四人だけ
俺は自分のことを特別な人間だと思っていた。
頭は良いし、運動も得意だし、顔も自分で言うのもあれだけどかっこいい。
唯でさえこんなに優秀な俺だけど、やっぱり上には上がいる。最上の人になれるわけはなかった。
だからこそ、俺は自分の『特別な能力』に満足していたんだと思う。
『瞬間移動』なんてできる奴はいない。この世できっと俺くらいだ。どんなに頭が良い奴も、どんなに運動ができる奴も、どんなにかっこいい奴も『瞬間移動』はできない。他の誰にもできない俺だけができることだ。
自分は特別なんだと、そう思わせてくれるこの能力が大好きだった。
でも、でもな、もしかしたら俺、すごい勘違いをしてたのかもしれねぇわ。
「要、どうかしたか? 浮かない顔をして」
「平山……」
今は入学式が終わって、HRも終わり、皆が帰っていく時間だ。俺は混雑が苦手だから机の上で伸びていたんだけど、平山が俺の席の前に荷物を纏めてやって来た。俺はとりあえずヘラッと笑ってみせたけど、頭の中は考えごとでいっぱいだ。
言っていいのか? 能力者俺らだけじゃないみたいだぜって。いや、でも平山とは能力の話はもうしないって約束だったし! でも――
「……? 要?」
「平山……もし、もしだからな? もし、能力者がそこら中にいたらどうする?」
俺が言うと平山は顔を引きつらせた。やっぱり言わない方がよかったよな。
「要……小四の時に言っただろ。もうこの話はなかったことにしようと」
「だからもしの話だって! 実は皆が能力を持っている、その可能性はねぇのか?」
「……何を言ってるんだ?」
平山はこいつ頭やばくなったの? みたいな顔で俺を見てる。俺そんな意味わかんねぇこと言ってる?
次第に平山は優しく微笑みかけると俺の鞄を持ち上げた。
「要、入学式で疲れたんだな。早く家に帰って休んだ方がいい。昨日も遅くまで起きてたんだろ?」
浮かれて興奮して全然寝れなくて、最後に時間を確認したのは三時半だったか? たしかにだいぶ疲れてるなぁ、寝坊もしたし……。
「もっと早く寝てたらこんなことにならなかったのに……!」
「はは、そうだな。変なこと言い出すこともなかったな」
「いや、違うんだって! 俺が言ったのは寝……何もないけどなっ!」
やばいやばい、寝坊したって言ってしまうところだった。能力使ったことがバレるとこだった。
「? 帰ろうか。もう教室に残ってる人数も全然いなくなってきたからな」
「おう……」
やっぱり平山は能力の話を全くしてくれないな。こんなに相手してくれないとは思わなかったわ。仕方ねえな、帰るか。
俺は椅子から立ち上がって平山に持ってもらってる鞄を受け取ろうとする。
「要っ! 同じクラスみたいだねっ!」
そんな時に朝に出会った少女、海が近づいてきた。
「……あ、海。同じクラスなんだ?」
すごい確率だ。まさか海も同じクラスとは……平山が同じクラスなだけで驚いてるのに。この学校八クラスもあるし一クラス四十五人いるんだぜ? このA組すげーわ。
「要、知り合いか?」
「おう、朝ちょっといろいろあってな」
「水川海、よろしく」
海はすぐに平山に笑顔を向けて挨拶をしているし、平山も応えるように名乗っていた。
「俺が居たから要に話しかけづらかったか? だから教室に人が殆どいなくなるギリギリまで待っていたのか?」
「あ、違うよ? 人が多いとできなそうな話だから人が減るのを待ってたの」
「人が多いとできなそうな話……?」
人が多いとできなそうな話……あ、そうか。能力を持っている友達を見せるとかどうとか言ってたよな、忘れるところだった。
平山はどんな話か見当もつかないようで困惑した表情を浮かべているけどそんなことは気にしない。
だって、入学早々女子と二人も仲良くなれるかもしれないんだぜ? それにどんな能力を持ってるのか見てみたいしな。
俺は美少女が来ることを期待して海の言葉を待った。
「拓也ーこっち来てー!」
へぇ友達の名前は拓也ちゃ……拓也!?
俺はすぐに海が声を掛けた方向へ顔を向けた。
するとそこには、焦げ茶色の髪に、綺麗な緑色の目をして、小顔で、色白の、あーこういう系のイケメン人気だよなーって言いたくなる典型的な奴がいた。てか女じゃねーのかよ、それなら男友達って言っとけよな期待するだろーが。イケメンなんて求めてねぇんだよ。
それに、その拓也って奴めっちゃ目つき悪いんだけど。というよりも睨まれてるんだけど何で? 心の中じゃ文句言いまくったけど顔は笑顔向けてるぞ?
「……君が海の言ってた瞬間移動ができる人?」
「おう、そうだ」
「……! おい、要どういうことだ?」
あっ、やべっ平山のこと忘れてた。恐る恐る振り返ると、いつもより険しい顔をした平山がいる。でもそれよりも目前まで歩いてきた拓也って奴の方が怖い顔をしてるな。
「ちょっと、拓也。何でそんな怖い顔してるの?」
「……こういう風な能力を使えるのは、僕と海だけだと思ってたのに」
そう言って拓也って奴は溜息を吐いて俺を見る。なるほどな、自分達以外が能力を使えるって知って面白くねぇんだ。
「俺も思ったぜ? マジかよ俺と平山の他に能力使える奴いんのかよふざけんなよってな」
「えっ、要そんなこと思ってたの?」
「へぇ、そっか。考えることは同じか……」
拓也って奴は睨んでいたのを止めて、次は意味深な笑みを浮かべた。何だよ気味悪い奴だな。
「少し待ってくれ。全く話の流れが理解できないのだが、二人は能力を使えるのか?」
やっと話す余裕ができたのか平山が口を開いた。
「そうだよー? 平山も使えるんだよね? 今要言ったもんね? 俺と平山って。もし平山が違ったらどうしよーって思ってヒヤヒヤしながら二人の会話聞いてたんだからー」
「あ、あぁ。使えるが……でも俺は能力のことは秘密にしようと要に言った筈だが……」
そう言って横目で俺を見てくる。ごめんな、全く秘密にできてないんだ。
「えー何で何でー?」
「気づかれた時のことを考えるべきだろう? 普通の人が俺達が能力を使ったところを見たらどう思う? 危険な奴だと思われて、殺されるかもしれない。そういうことを考えて俺は秘密にしようと要に……」
「バレなければいいじゃない」
拓也って奴が真顔で言うのを、平山は首を横に振り否定する。
「もしものことを考えろ。油断して使って人に見つかったらどうする。確実に人がいないわけではないだろ?」
そうなんだよ、俺も朝絶対あの場所に人はいないと思ったんだよな。
「でもさ、そのもしものことのために、特別できるこの能力を使わないのって勿体無いと思うんだけど」
「それは……」
拓也って奴の言葉に平山は言葉を詰まらせた。お、これは平山を言い返せなくできるんじゃねーの?
「そうだよ勿体無いってば! あたし達くらいなんだよこんなことできるの! 使った方がいいって!」
「……だが」
「使った方がいいって!」
「…………よく考えてみ……」
「使った方がいいって!」
海の「使った方がいいって!」コールに平山は言葉を失いつつある。よし、あとちょっとだ!
暫くして平山は諦めたようで、海の言葉に力無く頷いた。
「……わかった。使っていくことにしよう、バレないようにな」
「そうこなくちゃ! 平山は何ができるの?」
「俺は風を発生させることができる」
「あーそうなんだ! だから要、あたしの能力見せる時に風って言ったんだね!」
「……要、後で朝に何があったか詳しく話してもらうな」
そう言って平山は俺に笑いかける。目が笑ってねぇけど。
まぁいいや。それよりも俺は海に会った時から気になってることがあるんだ。話に区切りがついたから話させてもらうぜ。
「てかさ、俺めっちゃ気になってたことがあるんだよ!」
「なになに?」
お、海が興味を示した。二人もこっち見てるし……よし!
「俺思ったんだよ、もしかして実は全員能力を使えるんじゃねーのって」
「……あぁ、さっき要が言ってた意味のわからないことか」
「えー、どういうこと?」
うーんやっぱり伝わらないか。
「……何? 僕らだけじゃなくて、全員が何かしらの能力を使える世界なんじゃないかって言いたいの?」
お、伝わった! イケメンのくせに理解してくれるじゃねーかイケメンのくせに。
「そうそう! そう言いたかったんだ!」
「えー何言ってんの要ー。そんなわけないじゃーん。それだったらみんな能力使いまくってるでしょ」
「いや、だってだぜ? この学校、花丘高校の一年A組だけで特別な能力を使える奴が四人いるんだぜ? おかしくね?」
「たしかに、割合を考えるとおかしな話だな」
「ほんとだね! えっ、じゃあどういうこと?」
「もしかしてさ、全員ができるわけがないことだと思い込んでるから黙ってるんじゃねーか? 平山が言うように危険性を考えて」
俺は声のトーンを落として少しかっこつけて言ってみる。そうすると三人とも黙って考え始めた。どうやら考えさせるくらいには可能性がある話のようだ。
「俺は今日海に能力を見られたけど、見られたのはこれが初めてなんだよ。でももし海が俺の能力を見てなかったら自分から特別な能力が使えると言ってくることはなかっただろ?」
「……そうだね。要が同類だとわかったから自分から言ったけど、見てなかったから言わなかったと思う。というか絶対言わなかった」
「この能力が異常だとわかってるからこそ隠すんだと思うんだよな。何かしらの形で海もそいつの――」
「松村だけど」
すいませんっしたぁあ!
「……松村の能力を知ったんだろうけど、それを言いふらしたりはしてねぇだろ?」
「うん、してないよ」
「皆が内緒にしないといけないと思うことだからこそ広がらないだけであって、実際は全員が能力を持ってる。もしかしたら俺と平山みたいに数人同士で秘密にしてるとこもいっぱいあるかもしれない。……こんな可能性ねぇかな?」
今までの発想全てを覆すことを言ってるんだろうな。だから皆も慎重に考えていて言葉を発することができてないんだろう。
「……面白い話だとは思うがな。もし仮にそうだったとしても、能力を皆が大っぴらに使わないなら全然いいと思うぞ。危険なことは起きないだろ」
えええええそんなこと言っちゃう? 俺的には大問題なんだけど! ちょっと不満そうに平山を見ていると
「要は全員が能力を使えたとしたら何か気になることがあるのか?」
と、聞かれてしまった。そりゃあ気になりまくるっつーの。気にならなかったらこんなに海と会ってからずっと考えたりなんかしねーよ。
「よく考えろ。全員が使えたら全然レアじゃねーじゃん! 特別じゃなくなっちゃうんだぜ? 凡人になるぜ? 嫌だろ、嫌すぎるだろ」
能力を使える自分は特別だ。そう思うことによって他人より劣った時に自分の心を癒すことができてたんだ。でも全員が使えたら本当に俺の方が劣ってるじゃん? 特別じゃないじゃん? 嫌すぎるだろ?
「あぁ……そうだったな、要は特別とかそういう言葉好きだもんな……」
何で可哀想な子を見るような目で見てくるんだよ! やめろよ悲しくなるだろ。サッと平山から目を逸らす。
「うん、特別っていいよね。あたしも気持ちわかるよ!」
平山の後だとガチで言ってんのか俺へのフォローかわかんねぇよ! もういいよ俺可哀想な子で!
「まぁ、君の言うようなことはないと思うよ。もし全員が能力を使えているならこんな平和でいられるわけがない」
あ、松村は何も言ってくれないんだ。まるでなかったことのように対応するんだ……。
「……で、何でだよ。全員が、能力を使えることが異常だと思ってるから黙ってる可能性もあるだろ?」
「そうだよ! 拓也は何か確信でもあるの?」
「ある」
そう言う松村の目は自信に満ちているのと同時にとても冷たいものだった。
「普通に考えて秘密を守れる人間が全てのわけがないでしょ。寧ろ多くの人間が破る。それに特別な能力が使えるなんて内容なんだから言いたくなる人はもっと増えるだろうね。それに、何処にでも調子乗りはいるんだよ。調子乗りは自ら自慢げにいろんな人に言うだろうし……そんな中で広まってないのは、特別な能力自体が全員保持してないことの証明になるんじゃないの」
……冷えすぎだろ。え、こいつどうしたの。秘密を守れる人間が全てのわけがないでしょって……言われてみればそうだけど……なぁ? 現実的といえばいいのか? でも俺の考え間違ってたなって思えることができたよ。
「松村……その、あぁ。たしかにそうだな。松村の考えが正しいと思うぞ……」
平山も小さく頷きながら言っている。
でも海は表情から察するとどうやら納得していないみたいだ。
「……どうして海は不満げなのかな?」
「こういうのは人に確かめてみるのが一番だと思うもん。拓也みたいな考えよりもね!」
人に確かめてみる? 何言ってんだ大丈夫か。
「てかどうやって確かめんだよ」
「全く見当がつかないが……」
「よし、じゃあ先生に確かめてみよー!」
「えっ、先生?」
そう言って数人しか残っていない教室の中を探してみると、教室のドア付近で他の生徒と談笑をする担任の姿があった。
「……おい、せっかく今まで声抑えめで話してたのに先生には言うのかよ?」
「抑えてたのは他の人とかに聞こえないためっていうのもあるじゃん!」
「俺はあまりお勧めしないが……」
「僕もやめた方がいいと思うけど」
「いーや、やってみる価値はあるよ! あ、ほら今他の人帰って行ったよ! 先生が空いた! おーい先生!」
三人で止めようとしても海の勢いは止まりそうにない。俺の頭には諦めの文字が映ったよ。
「先生! 聞きたいことがあるんですけどいいですか」
「おう、どうした? 何でも聞いてくれよ」
先生はたぶん新任だと思う。若いし、何より熱血感? この何とも言えない特有の感じ……それがいかにも新任らしく思える。ちなみに俺こういうタイプの先生大嫌い。
「本当のこと教えてくださいね?」
「あぁ、勿論だ」
先生の言葉を聞くと海は俺らにアイコンタクトをとる。何の意味があんの? 俺全然わかんねーよ?
「先生って、特別な能力を使えたりしますか?」
「特別な能力って例えば?」
「炎を出したりとかです」
「は?」
先生は呆然として俺らを見た後、笑い出した。
「何を言ってるんだ? 漫画の読みすぎだろ。ちゃんと勉強しろよ」
……うん、先生の反応は本当っぽい。ということは特別な能力を使えるのは俺ら四人だけ! よし、やっぱり俺は特別な人間だったんだ!
海も先生の反応を見て漸く確信したようだ。
「先生、僕らは真剣です。どうなんですか、本当はできるんじゃないんですか」
いや松村! おまえどうしたんだよ! おまえは海と違って先生に聞きに行く前からわかってたろ!
途端に先生に笑顔は消え、瞬きの回数が極端に増え出した。暫くの無言の後、
「いいか、おまえたち。漫画の出来事が実際に起こるわけなんてないんだ。最近漫画とか流行ってるからその世界観に入りたくなるのはよーくわかる。でもな、お前達は現実と向き合わなければならないんだ」
ゆっくりと諭すように言われました。
そんなこと言われたら「はい」としか言えない。
「へぇ……まさかそう返ってくるとはね……」
松村も動揺しながら小さな声でそう言っていた。
俺らは、四人だけが特別な能力を使うことができると知ることができた。
代わりに、先生からヤバい生徒として認識されました。




