桐生さんがまたダサい方法で強くなった
夢も見ずに目を覚ました。
真っ暗な水の奥から急に自分の意識が浮き上がってきたような、そんな感じだ。
静脈麻酔薬からさめた直後もこんな感じなのかもしれない……。
と、前に患者さんが手術後に話してくれた体験談を思い出す。
少しでも唾液を出して保湿しようと、何度も口をモグモグさせながら、横になったまま目だけで周囲を見回してみる。
見覚えのある場所だった。
『住宅街』
二番目のステージにある区画防災施設。通称セーフハウスと呼ばれる場所。
(無事にたどり着くことができたんだ……)
思わず安堵のため息をついた。
息を少し多めに吸い込むと、乾燥した空気が乾いた喉の粘膜をこすって酷く痛んだ。
ガッシリとした鉄製の赤い扉に、窓のない殺風景な室内が見える。
私が横になっていたのは、ベッドではなく病院の待合室にあるような長椅子だった。
周囲には長らく閉鎖されていた場所特有の埃っぽいにおいが漂っている。
空気が乾ききっているのは、この閉鎖された部屋の空調機能に加湿機能がついていないからだろうか?
無事に来ることができたんだという安心感と、
やっぱりここは夢の世界じゃないんだ、
という苦い思いが同時に湧き上がってくる。
(わかりにくいところに隠れているキーパーソンを見つけるか、私が隠し部屋で拾った鍵を使わないと、この場所には入れないはずなんだけど……無事に入れたんだ。よかった)
いつまでも横になっていても仕方がないので、身を起こしながら深呼吸をする。
「――目が覚めたみたいね。
まぁ、そのまま死んでくれても構わないと思っていたけれども」
「……エリザベートさん」
声のした方を見ると、少し離れた場所でエリザベートが安っぽいオフィスチェアに座り込んで、まずそうな顔で果物をかじっているところだった。
「貴女はね、状況が一段落したところでいきなり気絶しちゃったのよ。
無理をさせすぎたって桐生さんが真っ白になっていたわ」
「うわー……すみません。
一段落なんてしてなかったですよ。
セーフハウスを見つける前に気絶しちゃうなんて」
「平気だったわよ、別に。
ちょっと迷ったりはしたけれど、無事にたどり着くことはできたわけだし。
こんな状況なら無理もない……って、あの男も言っていたわ。
あなた、連日睡眠不足の過重労働続きだったんでしょう?
興奮状態で一時的に元気になっていたんだろうけど、それでも体力に限界が来ちゃったんでしょうね」
そういって額を抑える彼女の顔色も悪い。
というか、彼女の足首はなぜかシーツを引き割いてロープに改造したようなもので縛り上げられている。
「そういえば、桐生さんは?」
「あいつなら、NPCを二人連れて、スーパーに更に食料を探しに行ってるところよ。
……あとこれを見てよ。
私に貴女を殺させないように、ってこんなことまでしてくれちゃって」
「その足首に巻かれたシーツ、何なんですか?」
「あの男が作った仕掛けよ。
私が貴女に無理やり近づくと、
この足首の先に縛り付けられた扉開閉用のレバーが引き下げられて、ゾンビだらけの屋外へのドアが開かれてしまう、って仕組みみたい」
「わー」
「武器になりそうなものも大体取り上げられて、貴女が寝ているベッドの下に置かれちゃった。
桐生は私をまだ危険人物扱いしているみたいね……まあ、妥当な判断だと思うけど」
そう言って、エリザベートは縛られたまま肩をすくめる。
……桐生さん。慎重な人だなあ。
でも、そんな慎重な人が私と暫定危険人物扱いのエリザベートを二人きりにして、わざわざ単独行動に出たというのも変な話だ。
とりあえずマシンガンのある場所は確認しておこう……って、ない! ハンドガンとショットガンしか置いてない!
「……NPC二人だけで大丈夫なんですかね……」
革張りの長椅子に座り直しつつ、私はポツリとそういった。
地獄の軍勢もとい要救助NPCは、最大五人まで連れて行くことができるのに。
「序盤で仲間にしきれなかったNPCたちを回収しておきたいんですってよ。
最初のステージまで戻って、もう少しレベル上げもしておくつもりみたい」
「なんでそんなに焦って……あ、七日縛りのことを気にしてるのかな」
「七日縛り?」
「このゲーム、七日経つとこの場所も無限湧きするゾンビに襲撃されて、事実上のゲームオーバーになるんですよ」
「最悪ね」
「最悪でしょう? ゲームとして遊んでる分には楽しいんですけどねえ」
私は苦笑して、椅子の下に置かれていたペットボトルの水を一気飲みする。
喉が一気に潤った。
「……あなたを寝かせたままにしちゃって、ごめんなさいね」
少しして、エリザベートが戸惑いがちに口を開いた。
「あの桐生とかいう男がいるときに、薬瓶でも使ってあげたらよかったのかもしれないけど、注射器を使えるのはあなたしかいないし、薬草を口に詰め込んだぐらいじゃ貴方は全然目を覚まさないし」
「そうですね、薬草じゃ気絶状態は治らなかっただろうなあ」
「ええ……」
と、エリザベートが答えたきり、プツっと会話はとだえてしまう。
私は気まずい思いになりながら、改めてエリザベートを見た。
エリザベートはかじりかけの果物を膝下に置いて、固く唇を引き結んでいる。
かなり緊張しているみたいだ。
(この気まずい空気をなんとかしなきゃ……)
私は思った。
今こそ看護で培った技術が活きるはずだ。いざ傾聴!
……ええと、アサーティブコミュニケーションとかいうのを授業でやったなあ……アレってどんなコツがあったんだっけ……。
「……この場所、乾燥してますね」
私は悩み悩んだ末、凄まじくどうでもいい話を始めてしまった。
「そうね……エアコンの電源を落とせたら少しはマシになるんだろうけど」
だが、沈黙に耐えかねていたらしいエリザベートは、私の雑な話題にも乗ってくれた。
「壁にある操作盤っぽいものを動かしてみたんだけど、空調の電源を切ることもできないみたい。
ここってセントラルヒーティングなのかしらね。
大学の教室でエアコンが自由にならなくて、うんざりしたのを思い出すわ」
「かもしれないですね。
……そういえばエリザベートさん、大学は何学部だったんですか?」
「身バレしちゃうとどっちかが死んだときに気まずくなるから内緒。
……一応、保育士・幼稚園教諭・小学校教諭の免許は持っているわよ。
今やってるのは保育士」
「おおー、勉強大変でしたね」
「だったわね……大変だった末に結局違法労働三昧になっちゃったんだから、あんまり大変さが報われた感じもしないけれど」
そう言ってエリザベートは天井を見上げる。
その様子を見ながら私もため息をつく。
「在学中も入職後も大変、かあ……そのへんはこっちも同じかもしれないです」
「看護師だっけ?」
「ええ。正直、こんな世界に投げ込まれて怖いと思っている反面、超過勤務労働状態から無理やり引き離されて、ホッとしている面もあるんですよ」
一生出られなかったら困りますけど、と私が笑うと、そうね、とエリザベートも小さく笑った。
「その気持ち、わかるわ。
キツい仕事に投げ込まれたときほど、自力では逃げ出せなくなるものね。
ひょっとしたら、この世界はそういう……レスパイトケアみたいなことを目的に作られているのかもしれない。いや、そんなはずはないか……」
「エリザベートさん」
深く考え込む様子を見せたエリザベートに、私は意を決して話を持ちかける。
「この世界についてわかっていること、少しだけでも教えてもらうことはできませんか」
「……」
「今のところ私が死ぬしかない……って言ってましたよね。
ということは、エリザベートさんは前に大切な誰かが死んで、それで元の世界に帰れたことがある……んですよね、きっと」
「なぜ、そう思うの」
エリザベートの声はかすれていた。
「私はゲーム脳なので」
そう言って、私は肩をすくめて笑う。
「こんな状況で訳知り顔の人間が辛そうな顔をしているんだったら、
きっとそうなんだろうなって思っただけです。
見当違いのことを言ってしまっていたらごめんなさい。
でもきっと、なにかとても辛いことがあったんですよね?」
「それは……」
そういったきり、エリザベートはふつりと黙り込んでしまった。
密室に再び沈黙が流れる。
だがそれは、先程のようなどうしたらいいのかわからないような沈黙ではない。
黙り込みながらもエリザベートが必死に何かを考えていることがわかる。
「……私に分かるのも簡単なことだけよ」
しばらくの間があって、エリザベートはようやくそれだけいい切った。
「このゲームには、どうやら管理者がいる」
「管理者?」
「ええ。自分でそう名乗っていたわ。
この世界を作った存在、というべきかしら。
歪んだ目的意識を持った何かよ。この世界にいる以上、私たちはあの存在には勝てない」
強すぎるもの、とエリザベートは呟いた。
「目的は分からないわ。だけど、この世界に呼ばれるのはかならず疲れ切った人間だけ。それも、かならず特定の一人を『核』として選ぶの」
「核に選ばれるとどうなるんですか?」
「どうもならないわ……ああ。核だけが電子端末を持ち込めるわね。
スマホだったりノートパソコンだったり。
それを使うと、どのゲームにどの人間がいるのか確認できたり、別のゲームの世界への移動ができるの。これは、さっきも言ったと思うけれど」
「そうですね」
「移動できるゲームは……前回の場合、核の子がやりこんだゲームばかりだったわ。
今回もそうなのかもしれない。
ただ、そのスマホ、充電ができた試しはないから大切に使いなさいね」
「う……極力スマホは開かないようにします。電源も切っておこ……」
「それが賢明よ」
エリザベートは頷いた。
「あいつ……管理者の目的が何なのか、私には今をもってしてもわからない。
あいつの正体は高度な技術を持った宇宙人なのかもしれないし、社畜を撲滅するために来た未来人なのかもしれない。
もしかしたらサービス残業に殺された怨霊の成れの果てなのかもしれないわね」
「……」
「馬鹿みたいに聞こえるでしょう?
でも実際、私もその程度の事しか分かっていないのよ。
私が過去二回の『異世界転移』でわかったことは、ヤツはエミュレーターか何かを使ってゲームの世界を再現しているらしいということ、再現した世界に私達の精神だけを引きずり込む能力を持っている、ということ。
引きずり込まれた人間たちにはそれぞれゲームの登場人物の容姿が割り当てられるということ。あとは……」
「核が死ねば、みんなこの世界から解放される……ということは?」
「……ええ。そうね、それもあるわ」
エリザベートは気まずそうに頷いた。
事実を確認しているだけです、後ろめたく思わないで、と言いながら、私は質問を続ける。
「ちなみに、この世界に最初に引き込まれたのはいつですか?」
「2014年の春かしら。二回目は……2016年の秋。私は本当に職場運が無いから」
「核が死んだのを見たのは一回目ですか? 二回目ですか?」
「二回目ね。
一回目はなんだかよくわかっていないうちに元の世界に帰っていたわ。
ひょっとしたら、私の知らないところで核が殺されていたのかも。どちらも現実世界では、一週間ぐらい意識を失っていたことになっていたわ」
「なるほど。
ちなみに、この世界をゲームとしてクリアしたことはありますか?」
「いいえ」
「わかりました。エリザベートさん自身は核に選ばれたことは?」
「ないわ。……二回目で核にされていたのは、この世界で仲良くなった親友よ」
「それは……つらい経験でしたね」
「ええ、そうね」
エリザベートは言葉少なに頷いた。彼女の表情は沈痛そのものだ。とてもつらい経験だったのだろう。
「彼女は銀行で働いているって言っていたわ。
ゲームが好きだって言っていた。
ひょっとしたらゲームが好きな人が核に選ばれやすいのかもしれないけど……いや、違うわね。私だってゲームは結構やるほうだし」
「そうだな、俺もハードゲーマーだ」
と、突然第三者の声が割って入ってきたので、私は思わず顔を上げ、エリザベートもビクリと背後を振り返った。
エリザベートの背後に、地獄の軍勢を引き連れた桐生さんが立っていた。
なんというか……凄い格好だ。
荷車にはこれでもかというほど物資が積まれているし、地獄の軍勢たちもシーツを再利用したロープでぐるぐるまきにされ、様々な武器や弾薬をぶら下げている。
桐生さん自身は一番大きな荷物……ニックを、抱っこひものように改造したシーツで背中に背負っている有様だった。
「ゲーム好きであるということは、『この世界に呼ばれること』に必要な条件であって、
『核に選ばれること』に必要な条件ではないのかもしれん。
他の要因があるはずだ」
なんてカッコよく言っているが、背中にニックを背負った状態じゃキマらない。
「あなた、いつの間に帰ってきていたのよ!」
エリザベートが驚きを隠せない様子でそういった。
心なしか、また少し緊張しているようにみえる。乱暴に脅され縛られていたんだから当然だ。
そんなことを考えながら、横から私も口を出した。
「桐生さん桐生さん、今私達とても大事な話をしていたんですけど、どのへんから聞いてました?」
「割りと最初からだ」
言いながら、桐生さんはエリザベートの足首の改造シーツをナイフで切っていた。
手で解けないくらい固く結んでいたらしい。
容赦ないなあ……と、思いながら桐生さんをよく見ると、まるでくしゃみを我慢しているような顔をしているではないか。
「桐生さん、ひょっとして『そんなことは技術的にありえない!』っていいたいけど我慢していたりします?」
「……当たり前だ!
エミュはそもそもそんな事が出来るもんじゃないし、そのうえ精神だけを異世界に呼び寄せる?
そこからいきなりファンタジーじゃないか。
それとも俺達は実は全員脳に電極でも刺しているのか?
全員エイリアンに誘拐されて人体実験でもされている最中なのか?」
「ううー、そこまで言わなくてもいいじゃないですか。
私たち、自由にお話ししていただけなんですよ?
『そうかもな』って話を流してくれたっていいじゃないですか。軽い相づちやスルーって、円滑なコミュニケーションをとるための必須スキルですよ?」
「死ぬほどどうでもいいスキルだな。
あいにく、俺は技術的に不正確な話を指摘せずにはいられなくて会話の雰囲気をブチ壊しにするタイプのコミュ障なんだ。
仕事中は努力してそういう性格が出ないようにしているが、趣味では機械いじりしかしていないから、私生活の人間関係なぞどうでもいい。放っておいてくれ」
「機械いじり? 発明でもするんですか?」
「そうだな……たとえばベンチマークテストとか。
最新のグラフィックボードで重いベンチマークテストを走らせると楽しいぞ」
「……それは一体何を楽しむんです?」
そんな会話をしていると、エリザベートは呆れたようにため息を付き、桐生さんは抱っこひもからニックを引き抜き床にゴロンと投げ捨てた。
「桐生さん、ニックはたった一人しかいないんですよ?
もっと大事に扱ってください!」
「構うものか。
こいつ、ステージ序盤にまた湧いていたぞ。ついでに、無限マシンガンも大量に確保しておいた」
「え……はあっ!?」
「このステージも少し散策してみたんだが……少し進んだところに『射撃練習場』があるだろう?」
「あ、はい。ありますね」
「そこで初歩的なバグを見つけた」
桐生さんは得意げな顔でニンマリしながら、自分が連れてきた地獄の軍勢たちを見回した。
「射撃練習場で手持ちの銃を空になるまで撃ってから出ると、弾が満タンの状態に戻る仕様なんだよな?」
「あ……そうですね。ゲーム中でもそうです」
「そこで、まずはハンドガンで試してみた。
ハンドガンを空になるまで使ってから、射撃場の床に置いて、そのまま部屋を出たんだ……どうなったと思う?」
「……。……どうなったんですか」
「俺の手元に『満タンになったハンドガン』が出現した。
部屋に戻ると、そこには『空になったハンドガン』が床に置かれたままだった」
「……うわ、それって凄い!
無限機関の完成じゃないですか!」
「そういうことだ、すごいだろ!
君の言うとおり、この方法を試せば任意の銃火器を無限に手に入れることができるんだ。
射撃場で使える武器に限られるみたいで、ハンドナイフは増やせなかったがな。
似たようなバグをほかのゲームの動画で見かけていたから、もしかしたらここでも再現できるかも……とは思っていたんだが、本当に上手くいくとは」
そういう桐生さんはホクホク顔だ。
私がよくよく見てみれば、地獄の軍勢たちは全員無限マシンガンを装備している。
しかも、全員がシーツ製の抱っこひもでニックを背負っている。
軍勢の人数は……数え切れない。
この部屋にいるだけでも多分二十人位はいる。
「え、プレイヤーキャラ一人につき連れていける要救助者は五人までじゃ……って、そうか!
ニックもプレイヤーキャラクターにカウントされるんだ!!」
「そういうことだ。
ニックを一人増やせば増やすほど、連れていける要救助者の人数が五人ずつ増えていく」
「すごい、無限機関の完成じゃないですか!」
「そういうことだ、すごいだろ!」
「えっ、どうしよう、凄く楽しくなって来ました!」
「悔しいが俺もそうだ。今めちゃくちゃに楽しくなって来てしまっている」
「……一体何の話なのよ……」
盛り上がりに盛り上がりまくっている私と桐生さんをよそに、話についてこれないエリザベートが困惑しまくっている。
当たり前だ、彼女は『セラ』を知らないくらいゾンビゲーには疎いのだから。
私がエリザベートに丁寧にゲームシステムを説明すると、ようやく彼女は納得したように頷いた。
「……なるほどね。まあ凄いことができたってことは分かったわ。
しかしニックはなんで増えたんでしょうね」
「ステージ開始の所定の場所からニックを連れて行くと、ステージ切替のタイミングでニックが元の場所に『置き直される』んだ。
やり続けているときりがないから、二十人くらいで切り上げておいたが」
「不思議な話ね。
ステージ切替のタイミングでニックが手元から消えて、元の場所に置き直される……ってシステムでもおかしくないと思うけれど」
「まあ、バグだな。
そもそもゲーム中では『銃火器を練習場の床に置く』ことも『ゲームが始まっていない段階で主人公を連れ去る』ということもできないんだから、こちらも想定していない動きをしているわけだし」
「変ですよね―この世界。
ファンタジー異世界なのかSF的なゲームの世界なのかハッキリしろって感じじゃありませんか?
あ、そうだ。あとでグレネードランチャーも増やしましょうよ。
本当はもっと先でないと手にはいらないんだけど、このステージでも心当たりがあります」
「そんなに強くなってどうするつもりよ……」
怪しい笑いを浮かべる私と桐生さんをみて、エリザベートは完全に呆れ顔だ。
しかし、ここまでくればやることは決まっているだろう。
何しろ私たちはゲーマーだ。
「このゲームを『クリア』しましょう。
エリザベートさんはこの世界を『クリア』したらどうなるかはまだ分からないでしょう?
圧倒的武力でもってこのゾンビだらけの世界を制圧するんです。
ひょっとしたらエリザベートさんが引き込まれた『一回目』は、別の誰かがゲームをクリアしたから元の世界に戻れたのかもしれないですよ」
私がそういい切ったとき、凄まじい轟音がズシンと響いた。
【本編を読み進めるうえで何の参考にもならない登場人物紹介】
■ 桐生さん(2)
慎重な性格……だったはずのエンジニア。慎重な割に大分セラに心を許してしまっているが、大丈夫なのだろうか。三十歳がバグを見つけてドヤ顔で二十三歳に自慢している場合だろうか。
エリザベートに対する扱いがひどすぎるようにさえ見えるが、むしろ普段の彼はこっちに近く、ガード過剰で女性(というか人間全体)に対する猜疑心が強い。それにもやむを得ない理由があるのだが、それにしたって警戒心が固すぎるのは事実である。




