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恋と死刑と無期刑囚  作者: 畑中雷造の墓場
第一章 恋と死刑の出会い
10/49

宣戦布告

     9


 一日の作業を終えて夜の自由時間になると、アタシとヤウリィの房にはコーヌが来ていた。アタシとコーヌは下段のベッドの上に、ヤウリィは枕を尻に敷いて床に座っている。

「目標は高い方が燃える。ミストとヤるのが最終目標」

「ヤ、ヤるって、ア、アレのことっ?」

「もちろん」

 ヤウリィが勝手にアタシの目標を決め、コーヌが目と口を丸く開いてびっくりしている。

「なんでアタシの目標を勝手にヤウリィが決めるのさ」

「でも、ヤるでしょ?」

「……そりゃ、ヤれたらヤるけど、さあ」

 アタシは違う違うと言って二本の髪束を揺らし、

「ヤるのが目標っていうんじゃなくて、きちんと両想いになってから、お互いに求めた結果、そうなるってもんでしょ?」

「ほら、結局ヤりたい」

「ヤっちゃんのヤりたいとネっちゃんのヤりたいはちょっと違うってことだねっ!」

「そう!」

 アタシはシーツの上に体育座りするコーヌを抱き寄せ、可愛がる。

「コーヌはアタシのことわかってるなぁ」

 撫で慣れたわしゃわしゃの灰髪の感触とコーヌのうっとりした顔を見て癒されていると、ふと、違和感を覚えてヤウリィに言う。 

「ヤウリィは手出す気ないの? いや、出さないでほしいけどさ」

「私は大丈夫、今いちビビッと来ないみたいだから」

「ふーん、珍しいこともあるもんだ。……まさか女の子しか愛せなくなったの?」

「それはない、——は好きだから」

 卑猥な言葉が美女の口から飛び出たので、アタシは聞かなかったことにしてコーヌのほっぺをぷにぷに挟んで遊ぶ。口を潰されながらコーヌは聞いてきた。

「そういえば、死刑が生き甲斐になったって言ってたよね、あれはどういうことなの?」

「ああ」

 アタシは遊んでいた手を降ろし、シーツを意味もなくさする。まあ、ヤウリィには打ち明けたしね。今さらコーヌに秘密にしておく理由もない。

「アタシ、死刑が好きって気づいたんだよ。なんというか、あのゾクゾクする感じが、気持ちいいって思っちゃってさ。はは、ヤバいよね」

 口にしてみて、やっぱり人にはあまり言いたくないことだと思う。死刑が好きなんて、絶対おかしい。ヤバい。

「でもさ、たぶんこれはアタシだけの快感で、アタシにしかわからない好きなんだ。だから、ヤウリィに言われたみたいに、周りの目なんか気にしないで、一回本気で向き合ってみようと思った。この塀の中でも、楽しく悔いなく生きるためにさ」

 素直に話し終わると、ようやく隣のコーヌの顔に目線を向けられる。コーヌは妹を慈しむような眼差しでアタシを見ていた。実は一つ年上のお姉さんだったことを唐突に思い出して、アタシは妹みたいな気持ちになる。

「どう好きなの?」

 小首をかしげて聞くコーヌに、んー、とアタシは思案し、ちょっとふざけて答えることにした。

「とにかくゾクゾクするんだ、内臓が浮く感じがしてさ。……こうやって、思いっきり頭をかち割るときが一番興奮するんだよ」

 斧を模した手刀で、コーヌの頭にチョップする。いて! と大げさに痛がるコーヌが、

「うわ、目がキマッてるよネっちゃん! こわ~い!」

「なんだと~! この、お前なんか、こうしてやる!」

 白黒の囚人服をめくりあげ、白く柔らかな肌を露わにする。可愛いおへそに舌を入れ、ベロベロと舐めてくすぐる。「や、やだ……!」とコーヌが嬉しそうな声を上げる。

「私、いるけれど大丈夫?」ヤウリィが目を細めて聞いてくる。

「あ、ごめんごめん」

「じゃあ、シーツかけるから、先に始めてて」

 となぜか立ち上がってはしごの上のシーツを引っ張った。下から覗き上げる形になり、鼻息の荒さに気づく。と、さっきの質問の意味にも遅れて気づく。

「私も参戦するけどって意味⁉」

「そうだけれど、だめ?」

「だめだよ! コーヌは誰にも渡さない、アタシだけのもんだ!」

「ネネっ……!」


 性欲の権化であるヤウリィのいる前ではコーヌともイチャイチャできないので、アタシは仕方なくベッドに寝転がり、コーヌを抱き枕にするだけに留める。話はまたミストのことに戻り、そういえば、とヤウリィが宙を見上げて言う。

「男子棟から来たってことは、こちらから代わりに男子棟に異動した看守がいるってことになる」

「ミストはボス猿の作業場に配置されたから、たぶんあの賄賂看守だろうね。そういやいない気がするし」

 アタシはついこの間の、ギャンブル中のボス猿の部屋に入ってきた男看守を思い出す。

「囚人と取引してるの、看守長か署長にバレたんじゃないっ?」

 コーヌがアタシの胸の中から上目遣いで言ってきたので、「そうかもね」と優しく撫でてやる。

「それなら異動で済む?」

 珍しく思考を巡らせている様子のヤウリィ。名探偵のようにあごに指をあてている。と思いきやすぐに、「どうでもいいか」と呟く。

「とりあえずネネの目標は決まった。私は出かけてくる」

 ヤウリィは敷いていた枕をベッドの上に置き、房から出て行った。たぶんヤりに行くのだろう。

「よし、なんか漲ってきた! 恋も、死刑も、全力でやってやる!」

 コーヌを抱きながら片手を上に突き上げると、

「おー!」

 とコーヌもアタシの腕の中で小さくガッツポーズを作った。愛らしい。

 明日からの毎日にワクワクしてきた。


 コーヌを抱いてまどろんでいると、ふいにぞろぞろと足音が聞こえてきた。房の中の影が一気に濃くなる。アタシは上体を起こし、房の入り口に目を向ける。

 嫌な来客だった。ボス猿がポケットに手を突っ込んで嫌な笑みを浮かべている。蝶の入れ墨が入った坊主頭や、オールバック三白眼女、男みたいな体つきの女を引き連れている。ボス猿連合だ。

「なんか用?」

 コーヌを後ろに下がらせ、アタシはベッドから立ち上がって棘のある声を出す。ハン、と鼻で笑ったロッドが、

「お前、異動してきた看守に惚れたらしいな」

 と言ってくる。図星。まあ、こいつに知られていてもべつに不思議ではない。

「それがどうしたの? あんたには関係ないでしょ」

「いや、関係大アリさ。あたしも惚れたんでね」

「はあ⁉」あんたみたいなおばさんが⁉ と続けそうになる。

「運の良いことに作業場も同じだ。……つーことだから、アイツはあたしのもんだ、手を出すなよ、ネネ」

 突然の宣戦布告に、アタシは「はぁ?」としか反応できない。房の入り口に手をかけ、「ちょっと待て、おい!」と言うが、もう用は済んだとばかりに背を向けて歩き去っていくボス猿たち。——はあ⁉ なんだあのクソ猿! ふざけやがって……!

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