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誰が言ったのそんなこと  作者: 白川 文
現実逃避
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5/25

同期

「あのさ、何でこの前言ったことが出来てないのよ?」

きっちりとした服装でコーティングされた私は些か強気で正直後輩に好かれていない。

今日もコピーを間違えて、会議用に50人分頼んでおいた資料が作れなかった後輩に説教。

「すみません、ちゃんと出来てたつもりだったんですけど……」

ですけど、という言い訳が私は一番嫌い。

後輩の中ではこのワードを出したらいけない、なんて冗談めかして禁忌リストにも載ってるけど、この人はそれがまだ分かってないみたいだった。

どうして、と思う。

過去のことを反省せずに、一生懸命やったけどうまくいかなかったっていう自己弁解に過ぎないものを言い訳にしてはいけないと思う。私が望んでいる答えは、何が原因だったかを簡潔に言うこと。

「ですけど、はもう聞きたくないの。今ならギリギリ昼の会議に間に合うから。後は私がやっとくから昼休みに行って来なさい」

後輩が明らかにきゅっと唇を強く引き結んだことが気配で分かった。肩を少し上げて、首をすくめて

「……すみません」

そう一言言ってそそくさと自分のデスクから財布を引っ張り出して、出て行った。


いつからかなぁ、こんなに面倒臭い奴になっちゃったの。

入社1年目で、運良く先輩に取り入ることができて、それからは後輩の育成を任されるようになった。

そりゃ、雑用だって言ってしまえば雑用なんだけども、毎年毎年私を慕う人や逆らえない人が出てくる。

楽だった。

この会社には私の居場所がちゃんとある。

そう思わせてくれるだけで十分だったのかなぁ。私も意外と単純かもしれない。

「飯田さん、手伝おうか?」

「……え?」

ふと、隣で声を掛けてくれる男性社員。

「え、いいの?小山さん、昼は?」

小山理玖さん。私の同期で、後輩からも先輩からも好かれるタイプの人。

私は内心、自分はこうなりたかったんだけどなぁなんて羨ましがってる。

「いいよ、俺少食だし。なんか、困ってるっぽいから」

少年のような純粋さの残る笑みで彼はそう答えた。

「そう?じゃあ、お願い」

なんていい人なのだろう。

彼には書類のコピーをお願いした。


「飯田さんってさ、彼氏いるの?」

コピーをしながら、小山さんはそう尋ねた。

私はホッチキスで書類を止めるのを一旦止めて

「いるよー、ヒモみたいなどうしようもない人だけど」

一瞬、小山さんがえっ?というような反応をしたのが気配で分かる。

「そうなんだ…。なんか、もっとザ・お金持ちみたいな人と付き合うのかなぁ……なんて思ってた」

飯田さんって意外と庶民派なんだね。

彼がクスッと笑いながらポツリと言った。

庶民派って?私ってそんなに高飛車な女っぽかったかなぁ。意識したことなかったけど、もしかしたらそう見えてるのかな。

「そういう小山さんこそ、年上のいい女捕まえてそうじゃない?」

冗談めかして私はそう尋ねる。

事実、そうだって女性社員が噂している内容を言っただけなんだけども。

「トゲトゲしいなぁ。彼女いない歴イコール年齢だよ」

嘘でしょ?

私がそう言うと、彼はなんで信じないかなぁ?なんて言いながらカラカラと笑った。

「小山さん、見つけようと思えばすぐ相手なんて見つかりそうなのに。勿体無い、宝の持ち腐れだよ」

と言うと、彼はちょっと目を見張って私を一瞬見つめた。

「片想いの人はいるんだけどね、失恋したばっかなの」

彼は、そんなことを女々しそうに言った。

ふーん……そんな情報、女性社員が放って置かないだろうなぁ。

「片想いの人、気になるなぁ」

この言葉ってもしかしたら社交辞令かもしれないな、なんて思いながらそう私は呟いた。

現に興味なんてないけど、口がポツリと呟いた。

なんか、この一言で私がどれだけ青春に見切りをつけて現実主義になろうとやってきたんだってことがまざまざと思い知らされる。

ふいに、今朝のことが蘇る。

子供みたいにセックスしては、起きて大人の半歩手前には立ってるんだってことを実感した今朝のことを。


「終わった、終わった」

50人分なんて、大変そうだなと思ってたけど

ものの20分くらいで終わってしまった。

まだ昼休みは30分もある。

「飯田さん、ご飯一緒に行かない?」

小山さんがさりげなく私を誘ってくれる。

普通、彼氏持ちの人を食事に誘う男の人っていないと思うんだけどな。そういう意味で彼は世間知らずなのかもしれない。

「いいよ、私も外で食べようかなって思ってたの。……多分、若干遅刻しちゃうけど」

クスッと私は彼に笑いかける。

遅刻なんて初めてするかも。

その感覚は私が高校生の時に味わったハラハラとドキドキと少しの期待、不安が入り混じった懐かしい感覚だった。


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