作戦会議
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昨夜ボス猿に宣戦布告をされたムカムカですっかり作戦会議をするのを忘れていたアタシは、房の横の通路を歩きながら、思考を巡らせる。ミストと距離を詰めるには、アタシも農作業のメンバーになるのが一番だ。一応作業場の変更は認められているし、アタシには看守長がついているから、お願いすれば異動自体は容易い。
でも、異動したところでボス猿たちがいるから絶対面倒なことになるし、恋愛どころじゃなくなる気がする……。くそ、ホント邪魔だな、アイツ。
階段を降りたところで、隣を歩く白髪の美女、ヤウリィに今更ながらに小声で聞く。
「ねえ、看守との距離ってどうやって詰めたらいいの? 難しくない?」
本来なら看守は囚人を見張る役割で、距離を詰めるなんてあり得ないことだ。実際、難しいと思う。でもヤウリィは微笑を浮かべ、言ってくる。
「当然看守は、普通なら囚人を厳しい目で見ている。監視が役割だから。でも、私を狙っているあのあご肉を思い出したらわかるだろうけれど、こっちがフェロモンの塊で、あっちがそれに惹かれるオスなら話が変わってくる」
「なるほど、たしかに……」
アタシはヤウリィ好きのおじ看守——ヤリ看の態度を思い出す。
ヤウリィに負けず、アタシもなかなか容姿に優れている。ミストがアタシに惹かれていれば、恋愛に発展する可能性はあるということか。
「ネっちゃんを見るミストの目、一目惚れしてたと思う!」
聞き慣れた明るい声とともに肩に手が置かれ、振り返るとそこには黒目を輝かせたコーヌがいた。おはよー! と元気な挨拶をし、長身のアタシとヤウリィの間に子供のように混ざる。
一般房棟から出て、食堂へと繋がる廊下に出ると、一気に囚人たちの喋り声が周囲に満ちる。
「一目惚れね。たしかにアタシも感じたよ。たぶん向こうにも気はあるはず。けど、バレるリスクを冒してでもアタシと恋をしたいと思うかは、また別の話だよね」
「そう。まずはそこを見極める必要がある。相手がどのくらい看守で、どのくらいオスなのか」
恋敵のボス猿連合が前にいるので、話を中断して朝食の列に並ぶ。薄めたコンソメスープと硬いパンの乗ったトレーを受け取ると、三人分空いた席を探し、着席する。
「どうやって見極めるの?」
手を合わせていただきます、と律義に言ったコーヌが、何も言わず食べ始めるアタシに聞いてきた。お椀を両手で上品に傾けていたヤウリィが、のどを潤してから言う。
「とにもかくにも接触しないと始まらない。ミストが私たちの作業場の担当なら簡単だったけれど……」
「だね。まあでも、運はハナっからアタシを見放してるわけでもない。なんたってアタシたちは、農作業の場所から一番近い部屋にいるからね」
「そっか! なら、隙を突けばミストと話すチャンスくらいは作れるかもしれないってことだねっ!」
「そう。そしてその隙は、私にしか作れない」
「ヤウリィ……いや、ヤウリィ様……!」
自信に満ちた声を放つヤウリィに、アタシは心強さを感じる。
たしかにアタシらの作業場を監視するヤリ看の隙を突くには、ヤウリィが気を引くしかない。横の美女は、さらさらの白髪を耳にかけ、一口大にちぎったパンをスープにつけてから口に入れている。アタシもその食べ方を真似しようか逡巡していると、ふと疑問が湧く。
「ヤウリィ、ありがたいんだけど、なんでそこまでアタシとミストを応援してくれるの?」
友達だから、という理由だけでヤウリィが手伝ってくれるのは、不思議に思えた。するとヤウリィは唇を煽情的にゆっくりと舐め、アタシの目をまっすぐに見てから言った。
「決まってる。リスクを減らすため。私も男とセックスしたいけれど、バレて刑期を伸ばしたくはないから」
「え、つまり、アタシとミストでまずバレないか実験するってこと?」
「包み隠さず言えばそうなる。もちろん、ネネの幸せも応援してるのは事実だけれど」
「え~? ……まあ、ヤウリィだしなぁ。応援してくれるんなら許すけど」
「あと、先に禁を破った二人がいれば、私の時に協力してもらうこともできる。よりバレづらい状況で思う存分セックスできる。どう? 良案でしょ?」
アタシはヤウリィのしたたかさに笑った。ふふ、そうだね。
「私は——をここでも味わえる可能性があるのなら、妥協はしない。——。——。——!」
「ヤっちゃん、静かにね」
朝食時にはふさわしくない単語を興奮した様子で連発する美女を、アタシの飼い犬が口の前に指を立ててなだめる。まあいいか、動機はなんであれ、ヤウリィは頼りになる。
質素な食事を終え、トレーを持って歩き出すと、横目でボス猿とレズ軍団の頭が言い争いをしているのが見えた。
アタシがレズ軍団と呼んでいるのは、女の子が好きで、女の子同士で毎晩イチャイチャしている集団のことだった(アタシもコーヌとはするけどね)。軍団といってもボス猿連合と同じく構成員は四人。アタシと接点はないが、青い長髪と濃いメイクが目立つレズ軍団の頭——アンシュ——だけは、なんとなく知っていた。
ボス猿とアンシュ、その取り巻きたちはテーブルを挟んで睨み合っていた。二人とも監獄生活が長く、ボス同士のため、こうして揉める場面は何回も見てきた。
アタシは、大ごとにならなければいいけど、と思いながら食堂を後にした。




