雨が変わると
「なんで、ヒモみたいな人のこと好きになったの?」
小山さんと遅めのランチに近くのおしゃれなカフェに連れてきてもらった。
そこは、独特な雰囲気で老夫婦が経営してるだけあってアーティスティックだった。
「なにー?小山さん、そういうプライベートに興味あるの?意外と小山さんも庶民派?」
私は出来るだけ不敵に見えるように笑みを作った。
それと同時に、庶民派という言葉が私の口からついて出たのも少しだけ驚いてた。
もしかしたら、ちょっとばかり庶民派って言われたことに怒ってたのかも。
「いや、そういう訳では……」
あぁ、そういうとこだよ。小山さん。
彼のその人懐っこさに溢れてるそういう仕草が人を引き寄せるんだよ。
私には出来ないなぁ、そんな達者なこと。
「何と無く、気になっただけだよ。飯田さんってさ、知らないかもしれないけど男性社員の間で人気なんだよ」
初耳なんだけど。
こんな面倒臭い女のどこが良いのか聞きたいし、私は正人だけで十分。
私が甘えられるのはきっと正人だけだもの。
「じゃあさ、私に彼氏がいるってこと言っておいてよ、小山さん」
私はパスタをスプーンの上でくるくると回しながら、そう言う。
「夢を壊しちゃうなぁ」
彼はそう言って、さっきのようにカラカラと笑った。
私のバジルパスタは全然無くならない。
なんでかな、こういう所に男性と来るって、背徳感があるなぁ。
正人とこういうところ一回来てみたいなぁ。
なんて、想像してしまったからかも。
彼の珍しくきっちりとしたスーツ姿に手を引いてもらいながら、ちょっと高めのディナーとかいってみたい。
そして、私がトイレにでも行ってる間にお会計をさらっと済ませてくれて何事もなかったかのように私を待ってて欲しい。
高望みかもしれないけど、彼の小説が売れればそれだって叶わない夢じゃないもの。
「じゃあ、ちょっと遅刻しちゃうけど会社に戻りますか」
小山さんは、いいよ俺の奢りだから、なんて言って私がトイレでリップ塗ってる間にお会計を済ませてくれていた。
外を出ると雨がポツポツとアスファルトに水玉を作り始めていて、それをみた老夫婦が小さいけどと言って傘を貸してくれる。
「……二人で雨宿りとかしてみたかったな」
小山さんが小さなビニール傘を広げながら、そう独り言をいう。
なに?その意味深発言は。
知ってる?小山さん。
私はあなたが今日してくれたことに全て正人を重ねちゃってるんだよ。
まるで、今日の食事は正人としてるみたいに想像してたんだよ。
……こんな最低な女と雨宿りしたってなんにも出てこないよ。
いつしか雨は土砂降りになってて、私と小山さんは会社に帰る頃にはビショビショで、お陰で私はその晩風邪をひいた。




