的だったようで何度諌めようとしても無駄だった。
王国所属の勇者一行だというのに。
神殿に任命されたとしても、王国から援助を受けている以上、王国内で活躍するもの。いくら神殿から各国のダンジョンも手助けするようにと言われたからと言っても
最優先すべきは王国内のダンジョンを攻略すべきだと事あるごとに訴えてきた結果がコレ。
努力してきたとはいえ、勇者に引きずられて、他国で活動をしてきただけのダリアを王国が助けてくれるはずもない。
「しばらくは……」
「お話中申し訳ありません。王国より至急の連絡がござい……ああ!ダリアお嬢様」
「あら、トリンプ。久しぶりね。このお屋敷に居ないからお兄様を見限ってどこかへ行ってしまったのかと思ったわ」
突如として部屋に飛び込んできたのは初老の騎士だった。
彼の名はトリンプ。代々ロッケンに仕える騎士の一人で、没落していた時期も献身的に仕えてくれた人物だった。
「ダリア様、ご無事で何よりでございます。実は王宮より、ダリア様行方不明の報が入りまして」
「トリンプ、今回届けに行った援助金は」
「申し訳ありません。ダリア様の為の援助金でしたので、これでダリア様を探すようにと。いやはや、このトリンプ胸が張り裂けそうな思いで帰って参りましたが、これは取り急ぎ依頼取り消しを行わなければ。」
入ってきたときとは違い朗らかにトリンプが出ていく。それにまったをかけたのは兄だった。
「まて、トリンプ。それはそのままにしておこう。そうすればしばらくはここにダリアを匿っておける。その間に勇者一行と、大神殿内部を探れ。」
「…かしこまりました。領主様の心のままに」
「慣れぬから止せと言っているだろう。昔のように、タリアドレと呼んでくれ。」
「……お兄様。今すぐ改名しませんか?」
首を傾げるタリアドレとトリンプにダリアは冒険者カードと一通の手紙を手渡した。
タリアドレとダリア 裏設定
没落した理由は両親が不慮の事故にあい、疎遠だった叔父夫婦が略奪を目論んだ。
幼い兄妹は妹を守るために兄が妹の服を着て姉妹として幼少期を過ごす。その当時のタリアドレの偽名が『タリア』であったのはただの偶然。
ただこの叔父夫婦、経営の才能無かったのであっという間に没落&流行り病で死亡
その後領地をタリアドレが継ぎ、数年を経て両親の時代に仕えてくれていた男爵の娘(ほぼ平民のような暮らしをしていた)を嫁にもらった。と同時期にダリアを差し出せとの王宮からの圧力がかかる。
ダリアの代わりにと新しく貰った領地で未発見の鉱山が見つかり領地を盛り返す事ができた。
今度は逆にダリアを取り返す為に援助金という強迫用の金を積んでいる最中にダリアが自力で帰って来たのだった。