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誰が言ったのそんなこと  作者: 白川 文
現実逃避
9/25

病人

朝はひんやりとした正人の手が額にそっと触れた感覚で目が醒めた。

「……ん…?今何時…?」

何と無く、やな予感がするけど凄く外が明るい。

「9時だよ。会社には休みますって連絡いれたから」

正人がちらっと机の上の置き時計を見ながら、私の額をぽんぽんと優しく撫でながらそう答える。

「……おぉ。私結構寝ちゃってたんだね。ごめんね、ベッド独占しちゃってた」

堂々と真ん中で寝ちゃってたから、もしかしたら正人はソファとかで寝てくれたのかなぁ。

なんだか、看病もしてもらって…嬉しいような、謝りたいような。

「ん。いいよ、病人が元気になることが一番だからね」

熱計ってみて?と正人はそう言ってサイドテーブルの体温計を差し出してくれた。

私が体温を計ってる間も正人は私のそばから離れなかった。

それがなんだか凄くむずがゆくって。

正人が隣にいるだけで、私はドキドキするんだなぁなんて改めて自分で思ったりしちゃって。

それにまた恥ずかしくなる。

「6度6分!熱下がった、風邪治ったー」

そう言って体温計を治す私の手を正人はいきなり掴んで

「なんかさ、我慢できないんだけど。夏奈ちゃん、無防備すぎ」

そういうことね。

「……どうしようもない人だなぁ、私病人なんだよ?」

そうは言うけど、私だって満更じゃない。

正人のこの可愛さには負けるなぁ。

「キスしていい?」

正人はやっぱりいつもみたいに、そうやって尋ねる。

彼氏なんだから、私がドキドキしすぎて心臓もたないって思うくらいの強引さで進めてもいいのに。

それでも、その質問が彼なりの優しさの結果なんだと思うと私の身体中に彼のぬくぬくした優しさが伝わってきて。

ちょっと前まで悩んでた現実のことに回れ右しちゃうから。

「……いつか、強引にでも奪って欲しいなぁ、キスくらい」

今くらいは夢を見ていいのかなぁ。

彼のいつもより優しい手の動きを肌でかんじながら、私は彼に溺れるようにしがみついた。

やっぱり、私はダメダメだね。


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