こうしてわたしは勇者ハーレムの一員であり続ける
「おかーさま! お父さまがまた発作で倒れたー」
わたしによく似た容貌の娘が部屋の扉を乱暴に開けると飛び込んできた。
「今日は何があったの?」
「アンジェお母さまにお茶会に連れていかれて、招待されていた令嬢に抱きつかれたみたい」
同じテーブルでお茶を飲んでいたルーシルが困ったように手を頬にあてた。慌ただしく飛び込んできたわたしの娘と視線を合わせ尋ねた。
「どのような令嬢でした?」
「えーと? 黒髪の女の人だよね?」
後ろから入ってきたわたしの娘と同じくらいの年の女の子に同意を求める。こちらの女の子は金髪碧眼だ。アンジェが産んだ娘だ。
「そうなの。お母さまがとても怒ってしまって大変だったわ」
おっとりと上品に言う彼女は母親の怒りの方が気になるようだ。
「アンジェが怒るって……よっぽど露骨だったのかな?」
「そうねぇ。ケンゴはまだまだ人気ありますから。可哀そうにその令嬢、王宮への出入りが禁止になりますわね」
魔王討伐が終わってから10年が経過していた。それまでも色々あったが、とりあえず子供を産むところまでの関係改善はできた。
未だにリンダの夜の肉体訓練? には恐怖を通り越して蒼白になっているが、それでも前のように蕁麻疹ができたりはしない。ただそれはわたしたちの関係が信頼できるものだという前提の元であり、相も変わらず他の女性に触れると体が震え冷や汗を出し蕁麻疹を起こす。最近はこちらに来た時よりもひどい気もするが……。
とはいうものの、勇者ハーレムと彼の娘たちには発作を起こさないので、問題ない。
この10年でアンジュは女王になり、リンダは女王付きの騎士になった。わたしとルーシルは主に子供の面倒を見ている。わたしは貴族出身ではないので作法などを教えることはできないが、魔法は教えることはできる。のんびりと皆の子供を育てながら、ふと思うのだ。
幸せだなと。
時折思い出したように、健吾は皆を平等に愛しているという。
幼い頃は理解できなかった。誰か一人を選べないなんてきっと気持ちも大してないのだろうと考えていた。
でも今は。
健吾の言う『みんなを愛している』は本心だと考えていた。
神託によってえらばれた仲間たちと死線を超えて、健吾の体質を宥め、ついには念願の子供も産んだ。それぞれが一人ずつ、娘を産んでいる。よく彼との間に4人も子供ができたなと感心してしまう。時折、王家の秘薬が活躍しているのだが……まあ、いいのではないだろうか。
彼と過ごした時間はとても楽しくて、このままの状態がずっと続けばいいと思っている。
「ねえ、お母さま」
わたしの娘が甘えたようにすり寄ってきた。不思議の思って首をかしげると二人が顔を見合わせてから思い切ってお願いを始めた。両手を組んで上目遣いでこちらをじっと見つめる。二人の目が涙でうるうるする。
う、これは……。
「どのお母さまでもいいのですが、わたしたち、可愛い弟が欲しいです!」
「弟」
茫然として呟いたのはルーシルだ。わたしはとりあえず誤魔化そうと唸って見せる。
「うーん、どうかなぁ」
「リンダお母さまの方がいいんじゃない? お父さま、夜逃げそう」
「アンジェお母さまの方がいいのかしら? 弟なら王様になれるわ」
勇者との間には女の子しか生まれないのだが。
弟欲しさにもしかしたら、子供たちが王家の秘薬を盛るのも面白いかも。
子供に飲まされて茫然とする健吾を想像し、思わず笑ってしまう。
「悪趣味だわ」
ルーシルがわたしの考えを読んだのか、ぽつりと呟いた。
「いいじゃない。薬のせいにできた方がケンゴだって諦めが早いし」
「そうだけど」
「ルーシルはもう一人欲しくないの?」
ルーシルは微妙な顔をした。
「子供を産むのはもういいわ。もう一度つわりが耐えられるとは思えない」
「そう。無理しなくてもいいとは思うけど」
二人の子供たちは期待するような目でこちらを見ていた。
「二人とも。弟が欲しかったらお父さまにお願いしなさい」
「お父さまに?」
「そう、お父さまに」
二人とも目を丸くして視線で会話をしていたがすぐに笑顔になって飛び出していった。
「……今は無理じゃないかしら?」
「大丈夫よ。ケンゴ、娘馬鹿だから。内心、燃え尽きていても娘たちには笑顔で対応するわよ」
「確かにあの上目遣いは反則よね」
ルーシルと顔を見合わせて笑った。
Fin.
最後までお付き合いありがとうござます。
もうしょうもない妄想でしたが、とても楽しく書けました。
まだまだ無断転載問題があり、公開しての投稿にためらいがあります。
5月までには腹をくくるか、転載禁止を記載しての投稿かの自分の方針を決めたいと思っています('ω')
といいつつ、もういいかとか思っていたり、いなかったり(笑)