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出会い

 特別な能力を手にした場合、どのような判断を下すだろうか。


「いいか要。今のことは誰にも言うな。俺たちだけの秘密にするんだ」


 親友の平山秋斗は、俺に、まるで悪戯をした子供に言い聞かせるような厳しい声音で言ってきた。確か今から六年くらい前のこと。


「はぁ? 何でだよ。こんなことできる奴他にいねーよ? 自慢し放題じゃん」

「だからこそだ。異常なことができるんだ、それだけで恐怖の対象になる。どんな仕組みになってるか解剖しようとする人も現れるかもしれない」

「……!」

 ここまで言われて漸くこの能力が明るみになった時の危険性を理解することができたし、平山が秘密にしようとするのもわかった。

「わかったな要? もう能力のことは忘れよう。俺たちは能力のことには気づいてないし、今後気づく日はない。使うこともない」

「おう」

「……よし、じゃあ帰ろうか」

 俺が頷いたことを確認すると平山は何もなかったかのように微笑んで……もう能力の話をしてくることはなかったなぁ。



「おーい、聞いてる?」

「おぉっつ!」

 前を見ると赤茶の髪の女の子が目を輝かせながら俺に詰め寄っていた。気のせいだ。そんなわけねぇよな。

 ……そうそう、何回か平山に能力の話をしようとしたこともあったなぁ。でも何となくしにくくて、結局一回も話せな――

「だからー! 無視しないでよ! 何ですぐ目を閉じて考え事始めちゃうの?」

 ……これは現実……なのか?

 目を開くとやっぱり目を輝かした少女が俺の目の前にいる。嘘だろやべーだろ。自分でもわかるくらい顔が青ざめていくわ。

「ねぇ! 今のどうやってしたの? 急にここに現れてきたのって!」

 あーーばれてる。確実にばれてるわーー。

 今、俺は絶望の淵に立っている。


 時間は少し遡って今から十五分前のこと、俺は自分の家にいた。しかもベッドの上。そして今日は高校の入学式だ。何となく察しがついてるだろうけど……寝坊だ! 寝坊したんだよ入学式の日にっ。乗る予定だった電車は既に発車してしまっている。家から駅まで十分、電車には二十分間乗らないといけないし、高校まで十分は歩くから……あ、でもクラスも確認しないとだよな、だから十分前位には着いてないと。今から準備して十分かかるとしたら……あ、絶対間に合わねーわ。もう八時過ぎてるし……式は九時からだけど集合はもっと早いだろ? 今出て行ったらもしかしたら間に合うかもねってくらいじゃん。……十五分前の俺も大ピンチだったんだ。

 でも、そんな俺にも一つの解決策があった。

 それは俺の能力『瞬間移動』を使うこと。使えば間に合う、というか少し早いくらいになる筈だ。

 と、いうことで俺は普通に平山との約束を破り、『特別な能力』を使いました。使わない方がバカだろ、殆どの奴が俺と同じようにするだろ?

 普通に準備して、校内で人気が少なそうなとこを想像して、余裕をかましながら学校に着いたんだけど……この女が着いたとこにいたってわけだ!

 そして今に至るわけっ!



「見間違いだろ? 俺ずっとここにいたよ?」

「いーや、それはないよ! だってあたしここ見てたんだよ? で、急に君が目の前に現れたんだよ? おかしいでしょ!」

 とぼける作戦は失敗しそうだな。うーん、じゃあ話を逸らそう。

「じゃあ何で君はここに? ここ全然人いないけど?」

「わかってないなぁ。ほら、上見てよ」

 この女に言われた通りに上を見ると、そこには小さいながらに満開の桜の木があった。

「ほら、綺麗でしょ?」

「あー……でも桜の木なら正門の方に大きいのがあるだろ? 何も裏門にあるこの小さいの見なくても」

「正門の桜の木は大人気じゃん! それにお母さんが言ってたの。こっちの桜も綺麗だって」

「ふーん。それで見に来たわけか」

 ちゃんとした理由すぎるだろ。何も言えねぇわ。

「で、君さぁどうやったの? 何で急に現れたの? 魔法? 瞬間移動?」

 再び彼女は俺に質問攻めを始める。よし、こうなりゃ最終手段だ……。

「え、何何ー? 魔法とか信じちゃう感じー? 君ってもしかしてすごく痛い人ー? そんなの存在するわけないよねぇ?」

 ウザさMAXで対抗してみる。こう言われたら恥ずかしくなってもう何も言えない筈……俺の勝ちだ!

 全力のドヤ顔で彼女の様子を伺う。

……あれ、めっちゃ笑顔じゃねーか! 何でだよ!

「信じてるよ、使えるもん」

 なっ……! 強い! この返しにも微動だにしないのかよ……てかあれ、今、

「使えるって言った?」

「うん、使えるよ」

 俺の動揺している様を気にすることなくこいつは笑顔を浮かべ続ける。俺はとてつもなく痛い人と今話してるのか? 普通使えるわけないよな。俺の常識が間違ってんの?

「あ、信じてないでしょ? じゃあ見せてあげる」

「本当に言ってんの? えっできんの?」

 俺の質問に答えることなく、この女は桜へ手を向けている。

 この光景は見たことある。平山が初めて能力を見せてくれた時と同じだ。木に向ける手……目を瞑る平山……そして手からは――

「風!」

「へっ?」

 女が驚いて俺の方を振り返る。そんな女の手から出ているものは風じゃない。

「汗だった……」

「ひっど! どうやったら汗をこんな一気に出せんのさ! 汗じゃない! 水!」

「水……! 手から水出せんの!?」

「そうだよ、あたし水出すことができるんだぁ。だから君ももしかしたら同士なのかなーって思ったんだけど」

 マジか……。特別な能力をこいつも使えるなんて……。固まったまま女を見ていると、

「君は違うの?」

と、答えを促してきた。絶対確信しているだろうけど、俺から答えを聞きたいようだ。彼女の能力を知った以上、言って不利になることは多分ない。なら、言ってもいいよな? 

「そうだよ。俺、瞬間移動でここまで来た」

「わぁやっぱり! いいね瞬間移動!」

「えっ? お、おう」

 彼女の笑顔を見てる限り、このことを悪戯に他言するようには見えない。よかった。きっと特別な能力を持つ者が自分以外にいることを知って嬉しかっただけだろうなぁ。そんなことを考えている間に女は腕時計で時間を確認していた。

「そろそろ行った方がいいね。あ、名前なんていうの?」

「大野要」

「オッケー! じゃあ要ね。あたしは水川海。海って呼んで!」

 すげぇ水使いですって名前で言ってるぞ。笑いそうになるのを堪えて必死に首を縦に振る。

「あたしの友達にも能力使える人いるから後で紹介するよーじゃあまた後で!」

「えっ」

 聞き間違い……か? 聞き直そうとしても海は去っていってしまった。え、でも今確実に言ったよな? 「あたしの友達にも能力を使える人が」って。


 

 俺はずっと、ずっと自分は特別なんだと思っていたけど……もしかして……特別じゃなかったりする?

 



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