牧之条明日香 5
出雲大社が最終目的地だと思っていた。
柳沢君も「ここだ」と言った。
だから、柳沢君からパパに会えないと言われた時、しかも彼がそれを想定していたかのような態度を見せた時に、裏切られたと思ってしまった。
私は、出雲大社に邪魔が入らずに無事に到着したことで、そこが目的地だと言われたことで、ママが写真を撮った場所を訪れることができたことで、少し気が緩んでしまっていたのかもしれなかった。
そのためだと思う、落胆も大きくて柳沢君を許すことができなかった、その時、もう口もききたくない、と思った。
私は絶望し、諦めていた。きっとママと同じ運命を辿るんだ、そう思った。
京都駅に到着する直前に、柳沢君が「お父さんに会わせる」とタイプした画面を私の眼の前に差し出した時、その文字の並びが知らない言葉のように感じられ、その意味を理解するのに随分時間がかかった。
その言葉の意味を理解した時に私の心に広がったのは、パパに会えるという喜びよりも、柳沢君を裏切ってしまっていたという恐ろしいまでの後悔だった。
柳沢君は、今でもこうして、最後まで私を逃がすことに一生懸命になってくれている。彼は手を差し伸べ続けてくれていたのに、私がそれに気がつかずに背を向けてしまった。裏切ってしまったのは私だった。
すぐに謝ろうと思ったが、止められた。
そして、もう時間はない。
私にはどうすることもできない時間が過ぎていき、柳沢君がスマホの画面を見せて「行って」と指示し、その指示の通りに今、私は車室の出口に向かっている。
彼は今どんな気持ちでいるんだろう、顔を見たい、顔を見て謝りたい。そう思うと泣きそうになる。
でも、ここで彼の努力を無にするわけにいかなかった。振り返ってはいけないんだ、カゴの外に出るんだ。車室の出口が自動で開き、私の後ろで静かに閉まった。
とにかく、今はパパに会って、逃げ切ることに集中しよう。トイレに向かえと言われた、この先にパパがいるんだ。
「明日香」と突然呼ばれて足を止めた、パパの声ではない。




