【幕間】カイオスとソフィアの出会い
その日はカイオスが婚約者となった相手、ソフィア=ヴァージル侯爵令嬢と初めて顔合わせをするための茶会が開かれる予定だった。
結婚も世継ぎを作ることも王族の義務。相手に求めるものは王族としての責任を負えるかどうかくらいで、その力さえあれば誰でも良いと考えていた。
(王とその伴侶に男女の情など必要ないからな。さて、相手もそう考えていれば良いが)
家柄や年齢などで選ばれた相手だ。家の、つまり父親であるヴァージル侯爵の思想や王家への忠誠心は問題ないと判断されていても、娘がどうかまでは分からない。
(まあ、顔を合わせれば何を考えているかは分かる。問題があれば婚約は解消すればいい)
そのように考えていたカイオスは、用意された茶会の場で初めてソフィアに会い、その考えを覆されることになった。
「お初にお目にかかります、ソフィア=ヴァージルでございます。この度カイオス殿下の婚約者に選ばれたこと、誠に光栄ですわ」
燃え盛る火のように情熱的な赤い髪、生命漲る植物のように力強い緑の瞳。その色から受ける印象はとても意思が強そうなのに――カイオスには、彼女の感情が全く想像できなかった。
無表情ではない。無表情の人間であってもカイオスには感情が分かる。淑女らしい微笑みを浮かべるまだ幼さの残る少女。人間というのは若ければ若いほど感情をむき出しにするものだが、目の前の彼女はそうじゃない。
(……初めてだな。相手がどう思っているか、分からないのは)
物心ついた時から、カイオスは相手の顔を見れば自分に対しどのような感情を抱いているか、おおよそ想像ができた。下心も善意も透けて見えるからこそ、そんな相手の感情を利用することもある。
だがこのソフィアという女性はどうだろう。完璧な礼儀作法と整えられた微笑みの向こうに、どんな感情を収めているのか全く分からない。
「そなたは……何を考えている?」
「まあ。殿下、女性の心のうちを覗くことは非常に難しいのですよ」
「私はそなた以外の者の心のうちならわかる。だが、そなただけは分からない。このような者には初めて会った」
感情が分からない人間を相手に会話をするのは初めてだった。真っすぐにソフィアを見つめ、その一挙一動、瞬きの速度まで観察しても分からない。彼女は自分の感情を抑えることに長けている。それは社交の場においての強みだろうが、彼女が敵に回った時、カイオスは非常にやりにくい思いをするだろう。
「では殿下。婚約者としてわたくしをよくご覧ください。そうして、わたくしという人間を見極めてください。……そのための婚約期間でしょう?」
「ははは。それもそうだ。ではそのためにもまず――次の予定を決めておこうではないか」
彼女が敵になれば非常に厄介だ。しかしカイオスがソフィアに抱いたのは警戒よりも好奇心、興味であった。
感情の読めない相手との会話、交流。相手が何をどうすれば、どのように思うのか。それが想像できないのは初めてだったが、カイオス以外の人間はそうやって他人と関わっているはずなのだ。
(私にとって唯一対等な相手かもしれん。……腹の探り合いなど、したこともなかったからな)
ソフィアは穏やかな微笑みでカイオスを見ている。その微笑みのうちの感情を、やがて理解する日が来るだろうか。……ああ、実に楽しみだ。
なお、後日のデートで見事に彼女の好みを外したカイオスは珍しく慌てることになったのだが、その時初めてソフィアはカイオスにも分かりやすく楽しそうに笑った。
そして結婚後も度々、その日の失敗についてからかわれるようになる。
カイオスとソフィアのなれそめが気になるというお声を頂いていたので、軽い幕間です。
本日はコミカライズ配信日です!よろしくお願いします!




