駅まで
「あ、やっときた。遅いよー!」
部長さんー山岸先輩が文芸同好会が使っている教室のドアにもたれかかるようにして、少し怒り気味にそう言った。
山岸先輩は長身で、そのすらりとした脚を軽くクロスするようにして立っている。
その先輩の足元には合計3つの鞄。
きっと、私達の分を出してくれたのだろう。
「すみません!こんな時間までやるつもりはなかったんですけど……」
私は怒り気味にはなっているけれど、待っていてくれた先輩にそうお礼を言いながら自分の鞄を取り上げた。
「まぁ、いいや。さっきは何か強く言いすぎちゃったし。帰ろ帰ろ」
先輩はポニーテールにしている髪の付け根を撫で下ろししながら、そう呟くと前を歩き出した。
きっと悪い人ではないんだなぁ。
私は先輩のローファーが床を叩くカツカツという音についていきながら、そうおもった。
校門前には統制委員が既に5人立っていたけれど、ギリギリセーフ。
完全下校5分前。
私達3人はスタスタと統制委員の前を歩き、山岸先輩は校門出て左のバス停の方へ。
私たち2人は校門出て右の駅の方へ。
「じゃあ、また明日ね」
「はい、さよならー」
私は先輩にそう言って、軽く会釈をすると正人と一緒に駅に向かった。
「なに?飯田さんさ、山岸先輩と仲良かったの?」
山岸先輩と別れるとすぐに正人はそう尋ねてきた。
彼は私よりも10センチくらい高いから、ちょうど私が軽く見上げる形になる。
そんな時に、今日の昼に友達と”したキスは10センチ差がある人とが一番やりやすい”なんて話を思い出してしまって。
なんでかな、正人の顔を直視できなかった。
直視したらしたで、彼の唇に目がいきそう。
「ううん」
私はあえて下を向いて、正人にそう答えた。
「なんで、目逸らしてるの?」
正人はそう不思議そうにいうと、私の顔を覗き込むようにして目の前に立った。
おかげで私の歩きは止まってしまって。
「……意地悪いなぁ」
自分の顔が赤くなってるのは分かってるから、どうかこの暗さで気づかれませんように。
なんて祈りながら、私は覗き込む正人の顔を見る。
彼の顔は何故か心配してるみたいで。
なんで、こんなに私の中をくすぐるような動作を彼はするのかなぁ。
本当に意地悪い。
「え、怒っちゃった?」
本当に怒ってる人にそんなこと言ったら、火に油だよ。
そう心の中でツッコミを入れるくらいの余裕がまだ自分の隅に残ってることに少し安心するけど。
「もう、快速乗れなかったじゃん」
八つ当たり気味に私はそう答える。
だって、恥ずかしくって下を向いてたなんて知られたくないもの。
「え、あ。ごめんね!」
彼はそんな私の理不尽すぎる、嘘の怒りに本当に自分が何かしてしまったかのように謝った。
俺のせいじゃないし、くらい言ってよ。
私、カッコ悪いじゃん。
「あぁ、もう。嘘だよ、嘘!行こうよ、早く帰ろう」
その恥ずかしさと罰悪い気持ちがぐるぐると綯い交ぜになって私の心を一気に満たしていくから。
私はそんなのに気づいてないふりをして、彼とのその会話を一旦、強引に終わらせて、彼の前を歩いた。
その時に私の隣を走ってきた車に気がついた彼がくいっと私の制服の袖を引っ張って、守ってくれようなんてしてくれるから。
本当に彼といるといつの間にか調子が狂ってしまってて。
駅まで行くのに私は何回も彼が合わせようとしてくる視線にあえて気づかないふりをした。
帰ったらきっと、こんなに彼に冷たくしたことを後悔するんだろうなぁ。




